上 下
28 / 202

19. 守るべき世界

しおりを挟む
    世良さんの話は全て終わった。
    皆、紅茶に口をつけるが、その後は無言のままだ。
    ひいばあは多分言いたい事がある。
    だが、世良さんの話を聞いた今、それを中々切り出す事が出来ないでいる。
    このまま黙っているのも気まずいが、まさか私が変わりに話す訳にもいかない。
    どうしたものかと思っていると、この沈黙を破ったのは世良さんだった。

    「こちらに帰って来た時、私の戦いは終わったと改めて思ったわ。    でも、まさかこの世界にも厄災が現れるなんて……」

    「そうね。    何故、厄災がこちらにも現れたのか理由は分からないわ。    でも、この世界を守る為には戦わなければならない」

    ひいばあはそう言うと少し視線を落としたが、直ぐに戻して言葉を紡ぐ。

    「お願い世良、私と一緒に戦って。    厄災は徐々に力を増している。    私一人では限界があるの」

    世良さんは答えない。
    無言のままだが、その表情にあるのは迷いか、もしくは戸惑いだ。

 「世良……」

 「私にとって、この世界が守るべき価値があるのか今は計りかねます」

 「確かに、貴女は貴女の居た世界の為に戦ってきた。 同じようにこちらでも戦えというのは酷だと思う。 でも、私にとってこの世界は……この国は私の大切な人がかつて命を懸けて守ろうとした国なの」

 「私はあの人が守りたかった世界を……大切な家族を守りたい。 お願いどうかこの通り、私と一緒に戦って」

 ひいばあはそう言うと深々と頭を下げた。
 齢九十に手の届く老人が、自分の孫かひ孫ほど年の離れている少女に恥じも外聞も無くこのような事が出来るものなのだろうか。
 だが、それ程までに必死だという事なのだからこの気持ちを酌んで貰いたいと私も願った。
 世良さんは暫く目を瞑っていたが、やがて目を開き答えを出す。

 「分かりました。 私も貴女と共に戦います。 貴女が守りたいと願うもの、私も守りたいと思います」

 世良さんの答えにひいばあの表情は「ぱっ」となり直ぐに笑顔になる。

 「世良……ありがとう。 これから宜しくお願いするわね」

 「いえ、私の方こそ宜しくお願いします」

 良かった、世良さんはひいばあと共に戦ってくれる。
 もう孤独ではない、心強い味方が出来た事は私にとっても何よりうれしい事だ。
 近日中にまた会う約束をし、今日の所はこれで帰る。
 家路につく私の足取りは軽やかだ。

 「良かったねひいばあ。 仲間が出来て」

 一方でひいばあの足取りはやや重い。

 「ええ、そうね」

 共に戦う仲間が出来た。
 だが、あちらでの戦いを終えた世良さんを再び戦場に駆り出すようになってしまった事を気にしているようだ。
 出来れば世良さんの事をそっとしておいてあげたいというひいばあの気持ちも分かるが、状況は予断を許さない。
 厄災は出現する度に強力になっている。
 世良さんの力は必要不可欠だとして、もう一つ気になることがある。

 (ひいばの戦鳥は大丈夫なのかな?)

 恐らく聞いても大丈夫としか答えないだろう。
 そして私はその言葉を信じるしかない。
 何も力になれることなど無いのだから。


 部屋に戻るとベットに寝転がり、これまでの世良さんの話をおさらいしてみる。
 世良さんは三歳の時にひいばあのいた世界の五百年後に転移し、旅をしていたアスレアという人物に保護された。
 アスレアという人は、ひいばあの弟の子孫で滅びたラウの国の王族の末裔、旅の目的は王国の復活と当時圧政で人々を苦しめていた帝国を倒す事。
 十二年の歳月に渡る戦いの末に厄災の力を要する帝国を倒した。
 世良さんの戦鳥の力もその過程で授かったもので帝国の打倒に大いに貢献し、アスレアさんが王に即位したのを見届けて自分のあるべき世界に戻って来た。
 そう、戻ってきた。
 ここで私は引っかかる事がある。
 帝国を倒す為に王となる人物と共に戦った少女は、最後に王様と結ばれるのではないのだろうか。
 もちろん世良さんがアスレアさんの事をどう思っているか確認したわけでは無いが、異世界で助けてくれた男性と共に彼の目的を叶える為に戦ったのだから、何の情も無かったとは思いがたい。
 年の差もあったかもしれないが、話からして親子程離れているよう感じでは無いようだった。
 ただ、世良さんには帰りを待つ家族がいた事を考えると、帰還するのが筋ではあるしアスレアさんと家族を秤にかけるような事もあったのだろうか。

 (世良さんは、アスレアさんの事をどう思っていたのかな?)

 聞いてみたいと思いつつ、聞くのが怖いとも同時に思う。
 好奇心と恐怖心の間で私はずっと揺れていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...