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159. 信念
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『貴様…正気か? ヒトを女王に謁見させようなどと』
『あり得んな…さ、お引き取り願おうか』
私が女王に会うのを真っ向から否定しているのを見ると、本当に人が嫌いなのだなと感じる。 しかし、ここで引き下がる訳にはいかない、何としても転移晶を持ち帰らなければならないのだ。
『待て、彼女は災禍と戦っている。 やつらを倒す為にも女王の持つ秘宝が必要なのだ』
『そーそー、だからおば…女王に合わせてやってよ』
『何!?』
『災禍と戦っているだと!』
番兵は随分驚いているようだが、人が戦っているのはそんなに衝撃的な事だろうか…戦鳥の力が無くとも一般人も兵器を使用して抵抗している。 しかし、彼らは厄災に対して抵抗出来る、有用な手段を持ち合わせていないのかもしれない。
『なるほど、その珍妙ないで立ちはその為か』
『我らの知る人の姿と異なるのは、トリの神をまとっているからだ』
『トリの神!!』
顔を見合わせている番兵は更に驚いている様子だが、何時までもここでこうしている訳にはいかない。 そろそろ返答が欲しい所だが、最悪強行突破も考えねばならないだろう。
(でもそれじゃあ、私を連れて来たビムさん達が責任を取る事に…)
『連れて来なさい…』
『この声は!』
『女王様?』
何処からともなく虚空に女性の声が響く…そして声の主を番兵は女王と呼んだのだが。
『行こう、案内して貰えるかな?』
『ム…しかし』
『止む負えん、女王の命だ』
それだけ言うと番兵は背を向けて歩き出すのだが、直ぐそこには大きな横穴が口を開けているので、ここが女王の居る場所に通じているのだろう。
それにしても、この横穴は洞窟とでもいうべきなのかあちらのトンネル程は大きい穴が、長く続いているようだ。 それともう一つーー
(?明るくなってきた)
歩いて行く度に壁や床が青白く輝くので、よくよく確認してみると何やらコケのような物がびっしり生えている、どうやらこれが光を放っているようだ。
『このコケは本来光を放つような植物では無い』
「えっ? じゃあどうして」
『恐らくはここにある石の影響だろう』
「もしかして、光石が…」
はっきりとした理由は不明だとして、例えばこのコケの生えている壁や床に光石が埋まっており、その力が作用したのでは無いだろうか?
最もこれでは何処から光を供給しているのかという、問題が残ってしまうが。
(考えても仕方が無いか……ん? なんかまた広くなったけど、誰かいる?)
進んだ先には更なる空洞が広がっているのだが、そこには何かがありそうでそれが人の姿に似てるように見える。
「あの…誰かいるんですか?」
その問いに対して誰も答え無いのは行けば分かるし、何より直ぐそこといった距離だからだろう。
「あれ? やっぱり人なんじゃ…」
どう見ても人にしか見えないので、確認する為に歩を早めると次第にその姿がはっきりとしてきた。 インセクトの住処で何故憎んでいる筈の人が居るのか…その衝撃的な答えとはーー
「ミ…」
『ミ?』
「ミ…」
『なんだ、ミって…』
「ミイラーーー!!」
『うわっ!』
『何だ! どうした?』
『うっさいなぁ、また叫んでるよ…』
「だ、だって! ミイラ! ミイラがあんなに!!」
この開けた空間に所狭しと並べられいるのは、乾燥した人の遺体即ちミイラだ。 座っていたり、寝て居たりとそのポーズは様々でありボロだが服を着ている個体もある。
数百体はあろうかというミイラがここに存在しているのだから、その恐怖たるや…ホラー映画やお化け屋敷の非では無い。
「なんで…どうしてこんな所に」
『フム…』
ビムさんはミイラの方に歩いて行き、その内の一体の元でしゃがみ込むと直ぐに立ち上がるのだが、その手は頭部を抱えており、首無しになったミイラにそっと拾った頭を乗せた。
『これらは疫病や飢餓によって命を落としたヒトだ』
『我らの祖先がここに運んだのだ』
「え? どうして…」
『我らが最も恐れるのは…忘却だ』
彼らは語る…死の病と飢饉によって命を落とした人々を見た、かつてのインセクトは自業自得だと思っていた。 しかし、時の女王が亡骸を葬るよう指示したので、気候も相まって乾燥させるのに的していた事もあり、ミイラとしてこの場所に安置した。
ここで疑問が湧いてくるのだが、何故ミイラにしたのか…それは彼らの意外な風習によるものだ。
『ヒトにとって、同族の亡骸は恐怖の対象なのか』
『そう言えば、隠してしまうと聞いた事がある』
「隠す? …ああ、埋葬か」
彼らは遺体を土に埋めるような事はしない、中身はともかく表皮が腐り落ちる事が無いが故に生前の姿形のまま残しておき何時でも会いに行けるよう、このミイラ群のように安置しておくのだ。
そう…ここにあるミイラは彼らの風習によって造られた。 彼らが恐れる忘却とは亡くなってしまった存在が皆の記憶から忘れ去れてしまう事、それは存在していなかったに等しいと考えられるから。
『ヒトは私たちの祖先を追放した。 だからと言って、忘れ去られて良い訳では無い…』
「ビムさん…」
『さ、行こう』
空洞を通過する際、ふととあるミイラが目に留まる…髪が長いので恐らくは女性なのだろう。 座っているその手の中にはおくるみを抱えているのだが、あれは赤ん坊では無いだろうか。 その傍らには赤子を覗き込むようにしている男性と思わしきミイラが座っているのだが、あれは父親に違いない。
『どしたの? 早く行こうよ』
「う、うん…」
かつて人の暮らしがここにはあった、それを彼らは残してくれているのだが、果たして本当に人を憎んでいるのだろうか。
『…着いたぞ』
「これが女王…」
『良く来ましたね、ヒトの子よ』
またも大きな空洞に出ると、その壁には無数のインセクトが張り付いており、こちらをジッと見つめているので、またも恐怖を覚えてしまう。
その中央に女王と思わしき個体が鎮座しているのだが、上半身はカミキリムシ然としているものの、その下半身は肥大化しており何やら小さくうねっている…。
恐らく女王というのは伊達では無く、本当に昆虫の女王と同じく卵を無数に産む事が出来るのだろう。
『ご苦労であった、下がって良い』
『ははっ』
それだけ言うと踵を返し番兵は元来た道を帰って行くので、本来の任務に戻るのだろう。 さて、ここからが本題だ…。
『お久しぶりです、マザー』
『…久しいですねビム、貴方が私の娘を連れて出て行って依頼ですか』
「え? それってまさか駆け落ち…」
その言葉にわずかながら動揺したようにも見えるのだが、当人は私の代わりに話を続ける。
『今日はお願いがあって参りました』
『知っています、これが欲しいのでしょう?』
女王が取り出した黒い物体…大きさは野球のボール位で時折光を放っている。 これが高純度の転移晶だというのだろうか。
「…お願いします、私にはそれが必要なんです」
『それも、知っています』
女王がそう言うと、天井に張り付いていたインセクトの内一体が地上に降り立つ。
『ビム、貴様! 我らから姫を奪うだけでは飽き足らず、秘宝までも奪うというのか!!』
その顎が六つに割れて牙がむき出しになる様は威嚇のように見えるのだが、そのビジュアルに戦慄してしまう。
「ひっ!」
『怖がらなくていい』
ビムさんは一歩前へ出ると威嚇して来る個体をねめつけるので、これは所謂ガンの飛ばしあいといった状態だ。 一触即発のムードなのだが、そこへまたも声が響く。
『控えなさい、私の元で争いは許さぬ』
『…ははっ、申し訳ありませんでした』
『失礼致しました』
女王の一喝で争いが止まるのは、流石と言わざるを得ない。 それにしても、ビムさんとここ奈落に住まうインセクトにはわだかまりがあるようだが、女王の娘を連れて出いったのであればそれも仕方が無いと思ってしまう。
『女王様…いや、おばあちゃん。 羽音に秘宝を渡して欲しい、災禍をやっつけるのに必要なんだ』
『災禍だと!!』
その一言に周囲はざわついているのに対して、女王は至って冷静だ。 直ぐに鎮まるように言い放つのだが、自らの手にある秘宝…転移晶を見つめながら話をしだす。
『それも知っている。 秘宝は私に全てを見せてくれるのだ』
「転移晶にそんな力が?」
『まあ良い…この秘宝を授けよう。 ただし条件がある』
「条件?」
『なあに、私と一戦交えて勝利すれば譲ってやるというのさ』
「え? 貴女と戦う!?」
『そう…見せて貰おうか、災禍を滅ぼす存在としてどの程度の信念があるものか』
転移晶を手に入れる条件は女王と戦って勝利する事、果たして勝負の行方は如何にーー
『あり得んな…さ、お引き取り願おうか』
私が女王に会うのを真っ向から否定しているのを見ると、本当に人が嫌いなのだなと感じる。 しかし、ここで引き下がる訳にはいかない、何としても転移晶を持ち帰らなければならないのだ。
『待て、彼女は災禍と戦っている。 やつらを倒す為にも女王の持つ秘宝が必要なのだ』
『そーそー、だからおば…女王に合わせてやってよ』
『何!?』
『災禍と戦っているだと!』
番兵は随分驚いているようだが、人が戦っているのはそんなに衝撃的な事だろうか…戦鳥の力が無くとも一般人も兵器を使用して抵抗している。 しかし、彼らは厄災に対して抵抗出来る、有用な手段を持ち合わせていないのかもしれない。
『なるほど、その珍妙ないで立ちはその為か』
『我らの知る人の姿と異なるのは、トリの神をまとっているからだ』
『トリの神!!』
顔を見合わせている番兵は更に驚いている様子だが、何時までもここでこうしている訳にはいかない。 そろそろ返答が欲しい所だが、最悪強行突破も考えねばならないだろう。
(でもそれじゃあ、私を連れて来たビムさん達が責任を取る事に…)
『連れて来なさい…』
『この声は!』
『女王様?』
何処からともなく虚空に女性の声が響く…そして声の主を番兵は女王と呼んだのだが。
『行こう、案内して貰えるかな?』
『ム…しかし』
『止む負えん、女王の命だ』
それだけ言うと番兵は背を向けて歩き出すのだが、直ぐそこには大きな横穴が口を開けているので、ここが女王の居る場所に通じているのだろう。
それにしても、この横穴は洞窟とでもいうべきなのかあちらのトンネル程は大きい穴が、長く続いているようだ。 それともう一つーー
(?明るくなってきた)
歩いて行く度に壁や床が青白く輝くので、よくよく確認してみると何やらコケのような物がびっしり生えている、どうやらこれが光を放っているようだ。
『このコケは本来光を放つような植物では無い』
「えっ? じゃあどうして」
『恐らくはここにある石の影響だろう』
「もしかして、光石が…」
はっきりとした理由は不明だとして、例えばこのコケの生えている壁や床に光石が埋まっており、その力が作用したのでは無いだろうか?
最もこれでは何処から光を供給しているのかという、問題が残ってしまうが。
(考えても仕方が無いか……ん? なんかまた広くなったけど、誰かいる?)
進んだ先には更なる空洞が広がっているのだが、そこには何かがありそうでそれが人の姿に似てるように見える。
「あの…誰かいるんですか?」
その問いに対して誰も答え無いのは行けば分かるし、何より直ぐそこといった距離だからだろう。
「あれ? やっぱり人なんじゃ…」
どう見ても人にしか見えないので、確認する為に歩を早めると次第にその姿がはっきりとしてきた。 インセクトの住処で何故憎んでいる筈の人が居るのか…その衝撃的な答えとはーー
「ミ…」
『ミ?』
「ミ…」
『なんだ、ミって…』
「ミイラーーー!!」
『うわっ!』
『何だ! どうした?』
『うっさいなぁ、また叫んでるよ…』
「だ、だって! ミイラ! ミイラがあんなに!!」
この開けた空間に所狭しと並べられいるのは、乾燥した人の遺体即ちミイラだ。 座っていたり、寝て居たりとそのポーズは様々でありボロだが服を着ている個体もある。
数百体はあろうかというミイラがここに存在しているのだから、その恐怖たるや…ホラー映画やお化け屋敷の非では無い。
「なんで…どうしてこんな所に」
『フム…』
ビムさんはミイラの方に歩いて行き、その内の一体の元でしゃがみ込むと直ぐに立ち上がるのだが、その手は頭部を抱えており、首無しになったミイラにそっと拾った頭を乗せた。
『これらは疫病や飢餓によって命を落としたヒトだ』
『我らの祖先がここに運んだのだ』
「え? どうして…」
『我らが最も恐れるのは…忘却だ』
彼らは語る…死の病と飢饉によって命を落とした人々を見た、かつてのインセクトは自業自得だと思っていた。 しかし、時の女王が亡骸を葬るよう指示したので、気候も相まって乾燥させるのに的していた事もあり、ミイラとしてこの場所に安置した。
ここで疑問が湧いてくるのだが、何故ミイラにしたのか…それは彼らの意外な風習によるものだ。
『ヒトにとって、同族の亡骸は恐怖の対象なのか』
『そう言えば、隠してしまうと聞いた事がある』
「隠す? …ああ、埋葬か」
彼らは遺体を土に埋めるような事はしない、中身はともかく表皮が腐り落ちる事が無いが故に生前の姿形のまま残しておき何時でも会いに行けるよう、このミイラ群のように安置しておくのだ。
そう…ここにあるミイラは彼らの風習によって造られた。 彼らが恐れる忘却とは亡くなってしまった存在が皆の記憶から忘れ去れてしまう事、それは存在していなかったに等しいと考えられるから。
『ヒトは私たちの祖先を追放した。 だからと言って、忘れ去られて良い訳では無い…』
「ビムさん…」
『さ、行こう』
空洞を通過する際、ふととあるミイラが目に留まる…髪が長いので恐らくは女性なのだろう。 座っているその手の中にはおくるみを抱えているのだが、あれは赤ん坊では無いだろうか。 その傍らには赤子を覗き込むようにしている男性と思わしきミイラが座っているのだが、あれは父親に違いない。
『どしたの? 早く行こうよ』
「う、うん…」
かつて人の暮らしがここにはあった、それを彼らは残してくれているのだが、果たして本当に人を憎んでいるのだろうか。
『…着いたぞ』
「これが女王…」
『良く来ましたね、ヒトの子よ』
またも大きな空洞に出ると、その壁には無数のインセクトが張り付いており、こちらをジッと見つめているので、またも恐怖を覚えてしまう。
その中央に女王と思わしき個体が鎮座しているのだが、上半身はカミキリムシ然としているものの、その下半身は肥大化しており何やら小さくうねっている…。
恐らく女王というのは伊達では無く、本当に昆虫の女王と同じく卵を無数に産む事が出来るのだろう。
『ご苦労であった、下がって良い』
『ははっ』
それだけ言うと踵を返し番兵は元来た道を帰って行くので、本来の任務に戻るのだろう。 さて、ここからが本題だ…。
『お久しぶりです、マザー』
『…久しいですねビム、貴方が私の娘を連れて出て行って依頼ですか』
「え? それってまさか駆け落ち…」
その言葉にわずかながら動揺したようにも見えるのだが、当人は私の代わりに話を続ける。
『今日はお願いがあって参りました』
『知っています、これが欲しいのでしょう?』
女王が取り出した黒い物体…大きさは野球のボール位で時折光を放っている。 これが高純度の転移晶だというのだろうか。
「…お願いします、私にはそれが必要なんです」
『それも、知っています』
女王がそう言うと、天井に張り付いていたインセクトの内一体が地上に降り立つ。
『ビム、貴様! 我らから姫を奪うだけでは飽き足らず、秘宝までも奪うというのか!!』
その顎が六つに割れて牙がむき出しになる様は威嚇のように見えるのだが、そのビジュアルに戦慄してしまう。
「ひっ!」
『怖がらなくていい』
ビムさんは一歩前へ出ると威嚇して来る個体をねめつけるので、これは所謂ガンの飛ばしあいといった状態だ。 一触即発のムードなのだが、そこへまたも声が響く。
『控えなさい、私の元で争いは許さぬ』
『…ははっ、申し訳ありませんでした』
『失礼致しました』
女王の一喝で争いが止まるのは、流石と言わざるを得ない。 それにしても、ビムさんとここ奈落に住まうインセクトにはわだかまりがあるようだが、女王の娘を連れて出いったのであればそれも仕方が無いと思ってしまう。
『女王様…いや、おばあちゃん。 羽音に秘宝を渡して欲しい、災禍をやっつけるのに必要なんだ』
『災禍だと!!』
その一言に周囲はざわついているのに対して、女王は至って冷静だ。 直ぐに鎮まるように言い放つのだが、自らの手にある秘宝…転移晶を見つめながら話をしだす。
『それも知っている。 秘宝は私に全てを見せてくれるのだ』
「転移晶にそんな力が?」
『まあ良い…この秘宝を授けよう。 ただし条件がある』
「条件?」
『なあに、私と一戦交えて勝利すれば譲ってやるというのさ』
「え? 貴女と戦う!?」
『そう…見せて貰おうか、災禍を滅ぼす存在としてどの程度の信念があるものか』
転移晶を手に入れる条件は女王と戦って勝利する事、果たして勝負の行方は如何にーー
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