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180. 絶望を希望に変えて(前編)

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 「全てを終わらせる…どういう意味なの!?」

 
 「全てですよ、二つの世界もあなた達も…生きとし生ける物に安息を与える」

 「安息、ですって?」

 「それが私の…厄災の役割、これは救済でもあるのです」

 「…安息だとか救済だとか、もうちょっとマシな理由かと思えばテンプレもいい所ね!」

 冒険物語にラスボスがいるとして、命ある物を滅ぼすと言い出したら大概がこういった理由だ。 特に代り映えのしない思想にいちいち反論する気にはならないので、早々に決着を付けるべく砲を構える。

 「貴女の考えなんかどうでもいい! 私が貴女を終わらせて全てを救う!!」

 砲を放てば回避するので流石に直撃は不味いのだろう、だが数発放ってもその身を捉える事が出来ないのでやはり連射の利かない遠距離攻撃で撃破するのは厳しいようだ。

 「その程度ですか…ならばこれでどうです!」

 言うが早いか、巨大な翼から分裂するかのように片翼三連の砲が形成され、漆黒の光が襲って来る。

 『回避!』

 「分かってる!」

 寸での所で回避すると、アーマー越しでも熱が伝わってくるので相当な威力である事が判明するのだが、それだけでは無く連射も利くので防戦一方となってしまう。
 「反撃の隙が無い…」そう思っているのも束の間で、流れ弾が三翼へと向かって行く。

 「危ない!!」

 不味いのでは無いかと思ったが、いち早く気付いた護りの翼がシールドを展開して難を防ぐ、どうやら他の個体と戦いつつもこちらにも警戒していたようだ。


 「何とか防ぎぎったけど…ギリギリだったわ」

 『この火力、まともに受け続ければ持ちませんな…』

 「助かったヒナ、だがやはりアレを倒さなければ我々に勝ち目は無いんじゃないか?」

 「皆で力を併せればあるいは…」

 「いいえ、厄災を倒すのは宿命の子たる羽音の役目…私たちでは不可能よ」

 「……」

 「分かりました、ならばサポートに徹するのです」

 
 「良かった、あっちは大丈夫ね」

 『ならばこちらに集中だ』

 とは言うものの、肩の砲に加えて腰の三連砲も加わって更に攻撃は苛烈さを増しており、以前反撃のチャンスは掴めていないのだが、そこに二翼が攻撃の主へ勇猛果敢に突進して行く。

 「二人とも危険よ!」

 「私たちが反撃の機会を作る! 羽音は攻撃に集中して!!」

 無茶だと思いつつも攻撃は迫る二翼に集中するので、この機を逃さず反撃へと転じる。 するとこれまでの猛攻は鳴りを潜め、回避の動作を余儀なく行っているように見えるので、連射出来ずとも可能な限り攻撃の手を緩めず追撃を行う。

 「当たれー!!」

 「援護するわ!」

 死の翼の周囲にブレードを展開してオールレンジ攻撃を行えば、その装甲は貫けぬもののその場に張り付ける事は可能のようだ。
 このチャンスを逃しはしない。

 「これはオマケよ!」

 大翼の小手が放たれるのと同時に閃光が死の翼を覆う…仕留める事は叶わずとも大ダメージを与える事が出来た筈だが、果たしてその結果はーー

 「なっ! 耐えた!?」

 
 「フッ…まあまあでしたよ?」
 
 直撃を受けでもダメージを与えられなかった理由は両腕から展開している半透明の黒いシールド、先ほどの砲撃を見れば言わずもがなで相当な出力のシールドなのだろう、護りの翼に匹敵するのでは無いだろうか。

 「今度はこちらから行きましょうか」
 
 「早い!」

 大翼よりも早い加速であっという間に距離を詰められてしまうのだが、何かを仕掛けてくると思い後退すると砲身をすっぱりと切断されてしまう。

 「しまった!」

 手の甲から伸びる黒い光はまさしく死の翼の武装と言えるとして、シールドも備えており火力も大幅に向上している。
 これが死の翼の本来の力なのか、それとも厄災の力を得てこうなったのかは分からない、分からないが今はとにかく何としてもダメージを与えなければならないのだが、狙うとするのなら頭部…未だマスクをせずに顔を露出させて戦っているので、ここしかない。

 「まだよ! まだ武器はある!!」

 このような事態はこちらも想定済みであり、切断された砲身を手早く切り離せばグリップだけが手元に残るのだが、これだけでは役には立たないので腰に備えていた砲身も切り離して合体させる。
 
 「ほほう?」

 腰の砲は本来なら遠距離攻撃の補助が主な役割だ、だがこのようにすれば剣としても運用出来るという優れもので、その出力も高くこれならば対抗出来る武器となり得る筈だ。

 「ふ…そんな棒っきれで何をしようというのです?」

 「ただの某じゃあ無いわ!」

 刀身は一メートルも無くリーチとしては短く、光の刃も片方にしか形成されないが短い方が取り回しが良く、片側に刃を集中させる事によって出力の効率化を図っている。
 刃を展開した形状はずんぐりむっくりではあるので、見た目からすれば剣というよりは斧がイメージに近いかもしれない、いずれにしてもその威力を確かめるべく死の翼に切りかかるのだが、砲による攻撃で用意には近づかせてはくれないようだ。

 「さあ、ここまでこれますかね?」

 「私たちを忘れて貰っては困るわね!」

 「忘れてなどいませんよ? ほら!」

 物凄い勢いで小手を投げ返させるのでそれを弾くと、その動作の間に距離を詰められ斬撃が襲い掛かって来る。 回避は間に合わないと判断しそれを小手で受け止めるのだが、接触した部分には大きな亀裂が入ってしまった。

 「しまった!」
 
 『だが腕は無事だ、危なかったがな』

 「そんな玩具で私を倒せるとでも思ったのですか!」

 『来るぞ!』

 「世良、これを!」

 「弾いた小手? 助かります!」

 投げ渡された獲物を素早く装備し、例の斬撃を受け止めるのだが見る見るうちに傷だらけになって行く…このままでは主力の武器を一つ失ってしまうのだが、大翼の力を持ってしても押し返す事は難しい。

 「世良さん、離れて下さい!」

 「羽音!」

 「小賢しい!」

 近づきつつある想いの翼に砲撃が放たれても一向に回避する様子が無い、何を血迷ったのかと思った次の瞬間驚くべき行動に移る。
 
 「これで!!」

 「なっ! 剣で防いだ!?」

 『やるな!』

 自らに向かって来る黒い光に対して剣をかざせばそれらは四散して跡形も残らない、少なくとも一門だけならこのように防げるようなので、このまま一気に距離を詰める。
 
 「貰った!」
 
 「甘い!」

 刃と刃がぶつかり合えば激しい火花が散るとして、やはりこれならば主力は互角のようだ。 この距離ならば砲も使えないので、何とか押し勝って勝負を付けたいと思っていたら急に押していた力が抜けるので状況を確認すると、その理由が判明するのだが…。

 「世良さん!?」

 「今よ! 羽音!!」

 「くっ、離せ!!」

 何と後ろから羽交い締めにしており、死の翼の自由を奪っているのだが先ほど力の抜けた理由はこれだったのだ…しかし、今にも振りほどきそうなのでこの千歳一隅のチャンスを逃さない為にも攻撃を仕掛ける。
 
 「フ、見なさいこれが私の真のコア…グランドコアです!」

 胸の膨らみのその中心、深い窪みに真っ赤な球体が脈を打っているのが確認出来るのだが、これを破壊すれば本当に終わるというのだろうか。 
 それに、何故わざわざ弱点を教えるような真似をするのか…理解に苦しんでいる間にも大翼の拘束は解き放たれようとしている。

 「早く! これ以上は持たない!!」

 「さあ、このコアを刺し貫きなさい!」

 「う!!」

 そんな事をすれば大翼、世良さんはどうなるのか…力の加減を誤れば無事では済まないが、中途半端な力ではコアを破壊出来ないかもしれない。
 
 『迷わせる為に言っているのか!』

 「早く! 私はどうなっても構わない!!」

 「ほらほら、こう言っているのですよ!」

 
 「う……うああぁぁぁぁぁ!!」
 
 「羽音!」

 想いの翼が切りかかろうとしたその瞬間に、死の翼のは羽交い締めを振りほどく…だが、その切っ先が向かったのはグランドコアでは無くその頭部…顔の左半分をごっそりと削り取っているので、これは致命傷となり得るのでは無いだろうか。

 「やっ……た!」

 眼球と脳漿のうしょうを飛び散らせて行くさまがスローモーションのように見えるのはホラーの極みだがこれでようやく終わった…いや終わった筈だった。

 「これで! …え?」 

 残った右目は虚無を見つめているように見えた、だがその目が突如グリンとこちらを睨みつけ、その唇は口角が吊り上がり不敵な笑みを浮かべている。
 
 「なっ!!」
 
 
 「クククク…ハハハ」
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