上 下
133 / 144

大抵の場合、ゴブリン達は不遇な件について

しおりを挟む
「頃合いだな、あの混戦では迎撃できまい。先に街を潰して戦意喪失させる、グリフォンどもを出せ!!」

「承知致しました、戦士長」
おおせの通りに……」

 後方にて指揮を執る巨大化した状態の獣人ライオネルに従い、やはり大型種の異形と見間違うまでの体躯になっている戦闘形態の眷族二匹が散開して、小型種の異形 “鷲頭の獅子イーグルヘッド” に翼が生えて大きくなった上位互換の魔獣を数十匹ほどけしかける。

 中型以上の異形種では非常に希少な飛翔能力を持つため、巨大騎士ナイトウィザードの魔法で撃ち落とされないよう温存していた “鷲獅子” の群れは大きな翼を羽搏はばたかせ、自ら巻き起こした魔法由来の上昇気流アップドラフトに乗って、次々と離陸を済ませていく。

 その前肢には左右一匹ずつの小鬼が取り付いており、眼下で荒々しい雄叫びを上げ、人族の騎体と殴り合う牛頭巨人ミノタウロスの雄姿を物憂げな表情で眺めていた。

この高さで ディエルド 落ちたら ラゥドス 確実に エルゼ 死ぬな デスタ 
ははッギギッ上手くいっても ギゥレアドス 敵の ゼグ ど真ん中だぞ オルバゥスド 

 いつとも知れぬ時代、偽神ぎしん御業みわざで生み出された僅かばかりの知性がある小柄な異形、俗に言うゴブリンの扱いは捨て駒なので、ほとんどの戦場にいて死地へ送られてしまう悲しい現実がある。

 されども攻められている側から見れば、“飛兵のたぐい” は危険きわまりない存在に過ぎず、獣人族が率いる小型種で構成された師団規模の攻城隊を凌ぐため、城塞の歩廊ほろうより地上へ射撃を敢行していたジグラント領軍の “矛先” が切り替わった。

「優先的に鷲獅子を狙い撃ちます!!」
「全班、共鳴魔法の準備を始めてください」

「正念場だぞ、一匹足りとて市街地に行かせるなッ」
此処ここを抜かれる訳にはいかん、鬱陶しいごと撃ち落とせ!」

 例え寡兵であっても、自由気侭きままに飛び回られて要所への接近を許した場合、大事を招くと判断した部隊長らの叫びに呼応して、麾下きかの銃兵隊は斜め上空に大量の弾丸を撃ち込んだが……

 重力及び空気抵抗で命中精度と威力をがれ、約320m前後の高度を維持しているグリフォンの厚い羽毛や、掴まっている小鬼達が革鎧の下へ着込んだ鎖帷子くさりかたびらに阻まれて致命傷には成り得ない。

 それもあって少しの油断が生まれた瞬間、遅れて飛んできた対中型種用の魔法による大火球が数匹の鷲獅子を捉え、情け容赦なく撃ち落とす。

「「グォオオッ!?」」
「「くそがぁああぁ――ッギゥルァアアァ――ッ!!」」

 自種族に理不尽な運命しか与えない、“高天に座す造物主デミウルゴス” に向けて力の限り罵声を響かせた哀れな者達の末路など想像にかたくないが、手際よく標的を仕留めた魔術師兵らの表情は強張っており、悠々と城壁を越えていく翼持つ異形の群れに視線を奪われていた。

「す、すぐに第二射を!」
「射角は水平以上を保てッ、いたずらに街の被害を増やすなよ!!」

 未だ懸命に撃墜をこころみる将兵らに構わず、非直線的な機動で射手の狙いを外して個々に離散した鷲獅子が咆え、多方面より物資の集積地となっていた城塞のへ急降下を仕掛ける。

 ほど掛からずに地上約3mの高さまで至れば、よく訓練された空挺兵仕様の小鬼達が飛び降り、足先の接地に合わせて身体を丸めて、すねの外側、臀部でんぶ、背中、肩の順に転がりつつも落下の衝撃を受け流した。

 そのまま一回転して膝立ちとなった彼らはギョロリとした眼球を左右に走らせ、近場の同胞はらからと合流するのを優先しながらも抜剣して、外縁部の戦力を重視した事で手薄になっている壁内の守備部隊と切り結ぶ。

「ぐッ、こいつら兵站を… ッ、うぁ!?」
死に晒せやギゥレィア猿人ギオス!!」

 浮足立っていた若い軽装歩兵の喉元を鉈剣で裂き、あかい返り血を浴びた精悍な一匹に触発され、勢いづいた数匹も連続した剣戟にて交戦相手を押し込んでいった。

 区画内の随所ずいしょで似たような光景が展開された末、損耗を避ける思惑で鷲獅子達が早々に呼び戻された事や、奇襲効果の低減などあいまって形勢は人族側に傾き始めるも… 混乱にまぎれて警戒網を潜り抜けたの小鬼らが手分けして保管庫へ忍び寄り、小型の破砕槌ハンマーで錠前を壊して内部に踏み入ってしまう。

 場の流れで班の一つをまとめる事になった古参のゴブリンは嗅覚だけに頼らず、所狭しと並んだ麻袋にナイフを差し入れて小麦が零れたのも視認すると、マツ科植物のやにより蒸留精製した引火点の低いテレピン油を大きめの革水筒から豪快にぶちまける。

 少々荒ぶっていたゆえか、前腕などにも可燃性の液体が振り掛かったので、代わりに同胞はらから達が燧石すいせきがねで火を付ければ、紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がった。

よしギゥ最低限の ガルドス 義理は ヴィア 果たした  イレィア !」
疾くデウずらかる ギルベル としよう ディエス 

ほとぼりが ルディレ 冷めるまで ラスァウズ どっかに ギィア 隠れないとな スヴァルディ ……」

 重い溜息を吐きながらも、ひと仕事終えた彼らは冷静かつ慎重に退路を確保して、逃げ遅れた人々が屋内で息を潜める市街地へ避難する。

 やがて複数ヶ所で立ち昇った火柱と黒煙により、眼前の小鬼勢を撃退して歓喜に沸いていた守備部隊の面々は冷水ひやみずを浴びせられ、心身ともに疲弊した状態で取り急ぎの消火活動をいられる事になった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

RAMPAGE!!!

Wolf cap
SF
5年前、突如空に姿を表した 正体不明の飛行物体『ファング』 ファングは出現と同時に人類を攻撃、甚大な被害を与えた。 それに対し国連は臨時国際法、 《人類存続国際法》を制定した。 目的はファングの殲滅とそのための各国の技術提供、及び特別国連空軍(UNSA) の設立だ。 これにより人類とファングの戦争が始まった。 それから5年、戦争はまだ続いていた。 ファングと人類の戦力差はほとんどないため、戦況は変わっていなかった。 ※本作は今後作成予定の小説の練習を兼ねてます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

処理中です...