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11. 翼の胎動
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球体に体を乗っ取られて人形に成り果てた人は、果たしてどれ程の人数になるのか想像もつかない。
ニュースでも取り上げられており、絶対に不審物を持ち帰らぬよう注意を促している。
明日の学校の話題はこれで決まりだ。
因みにひいばあは球体の危険性を知ってはいたが、他人に言える訳も無い。
近づかなければ問題ないのだが、まさか持ち帰る者がいるとは思いもよらなかったと言っていた。
ネット上でも、被害者となった人達は非難の的で心無い言葉を浴びている。
自業自得といえばそれまでだが、彼らはいつかひいばあの前に敵となって立ちはだかり、排除されるのだ。
そしてそれは、死を意味する。
「ただいま」
母がパートから帰って来た。
「お帰り、お母さん」
「あら、羽音帰っていたのね。 おばあちゃんはいる? 大丈夫だったかしら」
「おかえりなさい結衣さん。 この通り、大丈夫よ」
ひいばあは怪我ひとつ無いことを手振りでアピールする。
「そうでしたか、良かった……。 今、夕飯の支度をしますね」
「いえ、結衣さんは少し休んでいて、私が用意するから」
ひいばあはいつの間にか割烹着に着替えている。
「私も何かお手伝いしようか?」
「羽音、貴女は勉強よ。 テストが近いのでしょう?」
もうすぐ中間だが、なぜひいばあは知っているのだろうか。
二階に上がる前にトイレを済ませ、廊下を少し戻るとリビングから二人の話声が聞こえて来る。
一体何を話しているのか気になるが、今は言われた通り勉強する為に二階に上がる。
「結衣さん、一応羽音には言っておいたけど、私の後を付いて来ないように貴女からも良く言って聞かせて頂戴」
「はい、すいません。 おばあちゃんに迷惑を掛けないように伝えます」
「でも、あの子もおばあちゃんの事が心配なんだと思います。 私もせめて一緒に戦ってくれる仲間のような人が居てくれればと思うんです」
「仲間……」
その言葉に、思わず包丁の手が止まる。
そう、私以外にも戦鳥の力を持つ者がいればむざむざ国を滅ぼされる事はなかったと今でも思う。
何故そう思うのか。
黒き死の翼は王家に伝わるものだが、ラウの国を始めとして戦鳥の力を示す痕跡は世界の各地に遺されていたからだ。
ある所では壁画に、またある所では偶像として、民話や伝承も数多く存在する。
だが、他の国では戦鳥は伝説上の存在となりその力を行使していたのはラウの国だけだった。
「おばあちゃん?」
「え? ああ、ごめんなさい手が止まってしまったわね」
効率良く作る為に、二人で手分けしているのにこれでは邪魔してしまっている。
家は只でさえ人数が多いのだ。
食べ盛りの子もいるからもたもたしてはいられない。
「私、鳥の夢を見たことがあるんです」
「え?」
「羽が舞っていて、舞い落ちてくる羽を手で受けると、とても澄んだ音がするんです。 そして、羽の持ち主……鳥が現れて私のお腹に吸い込まれるように消えていったんです」
「……」
「それから少しして、羽音を身籠っている事がわかりました」
「……変わった夢ね」
「ええ、不思議な夢でした。 すいません、とりとめの無い話しをしてしまって」
「いえ、良いのよ。 さぁ、皆帰ってくるから急ぎましょう」
(あーっ、進まないなぁ)
私は机に座って教科書、ノートを広げ鉛筆を持ってはいるが、頬杖をついてぼーっとしている。
今一集中出来ないのは、ひいばあとお母さんが何を話しているかが気になるからというのもあるのだが、これからもひいばあは一人孤独に戦い続けるのかという事だ。
厄災はその気になれば人を拐って仲間を増やす事が出来るのでは無いだろうか。
かつても戦力差で敗れたのだから、いずれ同じように敗北する日が来る。
そしてその時はひいばあの命も……。
だが、ひいばあはこうも言っていた。
恐らく厄災は、自分が元居た世界から戦力を送り込んでいるのだと。
そして厄災といえども、世界の垣根を越えて戦力を送り込む事は容易では無いはず。
だから、襲撃は散逸的で小規模だと。
人形や球体が増える分にはものの数では無いとも言っていたが、果たして本当に大丈夫なのか。
(戦鳥だって、もし壊れても修理とか出来ない筈のになぁ)
いつまでもうだうだ考えていても仕方がない。
教科書に向き合うが、重要な事を忘れていたのを思い出した。
(あっ、そうだ。 友達から借りた本早く読まなきゃ)
その日の夢はいつもと違っていた。
鳥は一羽だけじゃない。
いくつもの鳥が飛んでいる。
(え? 何? いつもと違う)
鳥達はやがて羽ばたきを止め降下するが、その先には複数の人の姿が見える。
(あれは……誰?)
人の姿は見えるが夢故か、輪郭はぼやけてはっきりと分からない。
だが、鳥は淡く揺らめく人物に覆い被さる。
そう、それはまるでーー
(あれは、戦鳥! あの黒いのは黒き死の翼!)
だが、翼はそれだけでは無い。
(白い翼! それに紅い翼! 蒼い翼と碧の翼!)
そして、最後に残った翼は自身めがけて舞い降りる。
(翼は一つだけじゃない。 そして私も?)
翼と一つになった瞬間、目が覚めて飛び起きる。
目覚ましを見るとその針は、まだ起きる時間には程遠い真夜中の時刻を指している。
全身汗だくで、パジャマも濡れている。
着替えねばと思うが、先ほど見た夢をどうしても反芻してしまう。
(戦鳥はまだ他にもいる……。 そして私も戦鳥を?)
ニュースでも取り上げられており、絶対に不審物を持ち帰らぬよう注意を促している。
明日の学校の話題はこれで決まりだ。
因みにひいばあは球体の危険性を知ってはいたが、他人に言える訳も無い。
近づかなければ問題ないのだが、まさか持ち帰る者がいるとは思いもよらなかったと言っていた。
ネット上でも、被害者となった人達は非難の的で心無い言葉を浴びている。
自業自得といえばそれまでだが、彼らはいつかひいばあの前に敵となって立ちはだかり、排除されるのだ。
そしてそれは、死を意味する。
「ただいま」
母がパートから帰って来た。
「お帰り、お母さん」
「あら、羽音帰っていたのね。 おばあちゃんはいる? 大丈夫だったかしら」
「おかえりなさい結衣さん。 この通り、大丈夫よ」
ひいばあは怪我ひとつ無いことを手振りでアピールする。
「そうでしたか、良かった……。 今、夕飯の支度をしますね」
「いえ、結衣さんは少し休んでいて、私が用意するから」
ひいばあはいつの間にか割烹着に着替えている。
「私も何かお手伝いしようか?」
「羽音、貴女は勉強よ。 テストが近いのでしょう?」
もうすぐ中間だが、なぜひいばあは知っているのだろうか。
二階に上がる前にトイレを済ませ、廊下を少し戻るとリビングから二人の話声が聞こえて来る。
一体何を話しているのか気になるが、今は言われた通り勉強する為に二階に上がる。
「結衣さん、一応羽音には言っておいたけど、私の後を付いて来ないように貴女からも良く言って聞かせて頂戴」
「はい、すいません。 おばあちゃんに迷惑を掛けないように伝えます」
「でも、あの子もおばあちゃんの事が心配なんだと思います。 私もせめて一緒に戦ってくれる仲間のような人が居てくれればと思うんです」
「仲間……」
その言葉に、思わず包丁の手が止まる。
そう、私以外にも戦鳥の力を持つ者がいればむざむざ国を滅ぼされる事はなかったと今でも思う。
何故そう思うのか。
黒き死の翼は王家に伝わるものだが、ラウの国を始めとして戦鳥の力を示す痕跡は世界の各地に遺されていたからだ。
ある所では壁画に、またある所では偶像として、民話や伝承も数多く存在する。
だが、他の国では戦鳥は伝説上の存在となりその力を行使していたのはラウの国だけだった。
「おばあちゃん?」
「え? ああ、ごめんなさい手が止まってしまったわね」
効率良く作る為に、二人で手分けしているのにこれでは邪魔してしまっている。
家は只でさえ人数が多いのだ。
食べ盛りの子もいるからもたもたしてはいられない。
「私、鳥の夢を見たことがあるんです」
「え?」
「羽が舞っていて、舞い落ちてくる羽を手で受けると、とても澄んだ音がするんです。 そして、羽の持ち主……鳥が現れて私のお腹に吸い込まれるように消えていったんです」
「……」
「それから少しして、羽音を身籠っている事がわかりました」
「……変わった夢ね」
「ええ、不思議な夢でした。 すいません、とりとめの無い話しをしてしまって」
「いえ、良いのよ。 さぁ、皆帰ってくるから急ぎましょう」
(あーっ、進まないなぁ)
私は机に座って教科書、ノートを広げ鉛筆を持ってはいるが、頬杖をついてぼーっとしている。
今一集中出来ないのは、ひいばあとお母さんが何を話しているかが気になるからというのもあるのだが、これからもひいばあは一人孤独に戦い続けるのかという事だ。
厄災はその気になれば人を拐って仲間を増やす事が出来るのでは無いだろうか。
かつても戦力差で敗れたのだから、いずれ同じように敗北する日が来る。
そしてその時はひいばあの命も……。
だが、ひいばあはこうも言っていた。
恐らく厄災は、自分が元居た世界から戦力を送り込んでいるのだと。
そして厄災といえども、世界の垣根を越えて戦力を送り込む事は容易では無いはず。
だから、襲撃は散逸的で小規模だと。
人形や球体が増える分にはものの数では無いとも言っていたが、果たして本当に大丈夫なのか。
(戦鳥だって、もし壊れても修理とか出来ない筈のになぁ)
いつまでもうだうだ考えていても仕方がない。
教科書に向き合うが、重要な事を忘れていたのを思い出した。
(あっ、そうだ。 友達から借りた本早く読まなきゃ)
その日の夢はいつもと違っていた。
鳥は一羽だけじゃない。
いくつもの鳥が飛んでいる。
(え? 何? いつもと違う)
鳥達はやがて羽ばたきを止め降下するが、その先には複数の人の姿が見える。
(あれは……誰?)
人の姿は見えるが夢故か、輪郭はぼやけてはっきりと分からない。
だが、鳥は淡く揺らめく人物に覆い被さる。
そう、それはまるでーー
(あれは、戦鳥! あの黒いのは黒き死の翼!)
だが、翼はそれだけでは無い。
(白い翼! それに紅い翼! 蒼い翼と碧の翼!)
そして、最後に残った翼は自身めがけて舞い降りる。
(翼は一つだけじゃない。 そして私も?)
翼と一つになった瞬間、目が覚めて飛び起きる。
目覚ましを見るとその針は、まだ起きる時間には程遠い真夜中の時刻を指している。
全身汗だくで、パジャマも濡れている。
着替えねばと思うが、先ほど見た夢をどうしても反芻してしまう。
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