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32. この世界である理由
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「そろそろ、終わりかな」
先輩はボソッと呟くのだが、そう言えば今更ながら彼の本名はしらない事に気付いた。
だが、名前を聞くのも何だか気恥ずかしいしアダ名でも付けようかなと思ったのだが、頭に浮かんだのが"マサイ"だったので振り払う。
「出ようか。 狭いし」
促されて遊具をでるが、まだ意識しているのだろうか。
しかし、死の翼と大翼は強化体相手に戦っているのでこれまでのようには行かない。
「もうすぐ終わりそうなんですか? 苦戦しているんじゃ……」
「確かにこれまでのようには行かないけど、それぞれのスーツの特性を活かして戦っているよ」
「特性?」
「うん、あの白い翼を見て」
そう言われ、大翼の姿を探すが見当たらない。 「一体何処へ?」そう思った瞬間だった。
「えっ? 何?」
一瞬何かが視界に飛び込み、強化体を襲った。 だが、直ぐに視界から消える。
「まさか、あれが?」
みるみる強化体は削られていくが、襲撃者の姿は視認出来ない。
「あの白い翼は接近戦が主体だけど、大きな翼から得られる爆発的な加速力と突進力が持ち味なんだよね。 運動性能も高いから被弾しないし、僕はあの戦闘スタイルが好きだなぁ」
確かに大翼、世良さんは大丈夫かもしれない。 だが、死の翼は、ひいばあは……。
「黒い翼も大丈夫だよ」
「えっ?」
まるで私の心を見透かしたように言うのだが、その根拠は何処にあるのだろうか。
死の翼は強化体と戦っているが致命打を中々与えられない為、真紅の翼はこちらに参戦している。
炎を噴き上げながら苦もなく強化体を切り伏せる様は、圧倒的な性能差を見せつけているようだ。
「やっぱり無理なんじゃ」
「大丈夫。 見ていて」
死の翼は未だに強化体と切りあっている。 光の刃の出力は互角。 その筈だったが死の翼の刃が強化体を切り裂いた。
「えっ! どうして?」
良く見ると何時もよりも刃は太く長いのだが、どのような理屈なのだろうか。
「見えた? 左右のビームソードを合わせて出力を上げたんだ」
先輩は指を組んで腕を振り上げて落としてみせる。
まさかこのような戦い方が出来るとは……。
「あれだけじゃ無いよ。 黒い翼は前回破損したパーツを切り離して囮にして戦ったりしていたんだ」
「ダミー?」
「飛んで来るパーツに敵が気をとられた隙に攻撃するんだ。 上手いよね」
「……」
「他の翼に比べて旧式だし力が弱っているのかもしれないけど、戦術でカバーして戦えるのは熟練の戦士が成せる技だね」
「でも、このままじゃ……」
「確かにこの世界じゃ修理は出来ない……そうだよ! あれが他の国の兵器だなんてバカげた事を言うヤツもいるけど、どうあがいたってこの世界じゃあんなものは創れないんだ!」
いきなり解説がヒートアップしたので少し驚く。
「あれはこの世界では無い別の世界にあるオーバーテクノロジーで創られたモノでーー」
「ザバァァァァ」
川の水が盛り上がり、しぶきが辺りに飛び散る。
何事かと思い見ていると水のレースが流れ落ちた時、その正体が顕になる。
「何あれ! 蜘蛛!?」
「その様だね。 もう終わりだと思っていたのに、まだあんな敵がいたなんて……」
新手の出現の為か急にトーンダウンしている。
「あれらも本来なら別の世界のモノの筈なのにどうしてこの世界を襲うんだろう? この世界で戦う理由は一体何なんだ……?」
そんな先輩の疑問を他所に、巨大な蜘蛛は川から上陸してくる。
黒と紫のまだら模様が毒々しく感じるのだが、形状が蜘蛛な事もありより一層の嫌悪感を醸し出している。
「あの蜘蛛って、ああいう種類いますよね。 何でしたっけ?」
「形は女郎蜘蛛に似てるけど、これ迄出現してきた敵は色んな生物を参照にしているね。 何か法則みたいなのがあるのかな?」
巨大蜘蛛に関してあれこれ話してしまうが、距離がある内にまた隠れた方が良いかもしれない。
それともどんな攻撃が来るか分からないので、逃げるべきか。
喋りながら悩んでいると巨大蜘蛛に動きがある。
「ボッ、ボッ、ボッ」という音が連続して響くが、蜘蛛の腹部上面から何かが飛び出して来るのが見える。
最も蜘蛛の体高は五メートル以上はある為何が飛び出してきたか判然としないが、打ち上げ花火のように真上に飛んでいった事も視認しづらい要因になっている。
「!まずい、振って来るから隠れるんだ」
先輩に手を引かれて遊具の中に押し込められるのだか、二人とも中に入った瞬間打ち上げられた何かが雨のように地面に降り注ぐ。
「ぼたぼた」といった感じで振ってきたのだがそれも一瞬で、止んだのを確認して外に出ると奇妙な物体で辺り一面真っ白になっている。
「うわわっ、何だこれ?」
先輩はうっかり踏んでしまったようだが、白い物体は靴にネットリとついて離れない為脱がないと脱出出来ないかもしれない。
そして、雨のように無数に降り注いだこの鳥もちのようなものに三つの翼は囚われ、地面に張り付けられててしまっている。
「ああっ、まさかこんな攻撃を仕掛けてくるなんて」
(どうしよう! ひいばあ、世良さん、真紅の戦鳥の人も……)
流石に避けきれなかったのだろう。 大翼は時間を掛ければ鳥もちから逃れられそうだが、死の翼は出力が弱まっている上に手や足にべっとりとくっついている為、切り裂く事も難しそうだ。
真紅の翼はというと蜘蛛に一番近い位置に居るにも関わらず、特に鳥もちを振り払うでも無く囚われたまま佇んでいるのだが、やがて蜘蛛は囚われた獲物に近づき無数の牙の生えたおどろおどろしい口を「グパァ」と開ける。
「大変! このままじゃ食べられちゃいますよ」
「どうした? なんで動かないんだ」
蜘蛛が真紅の翼に食い掛り牙が触れようとしたその瞬間、翼から激しい炎が吹き上がる。
「ピィィィィィ!」
蜘蛛はその体躯と容姿に似つかわしくない鳴き声で身を仰け反らせるが、口は高温で焼かれてしまい爛れきっている。
悶える蜘蛛を他所に真紅の翼は炎を纏いながら再び空へと舞い上がり、剣を頭上高くに掲げる。 炎は剣を伝い徐々に巨大な火の鳥を形成していきそしてーーー
剣が振り下ろされると火の鳥は翼をはためかせながら一直線に蜘蛛へと向かい体当たりする。
「ビィィィィィィッ!」
断末魔を上げながら、炎に焼かれた蜘蛛は瞬く間に炭になっていく。
今度こそ本当に戦いは終わった。 真紅の翼は辺りの鳥もちを焼き払い、大翼と死の翼に張り付いた分も上手く炎を加減して取り除く。
暫し三つの翼は佇むがやがて死の翼を先頭に飛び立っていく。 向かう先は我が家で間違いない。
「私達も帰りましょう。 またお巡りさんに見つかったりしたら面倒ですから」
「うん、そうだね。 しかし、あの紅い翼はあんな大技まで持っているなんて本当に凄いな……」
未だに真紅の翼の戦闘力に感心しているが無理もない。 今回の勝利はあの翼の活躍による所が大きいのだが、一体どのような人物が戦鳥を纏っているのだろうか。
「それじゃ、失礼します」
「えっ? あっ、あのさ」
「なんですか? まだ何か」
「あの……キミ可愛いと思うよ」
「はい!?」
「だっ、だからさ、もっと自信持っていいと思う。 それじゃ!」
顔を赤くして先輩は踵を返し脱兎の如く……とは言い難い速さで走って去っていく。 だが、しかし。
「あっ、こけた」
この前挫いた足だって完治していないかもしれないのに急に走り出すからだと思ってしまうが、先ほど言われた言葉を何時までも頭の中で反芻してしまい、他の事が余り考えられなくなってしまう。
「ああっ、もう、あの戦鳥の人の事とか今後の事とか考えなきゃいけないのに!」
私も顔を赤くしながら、先輩とたいがいな速さで走り家路につく。
先輩はボソッと呟くのだが、そう言えば今更ながら彼の本名はしらない事に気付いた。
だが、名前を聞くのも何だか気恥ずかしいしアダ名でも付けようかなと思ったのだが、頭に浮かんだのが"マサイ"だったので振り払う。
「出ようか。 狭いし」
促されて遊具をでるが、まだ意識しているのだろうか。
しかし、死の翼と大翼は強化体相手に戦っているのでこれまでのようには行かない。
「もうすぐ終わりそうなんですか? 苦戦しているんじゃ……」
「確かにこれまでのようには行かないけど、それぞれのスーツの特性を活かして戦っているよ」
「特性?」
「うん、あの白い翼を見て」
そう言われ、大翼の姿を探すが見当たらない。 「一体何処へ?」そう思った瞬間だった。
「えっ? 何?」
一瞬何かが視界に飛び込み、強化体を襲った。 だが、直ぐに視界から消える。
「まさか、あれが?」
みるみる強化体は削られていくが、襲撃者の姿は視認出来ない。
「あの白い翼は接近戦が主体だけど、大きな翼から得られる爆発的な加速力と突進力が持ち味なんだよね。 運動性能も高いから被弾しないし、僕はあの戦闘スタイルが好きだなぁ」
確かに大翼、世良さんは大丈夫かもしれない。 だが、死の翼は、ひいばあは……。
「黒い翼も大丈夫だよ」
「えっ?」
まるで私の心を見透かしたように言うのだが、その根拠は何処にあるのだろうか。
死の翼は強化体と戦っているが致命打を中々与えられない為、真紅の翼はこちらに参戦している。
炎を噴き上げながら苦もなく強化体を切り伏せる様は、圧倒的な性能差を見せつけているようだ。
「やっぱり無理なんじゃ」
「大丈夫。 見ていて」
死の翼は未だに強化体と切りあっている。 光の刃の出力は互角。 その筈だったが死の翼の刃が強化体を切り裂いた。
「えっ! どうして?」
良く見ると何時もよりも刃は太く長いのだが、どのような理屈なのだろうか。
「見えた? 左右のビームソードを合わせて出力を上げたんだ」
先輩は指を組んで腕を振り上げて落としてみせる。
まさかこのような戦い方が出来るとは……。
「あれだけじゃ無いよ。 黒い翼は前回破損したパーツを切り離して囮にして戦ったりしていたんだ」
「ダミー?」
「飛んで来るパーツに敵が気をとられた隙に攻撃するんだ。 上手いよね」
「……」
「他の翼に比べて旧式だし力が弱っているのかもしれないけど、戦術でカバーして戦えるのは熟練の戦士が成せる技だね」
「でも、このままじゃ……」
「確かにこの世界じゃ修理は出来ない……そうだよ! あれが他の国の兵器だなんてバカげた事を言うヤツもいるけど、どうあがいたってこの世界じゃあんなものは創れないんだ!」
いきなり解説がヒートアップしたので少し驚く。
「あれはこの世界では無い別の世界にあるオーバーテクノロジーで創られたモノでーー」
「ザバァァァァ」
川の水が盛り上がり、しぶきが辺りに飛び散る。
何事かと思い見ていると水のレースが流れ落ちた時、その正体が顕になる。
「何あれ! 蜘蛛!?」
「その様だね。 もう終わりだと思っていたのに、まだあんな敵がいたなんて……」
新手の出現の為か急にトーンダウンしている。
「あれらも本来なら別の世界のモノの筈なのにどうしてこの世界を襲うんだろう? この世界で戦う理由は一体何なんだ……?」
そんな先輩の疑問を他所に、巨大な蜘蛛は川から上陸してくる。
黒と紫のまだら模様が毒々しく感じるのだが、形状が蜘蛛な事もありより一層の嫌悪感を醸し出している。
「あの蜘蛛って、ああいう種類いますよね。 何でしたっけ?」
「形は女郎蜘蛛に似てるけど、これ迄出現してきた敵は色んな生物を参照にしているね。 何か法則みたいなのがあるのかな?」
巨大蜘蛛に関してあれこれ話してしまうが、距離がある内にまた隠れた方が良いかもしれない。
それともどんな攻撃が来るか分からないので、逃げるべきか。
喋りながら悩んでいると巨大蜘蛛に動きがある。
「ボッ、ボッ、ボッ」という音が連続して響くが、蜘蛛の腹部上面から何かが飛び出して来るのが見える。
最も蜘蛛の体高は五メートル以上はある為何が飛び出してきたか判然としないが、打ち上げ花火のように真上に飛んでいった事も視認しづらい要因になっている。
「!まずい、振って来るから隠れるんだ」
先輩に手を引かれて遊具の中に押し込められるのだか、二人とも中に入った瞬間打ち上げられた何かが雨のように地面に降り注ぐ。
「ぼたぼた」といった感じで振ってきたのだがそれも一瞬で、止んだのを確認して外に出ると奇妙な物体で辺り一面真っ白になっている。
「うわわっ、何だこれ?」
先輩はうっかり踏んでしまったようだが、白い物体は靴にネットリとついて離れない為脱がないと脱出出来ないかもしれない。
そして、雨のように無数に降り注いだこの鳥もちのようなものに三つの翼は囚われ、地面に張り付けられててしまっている。
「ああっ、まさかこんな攻撃を仕掛けてくるなんて」
(どうしよう! ひいばあ、世良さん、真紅の戦鳥の人も……)
流石に避けきれなかったのだろう。 大翼は時間を掛ければ鳥もちから逃れられそうだが、死の翼は出力が弱まっている上に手や足にべっとりとくっついている為、切り裂く事も難しそうだ。
真紅の翼はというと蜘蛛に一番近い位置に居るにも関わらず、特に鳥もちを振り払うでも無く囚われたまま佇んでいるのだが、やがて蜘蛛は囚われた獲物に近づき無数の牙の生えたおどろおどろしい口を「グパァ」と開ける。
「大変! このままじゃ食べられちゃいますよ」
「どうした? なんで動かないんだ」
蜘蛛が真紅の翼に食い掛り牙が触れようとしたその瞬間、翼から激しい炎が吹き上がる。
「ピィィィィィ!」
蜘蛛はその体躯と容姿に似つかわしくない鳴き声で身を仰け反らせるが、口は高温で焼かれてしまい爛れきっている。
悶える蜘蛛を他所に真紅の翼は炎を纏いながら再び空へと舞い上がり、剣を頭上高くに掲げる。 炎は剣を伝い徐々に巨大な火の鳥を形成していきそしてーーー
剣が振り下ろされると火の鳥は翼をはためかせながら一直線に蜘蛛へと向かい体当たりする。
「ビィィィィィィッ!」
断末魔を上げながら、炎に焼かれた蜘蛛は瞬く間に炭になっていく。
今度こそ本当に戦いは終わった。 真紅の翼は辺りの鳥もちを焼き払い、大翼と死の翼に張り付いた分も上手く炎を加減して取り除く。
暫し三つの翼は佇むがやがて死の翼を先頭に飛び立っていく。 向かう先は我が家で間違いない。
「私達も帰りましょう。 またお巡りさんに見つかったりしたら面倒ですから」
「うん、そうだね。 しかし、あの紅い翼はあんな大技まで持っているなんて本当に凄いな……」
未だに真紅の翼の戦闘力に感心しているが無理もない。 今回の勝利はあの翼の活躍による所が大きいのだが、一体どのような人物が戦鳥を纏っているのだろうか。
「それじゃ、失礼します」
「えっ? あっ、あのさ」
「なんですか? まだ何か」
「あの……キミ可愛いと思うよ」
「はい!?」
「だっ、だからさ、もっと自信持っていいと思う。 それじゃ!」
顔を赤くして先輩は踵を返し脱兎の如く……とは言い難い速さで走って去っていく。 だが、しかし。
「あっ、こけた」
この前挫いた足だって完治していないかもしれないのに急に走り出すからだと思ってしまうが、先ほど言われた言葉を何時までも頭の中で反芻してしまい、他の事が余り考えられなくなってしまう。
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