上 下
19 / 187

試作型日本刀、あっさりと折れる

しおりを挟む
王国軍の中心部にて、聖女と呼ばれる神術師のミリアは混乱の最中にあった。彼女の概念装は結界魔法を練習していた時、偶然に獲得した“緩衝”だ。これは発動中、彼女自身や展開する結界に触れたモノの威力を極度に低減させる能力である。

これを用いて不破の結界を張ることができたため、気が付けば聖女の名を冠していた。教会の信徒としては嬉しい限りではあるが、そのせいで今回の北部森林地帯のダンジョン探索に駆り出されたのである。

「……絶対に壊れないって訳じゃないけれど…… 初めてだわ」

先程、巨大な火球が飛んでくるのが見えたので、事前詠唱していた結界魔法に手を加えて補強し、それを受け止めた。そこまではいいのだけれど……その後、火球の爆発に耐え切れず、結界が吹き飛び、死傷者が出てしまった。

「ミリア殿、此処からでは矢も十分な威力を持たせられない、このままではじわじわと被害が広がる!前進する!!先ほどの様な攻撃魔法の対処を頼む」

この本隊の指揮をとる白い鎧の聖騎士ラトスが少し前の位置から叫んでくる。

「ま、待ってください!ラトス殿!!先ほどの斥候役の冒険者が言っていた奇妙な武器の件もあります、慎重にされては如何でしょう?」

「だが、数では少し此方が勝る。それに慎重に構えたところで向こうは攻めてくるぞ!折角、犠牲を出して獲得した階層をむざむざ奪われる訳にもいかない。相手の事を知るためにも一戦を交える!!」

聖騎士の指示により、ダンジョン探索のために出された部隊は前進を始めるのだった。

……………
………


人狼兵達は最下層からヴィレダが率いて来た小隊と地下31階層に駐留していた小隊の2つがある。彼らは先の戦いで十数名の同胞を失っており、その怒りもあって戦意は高い。

2つの小隊は左右から王国軍本隊の側面を突こうと鉱山区画の平地を疾走する。王国軍の弓兵達が射撃を行うも、疾走する人狼に矢を当てる事は困難だ。

「ッ、今です!突貫しますわ!!」

弓兵が左右の人狼達に矢を斉射した直後を狙って、盾を構えていたコボルト隊の背後から吸血鬼達が弾丸の如く低空飛行で飛び出していく。それに合わせて、コボルト隊も前進を始めた。

「行くよ、皆の仇を取るんだッ!」

攻撃可能な距離まで接近した人狼達はヴィレダを中心にした陣形を組んで、敵の弓兵隊に向けて銃撃を行う、連続した発砲音の後に悲鳴があがり、王国軍の右側面が崩れていく。

一方で、正面から飛来する吸血鬼に対して盾を構えていた前列の兵士達も、近距離からの銃撃に耐える事が出来ない。

「ぐはッ!」
「うわぁああ!!」
「ッ!」

「ちッ、迂闊だったかッ!!弓兵、後退!歩兵前へ!このまま下がるぞ!!聖女殿、結界を!」

「用意はできています、歪曲結界!!」

王国軍の正面から、彼らを覆う様に虹色の結界が歪曲して広がっていく。本来、広範囲を護る結界の強度は面積に比例して低減するが、この歪曲結界にはミリアの“緩衝”の概念が付与されている。

それは再度、正面から放たれた弾丸を柔らかく受け止めた。

「……やはり、このAK‐47の火力では突破できませんか」
「その代わり、此方も攻撃されることはありません」

主の呟きに側に侍る老執事が答える。

その間にも王国軍は陣形を立て直して後退していく。

「厄介な相手は早めに潰しておかないとなっ!」

左側から攻め上がっていた人狼小隊と行動していた俺は展開される結界に手を翳す。

「悉くを貫け、魔槍よ!!」

黒い魔力光を放つ無数の槍が結界の一部に集中して突き刺さり、やがてそれを破壊する。それに呼応して、俺の周囲の人狼達が敵歩兵に近接格闘を仕掛け、混戦となる。

その中で目立つ白い鎧の騎士を見つけ、俺は日本刀を手に切り掛かった。

「ぐッ、くそ、魔族め!」

その騎士は腕固定の小楯で俺の攻撃を弾き、そのまま長剣で切り掛かってくる。その刃に魔力光が宿るのを確認したため、回避を選択してバックステップをおこなった。

そして再度、俺も切り返すがそれは相手の長剣で受け止められた。
まぁ、確認のためにわざと受けやすい斬撃を繰り出したのだけどな。

その際に試作型日本刀“みすりる”は長剣と接触した部分からスッパリと折れてしまった。

「くっ、やはり概念装かッ!」

恐らく、“切断”なりの概念を長剣に付与しているのだろう。

「はっ、俺に切れないものなど、ッぐはッあ!?」
「何ッ!?」

どや顔で何かを言おうとした騎士は次の瞬間、怒りの形相をしたヴィレダに頭を蹴り飛ばされて絶命した。その首はあり得ない方向に曲がっている……

「………え?」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...