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19. 守るべき世界
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世良さんの話は全て終わった。
皆、紅茶に口をつけるが、その後は無言のままだ。
ひいばあは多分言いたい事がある。
だが、世良さんの話を聞いた今、それを中々切り出す事が出来ないでいる。
このまま黙っているのも気まずいが、まさか私が変わりに話す訳にもいかない。
どうしたものかと思っていると、この沈黙を破ったのは世良さんだった。
「こちらに帰って来た時、私の戦いは終わったと改めて思ったわ。 でも、まさかこの世界にも厄災が現れるなんて……」
「そうね。 何故、厄災がこちらにも現れたのか理由は分からないわ。 でも、この世界を守る為には戦わなければならない」
ひいばあはそう言うと少し視線を落としたが、直ぐに戻して言葉を紡ぐ。
「お願い世良、私と一緒に戦って。 厄災は徐々に力を増している。 私一人では限界があるの」
世良さんは答えない。
無言のままだが、その表情にあるのは迷いか、もしくは戸惑いだ。
「世良……」
「私にとって、この世界が守るべき価値があるのか今は計りかねます」
「確かに、貴女は貴女の居た世界の為に戦ってきた。 同じようにこちらでも戦えというのは酷だと思う。 でも、私にとってこの世界は……この国は私の大切な人がかつて命を懸けて守ろうとした国なの」
「私はあの人が守りたかった世界を……大切な家族を守りたい。 お願いどうかこの通り、私と一緒に戦って」
ひいばあはそう言うと深々と頭を下げた。
齢九十に手の届く老人が、自分の孫かひ孫ほど年の離れている少女に恥じも外聞も無くこのような事が出来るものなのだろうか。
だが、それ程までに必死だという事なのだからこの気持ちを酌んで貰いたいと私も願った。
世良さんは暫く目を瞑っていたが、やがて目を開き答えを出す。
「分かりました。 私も貴女と共に戦います。 貴女が守りたいと願うもの、私も守りたいと思います」
世良さんの答えにひいばあの表情は「ぱっ」となり直ぐに笑顔になる。
「世良……ありがとう。 これから宜しくお願いするわね」
「いえ、私の方こそ宜しくお願いします」
良かった、世良さんはひいばあと共に戦ってくれる。
もう孤独ではない、心強い味方が出来た事は私にとっても何よりうれしい事だ。
近日中にまた会う約束をし、今日の所はこれで帰る。
家路につく私の足取りは軽やかだ。
「良かったねひいばあ。 仲間が出来て」
一方でひいばあの足取りはやや重い。
「ええ、そうね」
共に戦う仲間が出来た。
だが、あちらでの戦いを終えた世良さんを再び戦場に駆り出すようになってしまった事を気にしているようだ。
出来れば世良さんの事をそっとしておいてあげたいというひいばあの気持ちも分かるが、状況は予断を許さない。
厄災は出現する度に強力になっている。
世良さんの力は必要不可欠だとして、もう一つ気になることがある。
(ひいばの戦鳥は大丈夫なのかな?)
恐らく聞いても大丈夫としか答えないだろう。
そして私はその言葉を信じるしかない。
何も力になれることなど無いのだから。
部屋に戻るとベットに寝転がり、これまでの世良さんの話をおさらいしてみる。
世良さんは三歳の時にひいばあのいた世界の五百年後に転移し、旅をしていたアスレアという人物に保護された。
アスレアという人は、ひいばあの弟の子孫で滅びたラウの国の王族の末裔、旅の目的は王国の復活と当時圧政で人々を苦しめていた帝国を倒す事。
十二年の歳月に渡る戦いの末に厄災の力を要する帝国を倒した。
世良さんの戦鳥の力もその過程で授かったもので帝国の打倒に大いに貢献し、アスレアさんが王に即位したのを見届けて自分のあるべき世界に戻って来た。
そう、戻ってきた。
ここで私は引っかかる事がある。
帝国を倒す為に王となる人物と共に戦った少女は、最後に王様と結ばれるのではないのだろうか。
もちろん世良さんがアスレアさんの事をどう思っているか確認したわけでは無いが、異世界で助けてくれた男性と共に彼の目的を叶える為に戦ったのだから、何の情も無かったとは思いがたい。
年の差もあったかもしれないが、話からして親子程離れているよう感じでは無いようだった。
ただ、世良さんには帰りを待つ家族がいた事を考えると、帰還するのが筋ではあるしアスレアさんと家族を秤にかけるような事もあったのだろうか。
(世良さんは、アスレアさんの事をどう思っていたのかな?)
聞いてみたいと思いつつ、聞くのが怖いとも同時に思う。
好奇心と恐怖心の間で私はずっと揺れていた。
皆、紅茶に口をつけるが、その後は無言のままだ。
ひいばあは多分言いたい事がある。
だが、世良さんの話を聞いた今、それを中々切り出す事が出来ないでいる。
このまま黙っているのも気まずいが、まさか私が変わりに話す訳にもいかない。
どうしたものかと思っていると、この沈黙を破ったのは世良さんだった。
「こちらに帰って来た時、私の戦いは終わったと改めて思ったわ。 でも、まさかこの世界にも厄災が現れるなんて……」
「そうね。 何故、厄災がこちらにも現れたのか理由は分からないわ。 でも、この世界を守る為には戦わなければならない」
ひいばあはそう言うと少し視線を落としたが、直ぐに戻して言葉を紡ぐ。
「お願い世良、私と一緒に戦って。 厄災は徐々に力を増している。 私一人では限界があるの」
世良さんは答えない。
無言のままだが、その表情にあるのは迷いか、もしくは戸惑いだ。
「世良……」
「私にとって、この世界が守るべき価値があるのか今は計りかねます」
「確かに、貴女は貴女の居た世界の為に戦ってきた。 同じようにこちらでも戦えというのは酷だと思う。 でも、私にとってこの世界は……この国は私の大切な人がかつて命を懸けて守ろうとした国なの」
「私はあの人が守りたかった世界を……大切な家族を守りたい。 お願いどうかこの通り、私と一緒に戦って」
ひいばあはそう言うと深々と頭を下げた。
齢九十に手の届く老人が、自分の孫かひ孫ほど年の離れている少女に恥じも外聞も無くこのような事が出来るものなのだろうか。
だが、それ程までに必死だという事なのだからこの気持ちを酌んで貰いたいと私も願った。
世良さんは暫く目を瞑っていたが、やがて目を開き答えを出す。
「分かりました。 私も貴女と共に戦います。 貴女が守りたいと願うもの、私も守りたいと思います」
世良さんの答えにひいばあの表情は「ぱっ」となり直ぐに笑顔になる。
「世良……ありがとう。 これから宜しくお願いするわね」
「いえ、私の方こそ宜しくお願いします」
良かった、世良さんはひいばあと共に戦ってくれる。
もう孤独ではない、心強い味方が出来た事は私にとっても何よりうれしい事だ。
近日中にまた会う約束をし、今日の所はこれで帰る。
家路につく私の足取りは軽やかだ。
「良かったねひいばあ。 仲間が出来て」
一方でひいばあの足取りはやや重い。
「ええ、そうね」
共に戦う仲間が出来た。
だが、あちらでの戦いを終えた世良さんを再び戦場に駆り出すようになってしまった事を気にしているようだ。
出来れば世良さんの事をそっとしておいてあげたいというひいばあの気持ちも分かるが、状況は予断を許さない。
厄災は出現する度に強力になっている。
世良さんの力は必要不可欠だとして、もう一つ気になることがある。
(ひいばの戦鳥は大丈夫なのかな?)
恐らく聞いても大丈夫としか答えないだろう。
そして私はその言葉を信じるしかない。
何も力になれることなど無いのだから。
部屋に戻るとベットに寝転がり、これまでの世良さんの話をおさらいしてみる。
世良さんは三歳の時にひいばあのいた世界の五百年後に転移し、旅をしていたアスレアという人物に保護された。
アスレアという人は、ひいばあの弟の子孫で滅びたラウの国の王族の末裔、旅の目的は王国の復活と当時圧政で人々を苦しめていた帝国を倒す事。
十二年の歳月に渡る戦いの末に厄災の力を要する帝国を倒した。
世良さんの戦鳥の力もその過程で授かったもので帝国の打倒に大いに貢献し、アスレアさんが王に即位したのを見届けて自分のあるべき世界に戻って来た。
そう、戻ってきた。
ここで私は引っかかる事がある。
帝国を倒す為に王となる人物と共に戦った少女は、最後に王様と結ばれるのではないのだろうか。
もちろん世良さんがアスレアさんの事をどう思っているか確認したわけでは無いが、異世界で助けてくれた男性と共に彼の目的を叶える為に戦ったのだから、何の情も無かったとは思いがたい。
年の差もあったかもしれないが、話からして親子程離れているよう感じでは無いようだった。
ただ、世良さんには帰りを待つ家族がいた事を考えると、帰還するのが筋ではあるしアスレアさんと家族を秤にかけるような事もあったのだろうか。
(世良さんは、アスレアさんの事をどう思っていたのかな?)
聞いてみたいと思いつつ、聞くのが怖いとも同時に思う。
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