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魔王、お披露目会に最後まで付き合う
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何とは無しに人狼娘らを眺めていると、此方に気付いたヴィレダが手招きしてきたので、呼ばれたままに歩を進める。
「イチロー、ちょっと人数多いから、氷が足りないよ」
「…… (こくり)」
「まぁ、そうだろうな」
今日も一切喋らず、頷くだけで意思疎通を済ませようとするベルベアはさておき、確かに試作品の製氷機は小型なので氷の分量が心許ない。
当然、想定済みであるため、青白い肌のエルフ娘達が簡易調理台へ運んできたスペアの製氷皿に右掌を翳して、注がれた水を急速に凍らせていく。
「申し訳ありません。私が氷結魔法を使えれば良かったのですけど、非才の身を恥じるばかりです」
やや遅れながらも追随してきていた吸血姫が手元を覗き込み、少し悔しそうな表情を浮かべたものの…… 彼女の扱える属性魔法は火と闇なので、そればかりは致し方ない部類の話である。
「元々、資質などの個人差を埋めるのが道具の役割だからな、この製氷機も売れると思わないか?」
「ふふっ、確かにそうですわね♪」
柔らかく微笑したスカーレットのように恵まれた環境で暮らしていても需要があるなら、氷を確保するのが難しい市井の者達は言うに及ばない。
中核都市を主軸に魔族勢たる青銅のエルフが実用化したとの触れ込みで、有益性の高い製氷機をノースグランツ領及びミザリア領に広めていけば、領民達が持つ魔族への不信感や偏見などを漸減させる効果も期待できそうだ。
内心でほくそ笑み、捕らぬ狸の皮算用をしていると老執事ゼルギウスが姿を現す。
優雅に一礼した彼が把持しているのは二本差しのワインバスケットであれども、収められているボトルの中身は恐らく事前に頼んだ特製の糖蜜だろう。
「こちら、ローズマリーとレモングラスの成分を抽出したハーブ液に蜂蜜や黒糖なども加え、鍋で煮詰めて赤ワインの風味を付けたシロップに御座います」
「また、随分と拘っておるのぅ……」
「学問狂いの貴女様に言われるのは心外ですな」
呆れ顔のリーゼロッテに鋭く切り返した老執事は手早くコルク栓を抜き、籐で編まれた籠にキーホルダーの如く取り付けていた極小さな陶器製ピッチャーを外し、適量の糖蜜を注いだ。
手慣れた所作で調理台へ置かれた高さ3㎝ほどの陶器を口元へ運び、僅かに啜ればハーブの効果で後味を引かない、さっぱりとした甘みが味覚を刺激する。
「おじ様、私も頂いて宜しいでしょうか?」
「あぁ、洗練された味に仕上がっているぞ」
小さいので慎重に受け取った吸血姫がちびりと舐めた糖蜜に頬を緩ませると、普段は感情を表に出さない老執事の口角が少しだけ上がった。
「ん…… 流石ですね、ゼルギウス」
「恐悦至極に御座います」
恭しく頭を下げた従者と主が言葉を交わしている間にも、かき氷機のハンドルを全力でぶん廻す銀狼娘により、削られた微細な氷が次々と硝子製の器に盛られる。
「………… (じぃ~)」
「そろそろ、これが必要ですかな?」
無言で見詰めてきた黒狼娘に老執事がボトルを軽く掲げて尋ねると、二つ返事で頷いた彼女が手を伸ばして受け取り、鼻歌混じりに真っ白なかき氷へ掛けていった。
さらに刻んであった洲桃のコンポートを幾つか添えて最初のひとつが完成に至り、会の主催者であるマルコが様子見していた来客達に向かい合う。
「此処に用意しているのはテラ大陸の氷菓子になります。一息に食べてしまうと頭痛が来るものの、とても美味ですので是非とも皆様にご賞味して貰いたい」
若干の注意など加えた言葉の後、特製ハーブシロップのかき氷が青肌エルフ娘達の手によって、順次に手渡されていく。
「冷たいですから、ゆっくり食べてください」
「ありがとう、気を付けるよ」
「…… 自然状態に近い氷の菓子か、興味深い」
「ッ、斬新な美味しさね。うちの宿屋でも出したいくらい」
「ふむ、ワインの香り付けが良い強調になっている」
確かめるように味を噛み締めながら招かれた商店主やギルド職員達が頷き、近場にいた馴染みの者同士で所感を交わし始める。
そんな彼らに対して商魂逞しいディルド家の父娘が製氷機に関する打診を持ち掛け、手際よく商談の道筋を付ける光景など見遣り、自身もかき氷の乗ったスプーンを咥えた。
(中々に良いが……)
この後、裏方に徹しているリーゼロッテと青肌エルフ達、人狼娘の二匹なども加えた地下ダンジョンの面々でかき氷を楽しむ手筈になっており、もう一杯を頂くことが決まっていたりする。
ともあれ、二杯分くらいなら飽きずに食せるだろうと高を括り、好評を博している製氷機のお披露目に最後まで今暫く付き合うことにした。
「イチロー、ちょっと人数多いから、氷が足りないよ」
「…… (こくり)」
「まぁ、そうだろうな」
今日も一切喋らず、頷くだけで意思疎通を済ませようとするベルベアはさておき、確かに試作品の製氷機は小型なので氷の分量が心許ない。
当然、想定済みであるため、青白い肌のエルフ娘達が簡易調理台へ運んできたスペアの製氷皿に右掌を翳して、注がれた水を急速に凍らせていく。
「申し訳ありません。私が氷結魔法を使えれば良かったのですけど、非才の身を恥じるばかりです」
やや遅れながらも追随してきていた吸血姫が手元を覗き込み、少し悔しそうな表情を浮かべたものの…… 彼女の扱える属性魔法は火と闇なので、そればかりは致し方ない部類の話である。
「元々、資質などの個人差を埋めるのが道具の役割だからな、この製氷機も売れると思わないか?」
「ふふっ、確かにそうですわね♪」
柔らかく微笑したスカーレットのように恵まれた環境で暮らしていても需要があるなら、氷を確保するのが難しい市井の者達は言うに及ばない。
中核都市を主軸に魔族勢たる青銅のエルフが実用化したとの触れ込みで、有益性の高い製氷機をノースグランツ領及びミザリア領に広めていけば、領民達が持つ魔族への不信感や偏見などを漸減させる効果も期待できそうだ。
内心でほくそ笑み、捕らぬ狸の皮算用をしていると老執事ゼルギウスが姿を現す。
優雅に一礼した彼が把持しているのは二本差しのワインバスケットであれども、収められているボトルの中身は恐らく事前に頼んだ特製の糖蜜だろう。
「こちら、ローズマリーとレモングラスの成分を抽出したハーブ液に蜂蜜や黒糖なども加え、鍋で煮詰めて赤ワインの風味を付けたシロップに御座います」
「また、随分と拘っておるのぅ……」
「学問狂いの貴女様に言われるのは心外ですな」
呆れ顔のリーゼロッテに鋭く切り返した老執事は手早くコルク栓を抜き、籐で編まれた籠にキーホルダーの如く取り付けていた極小さな陶器製ピッチャーを外し、適量の糖蜜を注いだ。
手慣れた所作で調理台へ置かれた高さ3㎝ほどの陶器を口元へ運び、僅かに啜ればハーブの効果で後味を引かない、さっぱりとした甘みが味覚を刺激する。
「おじ様、私も頂いて宜しいでしょうか?」
「あぁ、洗練された味に仕上がっているぞ」
小さいので慎重に受け取った吸血姫がちびりと舐めた糖蜜に頬を緩ませると、普段は感情を表に出さない老執事の口角が少しだけ上がった。
「ん…… 流石ですね、ゼルギウス」
「恐悦至極に御座います」
恭しく頭を下げた従者と主が言葉を交わしている間にも、かき氷機のハンドルを全力でぶん廻す銀狼娘により、削られた微細な氷が次々と硝子製の器に盛られる。
「………… (じぃ~)」
「そろそろ、これが必要ですかな?」
無言で見詰めてきた黒狼娘に老執事がボトルを軽く掲げて尋ねると、二つ返事で頷いた彼女が手を伸ばして受け取り、鼻歌混じりに真っ白なかき氷へ掛けていった。
さらに刻んであった洲桃のコンポートを幾つか添えて最初のひとつが完成に至り、会の主催者であるマルコが様子見していた来客達に向かい合う。
「此処に用意しているのはテラ大陸の氷菓子になります。一息に食べてしまうと頭痛が来るものの、とても美味ですので是非とも皆様にご賞味して貰いたい」
若干の注意など加えた言葉の後、特製ハーブシロップのかき氷が青肌エルフ娘達の手によって、順次に手渡されていく。
「冷たいですから、ゆっくり食べてください」
「ありがとう、気を付けるよ」
「…… 自然状態に近い氷の菓子か、興味深い」
「ッ、斬新な美味しさね。うちの宿屋でも出したいくらい」
「ふむ、ワインの香り付けが良い強調になっている」
確かめるように味を噛み締めながら招かれた商店主やギルド職員達が頷き、近場にいた馴染みの者同士で所感を交わし始める。
そんな彼らに対して商魂逞しいディルド家の父娘が製氷機に関する打診を持ち掛け、手際よく商談の道筋を付ける光景など見遣り、自身もかき氷の乗ったスプーンを咥えた。
(中々に良いが……)
この後、裏方に徹しているリーゼロッテと青肌エルフ達、人狼娘の二匹なども加えた地下ダンジョンの面々でかき氷を楽しむ手筈になっており、もう一杯を頂くことが決まっていたりする。
ともあれ、二杯分くらいなら飽きずに食せるだろうと高を括り、好評を博している製氷機のお披露目に最後まで今暫く付き合うことにした。
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