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吸血姫、騎士令嬢を評する

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「お嬢様ッ!大丈夫ですかッ!!」

模擬戦を見守っていた侍従のマリが駆け寄り、イルゼの奇麗な金髪に付着する訓練場の土を払う。

「グレイド様、酷いですッ!女性に対してこんな扱いをするなんて」

「…… 戦場に立てば性別など関係なかろうよ。では、私にわざと負けろとでも言うのか?それはイルゼ殿に対する侮辱になってしまうぞ、彼女は戦士だ」

ふむ、魔族屈指の魔法剣士のグレイドに認めさせるとはイルゼ嬢も中々ではないか。
そのグレイドは理不尽な事を言い出すマリに辟易しているが……

「私を気遣ってくれてありがとう、マリ。でも、グレイド殿の言う通り、手加減されても嬉しくありませんから……」

そう言いながらもイルゼは落胆している。

「……折角、概念装を得たのに……どうして私は誰にも勝てないのでしょうか?“刹那”の概念自体はそんなに悪いものでもないはずですのに」

そんな彼女に俺も声をかける。

「いままで、誰と模擬戦をしたんだ?」

「あっ、魔王殿。お恥ずかしい所を見せてしまいました…… そうですね、いつもはヴィレダ殿やベルベア殿、こうしてたまにグレイド殿やダロス殿にも相手をしていただいております」

相手が悪すぎるだろ、どれもうちの幹部じゃないか……

「ん、スカレとはまだ模擬戦をしていないのか?」
「はい、いつも書類仕事でお忙しそうなので……」

「……いつも世話をかけるな、スカレ」
「いえ、私が喜んでしている事ですから……」

柔らかな微笑みで返されてしまった。

「で、実際のところ彼女はどうなんだ、グレイド」
「はっ、今後の成長の余地はあると愚考します」

「だそうだ、怪我をしない程度に頑張れよ」
「あっ」

彼女の頭をポフポフしつつ、いつもの如く回復魔法のヒーリングをかける。

そう言えば高確率で訓練場にいるヴィレダがいない事に気が付いたので、近場にいる人狼兵に聞いてみた。

「申し訳ありません、朝から姿を見かけておりませんが、その理由までは……」

そこに小声でスカーレットが話しかけてくる

「おじ様、ヴィレダとベルベアは私室で休んでいますわ。昨日の今日ですから……」

あぁ、動きづらいという奴か……

「スカーレット殿、ヴィレダ殿は体調を崩されているのですか?ならば後でお見舞いでも……」

最近、訓練を通じてヴィレダと割と仲が良くなってきたイルゼが彼女の心配をする。

「……いえ、そういうわけではありませんわ、大丈夫ですよ。おじ様、そろそろリーゼロッテ様の所に行きましょうか」

「ああ、では失礼する」

さらりと話題を躱したスカーレットと共に訓練場を後にして、中央工房に向かう。
その道すがら何気なしに聞いてみた。

「スカレ、今のイルゼ嬢とやり合ったら勝てるか?」

「ふふっ、負ける気はしませんわ、おじ様。けれど勝負は水物、どういう結果になるかはまた別の話です……特に彼女の纏う“刹那”の概念は一瞬で勝敗を覆す可能性を秘めていますから」

自信を滲ませつつも、相手を侮らない姿勢で彼女は言う。
スカーレットの中でもイルゼ嬢の評価は変わりつつある様だ。
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