上 下
31 / 202

22. 戦神の如く

しおりを挟む
 『理音、四時の方向』

 ワンパターンに後方から襲撃する棒人間を、光の刃で貫く。
 こちらでは人形と呼んでいるようだが、元はと言えばこれらは人間なのだ。

 『続いて、十時と一時の方向』

 「ええ、分かっているわ」

 戦鳥のサポートが無くとも、この程度ならば問題無い。
 すれ違い様に抜き胴で切り裂くと、あっさりと地に落ちていく。

 『見事だ』

 だが、左手の刃の出力が安定していない。

 『済まない、理音』

 「謝らないで、放っていたのは私の責任よ」

 王都防衛戦で激しく傷付いた翼を癒す事もままならず、異世界に逃れ付いた。
 そのまま七十年以上の歳月が流れ、死の翼を纏って戦った事は遠い日の記憶となり今に至る。
 そう……再び戦鳥の力を使う日が来るとは夢にも思わなった。

 『理音、撃って来る回避を』

 「ええ」

 (今は戦いに集中しなければ)

 敵の戦法が変わり、囲いを止めて遠距離攻撃で攻めて来る。

 『こちらが光の矢を使わない事に気付かれたか』

 「仕方が無いわ。 遅かれ早かれこうなっていた。 いざとなったら使うわよ」

 長い歳月を経て戦鳥の傷は癒えたように見えた。
 だが、実際には経年による劣化で傷の再生が滞っている部分があり、特に砲身のダメージが深刻だった。
 一度に使用出来る回数は限られているが、このような騙し騙しの戦い方がいつまでも通用する程厄災は甘くない。

 (でも、今はやるしかない)

 「光の矢を使う!」

 『了解した!』

 肩部けんぶ腰部ようぶ、の砲身を使用し光の矢を放とうとした瞬間、対象は次々に爆散する。

 爆炎の中に存在するのは世良の纏う白き戦鳥、破邪の大翼だ。

 「大丈夫ですか? 理音さん」

 「ええ、ありがとう」

 (世良は二十体以上の敵を相手していた筈。 五分も掛からずに殲滅したというの?)

 世良の援護もつかの間。
 地上からは玉虫の攻撃が開始される。

 「数が多い、捌くのに時間が掛かるわね」

 『消耗戦はこちらにとって不利だが、やつらは私達が満足に戦えない事を、理解しつつあるのかも知れない』

 そんな心配事を他所に、白き翼は地面に向かって急降下する。

 「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 垂直に降り立った白き翼は地面にこぶしを突き立てる。
 衝撃波によって玉虫は吹き飛ばされ、宙を舞った後地面や壁に叩き付けられる。
 余波によって車のフロントガラスや、ビルの窓にヒビが入るがこれ位はご愛嬌だろう。

 『すさまじい力だ』

 「ええ、本当に凄いわね」

 破邪の大翼はこれまで、光の矢も刃も使用していない。
 あくまでも徒手空拳で厄災と戦っているが、たとえ死の翼が本調子であったとしても、あのような戦い方は到底出来ないだろう。
 全ての性能の面で完全に私の翼を上回っているのは五百年の間に戦鳥の性能も進化しているという事なのだろうか。

 疑問を他所に、新たな敵が出現する。

 『理音アンノウンだ』

 「あれは?」

 コウモリのような翼に昆虫の複眼と鉤爪を持つ奇怪な飛行物体だが、あれも厄災の一種だろう。
 翼の付け根のわずかな突起から、光を放ち攻撃してくるが、大した威力が無いように感じる。
 撃ち落とすまでも無く、接近して刃で切り裂けば問題無いと思うのだが、他にどのような攻撃を仕掛けてくるのか未知数なので、ここは敵の出方を伺う。
 大翼の方にも数体が飛んでいくが、先程の攻撃ではあの猛攻を止める事は出来ない。
 こちらの周囲を囲むように飛行しているとやがて仕掛けて来るが、何と鉤爪を飛ばして来た。
 予想外の攻撃に反応が遅れ鉤爪に腕を挟まれてしまうが、爪はワイヤーのような物で繋がっており「ビン」と腕を引っ張られてしまう。

 「くっ」

 ワイヤーをすかさず刃で切り裂くが、次々に爪を飛ばしてこちらを拘束しようとしてくるので刃で切り払う。
 大翼はというと迎撃する術が無い為、既に両腕を掴まれて空中に張り付けになっている。

 「世良、今行くわ」

 身動きが取れないであろう大翼に人形達が迫り来るので、いよいよ光の矢を使おうとしたその時、大翼は自らを拘束しているワイヤーをおもむろに掴むと、無造作に引っ張る。
 力負けしたコウモリもどきはバランスを失い、引っ張られるままに振り回されやがて人形達と激しく衝突する。
 皮肉にも大翼の獲物となって完全に破壊されるまで振り回され、人形達の殲滅に貢献するが、やはりこのような戦い方が出来るとは戦鳥の性能もさる事ながら、世良の身体能力の高さも相まっての事だろう。

 (私も戦鳥を使えるようになる為に訓練はしたが、世良のそれは次元が違うようにも思う。 一体どのような訓練をすればこのように出来るのか……)

 これで戦いは終わりかと思ったが、地上に新たな敵が出現する。
 先の戦いで出現した一つ目よりも二周りも大きい三つの目を持つ怪物だが、恐らくこれが最後の締めだろう。
 三つ目は出現と同時に攻撃を仕掛けて来る。
 一つ目の時のような肩からのミサイルの攻撃に加えて、手や足、胸や背中、ほぼ全身からミサイルを打ち出し全周囲に攻撃を繰り出す。
 今後こそは光の矢を使い、ミサイルを迎撃する。
 使用回数が限られている為、攻撃に使用したかったが、傷を癒すことがままにならない現状ではこれ以上ダメージを受ける訳にもいかない。
 攻撃は周囲を瓦礫の山に変えるが、あれ程の攻撃にも関わらず大翼は健在だ。
 どのようにやり過ごしたのか分からないが、接近戦が主体なのだから純粋に防御力に優れているのかもしれない。
 次は大翼の番だが、翼を大きく広げて構える。

 「はぁぁぁっ」

 突き出した足に徐々に光が集まっていくが、魔力ではなく闘気を足に集中させているのだろう。
 敵は第二射を準備しているが、十分に力を集中させたのであろう大翼が大きく跳躍し、三つ目に対して飛び蹴りを放つ。

 「せぇぇぇぇいっ!」

 凄まじい勢いもそのままに眩しく輝く蹴りは三つ目の胸を突き破り、大翼は貫通して地面に着地した。
 体に大きな風穴を開けられた三つ目はその場に倒れ、激しく爆発し炎上する。

 戦いは終わった。
 世良の、破邪の大翼の戦神の如き活躍で勝利を収めることが出来たが、その活躍とは裏腹に自らの翼の力が徐々に失われていく事も改めて認識せざる負えない、そんな戦いでもあった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

処理中です...