上 下
162 / 187

魔王、お披露目会に最後まで付き合う

しおりを挟む
何とは無しに人狼娘らを眺めていると、此方こちらに気付いたヴィレダが手招きしてきたので、呼ばれたままに歩を進める。

「イチロー、ちょっと人数多いから、氷が足りないよ」
「…… (こくり)」

「まぁ、そうだろうな」

今日も一切しゃべらず、頷くだけで意思疎通を済ませようとするベルベアはさておき、確かに試作品の製氷機は小型なので氷の分量が心許こころもとない。

当然、想定済みであるため、青白い肌のエルフ娘達が簡易調理台へ運んできたスペアの製氷皿に右掌をかざして、注がれた水を急速に凍らせていく。

「申し訳ありません。私が氷結魔法を使えれば良かったのですけど、非才の身を恥じるばかりです」

やや遅れながらも追随ついずいしてきていた吸血姫が手元をのぞき込み、少し悔しそうな表情を浮かべたものの…… 彼女の扱える属性魔法は火と闇なので、そればかりは致し方ない部類の話である。

「元々、資質などの個人差を埋めるのが道具の役割だからな、この製氷機も売れると思わないか?」

「ふふっ、確かにそうですわね♪」

柔らかく微笑したスカーレットのように恵まれた環境で暮らしていても需要があるなら、氷を確保するのが難しい市井しせいの者達は言うに及ばない。

中核都市を主軸に魔族勢たる青銅のエルフが実用化したとの触れ込みで、有益性の高い製氷機をノースグランツ領及びミザリア領に広めていけば、領民達が持つ魔族への不信感や偏見などを漸減ぜんげんさせる効果も期待できそうだ。

内心でほくそ笑み、捕らぬ狸の皮算用をしていると老執事ゼルギウスが姿を現す。

優雅に一礼した彼が把持はじしているのは二本差しのワインバスケットであれども、収められているボトルの中身は恐らく事前に頼んだ特製の糖蜜だろう。

「こちら、ローズマリーとレモングラスの成分を抽出したハーブ液に蜂蜜や黒糖なども加え、鍋で煮詰めて赤ワインの風味を付けたシロップに御座います」

「また、随分すいぶんこだわっておるのぅ……」
「学問狂いの貴女様に言われるのは心外ですな」

呆れ顔のリーゼロッテに鋭く切り返した老執事は手早くコルク栓を抜き、とう編まれた籠バスケットにキーホルダーの如く取り付けていた極小ごくちいさな陶器製ピッチャーを外し、適量の糖蜜を注いだ。

手慣れた所作で調理台へ置かれた高さ3㎝ほどの陶器を口元へ運び、僅かにすすればハーブの効果で後味を引かない、さっぱりとした甘みが味覚を刺激する。

「おじ様、私も頂いて宜しいでしょうか?」
「あぁ、洗練された味に仕上がっているぞ」

小さいので慎重に受け取った吸血姫がちびりと舐めた糖蜜に頬を緩ませると、普段は感情を表に出さない老執事の口角が少しだけ上がった。

「ん…… 流石ですね、ゼルギウス」
「恐悦至極に御座います」

うやうやしく頭を下げた従者と主が言葉を交わしている間にも、かき氷機のハンドルを全力でぶん廻す銀狼娘により、削られた微細な氷が次々と硝子製の器に盛られる。

「………… (じぃ~)」
「そろそろ、これが必要ですかな?」

無言で見詰めてきた黒狼娘に老執事がボトルを軽く掲げて尋ねると、二つ返事で頷いた彼女が手を伸ばして受け取り、鼻歌混じりに真っ白なかき氷へ掛けていった。

さらに刻んであった洲桃すもものコンポートを幾つか添えて最初のひとつが完成に至り、会の主催者であるマルコが様子見していた来客達に向かい合う。

此処ここに用意しているのはテラ大陸地球の氷菓子になります。一息に食べてしまうと頭痛が来るものの、とても美味ですので是非とも皆様にご賞味して貰いたい」

若干の注意など加えた言葉の後、特製ハーブシロップのかき氷が青肌エルフ娘達の手によって、順次に手渡されていく。

「冷たいですから、ゆっくり食べてください」
「ありがとう、気を付けるよ」

「…… 自然状態に近い氷の菓子か、興味深い」
「ッ、斬新な美味しさね。うちの宿屋でも出したいくらい」

「ふむ、ワインの香り付けが良い強調になっている」

確かめるように味を噛み締めながら招かれた商店主やギルド職員達が頷き、近場にいた馴染みの者同士で所感を交わし始める。

そんな彼らに対して商魂逞しいディルド家の父娘おやこが製氷機に関する打診を持ち掛け、手際よく商談の道筋を付ける光景など見遣みやり、自身もかき氷の乗ったスプーンを咥えた。

(中々に良いが……)

この後、裏方に徹しているリーゼロッテと青肌エルフ達、人狼娘の二匹なども加えた地下ダンジョンの面々でかき氷を楽しむ手筈になっており、もう一杯を頂くことが決まっていたりする。

ともあれ、二杯分くらいなら飽きずに食せるだろうとたかくくり、好評をはくしている製氷機のお披露目に最後まで今暫く付き合うことにした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...