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43. 防人(さきもり) vs 異形

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 テレビから聞こえてくるのは、ヘリコプターのローターが回転する際に発するけたたましい騒音のみで、映像は不明瞭極まりない。 映し出しているのが上空からの映像だと分かるのは、このローターの回転音のおかげだ。

 「えー、現在の時刻は十時二十六分。 次々と自衛隊の車両が現場に到着しております! 今まさに、怪物たちを迎え撃つ為に戦闘準備を行っている最中です!」

 ここまで言うと映像は一旦スタジオに戻り、司会者やゲストの大学教授やタレントを映し出す。 だが、スタジオの誰が話をするでも無く、皆神妙な面持ちのままで直ぐに別のカメラに切り替えられる。

 「スタジオの皆さん聞こえますでしょうか? こちらは自衛隊が作戦行動を行っている現場から約五百メートルほど離れた高層ビルの屋上になるのですが、かろうじて肉眼でも戦闘車両が動いているのが確認出来ます」

 「……もしもし、すいません。 スタジオの安藤です。 今カメラはどこの映像を映していますか?」

 ややあって、ビル屋上にいるリポーターは話だす。

 「はい、今はですね。 現場を可能な限り拡大して映しているつもりなんですが……」

 「すいません。 一度、江川さんの方にカメラを戻して頂いても宜しいですか?」

 またもややあってリポーターは話をし出すが、その顔は鮮明に映し出される。 どうやら、距離うんぬんよりも厄災を映そうとすると映像が乱れるようだ。
 
 「どうでしょう? 見えますか?」

 さわやかな好青年といった感じの風貌と、一年目とは思えないハキハキとした声でしゃべる江川リポーターは、スタジオとやり取りを行っている。 どうやらこのまま実況を行う段取りになったようだが、スタッフからその手に双眼鏡が渡される。

 ビルの屋上から現場となっている幅の広い国道まで距離はあるものの、その間には背の高い建物も無く公園や住宅街が広がっているので視界は悪くないようだ。
 ただ、国道を挟んだ反対側はビルが立ち並ぶオフィス街となっておりその先を見通す事は出来ない。

 「いよいよ始まるのか……」

 父が呟く。 ひいばあを除く家族全員で食い入るようにテレビを見ているのだが、今回は厄災の襲来に自衛隊の駐屯地が近かった事もあり配備が間に合った。 ついに近代兵器対厄災の戦いが始まるのだ。
 果たして、人の力がどこまであの異形の怪物たちに通用するのか……。 ひいばあ達も、自衛隊と共に戦えれば良いのだが、今まさに別の場所に出現した厄災と戦ってる最中だ。



 「隊長。 隊員の配置が終了しました」

 「よし。 総員、全速前進!」

 号令により、自動小銃を装備した歩兵と装甲車両で構成された小隊が目標まで移動を開始する。

 「対象までの距離、百メートルを切った。 銃の安全装置を解除!」

 「……! 隊長来ました」

 「いよいよか……総員戦闘準備!」

 自衛隊の動きを察知した人形が数体飛来する。 隊員達を射程に捕らえ光の矢を放とうとしたその時ーー

 「今だ! 撃てーい!」

 小銃が一斉に火を吹き銃弾の雨が人形達を襲い、次々に撃ち落としていく。

 「戦闘が始まりました! ……効いています。 自衛隊の攻撃は怪物に有効です!」

 人形が小銃の射程に入れば、あっけなく撃墜されていく様を見て隊員達は勢いづく。

 「はっ! まるで射的だな」

 「油断するな!」

 このまま殲滅せんめつする。 そう思ったその時ーー

 「ぐあっ!」

 「ぎゃあっ!」

 次々と隊員が倒れていき隊列が乱れ始める。 厄災の反撃が始まった。

 「隊長! ビルの壁からです!」

 無数の球体がビルの側面に張り付き攻撃を行う。 これらを失念していたわけでは無い。 ただ、いつ現れるとも分からないこの異形の怪物たちの攻撃を、先もって予測する事は不可能に近い。
 
 「くっ、反撃だ!」

 「しかし! ビルが……」

 「構わん。 許可は下りている!」

 すぐさま自衛隊の反撃が始まり、球体はビルの壁や窓ごと撃ち抜かれていく。 装甲車両からの機銃も加わっており攻撃は更に強力になっている。

 「ああっ! 自衛隊の攻撃でビルの側面が破壊されています!」



 「何言ってんだよこの人。 厄災を攻撃しての事だろ!」

 「おにい、落ち着きなよ……」

 リポーターの発言は語弊があるが、双眼鏡越しにはそう見えても仕方が無いのかもしれない。



 「よし、このまま押し切る!」

 これで怪物たちを倒せると確信するが、またしても……。 

 「……隊長! あれを!」

 副隊長が見たのは無数に飛来するミサイル群。 それらは一斉にこちらに向かってくる。

 「総員回避ーー」

 無理な命令ではあるが、死にたくなければ避けるしか無い。 皆必死にミサイルから逃れようと散り散りになって走るが、隊員達に容赦なくミサイルの雨は降り注ぎ、装甲車両もまともに浴びる事となる。
 爆発音が連続して鳴り響き煙りが舞うが、風によって直ぐに流される。 残ったのは倒れてピクリとも動かない隊員達ばかり。 そしてそれは、先ほどまで装甲車両から指示を行っていた隊長にも等しく襲い掛かっていた。

 「隊長! 隊長!」

 難を逃れた副隊長が駆け付けて呼び掛けるが何の反応も無い。 胸から大量の血を流しているが、傷は心臓まで達しており手の施しようが無い事を確認する……。
 ややあって、副隊長は皆に号令をかける。

 「隊長は、戦闘続行不能であるため、私が変わって指揮をとる! 動ける者は、負傷者の救護を行いこの場を離脱する……撤退だ!」

 撤退の命令に隊員達が従い行動を始めるが、そこにミサイルを放った主三体が迫って来る。 このままでは全滅も在りうると誰もが思ったその時、「キュルキュル」という音がどこからともなく聞こえてきた。
 音が止まると「ズドン」と辺りの空気を振動させるほどの爆音が鳴り響き、一つ目の胴体に風穴が空き爆発する。  

 「あれは……戦車です! 戦車が戦闘の現場に到着しました」

 三台の戦車が別の基地より到着し、一つ目に砲撃を加える。 ミサイルを再転送する間も無く撃破されていくのを見て、隊員達はやや安堵し救護の手を急ぐ。 だがーー

 戦車の内一台が突如として横転し、ひっくり返る。 何事かと思う暇も無く、もう一台は巨大な巌のような拳の一撃を受けて、頭頂部がひしゃげてしまう。

 「ああっ、巨大な黄色い三つ目の怪物が戦車を破壊しています!」

 残る一台は急いで三つ目から距離をとるが、砲身を向けた途端にミサイルの雨を受けて爆発、炎上してしまう。
 両腕を伸ばした状態でミサイルを放った三つ目はその直後、勝利の雄たけびがわりとばかりにゴリラのようなドラミングを行う。
 隊員はその間にも急いで撤退しようとしているのだが、このままでは更なるミサイル攻撃を浴びせられかねない。
 ドラミングを終えた三つ目が逃げる対象を見定めたその時、その足元が激しく爆発して大きくバランスを崩す。 
 三つ目に攻撃を加えたものの正体とは……。

 「戦車を破壊した三つ目の化け物が攻撃されていますが……あれは! 戦闘ヘリです。 アパッチが新たに参戦しています!」

 報道ヘリはアパッチを出撃させる自衛隊の要請で、戦域を離脱するよう通達を受けた為に現場を離れた。 そして、二機のアパッチは一定の距離を取ってホバリングを行い三つ目と対峙する。 対象は例によって全身からミサイルを発射するが、飛来するミサイルを二機、計四門のガトリング砲で全て迎撃しお返しとばかりに、ミサイルを浴びせる。
 自らが得意とする攻撃のカウンターを食らい、三つ目は激しく爆散する。 撃破したアパッチ二機は何事も無かったかのようにホバリングで滞空を続けているが、周囲を警戒しているのかもしれない。

 「これで戦闘は終了したのでしょうか? 新たな敵の出現は……」

 リポーターも周囲を確認していたが、直ぐに異変は起こる。 戦闘ヘリ一機のローターが突如として停止し落下。 爆発炎上してしまう。

 「一体どうしたのでしょうか? ああっ、もう一機も?」

 残る一機も同じ運命を辿るが、ここで初めてヘリを墜落させた敵の正体が明らかになる。

 「あ、あれは……蜘蛛です。 蜘蛛の化け物がビルの側面に張り付いています!」

 蜘蛛の背中から発射された鳥もちのようなもので、ヘリのローターは絡めとられて飛行能力を失った。 まさか、このような伏兵がいようとは思いもしなかったが、蜘蛛はビルの側面をつたって道路へと降り立ち、隊員達の前に立ちはだかる。 絶体絶命のピンチと誰もが思った瞬間だった。

 「くたばれ! 化け物!」

 声の主は二人の隊員、満身創痍の状態だが狙いを定め、それぞれ手にしたグレネードランチャーの引き金を引き絞る。
 グレネードが着弾すると炎が吹き上がりたちまち蜘蛛を覆う。 「ビィィィィ」という蜘蛛らしからぬ叫び声をあげている最中にも、ダメ押しとばかりにもう一撃火炎弾を食らわせると蜘蛛は完全に活動を停止した。

 これで最後ーー

 追加の敵の出現は無い……。

 「へっ、炎が弱点なのは知ってんだ!」
 
 「や……や、ったぞ。 怪物どもめ……ざまあみろ」

 グレネードを放った二人の隊員の内一人は、燃え盛る炎を見届けて倒れ込む。

 「……おい、大丈夫か? しっかりしろ、おい!」

 怪我の酷い隊員は倒れたままで呼びかけに答える事は無い。 今の一撃に全てを込めた……残った一人も何となくそう思ったが、理解はしたくないと呼び掛け続ける……。 それは他の隊員が駆け付けるまで続いた。

 「敵は殲滅しました。 これは……自衛隊の勝利、なのでしょうか……」

 今回出現した厄災は自衛隊の活躍で撃破出来た。 これは勝利と言っても良いのかもしれない。
 だが、これは数ある厄災の襲撃の一つに過ぎないのだ。 それに対して、今後もこのように戦闘を継続していく事が果たして可能なのだろうか……。
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