129 / 144
呉越同舟?
しおりを挟む
「ども、お疲れ様なのです」
「えっと… 進捗の確認でしょうか?」
「あぁ、全く以て進んでないようだが……」
都市南門の戦闘から二日、トリアージの要領で損傷軽微な巨大騎士を優先して戦列復帰させる方針とは言え、昨夕の時点でミラとミアが作業に着手していた経緯もあり、相変わらずなベルフェゴールの姿に疑問を覚えてしまう。
しかも、好きな事には寸暇を惜しまない双子は少々やつれており、綺麗な蜂蜜色の髪も乱れているあたり、ほぼ徹夜で何かをしていたと思われる。
名状し難い不安に襲われて、横たわる躯体の胸郭に掛けられた梯子を登り、操縦席の中を覗き込むと制御中枢が剝き出しにされていた。
「操作系に問題は無かった筈… っと、そこに転がっているのは獅子核か?」
「鹵獲した有翼騎の白鳥核と交換したのです!」
「因みに記録領域を調べてみたら、面白い仕掛けとかあったのですよぅ♪」
嬉しそうな様子で外へ出てきたミラと入れ代わり、勧められるまま所定の位置に着くと後部座席に残っていたミアが専任技師の管理権限を行使して、特注品の魔導炉 “獅子心王” に火を灯す。
もはや聞き慣れた低い駆動音が鳴り響き、各所から伸びてきた人工筋肉が身体に纏わり付いていく。
『そう言えば、御一緒するのは初めてですね~』
『ッ、何気にレヴィア以外だと、違和感が凄いな……』
言語化されるまでに至らないざっくりとしたミアの思考や、自身の与り知らない魔導知識の断片などが乗騎を媒介にして、次々と脳内へ流れ込んできた。
新規の技術者を育成する際、有効な手段に成り得るという考えが一瞬だけ過ったものの、前提条件になる騎体適性の保持者が稀有なので、恐らく導入するためのハードルは非常に高いのだろう。
そんな取り留めのない憶測を立てていると、ミアが二段鍵盤状の操作卓をリズムよく軽快に奏でながら、此方へ言葉を紡いでくる。
『一応、該当箇所の記述式を精査して、神経伝達系の安全装置も確認してから、ミラと一緒に試したのですけど… 大族長を模した人工精霊が封入されてました。起動しても良いですか?』
『“虎穴に入らずんば虎子を得ず” か、やってくれ』
『では、ポチっといきますね♪』
子気味良く鍵盤が叩かれた瞬間、視界は騎体の疑似眼球で捉えたものに切り替わり、可憐さと妖艶さを併せ持つフィギュアサイズの淑女が可視範囲に映り込んだ。
病的なまでに色素の薄い肌色、銀糸の髪より覗く長い笹穂耳が印象的なドレス姿のエルフは宙空に腰掛けて足を組み、値踏みするような視線を露骨に投げてくる。
『ふむ、貴様が魔人レグルスの核を搭載した機械人形の遣い手、斑目蔵人だな。妾は白の女王が “魂の盟約” に精神を縛られず、猿人族と接触するために作られた霊的な複製体だ。ファウ・ホムンクルスとでも呼ぶが良い』
『…… 中核都市ライフツィヒの惨劇を知る一人として、“滅びの刻楷” に属する知性体には嫌悪感を禁じ得ないが、どういう了見かくらいは聞いておこう』
胸裏へ響いた声に応じて、不快感を隠さずに問い糺せば、くつくつと愉快そうに笑った相手は大袈裟に細い肩を竦め、悪びれのない態度で話し掛けてきた。
『そう怒らずとも良いだろう? 現世の者達と同じく我らも種を存続させるため、首輪を嵌められて踊る哀れな盤上の駒に過ぎない』
薄く微笑んだ人工精霊は飾らない態度で、如何なる国家や共同体も建前を抜きにすれば、自分達のことが一番だと断言する。
ましてや指導者たる者が他種族を優先し、同胞を軽んじるなどあってはならず、共存共栄も全ては利害関係の一致で生じるものだと諭してきた。
『貴様と女狐の関係もそうであろ? くだらない義憤や、肥大した人権意識に駆られて綺麗事を怒鳴り散らし、他国の都合で兵卒を死なせるのは無知蒙昧の極み……』
『確かに為政者の愚行は即ち、臣民への背信行為だな』
『故に端から対話を拒絶する事もしないか、善き心掛けだ』
緩やかなウェーブの掛かった光沢がある銀髪を揺らして満足げに頷き、白藤色の瞳に宿らせた興味の度合いを深めてくるが、この邂逅に於ける真意を掴むことはできない。
諦めて素直に聞こうとしたら、小さなファウが揶揄うように相好を崩して、身体からも余分な力を抜いた。
『ふふっ、妾に見惚れるのは自由だが、見詰め合っていても仕様がないぞ?』
『浮薄な戯言は要らない、簡潔に用件を述べてくれ』
『… 些末な出来事でも、廻りまわって遠い未来に変革を齎す。それが共倒れを避けるため、袂を分かった森人種の光になればと願い、見識を授けようと思ってな』
いつかニーナと蕎麦を食べながら話した “蝶の羽搏き” と思しき、予測不可能な事象連鎖に言及した女王の複製体は本題へ軸足を移して、滔々と語り出す。
先ずは各地への侵攻に紛れつつ、隠れ棲んでいる同胞の痕跡を調査した件から始まり、中東地域で偶然発見された新種の “砂エルフ” を含む多数の者達が神槌より生き延びて、日々の暮らしを営んでいる事実などが伝えられた。
「えっと… 進捗の確認でしょうか?」
「あぁ、全く以て進んでないようだが……」
都市南門の戦闘から二日、トリアージの要領で損傷軽微な巨大騎士を優先して戦列復帰させる方針とは言え、昨夕の時点でミラとミアが作業に着手していた経緯もあり、相変わらずなベルフェゴールの姿に疑問を覚えてしまう。
しかも、好きな事には寸暇を惜しまない双子は少々やつれており、綺麗な蜂蜜色の髪も乱れているあたり、ほぼ徹夜で何かをしていたと思われる。
名状し難い不安に襲われて、横たわる躯体の胸郭に掛けられた梯子を登り、操縦席の中を覗き込むと制御中枢が剝き出しにされていた。
「操作系に問題は無かった筈… っと、そこに転がっているのは獅子核か?」
「鹵獲した有翼騎の白鳥核と交換したのです!」
「因みに記録領域を調べてみたら、面白い仕掛けとかあったのですよぅ♪」
嬉しそうな様子で外へ出てきたミラと入れ代わり、勧められるまま所定の位置に着くと後部座席に残っていたミアが専任技師の管理権限を行使して、特注品の魔導炉 “獅子心王” に火を灯す。
もはや聞き慣れた低い駆動音が鳴り響き、各所から伸びてきた人工筋肉が身体に纏わり付いていく。
『そう言えば、御一緒するのは初めてですね~』
『ッ、何気にレヴィア以外だと、違和感が凄いな……』
言語化されるまでに至らないざっくりとしたミアの思考や、自身の与り知らない魔導知識の断片などが乗騎を媒介にして、次々と脳内へ流れ込んできた。
新規の技術者を育成する際、有効な手段に成り得るという考えが一瞬だけ過ったものの、前提条件になる騎体適性の保持者が稀有なので、恐らく導入するためのハードルは非常に高いのだろう。
そんな取り留めのない憶測を立てていると、ミアが二段鍵盤状の操作卓をリズムよく軽快に奏でながら、此方へ言葉を紡いでくる。
『一応、該当箇所の記述式を精査して、神経伝達系の安全装置も確認してから、ミラと一緒に試したのですけど… 大族長を模した人工精霊が封入されてました。起動しても良いですか?』
『“虎穴に入らずんば虎子を得ず” か、やってくれ』
『では、ポチっといきますね♪』
子気味良く鍵盤が叩かれた瞬間、視界は騎体の疑似眼球で捉えたものに切り替わり、可憐さと妖艶さを併せ持つフィギュアサイズの淑女が可視範囲に映り込んだ。
病的なまでに色素の薄い肌色、銀糸の髪より覗く長い笹穂耳が印象的なドレス姿のエルフは宙空に腰掛けて足を組み、値踏みするような視線を露骨に投げてくる。
『ふむ、貴様が魔人レグルスの核を搭載した機械人形の遣い手、斑目蔵人だな。妾は白の女王が “魂の盟約” に精神を縛られず、猿人族と接触するために作られた霊的な複製体だ。ファウ・ホムンクルスとでも呼ぶが良い』
『…… 中核都市ライフツィヒの惨劇を知る一人として、“滅びの刻楷” に属する知性体には嫌悪感を禁じ得ないが、どういう了見かくらいは聞いておこう』
胸裏へ響いた声に応じて、不快感を隠さずに問い糺せば、くつくつと愉快そうに笑った相手は大袈裟に細い肩を竦め、悪びれのない態度で話し掛けてきた。
『そう怒らずとも良いだろう? 現世の者達と同じく我らも種を存続させるため、首輪を嵌められて踊る哀れな盤上の駒に過ぎない』
薄く微笑んだ人工精霊は飾らない態度で、如何なる国家や共同体も建前を抜きにすれば、自分達のことが一番だと断言する。
ましてや指導者たる者が他種族を優先し、同胞を軽んじるなどあってはならず、共存共栄も全ては利害関係の一致で生じるものだと諭してきた。
『貴様と女狐の関係もそうであろ? くだらない義憤や、肥大した人権意識に駆られて綺麗事を怒鳴り散らし、他国の都合で兵卒を死なせるのは無知蒙昧の極み……』
『確かに為政者の愚行は即ち、臣民への背信行為だな』
『故に端から対話を拒絶する事もしないか、善き心掛けだ』
緩やかなウェーブの掛かった光沢がある銀髪を揺らして満足げに頷き、白藤色の瞳に宿らせた興味の度合いを深めてくるが、この邂逅に於ける真意を掴むことはできない。
諦めて素直に聞こうとしたら、小さなファウが揶揄うように相好を崩して、身体からも余分な力を抜いた。
『ふふっ、妾に見惚れるのは自由だが、見詰め合っていても仕様がないぞ?』
『浮薄な戯言は要らない、簡潔に用件を述べてくれ』
『… 些末な出来事でも、廻りまわって遠い未来に変革を齎す。それが共倒れを避けるため、袂を分かった森人種の光になればと願い、見識を授けようと思ってな』
いつかニーナと蕎麦を食べながら話した “蝶の羽搏き” と思しき、予測不可能な事象連鎖に言及した女王の複製体は本題へ軸足を移して、滔々と語り出す。
先ずは各地への侵攻に紛れつつ、隠れ棲んでいる同胞の痕跡を調査した件から始まり、中東地域で偶然発見された新種の “砂エルフ” を含む多数の者達が神槌より生き延びて、日々の暮らしを営んでいる事実などが伝えられた。
0
お気に入りに追加
448
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
RAMPAGE!!!
Wolf cap
SF
5年前、突如空に姿を表した
正体不明の飛行物体『ファング』
ファングは出現と同時に人類を攻撃、甚大な被害を与えた。
それに対し国連は臨時国際法、
《人類存続国際法》を制定した。
目的はファングの殲滅とそのための各国の技術提供、及び特別国連空軍(UNSA)
の設立だ。
これにより人類とファングの戦争が始まった。
それから5年、戦争はまだ続いていた。
ファングと人類の戦力差はほとんどないため、戦況は変わっていなかった。
※本作は今後作成予定の小説の練習を兼ねてます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる