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46. 堅牢なる護りの翼

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 「蒼い……翼」

 「なんて凄い威力なんだ。 沢山いた怪物たちを一瞬で……」

 翼をはためかせながら滞空している蒼い翼を二人で見つめる。 蒼いメタリックに輝くボディは例えるならカワセミの蒼さだ。 死の翼や大翼とはまた違った猛禽類のシルエットだが、連想するのは強いて言うならハヤブサではないだろうか。 当然顔を伺う事は出来ないが、あちらもこちらを視認しているように感じる。

 「あれ、どうやって攻撃したんでしょう?」

 こういった事に詳しいので聞いてみるのだが、見ていて何と無く分かる気がする。 あの右腕に担いでいる長い棒のようなもが武器のように見えるのだ。

 「バスターライフル、もしくはランチャーなのかな……でも発射したのはビームじゃない」

 そうこう話をしている内にもタワーからは無数の敵が新に生み出されている。 もしかしてあれが、世良さんがかつて言っていた厄災の製造装置なのだろうか……。 あれほどの巨体だとしたら、あれらは無限に生まれて来るのではないかと思えててくる。

 生まれたばかりの人形やコウモリもどきは蒼い翼に向かって飛んで来るのだが、ここにいてはまた危険な目に合うと思い離れようとする。 だが、その行動よりも蒼い翼方が早かった。

 三度みたびあの光と爆音が響く。 今度は何とか目を開いて攻撃を確認するのだが、余りの衝撃に言葉を失う。

 --裁きの雷ーー

 あの長身の銃から放たれるのは蒼い稲妻。 その電撃に撃たれ次々と厄災は消し炭になっていく。
 そして、その迅雷はついに厄災の本体ともいえるタワーに及び、その表体を激しく打った。

 「ああっ、やったのか?」

 雷に撃たれた表体は深くえぐられ、その部分は本来の姿を取り戻す。 だが、それも一瞬の事で直ぐに流動する液体は傷を覆い何事も無かったかのように次々と厄災を生み出していく。

 「ダメなのか……」

 「そんな……それじゃ一体どうすればいいの?」

 この巨体に加えて、強靭な再生能力まで備えているのだ。 これでは自衛隊の武器はおろか戦鳥の力も先ほどのように通用しないのではないだろうか? こんな化け物と皆戦ったとし果たして無事でいられるのかどうか……。
 これは最早、国の一大事なのではないかとすら思えてくる。

 「と、とにかく。 あの蒼いのが、怪物と戦っている間に逃げよう!」

 「え? でも、あのままじゃ」

 「僕たちには何も出来る事は無いよ……」

 私達には何も出来る事は無いと言う無力感にさいなまれながらもこの場を離れ、安全な場所まで逃げるべくその場を離れた。



 「コア?」

 「そうです。 あれは高い再生能力を誇り、並大抵の攻撃ではとても通用しません」

 戦鳥をまといタワーに向かって飛翔する最中に、世良から厄災を攻略する方法を確認する。

 「最初に出現した時に見たあの赤い光……一見すると目のように見えるのですが、あれこそが厄災の核なんです」

 「ちょっと待って下さい。 ならば核は四つあるという事ですか?」

 キアが割って入るが、その疑問も最もだろう。 核と言うからには一つではないかとイメージしてしまいがちだ。
 しかもその核はタワーを取り込んだ際にバラバラになり、ランダムに表体を移動している。

 「そうよ、あの核を四つほぼ同時に叩かなければ、厄災の本体を倒す事は出来ないの。 かつて私が対峙した時は核が二つだった……あの時より更に厳しい戦いになるのは間違いないわね」

 「いや、厳しいも何も私達三人では手が足りません。 どうするのですか?」

 確かに私達だけでは四つの核を破壊する事は不可能に近いかもしれない。 そう、私達だけであれば……。

 「それなら、あそこに居る新たな翼に協力して貰うしか方法は無いわね。 二つの翼が加われば手は足りるわ」

 そう、ここからでも新たな翼の力を感じる事が出来る。 彼女達の力を借りれば、決して不可能ではない筈だ。

 「あの二つの翼は私の敵です! 力を借りるなど……」

 「貴女の敵であったとしても、今はまだ私達の敵では無いわ……いずれにしても一時休戦よ。 そんな事を気にして倒せるほど厄災は甘くはないわ」

 「……分かりました」

 キアの表情をうかがい知る事は出来ないが、あの性格だ。 恐らくは苦虫を噛み潰したような顔をしている事だろう。 だが、世良の言う事も間違いない。 厄災が簡単に倒せる存在では無いことは、私も身を持って十分に知っている。

 「……! 来るわよ! 二人とも気を付けて」

 そうこうしている内に射程に入ってしまったのだろうか。 まだ距離があるように思ったが、光の矢が無数に放たれる。 避ける事は難しく無いものの、攻撃を仕掛けて来た敵の雰囲気が今までとは違うように感じる。

 「あれは上位体? ……だけでは無いわね」

 無数の上位体に混ざって接近するこれまでに見た事の無いシルエットの存在があるが、やがて先行してこちらに光の矢で攻撃しながら接近して来る。 
 
 「くっ!」

 「なっ、早い!」

 「!あれは一体?」

 驚くべきは光の矢の威力と連射速度。 死の翼の砲が健在だとしてもあれ程の攻撃は不可能だが、高速で接近し、すれ違えはお互いに切り返して、対峙する。

 「あれは何なのですか?」

 「見た事の無い個体だわ」

 「しかし、何て醜悪な……」

 三者三様で新たな敵を見定めるが、その異様さはこれまでの個体の比では無い。 全高は約三メートルと、飛翔するタイプではこのような大型の敵は誰も対峙した事は無いのだが、その見た目の異様さまたは醜悪さは見るものによっては目を背けたくなるのではないだろうか……。

 漆黒の巨大な人骨とその骨の上に無数に伸びる赤い筋はまるで血管のようだ。 人から皮膚と筋肉をそぎ落としたかのようなその形状はあえて例えるなら、趣味の悪い人体模型……。 そして心臓に位置する部分には赤い球体が一定のリズムで発光の強弱を繰り返している。
 翼は翼竜のそれだが、皮膜は無く骨だけ。 最も、あったとしても意味は余りなさないだろうが、注目すべきはその武器だ。 この死の翼と同じ武装……両の肩と腰とくるぶし、腕にも光の刃を備えているのだろう。 これまでも人形やその上位体は、私の翼に通じる言わば劣化版のような形で私達の前に立ちはだかった。
 だが、これは違う。 これまでの敵とは次元が違う事がその雰囲気から伝わってくるのだ。


 「世良……貴女達は本体へ急いで。 あれの相手は私がやるわ」

 「ちょっ、何を言うのですか! あれはただ者ではありません。 ですが、皆で戦えば!」

 「分かりました」

 「世良殿!」

 キアの言いたい事も分かるが、もう時間が無い。 それにーー

 「これが恐らく私の……死の翼にとって最後の戦いになる」

 そう、私の戦鳥はもう限界なのだ……。 少なくとも武装が使えるのは、これが最後となるのは間違い無い。

 「分かっています……でも理音さん。 これだけは約束して下さい、決して死なないと」

 「……私はまだ死ねないわ。 帰ってあの子にたっぷりと説教してあげるのよ」

 「そうでしたね……それではお願いします! 行くわよキア!」

 「本当にまかせるのですか!?」

 「そうよ! ただ、理音さんがやり易いように上位体は全て叩く!」

 去り際に上位体を撃破する二人を見送ると、この異形と改めて対峙するが、あえて言うなら変異体だろうか……。
 いや、この際呼び方などどうでもよい事なのかもしれない。 勝利どころか、最早戦って生き延びられる保証も何処にもないのだから……。

 「これが最後の戦い! 死の翼よ、どうか私に力を貸して!」

 『ああ、行くぞ理音!』



 「理音さんの、死の翼の最後の戦いが始まったか……」

 「やはり、満身創痍の死の翼を置いていくなど、正気の沙汰とは思えませんが」

 上位体を撃破しながらも、話をする余裕のあるキアは先ほどの決断にまだ言いたい事があるようだ。

 「時間が無いのよ。 一刻も早くあの本体を撃破せねばならないの」

 「それは何故ですか?」

 「あれは、製造装置といったでしょう? 故に、今にも厄災の素体を集める行動に出るはずよ」

 「素体集め……」

 「そう。 だから早く倒さなければ犠牲者は増え続け、厄災の数もおびただしいものになる。 一刻の猶予も無いのよ」

 こうしている間にも次々と厄災は新たに生み出されている。 それは、素体の確保という次の一手に移行している事に他ならない。

 「羽音。 私達が行くまで、どうか無事でいて!」
 

  
 「はあっ、はあっ……」

 足の遅い二人が、どうにか必死に走って少しでもタワーから遠ざろうとするのだが、大きい道路は厄災たちが跋扈しており、通る事が出来なかった。 なので、細い道路を走るしかなかったのだが、すっかり迷ってしまいここが何処だかさっぱり分からなくなってしまったのだ。

 「先輩。 一度止まって、ここが何処だか確認しませんか?」
 
 「……そうだね。 そうしようか」

 徐々に速度を緩めて、周囲を伺う。 路地のような所を走っていたのだが、いつの間にか片側一車線の道路に出ようとしていた。 だが、幸いな事にここにはまだ厄災は出現していないようだ。 逃げる人々にもまだ、焦りのようなものは無く、落ち着いて避難行動を取っているように見受けられる。

 「自衛隊も出動したんだ……でも、災害救助のみに留めるみたいだね」

 スマホを見ながら呟くが、SNS上でもこの話題で持ちきりだろう。

 「戦わないんですか?」

 「まあ、これ以上の犠牲は出せないよね……」

 戦いはひいばあ達に丸投げなのだが、それも仕方が無い。 前回の戦いで自衛隊の戦力でも、厄災に対抗出来る事は証明された。 だが、問題はその結果だが、戦闘に参加した隊員は死傷者多数で無傷な者は居なかった。
 車両やヘリも全て大破しており、その損失は多大なものになってしまったのだ。
 だがあれは、数ある厄災の襲撃の一つに過ぎない。 戦う度に損失を出していては、予算がいくらあっても足りないのだが、これ以上尊い人命を失う訳にもいかない。

 「ただ、自衛隊の隊員の士気は高いみただね。 先の戦いで命を落とした隊員達の仇を取りたいと願う人が殆どだって」

 「……」

 いずれにしても、自衛隊の到着までまだ時間が掛かるが、それまで何とか逃げ延びなけれはならない。
 人の流れを見る限りでは、私達の進行方向で間違ってはいないようには思うのだが……。

 「GPSで見ると……うん、こっちで合ってる。 さあ……」

 「?どうかしましたか」

 位置情報を確認していたのだが、そこまで言うと黙ってしまう。 私達は対面しており、私の頭上を凝視しているように見受けられるが、何が見えるのか気になり振り向いた。 その目に映るモノとはーー

 「ミ、ミミズ!?」

 巨大な黄土色のミミズのようなモノが私の頭上で鎌首をもたげていた。 先輩が凝視していたのはこれだったのだが、やがて動きがある。 その頭を近づけようと鎌首を下げてくるのだが、先端にはいつの間にか口のような穴が開いていた。

 「やっ……」

 「危ない!」

 このままでは食べられるーーそう思った瞬間、突き飛ばされてしりもちをついてしまうが、その衝撃に目を瞑った私が再び目を開けた時に見たものとはーー

 「うわーーー!」

 叫び声と共にミミズに飲み込まれていく、先ほどまで一緒に行動を共にしていた人物の足。 瞬く間に見えなくなってしまうのだが、その表体の膨らみは、先端から胴体にかけて飲み込んだ物体が移動していく様が見える。

 「あ……ああ……」

 彼は私を庇って飲み込まれてしまった。 その事実に茫然としてしまい、この場を動く事が出来ない。
 本来ならば、その意思を無駄にしない為にも逃げなければならないのだが、飲み込まれた者の事を思うと足が動こうとしないのだ。

 やがてミミズの化け物は私を見定める。 周囲では悲鳴が聞こえるが、この化け物が先ほどと同様に人々を飲み込んでいるのだろう。
 もうダメだーー
 そう思ったその時だった。

 ミミズの動きが、突如として止まってしまった。 ピクリとも動かないのだが、やがてもたげていた頭が”ズドン”という音と共に地面に落ちる。 動きが完全に停止してしまったのだが、表体に変化が現れる。
 何と、ミミズの背?がぱっくりと割れてしまったのだ。 内容物がどろっとした液体と共に道路に流出するのだが、どうやら相当数の人間を取り込んでいたようだ。
 私は直ぐにハッとなって、ミミズに駆け付け先輩の安否を確認するがその最中、倒れている無数の人々のその先に、何かが佇んでいるのを見定める。
 
 その佇む者のシルエットは知っている。

 翼を持つ人の形をしたモノーーそれはーー

 「翠の……戦鳥……」
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