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騎士令嬢、無様に転がる
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謁見の間で幾つかスカーレットからの報告を受けた後、昨日の続きでアルミナの精製と粉砕を行う予定の中央工房に顔を出すために玉座から立つ。
「今日は工房区画ですか?おじ様」
「ああ、アルミナの精製と粉砕の様子を見に行く」
「“あるみな”ですか?おじ様、蒙昧な私をお許しください…… それは一体、何なのでしょう」
スカーレットが申し訳なさそうに尋ねてくる。
「あぁ、耐熱性の煉瓦に使うメインの素材だよ」
「リーゼロッテ様の計画書にあった反射炉の素材ですね」
暫し、彼女は考える様子を見せる。
「……現状で必要な仕事は押さえてありますから、時間的な余裕は……ありますわね。おじ様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
スカーレットともに謁見の間を出る。
青銅のエルフ達の工房区画はひとつ上の49階層のため、偶には転移ゲートを使わずに徒歩で行く事にする。
その途中に同じく49階層にある訓練場へ顔を出すと、そこではイルゼ嬢とグレイドの模擬戦が行われていた。彼女を捕虜にしたのはいいが、特に何もやらせる事も無く、飼い殺し状態になっていたため、訓練場の使用を許可したのだ。
その相手をするのはヴィレダであったり、グレイドであったりするわけだ。
「穿てッ!魔槍ッ!!」
グレイドが自身の周囲に数本ほど浮遊させている魔力で構成される操作可能な槍を複雑な軌跡でイルゼに向かって殺到させる。
例によって周囲の魔人兵達の防護結界により、訓練場内の魔法の効果は限定されており、致命傷に至る威力は無いが、勿論当たれば痛いし、怪我もする。
「……くッ」
その魔槍に対して、イルゼの碧眼が淡い魔力光を宿す。
彼女の瞳に写る世界では、時間が引き延ばされ、全てがゆっくりと動き出した。
その停滞する世界の中でイルゼは全ての魔槍を躱して、逆にグレイドとの距離を詰める。
「せぁああッ!!」
「ぐッ!?」
迅雷の如く、魔槍の間を抜けて切り掛かってくるイルゼをグレイドは刀を斜めに構え、敢えてその一撃を受け止める。彼のミスリル製の日本刀には風刃の魔法が仕込んであり、衝突の直後に刀身から無数の風の刃が放たれる。
「つッ!」
イルゼの碧眼はその風の刃の初動を捉え、彼女は素早く斜め後ろに飛び退る。
それに合わせてグレイドも距離を取り、安全圏を確保した。
「彼女の概念装は“刹那”でしたわね、おじ様」
「あぁ、視界に写る動体の動きを引き延ばし、自身の動きも加速させる。ただし、発動時間が瞬間的で、死角という隙もあるがな」
「……不用意に近づかずに、射撃で攻めればいいのですわね」
先程、グレイドがイルゼの接近を許したのは刀に仕込んだ風刃で不意を衝くためだろう。躱されてしまったがな…… “刹那”は圧倒的な効果を持つ概念では無いが、攻防における汎用性は高い。
「我が王の御前で、無様を晒すわけにもいかん……イルゼ殿、悪く思うなよ」
「簡単には、負けませんよ?」
グレイドの言葉に応じて再びイルゼがその碧眼に魔力光を灯す。
が、その彼女の足元で地面が爆ぜた。
「うきゃあぁッ!?」
中級の土魔法グランドバーストだ。
注意深く魔眼を凝らせば、訓練場の地面の複数個所にその魔法が仕込んであった。グレイドが戦いながらそれを成したのだろう。その内のひとつの上に彼女は立っていたのだ。
「戦いながらあれに気付くのは難しいですわね……」
「だろうな」
足元から弾き飛ばされて宙を舞い、土まみれで転がるイルゼの喉元にグレイドの刀“みすりる”が突き付けられる。
「うぁ……私の負けです。うっう~、簡単に負けないと言ったのに……舌の根も乾かないうちに……」
イルゼが土まみれの姿で四つん這いになって凹む。
そうして模擬戦はグレイドの勝利に終わった。
「今日は工房区画ですか?おじ様」
「ああ、アルミナの精製と粉砕の様子を見に行く」
「“あるみな”ですか?おじ様、蒙昧な私をお許しください…… それは一体、何なのでしょう」
スカーレットが申し訳なさそうに尋ねてくる。
「あぁ、耐熱性の煉瓦に使うメインの素材だよ」
「リーゼロッテ様の計画書にあった反射炉の素材ですね」
暫し、彼女は考える様子を見せる。
「……現状で必要な仕事は押さえてありますから、時間的な余裕は……ありますわね。おじ様、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」
スカーレットともに謁見の間を出る。
青銅のエルフ達の工房区画はひとつ上の49階層のため、偶には転移ゲートを使わずに徒歩で行く事にする。
その途中に同じく49階層にある訓練場へ顔を出すと、そこではイルゼ嬢とグレイドの模擬戦が行われていた。彼女を捕虜にしたのはいいが、特に何もやらせる事も無く、飼い殺し状態になっていたため、訓練場の使用を許可したのだ。
その相手をするのはヴィレダであったり、グレイドであったりするわけだ。
「穿てッ!魔槍ッ!!」
グレイドが自身の周囲に数本ほど浮遊させている魔力で構成される操作可能な槍を複雑な軌跡でイルゼに向かって殺到させる。
例によって周囲の魔人兵達の防護結界により、訓練場内の魔法の効果は限定されており、致命傷に至る威力は無いが、勿論当たれば痛いし、怪我もする。
「……くッ」
その魔槍に対して、イルゼの碧眼が淡い魔力光を宿す。
彼女の瞳に写る世界では、時間が引き延ばされ、全てがゆっくりと動き出した。
その停滞する世界の中でイルゼは全ての魔槍を躱して、逆にグレイドとの距離を詰める。
「せぁああッ!!」
「ぐッ!?」
迅雷の如く、魔槍の間を抜けて切り掛かってくるイルゼをグレイドは刀を斜めに構え、敢えてその一撃を受け止める。彼のミスリル製の日本刀には風刃の魔法が仕込んであり、衝突の直後に刀身から無数の風の刃が放たれる。
「つッ!」
イルゼの碧眼はその風の刃の初動を捉え、彼女は素早く斜め後ろに飛び退る。
それに合わせてグレイドも距離を取り、安全圏を確保した。
「彼女の概念装は“刹那”でしたわね、おじ様」
「あぁ、視界に写る動体の動きを引き延ばし、自身の動きも加速させる。ただし、発動時間が瞬間的で、死角という隙もあるがな」
「……不用意に近づかずに、射撃で攻めればいいのですわね」
先程、グレイドがイルゼの接近を許したのは刀に仕込んだ風刃で不意を衝くためだろう。躱されてしまったがな…… “刹那”は圧倒的な効果を持つ概念では無いが、攻防における汎用性は高い。
「我が王の御前で、無様を晒すわけにもいかん……イルゼ殿、悪く思うなよ」
「簡単には、負けませんよ?」
グレイドの言葉に応じて再びイルゼがその碧眼に魔力光を灯す。
が、その彼女の足元で地面が爆ぜた。
「うきゃあぁッ!?」
中級の土魔法グランドバーストだ。
注意深く魔眼を凝らせば、訓練場の地面の複数個所にその魔法が仕込んであった。グレイドが戦いながらそれを成したのだろう。その内のひとつの上に彼女は立っていたのだ。
「戦いながらあれに気付くのは難しいですわね……」
「だろうな」
足元から弾き飛ばされて宙を舞い、土まみれで転がるイルゼの喉元にグレイドの刀“みすりる”が突き付けられる。
「うぁ……私の負けです。うっう~、簡単に負けないと言ったのに……舌の根も乾かないうちに……」
イルゼが土まみれの姿で四つん這いになって凹む。
そうして模擬戦はグレイドの勝利に終わった。
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