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魔王、蒸気式発電機を説明される

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一度、自室に戻り、イリアの土産であるローズティーを啜る。
日頃はそんな洒落ているお茶など選ばないから、こういう貰ったときに堪能しておこう。

「ずずっ……、はぁ~、落ち着く。たまには一人の時間は必要だな」

ゆっくりと身体を伸ばしてリラックスしつつも、先程のリーゼロッテからの報告書を思い出す。要約すると“一応、蒸気式発電機ができたのじゃ!視察に来ると良いのじゃ!!”という内容が書いてあった。

…… 他に、作動原理や工夫などがハイテンションに綴られていたが、どうせ見に行けば彼女に無理やり聞かされるのだから、今の時点で熟読する必要もない。

作製を頼んだ手前、視察に行かない訳にもいくまい。
お茶を飲み干した俺は部屋を後にしたのだった。

……………
………


最下層の一つ上、ダンジョン中央部の大きな吹き抜けの周りに青銅のエルフ達の中央工房及び第1~第4区画工房がある。中央工房は青銅のエルフを率いるリーゼロッテの存在を指して“中央”と呼ばれているが、実際は、吹き抜けの周囲に環状に並んだ工房区画の一つである。

その工房からは中央部の吹き抜けまで、ダクトが伸びており、そこからは煙が黙々と地上に向けて昇って行く。その煙のいくつかは各工房に導入された蒸気機関から出るものだ。

蒸気機関を動力に円盤を回して金属を削る工作機械や、ピストンによる加圧を利用した機械などが稼働しているとラーガットが言っていたな……

ここ最近、活気づいている青銅のエルフ達の姿を眺めながら、中央工房に入っていくと、工房内で何やら図面を引いていたリーゼロッテと視線が合う。

「ようやく来たのじゃな、レオン!!」
「報告書にあった蒸気式発電機を見せてもらいに来たぞ」

嬉しそうにリーゼロッテが駆け寄って来て、俺の袖を引いて奥に引っ張っていく。

「電気をつくれと言う、お主の無茶振りを妾が叶えてやったのじゃ!感謝せいっ!!」

彼女に引っ張られて行った先には工房の煙突の側に設置されたやや小型の蒸気機関があった。その車輪部分には今までの異世界製の蒸気機関には無かったものがある。

「これは、ゴムか?」
「そうなのじゃ!そこに目を付けるとはさすが妾のレオンなのじゃあ~」

やばい、聞いてはいけない部分だったか!?

「先日、ラーガットが持ち帰った樹液の“らてっくす”に硫黄と炭素を加えた天然ゴムなのじゃ!!このゴムベルトで、車輪の回転運動を“しゃふと”に伝えておる。これでその先端の“ねおじむ”磁石が回るのぅ」

リーゼロッテの指の先を辿ると、蒸気機関から延びる棒の先端で大き目の磁石が回転しており、コイルをぐるぐる巻いた鉄心に左右を囲まれている。

「あの磁石はどうした?買った覚えが無いが……」

「追加で買ってもらった2台目の“がそりん”発電機を分解したのじゃ…… まずかったかのぅ。磁石は……、発電できる程の磁石は作れなかったのじゃ……」

唐突にリーゼロッテが凹む。

「笑うがいいレオン、発電機を潰して発電機を作る愚かな妾を…… でものぅ、折角、お主が頼ってくれたのじゃ、何とかしたいと思う気持ちも分かって欲しいのじゃ…」

「あぁ、いつも感謝している。それに信頼もな」
「レ、レオ~ン、やっぱりお主は良い奴なのじゃ!!」

がばっと飛びついてくる彼女を受け止める。

「あと、残念な事にのぅ、“ぶれーかー”と電圧計も作れなかったのじゃ……かろうじて、“とらんす”は何とかなったがのぅ。その内なんとかするのじゃ!!」

見ると、コイルから延びる銅線の先は変圧器(トランス)に接続され、そこから電圧計、ブレーカーを経由して樹脂製のコンセント受け口で終端となっており、そこにはノートPCの電源が3つ刺さっていた。

「なぁ、リゼ、余剰電力はどうなってるんだ?電気が発生し過ぎると電圧が上がるだろう……」

「そうじゃの、そうなれば“ばーん”なのじゃ」
「……大丈夫なのか?」

「うむ!そこは蒸気機関の方を調整して、そこまで危険な量の電気を簡単には作れないようにしておる。それとクランクに仕掛けを作って、車輪の回転を止める仕組みも作ってあるのじゃ!!まぁ、暫くは様子を見ながら慎重に運用するかのぅ……」

科学の発展は危険と隣り合わせなのだと不意に実感してしまった……

「怪我人の出ない様に頼む」
「勿論なのじゃ、ゼッタイとは言い切れんがのぅ」

ともあれ、蒸気式発電機の試作型がこの世界に生まれたのだった。
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