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魔王、協力者を確保させる

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ここは都内の某所……

「……あの、少し宜しいでしょうか?道をお尋ねしたいのです」

仕事帰りのサラリーマン、安田郁夫(29)はそう声を掛けられて背後を振り向いた。そこには黒髪紅瞳の小柄な外国人風の女性がいる。

(な、なんかえらく奇麗な人だな……)

「はい、構いませんよ、何処までですか?」
「千鳥ヶ淵の桜が見たいのです」

「あぁ、今の時間帯だと、ライトアップされていますからね。きっと奇麗でしょう。ここからならそんなに遠くは……」

「すいません、私、東京は初めてでして……できれば案内してもらえませんか?」

その女性は可愛らしく小首を傾げている。
心なしかその目が紅く光るが、郁夫はそれに気づかない……

「ん~、特に用事があるわけでもないし、構いませんよ」
「ありがとうございます、助かりました」

彼女は薄く微笑み、郁夫はそれに見惚れてしまった。

「で、では少し歩きましょうか」

歩き出す郁夫の斜め後ろにその女性はついていく……

「え!?」

丁度、公園があるマンションの前を通った時、腕を引かれて振り返る。

「どうしま……」

何事かあったのかと口を開いた郁夫の視線が彼女の紅い瞳を捉えた瞬間、意識に靄がかる。

「此方へ……」

彼は朦朧としたまま、女性に腕を引かれてマンションに併設される夜の公園へと連れ込まれた……

「えッ!?」

次に彼の意識がはっきりした時には、とても近い距離に美しい女性の顔が見える。

その女性の手は彼の両肩におかれている。力は入っていない様子なのに金縛りにあったように動けない事が郁夫を混乱させた。そして、彼のネクタイは緩められ、シャツの一番上のボタンが外される。

「ちょ、ちょっと!」

カプッ♪チュ~~ッ!

黒髪紅瞳の小柄な美女こと、スカーレット麾下の吸血鬼イリアは疑いなく道案内をしてくれた男の血を吸う。それだけに留まらず、自身の魔力を流し込みその男を隷属化した。

「さて、ご自分の立場は分かりますか?」
「あ~、何となくは……」

「先ずは身分証を出しなさい」
「はい、どうぞ」

先程から、郁夫は目の前の彼女に逆らう気が起きない、そして従う事がむしろ多幸感を与えるのだ。

「えーと、ヤスダですね。貴方は私の眷族になりました、今後は私達、魔族の協力者として働いてもらいます」

「協力ですか?それは具体的には……」
「主に、此方の貨幣を得る際の貴金属の売却や、通販の受け取り、賃貸の契約などです」

郁夫は暫し考える。

「あんまり、面倒な事は拒否してもいいんですか?僕も仕事があるんで……」

「基本的に拒否権はありますが、最終手段として強制的な命令権が私にあります。あまり使う趣味はないですけどね。それに私の眷族なのですから、私の頼み事を聞くことが貴方の幸せになるはずですけど?」

「そうですね、何故か、僕は最終的には断らないだろうと確信しちゃってますよ……」

「ちゃんと報酬もあります。それ以外にも、現時点で病気に罹りにくい体質と少しの寿命の延長の恩恵を既に得ています。さらに働き次第では、眷属では無く正式な吸血鬼として迎え入れる用意もありますので……」

「まぁ、ほどほどに頑張らせて頂きますよ」

郁夫は唐突にできてしまった自身の主に頭を下げた。
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