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18話 予知漫画家

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「未来を予測する漫画家なんて、はっ、そんな奴本当にいるのかねぇ? 疑わしいにもほどがあんぜ!」



「疑わしいのはガイの感性だよ。直ぐに影響受けるんだから」



「は、何がだ? 俺に疑われるところなんてねぇ!」



 そう言って胸を張るガイは宙に浮いていた。

 現在、俺達がいるのは車内。

 バックミラーに紐を括り付け、自らの体を縛って車内移動を楽しんでいた。きっかけは立花りっか宅を出てすぐ、対向車線を走っていた車だった。バックミラーに、人気アニメのデフォルメキャラが吊るされていた。

 それを見たガイが、「俺もあそこに乗りてぇ」と、自ら紐をバックミラーに括りつけたのだった。

 運転をしている俺からすると、視界に入るので非常に邪魔である。



「まあ、でもガイの言うことも分かるけどさ」



「やっぱり、分かるんじゃねぇか。でも、ここは譲らねぇぞ? 俺の特等席だ!」



「場所のことじゃないよ! 俺が言ってんのはさ!」



 ガイに同意したのは、未来を予測する漫画家が疑わしいと言うことだ。



 川津 海未が提案してから一週間後。SNSを通じて俺たちは会う約束をこぎつけた俺達は、その漫画家が住むと言う土地を目指して車を走らせていた。



 待ち合わせ場所は都心から北東に車を2時間ほど走らせた場所にある街だ。

 電車で行くことも考えたが、電車か降りた後の交通の便が悪いことと、折角、立花りっかさんから許可を貰っているのだから、車に乗ってみたいという川津 海未の意見を採用して車移動をすることとなった。



 俺とガイのこの一週間で何度目かの質問に、「しつこいよー」と言いながらも助手席から俺に向かってスマホの画面を見せる。



「いや、運転中だから!」



 画面が邪魔して前が見えない。

 駄目だ。この二人がいると目的地に無事に着くのかさえ怪しい……。大人しく公共機関使ってればよかった。

 大人しく腕を引っ込め見せようとした画面を読み始める。



「でも、ほら……。10年前に起こった大震災と、一昨年流行ったウイルス性の病気、二つとも見事に当ててるんだよ」



 これから会う予知能力を持つ漫画家――名を白丞しろすけと言うらしい。

 白丞しろすけさんが書いている漫画は、異世界の王国を舞台とした女王と従者の恋の物語だった。

その中で起きる事件が、現実とリンクしているようだ。

 出来事だけなればそこまで注目はされなかっただろう。ガイの言う通り偶然で片付けられたかも知れないが、起こった年まで同じなのだ。

 正確には漫画の中の都市は西暦ではない独自の年号だったのだが。



 だから、予知能力と騒ぎ立てたくなる気持ちもまた、分からないでもないが、それでも「偶然」であり、「予知はない」と疑う気持ちは消えていない。

 そりゃ、そうだ。

 いきなり、予知ですだなんて誰が信じるだろうか。

 今の展開で当たってるのはその二つだけだしな。



「まあ、普通に漫画としては面白かったけど」



 女王と従者。

 身分の違いに苦悩したりすれ違ったり。

 そんな感想を抱いていたのは俺だけじゃないようで、河津 海未も「私も面白かった!」と座椅子を寝かしてアピールする。

 どんなアピールの仕方だよ……。



「へぇ、海未って少女漫画も好きなんだなー。俺達と同じで少年漫画派かと思ってたぜ!」



「まあね。漫画はなんでも読むよー。因みに一番好きなジャンルはグロ系だけどね!! 干泥にまみれた殺し合いが最高なのよ!」



「……」



 俺は黙ってハンドルを握り目的地に向けてアクセルを踏み続けるのだった。











「ここにいるんだよね……。にしても、普通の家って感じだけど」



 白丞しろすけさんから送られてきた位置情報の場所には、至って普通の一軒家が立っていた。

 見るからに一軒家。

 初対面の人間たちの待ち合わせに使うには不釣り合いだ。自ら個人情報を教えるなど今の時代に有り得るか?

 ……となると、騙されたのか?

 適当な住所を教えたのか?



 いやいや、だとしても、一体何のために俺達を騙す? 

 一軒家の前で思考を巡らす俺の横で、「もしもし~。SNSでやり取りしてる海未ですー。始めまして」と、躊躇うことなく川津 海未がインターホンを鳴らした。



「おい!」



「あ、ひょっとして先輩もインターホンとインターンの違いが分からない学生時代を送ってたタイプ? 私もてっきり、会社の門を叩くからインターホンだと思ってたよー!」



「残念ながら俺はそんな愉快な勘違いはしたことないよ」



 ここでどれだけ言葉を並べても俺たちは時を戻せない。

 川津 海未と行動を共にするようになってからというもの、どこかに時間を操る【魔物モンスター】がいてくれないかと願う様になっていた。



 ため息を付いて空を見上げる。緑が多く人が少ないからか空が綺麗に感じた。

 俺が空を眺めていると、ゆっくりと玄関が開いた。

 不用心にインターホンを鳴らした川津 海未も問題だが、返事もせずに扉を開ける方も不用心だ。

 怪しむ俺の前に現れたのは、髪が海藻のように縮れた顔色の悪い少女だった。 



「入ってよ」



 眩しそうに目を細めながらそれだけ言うと、直ぐに家の中に戻っていった。

 いや、だからいきなり人を自宅に上げるか?

 何もかもが今の時代では不要意とも取れる行動に、俺はガイに声を掛ける。



「もしかしたら、これは何かの罠かもしれない。直ぐに力を使えるように頼む」



「いや、考えすぎだろ。普通の人間に見えたぜ?」



「こういうのは考えすぎて損はないんだよ。頼むよ、ガイ」



「しゃーねーな。その代わり、次はサイドミラーに俺を乗せろよ!」



「ああ。分かったよ」



 俺は玄関のノブを掴んで引く。

 中に入ると待ち受けていたのは――ゴミ袋の山だった。足場もないほどに積み上げられたごみ袋。燃えるゴミも燃えないゴミも適当に放り積まれていた。



「……散らかってるけど、部屋は綺麗だから」



 奥からそんな声が聞こえてくるが、この状況で全く信憑性に欠ける言葉だった。ここまで信用できない言葉は磯川さんが俺を褒める時くらいだ。彼に褒められるのは、無理な仕事を押し付けたいときだけだからな。。

 そう言えば、今、彼らはどんな状況なのだろう。俺の代わりの人員が配属されたりしているのかな?

 その人も虐められていなければ良いんだけど。



 ごみの山をかき分けながら進むと、ようやくキッチンが見えてきた。家の中は多少の動線があるのか、人一人が通れる広さは確保されていた。

 これが彼女の言う「綺麗」ということらしかった。



 彼女の部屋に入るとそこは机が一個置かれただけの部屋。

 机の上には巨大な液晶があった。

 どうやら、そこで漫画を書いているらしい。



「適当に座ってよ」



「いや、俺はこのままで」



 部屋の中もゴミ袋の山だ。川津 海未は「言葉に甘えて」と柔らかそうなゴミ袋を選んで自分好みの椅子を作り上げた。

 この子、たくましすぎるよ。



「あの、まず聞いておきたいんだけど、君が白丞しろすけさん?」



「この場に私以外の人がいるように見える?」



 漫画を書く手を止めない白丞しろすけさん。

 ぶっきらぼうな言葉使いと態度だ。



「一応確認をと思ってさ。それに――いくらなんでも初対面で家に人を呼ぶなんて、ちょっと怪しすぎるからね」



「それは、奇妙な三人組が来るの分かってたから」



「……三人」



 俺は白丞しろすけさんの言葉に驚きを隠せなかった。部屋の中にいるのは俺と川津 海未。ガイの存在を知らない彼女からは二人にしか見えないはず。

 なのに何故、三人と言い当てたのか。

 川津 海未が問いかけた。



「なんで、俺たちが三人って分かったの?」



「なんとなく、そんな気がしただけだよ」



 彼女はそう言って液晶に向けて書いている手を止め、その画面を俺達に見せてきた。

 画面に描かれているのは礼の漫画。

 今日の日付と三人の男女が力を貸して欲しいと女王の元へと訪れるシーンだった。



「日付まで……」



「凄い! やっぱり本当だったんだ! 予知能力者ってこと!?」



 今日会うことは一週間前から分かっていたこと。ならば逆算して描くことは可能だろうが、人数までは指定していなかった。

 この子が持つ予知の力は本物なのか?



「なんだ。全て分かってんじゃねぇか。じゃあ、俺が隠れてる必要もないって訳だ」



 ガイが服の中から出て俺の頭に登った。

 全て見透かされているならば、確かにガイを見せた方が話は早い。すぐには信じられないが――経験をすると一気に信憑性が増す。

 俺達の訪問を描き当てた白丞しろすけさんは――、



「……ハリネズミが喋った!!? は、なんで……!? これは、そ、そそられるね……」



 三人目がハリネズミだと思っていなかったのか、ガイの姿を鼻息を荒くしてスケッチを始めた。

 ふん?

 この態度――ガイがハリネズミなのは知らなかったのか?



「あん? 分かってたんじゃねぇのかよ」



 文句を言いつつも、背中にある針を見せつけるように身体を捻りポーズを決める。

 文句言いたいのか描いて貰って嬉しいのかどっちかにしてくれ。

 白丞しろすけさんはペンを走らせたまま応じる。



「三人が来るってことしか分かってなかったから。描いた漫画全部が未来を当たるって訳じゃないから」



 記事にされた場面もシーンの一部でしかないのだと、彼女は遜へりくだって笑った。
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