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67. 守護聖獣
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異世界で初めて訪れた地方都市スザン。 想像以上に発展していた文明触れたのだが、休息の時もつかの間だった。 厄災を滅ぼす宿命の子と言われる私を追って、それらもまたこの世界に舞い戻り、この地方都市を襲撃する。
戦鳥の戦士たちは都市を守る為に戦いに赴くが、無力な私も私なりに考えて自らを囮にして厄災を都市から退けるべく防御壁を目指す。
しかし、その途中でこれまで見た事の無いタイプの厄災に遭遇してしまい、絶体絶命の危機が訪れてしまうのだが、突如として現れた巨大な黄金の毛並みを持つ牛に助けられた。
この金牛は一体何者なのだろうか……。
咆哮を上げる金牛は、巨大な目でギロリとこちらを見る。 その迫力に恐怖し、微動だに出来なくなってしまうのだが、今あの巨大な蹄で踏まれてしまえば、厄災のようにペチャンコになってしまうだろう。 動けるのなら逃げた方が良いのかもしれないが、すくんでしまい全く足が動かない。
「ㇺゥ……何故人間の子供がここに? 避難命令を聞いていないのか?」
「え? ええ!! もしかして喋ってる!?」
「奇っ怪な幼女だな……何をそんなに驚く?」
「いや、幼女て……」
この世界では毛のある動物、所謂哺乳類の肉を食べる事は無い。 何故なら、哺乳類は聖なる獣として扱われるからだと、ひいばあや世良さんから聞いたのだが、まさか言葉による意思の疎通が可能だとは知らなかった。
教えて貰えなかったのは、単にそこまで説明が必要ないと思われていたのか、はたまた秘密にして驚かせようとしていたのか……。
いずれにしても、話が出来る時点でその肉を食べようなどとは到底思えないので、それは大いに納得する。
「フム、まあいい、ここは危険だから早くシェルターに避難しなさい。 案内しよう」
「あの……あなたは何者なんですか?」
「私か? ……我が名はトヨテテ、スザンの都を守る聖獣なり」
大きな顔を傾げて訝し気味に自己紹介をするのだが、確かに何故そんな事を聞くんだという感じにはなるだろう。
だが、都市を守る聖獣というシステムもはいまいちよく分からないが、味方には違い無いので取り敢えずは一安心といった所ではないだろうか。
「助けて頂きありがとうございます。 トヨテテさん、私の名は羽音と言います」
「ハヲンか、名前も奇っ怪な幼女だのぅ」
「奇っ怪て……。 トヨテテの方がよっぽどだと思います。 あと幼女は止めて下さい十三歳なんです」
「……とても見えんが、まあ、今はそんな事を言っておる場合では無い。 さ、早く非難を」
そう言うと、私が曲がろうとした方に目を見やる。 あちらにシェルターがあるのだろうが、今更非難するわけにはいかない。
「あの、避難は出来ません。 厄災の狙いは私なんです」
「?……」
「だから、私が都市から離れれば厄災も私を追ってくるはずなんです!」
必死に訴えかけるのだが、その表情、と言っても牛の顔なのだが、かなり疑念を抱いている事が見て取れる。
こちらの動物は表情が豊かだと感じるのだが、その疑念の表情もやがては解かれていく。
「何とも信じがたい話ではあるが……分かった。 ならば、それを利用させて貰おう」
「え?……。 うひゃー!!」
言うが早いかおもむろに私の服を食み、空中高くに放り上げる。 一気に地上を離れるが、このような浮遊感は戦鳥に乗っている時にも感じた事は無い。
だが、いつまでも空中を漂えるわけでも無く、やがては重力に引かれて落ちていくのだが、このまま地面に叩きつけられたら、それこそ大けがでは済まないと思ってしまう。
「いだっ!!」
一瞬の空中遊泳の後、地面では無くその背中に落ちる。 体毛がクッションになっているからまだ良いものの、しこたまお尻を打ってしまった。
「しっかりと、捕まっていなさい」
鼻をフンとならし、おもむろに走りだす。 突然の事に慌てて毛を掴むのだが、想像以上にその背中は揺れるので振り落とされまいと体毛を掴む手に力が入る。
暫くは周囲を眺めるような余裕は無かったが、徐々に慣れてくると前方を見る事が出来るようになった。 壁に近づくにつれて、自分の考えの通りになってくれればと思うのだが、やがてその壁に異変が起こる。
「あれは? 煙が上がっている……」
「マズい、壁が破壊されたかもしれん」
「壁が壊された?」
「壁に穴が開けば結界の力も弱まる。 そうなれば、都市内部にも厄災が転移してくるから中々に厄介だの……」
「……!」
都市を囲む壁にはそのような効果もあったとは知らなかった。 だが、言われてみれば、あちらのように厄災が場所を選ばずにに出現する事が出来ないのにはそのような理由があったからなのだ。
壁からは黒煙が上がっているが、本当に壁は破壊されてしまったのだろうか。
「くっ、しまった!」
『こいつらも囮だったのだな、してやられた』
都市内部に侵攻する厄災を迎撃していたところ、突如として壁から爆発音が響いた。 何事かと思い駆け付けたのだが、既に壁に大穴を空けられしまっており、多数の人形や玉虫が壁内部に出現した後だった。
壁には結界の効果もあると聞かされていたが、穴が空いた場所の効力が弱まってしまい、多数の厄災の転移を許してしまう。
宿命の子の抹殺が目的だとして、まさか壁の破壊を目論んでいたとは、そこまで見抜く事が出来なかった。 後悔しても遅いのだが、厄災の増援を迎え打つとしても予備のカートリッジは後一つ……しかも弓自体の使用限界も迫っており、非常に厳しい状況なのだが、他の兵士たちも似たような状態だ。
「何にしてもやるしかないわね」
『そうだな、それに何も悪い事ばかりではない』
「?」
「理音さん、大丈夫ですか?」
「世良、そちらも無事なのね? キアも」
目視では未だその姿は小さいが、確実にこちらに向かっている。 ようやく厄災を殲滅する目途が立ったのだが、油断は出来ない。 その数が多い為に、内部への侵攻を優先した場合必ず打ち漏らしが出で来るからだ。
最後のカートリッジを交換している間にも厄災たちは都市内部への侵攻を開始するので、食い止めるべく他の兵士たちと共に地上と空中から攻撃を開始しようとしたその時、厄災はその動きを突如停止した。
『何故止まる?』
「……?」
停止している理由は判然としないものの、これはチャンスではある。 これなら一方的に攻撃を加える事が出来るのだが、もしかしたら罠とも限らない。 どうするか判断に迷っていると、何処からともなく地響きのような音が聞こえてくる。
「この音は?」
『ン? あれは……この都市の聖獣か!』
幹線道路を物凄い勢いでこちらへ走ってくる黄金の毛並みを持つ金牛。 あれこそはこの都市の守護聖獣なのだが、厄災の侵攻から都市を守るべく戦う為にここへ来たのだろう。 しかし、これは当初の予定と異なるものだ。
「どういうこと? 確か聖獣は都市内部の防衛を努めるはずなのにどうしてここへ?」
『予定が変わったのだろうか……イヤ、なにか様子が……』
様子といえば、厄災たちにも動きがある。 こちらへ向かってくる金牛を迎え打つかのように侵攻を再開するのだが、厄災の狙いは聖獣ではないはずだ。
『!? 理音、あれを見てくれ!』
「あれは羽音!! どうしてあんな所に!?」
拡大してみると、金牛の背中に必死にしがみつくひ孫娘を発見するのだが、何故あのような所にいるのか……。 想像でしか無いのだが、恐らくはまた勝手に飛び出してしまったのだろう。 そこを聖獣に見とがめられたのだろうが、なぜ聖獣が羽音をここへ連れてくるのか理解に苦しむ。 市民を守る事こそが聖獣の役割のはずなのだ。
「何にしても行くわよ。 あの子を守らねば」
『ああ』
厄災と金牛の距離が縮まる中、救出するべく金牛への接触を試みようと思う。 たが、恐らくは間に合わないかもしれない。
予期せぬ助太刀の介入は果たしてどのような結果をもたらすのか……。
いずれにしても、終わりの時は直ぐそこに迫っている。
戦鳥の戦士たちは都市を守る為に戦いに赴くが、無力な私も私なりに考えて自らを囮にして厄災を都市から退けるべく防御壁を目指す。
しかし、その途中でこれまで見た事の無いタイプの厄災に遭遇してしまい、絶体絶命の危機が訪れてしまうのだが、突如として現れた巨大な黄金の毛並みを持つ牛に助けられた。
この金牛は一体何者なのだろうか……。
咆哮を上げる金牛は、巨大な目でギロリとこちらを見る。 その迫力に恐怖し、微動だに出来なくなってしまうのだが、今あの巨大な蹄で踏まれてしまえば、厄災のようにペチャンコになってしまうだろう。 動けるのなら逃げた方が良いのかもしれないが、すくんでしまい全く足が動かない。
「ㇺゥ……何故人間の子供がここに? 避難命令を聞いていないのか?」
「え? ええ!! もしかして喋ってる!?」
「奇っ怪な幼女だな……何をそんなに驚く?」
「いや、幼女て……」
この世界では毛のある動物、所謂哺乳類の肉を食べる事は無い。 何故なら、哺乳類は聖なる獣として扱われるからだと、ひいばあや世良さんから聞いたのだが、まさか言葉による意思の疎通が可能だとは知らなかった。
教えて貰えなかったのは、単にそこまで説明が必要ないと思われていたのか、はたまた秘密にして驚かせようとしていたのか……。
いずれにしても、話が出来る時点でその肉を食べようなどとは到底思えないので、それは大いに納得する。
「フム、まあいい、ここは危険だから早くシェルターに避難しなさい。 案内しよう」
「あの……あなたは何者なんですか?」
「私か? ……我が名はトヨテテ、スザンの都を守る聖獣なり」
大きな顔を傾げて訝し気味に自己紹介をするのだが、確かに何故そんな事を聞くんだという感じにはなるだろう。
だが、都市を守る聖獣というシステムもはいまいちよく分からないが、味方には違い無いので取り敢えずは一安心といった所ではないだろうか。
「助けて頂きありがとうございます。 トヨテテさん、私の名は羽音と言います」
「ハヲンか、名前も奇っ怪な幼女だのぅ」
「奇っ怪て……。 トヨテテの方がよっぽどだと思います。 あと幼女は止めて下さい十三歳なんです」
「……とても見えんが、まあ、今はそんな事を言っておる場合では無い。 さ、早く非難を」
そう言うと、私が曲がろうとした方に目を見やる。 あちらにシェルターがあるのだろうが、今更非難するわけにはいかない。
「あの、避難は出来ません。 厄災の狙いは私なんです」
「?……」
「だから、私が都市から離れれば厄災も私を追ってくるはずなんです!」
必死に訴えかけるのだが、その表情、と言っても牛の顔なのだが、かなり疑念を抱いている事が見て取れる。
こちらの動物は表情が豊かだと感じるのだが、その疑念の表情もやがては解かれていく。
「何とも信じがたい話ではあるが……分かった。 ならば、それを利用させて貰おう」
「え?……。 うひゃー!!」
言うが早いかおもむろに私の服を食み、空中高くに放り上げる。 一気に地上を離れるが、このような浮遊感は戦鳥に乗っている時にも感じた事は無い。
だが、いつまでも空中を漂えるわけでも無く、やがては重力に引かれて落ちていくのだが、このまま地面に叩きつけられたら、それこそ大けがでは済まないと思ってしまう。
「いだっ!!」
一瞬の空中遊泳の後、地面では無くその背中に落ちる。 体毛がクッションになっているからまだ良いものの、しこたまお尻を打ってしまった。
「しっかりと、捕まっていなさい」
鼻をフンとならし、おもむろに走りだす。 突然の事に慌てて毛を掴むのだが、想像以上にその背中は揺れるので振り落とされまいと体毛を掴む手に力が入る。
暫くは周囲を眺めるような余裕は無かったが、徐々に慣れてくると前方を見る事が出来るようになった。 壁に近づくにつれて、自分の考えの通りになってくれればと思うのだが、やがてその壁に異変が起こる。
「あれは? 煙が上がっている……」
「マズい、壁が破壊されたかもしれん」
「壁が壊された?」
「壁に穴が開けば結界の力も弱まる。 そうなれば、都市内部にも厄災が転移してくるから中々に厄介だの……」
「……!」
都市を囲む壁にはそのような効果もあったとは知らなかった。 だが、言われてみれば、あちらのように厄災が場所を選ばずにに出現する事が出来ないのにはそのような理由があったからなのだ。
壁からは黒煙が上がっているが、本当に壁は破壊されてしまったのだろうか。
「くっ、しまった!」
『こいつらも囮だったのだな、してやられた』
都市内部に侵攻する厄災を迎撃していたところ、突如として壁から爆発音が響いた。 何事かと思い駆け付けたのだが、既に壁に大穴を空けられしまっており、多数の人形や玉虫が壁内部に出現した後だった。
壁には結界の効果もあると聞かされていたが、穴が空いた場所の効力が弱まってしまい、多数の厄災の転移を許してしまう。
宿命の子の抹殺が目的だとして、まさか壁の破壊を目論んでいたとは、そこまで見抜く事が出来なかった。 後悔しても遅いのだが、厄災の増援を迎え打つとしても予備のカートリッジは後一つ……しかも弓自体の使用限界も迫っており、非常に厳しい状況なのだが、他の兵士たちも似たような状態だ。
「何にしてもやるしかないわね」
『そうだな、それに何も悪い事ばかりではない』
「?」
「理音さん、大丈夫ですか?」
「世良、そちらも無事なのね? キアも」
目視では未だその姿は小さいが、確実にこちらに向かっている。 ようやく厄災を殲滅する目途が立ったのだが、油断は出来ない。 その数が多い為に、内部への侵攻を優先した場合必ず打ち漏らしが出で来るからだ。
最後のカートリッジを交換している間にも厄災たちは都市内部への侵攻を開始するので、食い止めるべく他の兵士たちと共に地上と空中から攻撃を開始しようとしたその時、厄災はその動きを突如停止した。
『何故止まる?』
「……?」
停止している理由は判然としないものの、これはチャンスではある。 これなら一方的に攻撃を加える事が出来るのだが、もしかしたら罠とも限らない。 どうするか判断に迷っていると、何処からともなく地響きのような音が聞こえてくる。
「この音は?」
『ン? あれは……この都市の聖獣か!』
幹線道路を物凄い勢いでこちらへ走ってくる黄金の毛並みを持つ金牛。 あれこそはこの都市の守護聖獣なのだが、厄災の侵攻から都市を守るべく戦う為にここへ来たのだろう。 しかし、これは当初の予定と異なるものだ。
「どういうこと? 確か聖獣は都市内部の防衛を努めるはずなのにどうしてここへ?」
『予定が変わったのだろうか……イヤ、なにか様子が……』
様子といえば、厄災たちにも動きがある。 こちらへ向かってくる金牛を迎え打つかのように侵攻を再開するのだが、厄災の狙いは聖獣ではないはずだ。
『!? 理音、あれを見てくれ!』
「あれは羽音!! どうしてあんな所に!?」
拡大してみると、金牛の背中に必死にしがみつくひ孫娘を発見するのだが、何故あのような所にいるのか……。 想像でしか無いのだが、恐らくはまた勝手に飛び出してしまったのだろう。 そこを聖獣に見とがめられたのだろうが、なぜ聖獣が羽音をここへ連れてくるのか理解に苦しむ。 市民を守る事こそが聖獣の役割のはずなのだ。
「何にしても行くわよ。 あの子を守らねば」
『ああ』
厄災と金牛の距離が縮まる中、救出するべく金牛への接触を試みようと思う。 たが、恐らくは間に合わないかもしれない。
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