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144. 届かなかった想い、それでも…

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 遂に明らかになったもう一つの真実。

 アスレア王は国王と祭王を二つに分け、二人の息子に継がせようとしていた。 だが、何故それは成らなかったのかそして、祭王の持つ権限とは何なのか…。

 『これは…フーム』

 「アスレア、貴方は一体何を考えて…」

 檀上ではもう一枚の遺言に何を書かれているかの確認が行われているのだが、二人の王でもって国を治めようとした意図は皆の最も気になるところだ。
 そうする事に如何なるメリットが存在するのだろうか…いや、それより以前に何故遺言の存在は秘匿され、今日に至るのか、その通りにならなかった理由とは何なのだろう?

 「ちょっと待ってくれ!」

 一人の壮年が徐に立ち上がり声を上げる。

 「どうして、どうして遺言を隠したりしたんだ!」

 「……!」

 「そんな事をしなければ、遺言に従っていればこんな事にはならなかった!!」

 「そっ、そうだ! 何てことをしてくれたんだ!!」

 「全ての非は貴女にある!」

 
 『静粛に! 静粛に! 神聖なる議会の場ですぞ!!』

 議長に諭され声を荒げていた議員は割と直ぐに黙るのだが、これが聖獣でなければ暴動になっていたのでは無いだろうか、そう考えるとつくづくこの場にア・ズーさんが居て良かったと思える。

 
 「なあ、祭王の権限て何だろう?」

 「祭事を執り行う…」

 「ハア…それを権限とは言わん、どちらかと言えば義務になるんじゃ」

 
 祭事、こう言っては何だが神事にせよ国の運営に必ずしも必要なもので無い…だが、それらを司る存在が果たしてどのような権限を付与されたと言うのだろうか。

 「祭王は…国王、並びに元老院議員の任命権、罷免権を持つ」

 「!!」

 『まさか…』

 『信じられん』
 
 「何だと!!」

 「国王の罷免権!?」

 「マジで!? 国王をクビに出来んの!」


 『静粛に! 静粛に!』

 余りにも衝撃的な内容に、この場に居る者は動揺を隠せない。 本来祭事を執り行うトップは何ら権限を持たなかった筈なのだが、遺言には王の任命と罷免というとてつも無い権限を持たせたと記してある。
 その意図するところとは…。

 「行政の人事権を持つと言うのか、とんでもない事だ!」

 「国王まで思いのままに出来るとは…」

 「いや…この場合人事権は持たぬと解釈するのが妥当だ。 あくまでも選考や推薦は国王や他の議員が行う事になるのだろう」

 「選ばれた議員を最終的に任命するのは祭王なのか」

 「議員に相応しくない者を罷免する決定権を持っているのね」

 様々な憶測が飛び交う中で聖獣と少女は向かい合う年配の女性を見つめている。 恐らくこの人は知っているのだーー

 「私の知る限りの事、全てを話します」

 時はアスレア王が存命であり、まだ二人の息子が王子であった頃まで遡る。 次の国王を決めるその時、王は王子たちに二人の王でもって国を治めるようにと伝えてはいたのだ、だが…。

 「王子たちは王の意見に反対しました」

 (反対した? 何故…)

 王子たち、特に王妃との子は自身が国王になる事に拘っていたのだが、側室との子である兄が王の任命と罷免の権限を持つと知らされた時、己を退け自らが王になるのではないかとの疑念が沸いたのだ。

 兄は兄で、王として立派に国を治めてみせるという強烈な自負心があった事と、内心国を治める器では無いと思っていた弟が王になる事に強い反発があった。 

 「王による王子たちの説得は続きました、時の宰相である我が祖父も説得にあたったのですが…」

 王子たちは頑として首を縦にはふらなかった、宰相は王の考えを支持しており何としても王子たちに納得して貰いたかったようだが、その想いは届かずいたずらに歳月だけが過ぎて行き、遂に審判の時が来てしまう。

 「王は遺言にも二人の王で治めるように書き記しました」

 しかし、遺言は棚上げされてしまい王子はどちらが王に相応しいかで、諸侯も巻き込んで対立してしまう。 結局は母の進言により、兄が城を出て行き弟が国王の座に就くのだが、この時国王が宰相に命じたのが遺言状の封印だったのだ。
 
 「当初は破棄するように命じられたのですが、必死に説得しそれだけは免れたのです」

 かくして遺言は秘匿され今日に至る。 遺言状の一枚のみをこの世に出したのは今の宰相の独断によるものであり王の知る処では無かったのだが、どの道筆跡が違う事で効力は乏しかったと見るべきだろう。
 
 「ラズリィ…よく話してくれた」

 「陛下…」

 「危ない!!」

 全てを話た事により何かがこと切れてしまったのだろうか、宰相は大きくふらつくとそのまま倒れそうになるのだが、世良さんが急ぎ駆け寄りその身を支える。

 「大丈夫ですか!?」

 「…ありがとう、貴女がいてくれ良かった」

 「……」

 世良さんに寄りかかっていた宰相は、直ぐにムルタタさんに抱えられて医務室へと移動する。 一時議会は中断してしまったが、直ぐに落ち着きを取り戻し再開されて、彼女の処遇に関しては後日決める事となった。

 
 『王の罷免と任命の権限を持つ存在か、当時としては…いや、今でも革新的過ぎる考え方になるがその意図するところは…』

 ーー権力はいつか必ず腐敗するーー

 良き王が常に国を治めればそれで事は済むのかもしれない。 だが、そうはいかぬのが人の世の常…やがては暗君、暴君が立ち民を苦しめ、国を荒廃させるだろう。
 それが極まれば最終的に王朝は倒されて、次の王朝が立つまで人の世の乱れは収まらない、いや次の指導者が良く国を治める保証などどこにも無い。
 そうなれば、人々は長い時を苦しみもがく事になってしまうのだ。

 (だから、王様を辞めさせる権限を持つんだ…)

 悪しき者が国を治める時、その暴虐邪知なる存在を速やかに取り除かねばなら無い。 そして、次に国を治める者を擁立して国が乱れるのを最小限に収める、これが王の考えなのだ。

 「ただそれだと、王に選ばれた方の血脈が途絶える可能性もあるわね」

 「ひいばあ…」

 例え王統が途絶えても、国を治めるのが次の王朝であったとしても祭王さえいればそれで良い。 そう、祭王は国を直接動かす権限が無いのだから血脈はほぼ確実に受け継がれて行く、それも王となった者からすれば受け入れ難いものでは無かっただろうか。

 「…悪い人が祭王を無き者にしようとしたら?」

 「民に寄り添う存在となり人心を集めれば、そう簡単にはいかないのです」

 「その為の祭事と神事…人々に信仰を直接説いたのは、後の為の布石だったのかもしれないわね」

 「そう考えると、本当に凄い人だったんだね。 でも…」

 王の願いは叶わなかった、果たしてこの責任はどこにあるのだろうか?

 王の説得に応じなかった二人の息子だろうか、それともこの革新的過ぎるシステムを発案した王自身なのか…はたまた遺言を封印した後、自ら命を絶った宰相なのか。

 (もう、誰が悪いとかそういう問題じゃないよね…)


 「……私は、遺言に従いたいと思う」

 「!!」

 「今からでも遅くは無いはず…正王国の王子はどう思われますかな?」

 「!?私は……私もアスレア王の遺志を尊重します」

 この決定に議員たちのざわめきは大きくなるのだが、議長は止めようとはしない。  

 『エンダ王よ、何故に遺言に従おうと思ったのでしょう?』

 「二人の王で持って治めれば、ラウ王朝は永らく存続するでしょう。 そこに住まう者は、乱世に怯える事無く穏やかに暮らして行けるのです」

 『なるほど』

 「…予言には、ラウ王朝の血を引く者が再び国を治めれば、千年の繁栄が約束されるとありました」

 「世良さん?」

 その予言を知った時アスレア王は愕然とし憤った…打倒帝国の戦いで多くの人が命を落とし、沢山の血が流れた。 あれ程の犠牲を払っていながら、建国する国の寿命がわずか千年とは。
 
 そう…千年という月日は王にとって余りにも短か過ぎたのだ。

 「永久とこしえに繁栄する王国を創りたい、これが彼の口癖でした」

 そして、が彼の導きだした答えであり、その想いは現代に甦った。

 --再統一したラウ王国は二人の王で持って治める-- 

 満場一致で決定し、議会は終了した。

 (新たな国造りが…始まるんだ) 
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