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156. 接触

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 転移晶の探索に赴いた三翼の前に、高速戦闘を得意とする厄災が立ちはだかり炎の翼は一騎打ちを行い、雷の翼と想いの翼は長期戦に持ち込もうとしていた。 
 しかし、想いの翼は暴走してしまい厄災と共に、仄暗い地の底へと向かったのだが果たしてその安否は如何に…果たして少女たちは無事に転移晶を発見できるのだろうか…。

 『まだやれるかな?』

 「ええ、問題ありません!」
 
 超高高度における高速戦闘…これをモノにするのには苦労したが、その甲斐あってこの厄災と互角の戦いが出来ている。 いや、互角ではダメだ…。

 「仕掛けるのです!」

 「ああ!」

 高速で飛翔しながらも接近戦を仕掛けると「ギン」と金属がぶつかり合う音が数度響き、やがては厄災がバランスを崩して失速する。

 「逃さない!」

 隙を逃す事無く盾から火弾を放つのだが、何とか持ち直し弾幕を躱すとこちらから距離を取る為か、反対方向へと飛んで行く。
 
 「まだまだ!」

 追いかけつつ火弾を連続して放てば、やがてはその内の一つが翼をかすめまたもバランスを崩すので、追撃の手を緩めず更に攻撃を加えれば、持ち直す間も無く翼に数発被弾し火の手が上がる。

 『やったか』

 「いえ!」

 翼は炎に包まれつつも尚厄災は更に高度を上げる、恐らくは消火の為に大気中の酸素濃度の薄い成層圏を目指しているのだろう。 だが、その速度は今までとは比べるべくも無い、もう終わりの時が近づいているのだ。

 「これで!」

 最後の一太刀を浴びせるべく接近すると、相手の動きに変化がある。

 『何!?』
 
 反転してこちらに突進してくるのだが、どうやら消火すると見せかけて不意打ちを仕掛けるつもりだったようだ、が…。

 「遅い!」

 爪を剣で絡めとって分離した刃で胴を真っ二つにすると、全身に火が回り力無く落下して行く…切り返しが早ければ危うかっただろうが、損傷した翼では本来の速度を出すのは叶わなかったのだろう。
 
 『終わったか…ム!』

 
 『アリ…ガ……』

 
 「喋った!?」
 
 炎に焼かれつつ、何かを言っているように聞こえた…言葉を話す個体に今まで接触した事は無い。 恐らく誰しもがそうだ、更に驚くのは何を言おうとしたのか、聞き間違いで無ければーー

 「アリガトウ…そう聞こえたのです」

 『あの個体は一体…』


 

 「なんですって! 羽音が!?」

 「すまない、我々が付いていながら…」

 高速戦闘型の厄災を倒したキアと合流の後、舟に戻りラウ城と交信して近況を説明する。 肉親である彼女に報告するのが一番心苦しいが黙っている事など到底出来ない。 

 「それでどうなの…感じる?」

 「刻印…微かに、だが」

 ー刻印は共鳴するー 

 それを感じられるのなら生きているのは間違い無いとして、果たしてどのような状態なのか…ケガを負っているかもしれない、それどころか命の危機に瀕している可能性すらある。
 
 「…あの子を信じるしか無いわね」

 「私たちも直ぐ探索に向かうのです…」

 「ああ、それにあのまま戦闘が継続されたとは考え難い、希望的観測かもしれんが…」

 あれは高速戦闘を得意としているにも関わらず、想いの翼と共にクレーター内部へと向かった。 深いのかもしれないが、その範囲はどうだろう? 
 底へ行くにつれて狭まるのは確実であり、そうなると持ち味を発揮出来なくなるが故に、止めを刺すには至らなかったかもしれないのだ。

 「行かねば分からんな……時に気になる事があるのだが」

 「どうしたの?」

 「世良とヒナの姿が見えないのだが…何故だ?」

 「あの二人なら出かけているわ」

 「出かけている? 全くこんな時に…」

 「そんなに遠くでは無いわ、郊外よりも少し離れてはいるけれど…墓参りにね」

 「墓参り?」

 「そう…墓参りよ」

 

 ラウ城を離れスレアの都を遠くに望めば、浅沼の広がる湿地帯に差し掛かり、そこから少し離れた小高い丘に差し掛かる。
 そこに何があるという訳でも無いのだが、大翼は緩やかに高度を落すのでそれに続くと、丸石を組んだ簡素な建造物が見えて来た。

 『あそこのようですな…』
 
 先行く翼はそこへと舞い降りるのでそれに続く…この場所こそはとある人物の最期の場所なのだが、歳月が経ち崩れかかったその墓標に膝をつき、かつて戦いの神とあざなされた少女は静かに祈りを捧げる。

 「ここが…」

 「そう…我が師、イーラッドの墓よ」

 「イーラッド…」

 かつてネフィアと呼ばれていた頃、筆頭魔法使いであった自分の部下の中でも一番優秀な魔法使いであった彼に、滅びゆくラウ王国の王子を託した。
 歳月が経ちその子孫が王国復活の為に行動を起こすと、魔法により寿命を延命していた彼もまたその手伝いを行い、陰ひなたとなりその活動を支えただけで無く、戦鳥を身にまとう少女の闘技の師として彼女を導いた、ラウ王国再建の立役者の一人である。
 その彼が何故このような場所に葬られているのか…転生を繰り返してはいたが、この時代にはめぐり合わせていないが故に、かつての弟子がどのような最期を迎えたのか気がかりではあるのだが。

 「すっかり荒れ果ててしまったわね…誰も顧みないから仕方が無いか」

 「彼は、イーラッドはどうしてこのような所に…」

 「ここで息絶えたの…かつての弟子に殺されてね」

 「弟子に?」

 「私の兄弟子に当たる人物よ、彼は帝国の側に付き厄災の力を手に入れたの…」

 闘技の達人として知る人ぞ知る存在になっていたイーラッドは、弟子を取る事はしなかったのだが例外として、戦災孤児となっていた少年を引き取り自らが長年研鑽してきた闘技の技を伝授した。
 少年は師の期待に良く応えていたのだが、やがては力におぼれ更なる力を求めて師を裏切り、帝国に組みして遂には人智を越える力を手にするに至る。

 「厄災の力…」

 「責任を感じた師は彼を止めようとした、そして返り討ちに…」

 人ならざる力を得た者にとって、人は脅威とはなり得なかった…いや、戦鳥の力を得た存在である者でさえも一度は敗北を喫してしまったのだ。

 「貴女が負けた…!?」

 「彼の速さについて行けなかったのよ」

 厄災の力を得た兄弟子は、高高度における高速戦闘を得意としていた…その戦法に手も足も出なかったが故に、猛特訓してリベンジマッチを挑み辛くも勝利を手にしたのだが、これが大翼が高速戦闘を身に着けたきっかけとなったのだ。

 「そんな事が…」
 
 力を追い求めていた彼は厄災に魅了されており、時の皇帝であるズーイに取って代わろうとさせしていた。 その力の根幹を得ようという企みは戦鳥の戦士によって阻まれ、最期には正気を取り戻し己の所業を悔いて消滅したのだ。

 「イーラッド、貴方には苦労を掛けて…いえ、苦労所では無いわね」

 「彼は貴女をとても慕っていた…いえ、愛していたのでしょうね」

 「私を? …そうなのね、そうなのかも」

 彼は私の期待に良く応えてくれていた、寝食を忘れるほど研究に没頭していたのは好意を抱いていた私に認めて貰いたかったというのがあるのだろう。
 だが、私はー

 「貴女が愛していたのは国王だった」

 そうだ、私は国王に好意を抱いていた…そのような事など決して許される事では無いのだが、体の弱い王妃に万が一の事があった場合、後妻として私が指名されていた。 それは無二の友でもある彼女の頼みでもあり、最終的に国王の了承もあったのだ。

 「厄災の襲撃により王国が最期の時を迎えた時、彼に娘を託すと言われたの」

 恐らく敗北は避けられない、王女であり戦鳥の戦士でもある娘は王国と運命を共にしようとするだろう。 だが、どうしても生きていて欲しい、彼女は希望でもあるのだから…。

 「希望…」

 そう告げると、彼は私に口づけて戦場へと赴いた。

 
 「イーラッド…ごめんなさい、貴方の気持ちに応えられなくて」

 かつて様々な想いがあった…様々な想いを残して人の世は紡がれて行く。



 『羽音、羽音…』

 (…誰かが呼んでいる)

 『羽音…』

 (ああ、想いの翼だ…私は寝ていたのだろうか)

 『羽音』

 (そうだ、起きなければ)

 「う…ん…ここは?」

 
 『あっ! 目が覚めたみたいだね』

 「誰かいるの?」

 寝ぼけまなこというか、意識がはっきりとしない為に状況が掴めない。 そもそも自分がなんでこんな所にいるのかも…何か忘れているような気がする。

 『父さん、目が覚めたみたいだよ』

 『おお、そうか良かった』

 「父さん?」

 果たして声の主は何者なのだろうかーー
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