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大抵の場合、ゴブリン達は不遇な件について
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「頃合いだな、あの混戦では迎撃できまい。先に街を潰して戦意喪失させる、グリフォンどもを出せ!!」
「承知致しました、戦士長」
「仰せの通りに……」
後方にて指揮を執る巨大化した状態の獣人ライオネルに従い、やはり大型種の異形と見間違うまでの体躯になっている戦闘形態の眷族二匹が散開して、小型種の異形 “鷲頭の獅子” に翼が生えて大きくなった上位互換の魔獣を数十匹ほど嗾ける。
中型以上の異形種では非常に希少な飛翔能力を持つため、巨大騎士の魔法で撃ち落とされないよう温存していた “鷲獅子” の群れは大きな翼を羽搏かせ、自ら巻き起こした魔法由来の上昇気流に乗って、次々と離陸を済ませていく。
その前肢には左右一匹ずつの小鬼が取り付いており、眼下で荒々しい雄叫びを上げ、人族の騎体と殴り合う牛頭巨人の雄姿を物憂げな表情で眺めていた。
「この高さで落ちたら、確実に死ぬな」
「ははッ、上手くいっても敵のど真ん中だぞ」
いつとも知れぬ時代、偽神の御業で生み出された僅かばかりの知性がある小柄な異形、俗に言うゴブリンの扱いは捨て駒なので、殆どの戦場に於いて死地へ送られてしまう悲しい現実がある。
されども攻められている側から見れば、“飛兵の類” は危険極まりない存在に過ぎず、獣人族が率いる小型種で構成された師団規模の攻城隊を凌ぐため、城塞の歩廊より地上へ射撃を敢行していたジグラント領軍の “矛先” が切り替わった。
「優先的に鷲獅子を狙い撃ちます!!」
「全班、共鳴魔法の準備を始めてください」
「正念場だぞ、一匹足りとて市街地に行かせるなッ」
「此処を抜かれる訳にはいかん、鬱陶しい積荷ごと撃ち落とせ!」
例え寡兵であっても、自由気侭に飛び回られて要所への接近を許した場合、大事を招くと判断した部隊長らの叫びに呼応して、麾下の銃兵隊は斜め上空に大量の弾丸を撃ち込んだが……
重力及び空気抵抗で命中精度と威力を削がれ、約320m前後の高度を維持しているグリフォンの厚い羽毛や、掴まっている小鬼達が革鎧の下へ着込んだ鎖帷子に阻まれて致命傷には成り得ない。
それもあって少しの油断が生まれた瞬間、遅れて飛んできた対中型種用の魔法による大火球が数匹の鷲獅子を捉え、情け容赦なく撃ち落とす。
「「グォオオッ!?」」
「「くそがぁああぁ――ッ!!」」
自種族に理不尽な運命しか与えない、“高天に座す造物主” に向けて力の限り罵声を響かせた哀れな者達の末路など想像に難くないが、手際よく標的を仕留めた魔術師兵らの表情は強張っており、悠々と城壁を越えていく翼持つ異形の群れに視線を奪われていた。
「す、すぐに第二射を!」
「射角は水平以上を保てッ、徒に街の被害を増やすなよ!!」
未だ懸命に撃墜を試みる将兵らに構わず、非直線的な機動で射手の狙いを外して個々に離散した鷲獅子が咆え、多方面より物資の集積地となっていた城塞の貯蔵区画へ急降下を仕掛ける。
然ほど掛からずに地上約3mの高さまで至れば、よく訓練された空挺兵仕様の小鬼達が飛び降り、足先の接地に合わせて身体を丸めて、脛の外側、臀部、背中、肩の順に転がりつつも落下の衝撃を受け流した。
そのまま一回転して膝立ちとなった彼らはギョロリとした眼球を左右に走らせ、近場の同胞と合流するのを優先しながらも抜剣して、外縁部の戦力を重視した事で手薄になっている壁内の守備部隊と切り結ぶ。
「ぐッ、こいつら兵站を… ッ、うぁ!?」
「死に晒せや、猿人!!」
浮足立っていた若い軽装歩兵の喉元を鉈剣で裂き、赫い返り血を浴びた精悍な一匹に触発され、勢いづいた数匹も連続した剣戟にて交戦相手を押し込んでいった。
区画内の随所で似たような光景が展開された末、損耗を避ける思惑で鷲獅子達が早々に呼び戻された事や、奇襲効果の低減など相まって形勢は人族側に傾き始めるも… 混乱に紛れて警戒網を潜り抜けた本命の小鬼らが手分けして保管庫へ忍び寄り、小型の破砕槌で錠前を壊して内部に踏み入ってしまう。
場の流れで班の一つを纏める事になった古参のゴブリンは嗅覚だけに頼らず、所狭しと並んだ麻袋にナイフを差し入れて小麦が零れたのも視認すると、マツ科植物の脂より蒸留精製した引火点の低いテレピン油を大きめの革水筒から豪快にぶちまける。
少々荒ぶっていた故か、前腕などにも可燃性の液体が振り掛かったので、代わりに同胞達が燧石と打ち金で火を付ければ、紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がった。
「よし、最低限の義理は果たした!」
「疾く、ずらかるとしよう」
「ほとぼりが冷めるまで、どっかに隠れないとな……」
重い溜息を吐きながらも、ひと仕事終えた彼らは冷静かつ慎重に退路を確保して、逃げ遅れた人々が屋内で息を潜める市街地へ避難する。
やがて複数ヶ所で立ち昇った火柱と黒煙により、眼前の小鬼勢を撃退して歓喜に沸いていた守備部隊の面々は冷水を浴びせられ、心身ともに疲弊した状態で取り急ぎの消火活動を強いられる事になった。
「承知致しました、戦士長」
「仰せの通りに……」
後方にて指揮を執る巨大化した状態の獣人ライオネルに従い、やはり大型種の異形と見間違うまでの体躯になっている戦闘形態の眷族二匹が散開して、小型種の異形 “鷲頭の獅子” に翼が生えて大きくなった上位互換の魔獣を数十匹ほど嗾ける。
中型以上の異形種では非常に希少な飛翔能力を持つため、巨大騎士の魔法で撃ち落とされないよう温存していた “鷲獅子” の群れは大きな翼を羽搏かせ、自ら巻き起こした魔法由来の上昇気流に乗って、次々と離陸を済ませていく。
その前肢には左右一匹ずつの小鬼が取り付いており、眼下で荒々しい雄叫びを上げ、人族の騎体と殴り合う牛頭巨人の雄姿を物憂げな表情で眺めていた。
「この高さで落ちたら、確実に死ぬな」
「ははッ、上手くいっても敵のど真ん中だぞ」
いつとも知れぬ時代、偽神の御業で生み出された僅かばかりの知性がある小柄な異形、俗に言うゴブリンの扱いは捨て駒なので、殆どの戦場に於いて死地へ送られてしまう悲しい現実がある。
されども攻められている側から見れば、“飛兵の類” は危険極まりない存在に過ぎず、獣人族が率いる小型種で構成された師団規模の攻城隊を凌ぐため、城塞の歩廊より地上へ射撃を敢行していたジグラント領軍の “矛先” が切り替わった。
「優先的に鷲獅子を狙い撃ちます!!」
「全班、共鳴魔法の準備を始めてください」
「正念場だぞ、一匹足りとて市街地に行かせるなッ」
「此処を抜かれる訳にはいかん、鬱陶しい積荷ごと撃ち落とせ!」
例え寡兵であっても、自由気侭に飛び回られて要所への接近を許した場合、大事を招くと判断した部隊長らの叫びに呼応して、麾下の銃兵隊は斜め上空に大量の弾丸を撃ち込んだが……
重力及び空気抵抗で命中精度と威力を削がれ、約320m前後の高度を維持しているグリフォンの厚い羽毛や、掴まっている小鬼達が革鎧の下へ着込んだ鎖帷子に阻まれて致命傷には成り得ない。
それもあって少しの油断が生まれた瞬間、遅れて飛んできた対中型種用の魔法による大火球が数匹の鷲獅子を捉え、情け容赦なく撃ち落とす。
「「グォオオッ!?」」
「「くそがぁああぁ――ッ!!」」
自種族に理不尽な運命しか与えない、“高天に座す造物主” に向けて力の限り罵声を響かせた哀れな者達の末路など想像に難くないが、手際よく標的を仕留めた魔術師兵らの表情は強張っており、悠々と城壁を越えていく翼持つ異形の群れに視線を奪われていた。
「す、すぐに第二射を!」
「射角は水平以上を保てッ、徒に街の被害を増やすなよ!!」
未だ懸命に撃墜を試みる将兵らに構わず、非直線的な機動で射手の狙いを外して個々に離散した鷲獅子が咆え、多方面より物資の集積地となっていた城塞の貯蔵区画へ急降下を仕掛ける。
然ほど掛からずに地上約3mの高さまで至れば、よく訓練された空挺兵仕様の小鬼達が飛び降り、足先の接地に合わせて身体を丸めて、脛の外側、臀部、背中、肩の順に転がりつつも落下の衝撃を受け流した。
そのまま一回転して膝立ちとなった彼らはギョロリとした眼球を左右に走らせ、近場の同胞と合流するのを優先しながらも抜剣して、外縁部の戦力を重視した事で手薄になっている壁内の守備部隊と切り結ぶ。
「ぐッ、こいつら兵站を… ッ、うぁ!?」
「死に晒せや、猿人!!」
浮足立っていた若い軽装歩兵の喉元を鉈剣で裂き、赫い返り血を浴びた精悍な一匹に触発され、勢いづいた数匹も連続した剣戟にて交戦相手を押し込んでいった。
区画内の随所で似たような光景が展開された末、損耗を避ける思惑で鷲獅子達が早々に呼び戻された事や、奇襲効果の低減など相まって形勢は人族側に傾き始めるも… 混乱に紛れて警戒網を潜り抜けた本命の小鬼らが手分けして保管庫へ忍び寄り、小型の破砕槌で錠前を壊して内部に踏み入ってしまう。
場の流れで班の一つを纏める事になった古参のゴブリンは嗅覚だけに頼らず、所狭しと並んだ麻袋にナイフを差し入れて小麦が零れたのも視認すると、マツ科植物の脂より蒸留精製した引火点の低いテレピン油を大きめの革水筒から豪快にぶちまける。
少々荒ぶっていた故か、前腕などにも可燃性の液体が振り掛かったので、代わりに同胞達が燧石と打ち金で火を付ければ、紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がった。
「よし、最低限の義理は果たした!」
「疾く、ずらかるとしよう」
「ほとぼりが冷めるまで、どっかに隠れないとな……」
重い溜息を吐きながらも、ひと仕事終えた彼らは冷静かつ慎重に退路を確保して、逃げ遅れた人々が屋内で息を潜める市街地へ避難する。
やがて複数ヶ所で立ち昇った火柱と黒煙により、眼前の小鬼勢を撃退して歓喜に沸いていた守備部隊の面々は冷水を浴びせられ、心身ともに疲弊した状態で取り急ぎの消火活動を強いられる事になった。
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