上 下
134 / 187

魔王、航空戦力を考える

しおりを挟む
「やはり、飛兵の有効性は高いな……」
「何やら褒められているようで、嬉しいですわ♪」

意図せずに零れた言葉にスカーレットが微笑む。

特にこの惑星では人間側の竜騎兵や、魔族側の翼種よくしゅは絶対数が少ない。そもそも、ワイバーンやハーピィ、吸血鬼も航空力学的に空を飛んでいる訳ではないためだ。

もし、純粋な生体構造のみで飛ぼうと思えば、どうしても体のサイズが小型の流線形となり、それに対して翼が肥大していく…… つまり、鳥類だ。

その観点から鑑みれば、どの種族も自重に対して十分な揚力を得られる姿形をしておらず、実際は魔力で起こした上昇気流を大きな翼に受けて飛翔し、風を操って大空を飛んでいる。そのため、長距離飛行や戦闘機動に耐えられる個体そのものが少ない。

数々の条件を乗り越えた飛兵は該当種族におけるエリートであり、育成に多大な時間とコストが掛かってしまう。そのため、ある程度の国力が無ければ飛兵隊を維持する事が困難なのだ。

(地球でもまともな空軍を持っているのは一部の国々のみだしな……)

例え空軍を名乗っていても、独立組の旧社会主義国やアフリカ諸国などの多くは各自で10機前後の旧式機を保有するに留まり、その半数は練習機と輸送機なので戦力としては微妙極まりない。

惑星ルーナでも地球でも航空戦力は貴重なのだと再認識していると、テントの天井付近に飴玉サイズの転移ゲートが開き、都市ブレア―ドにいるミツキの声が届く。

「我が君、配下の者が竜騎兵隊の影を捕捉しました、南西側からの侵攻です」

「よしッ、想定通りだな!」

吸血飛兵を本隊から分離させて別行動としたのは目立たせる事が目的で、都市に潜んでいる密偵の目を惹きつける意図があった。俺達の行動を監視して十分に都市から離れた頃合いを見計らい、満を辞して強襲を仕掛けたのだろうが…… 何も高速な移動手段は飛行だけじゃない。

「膨大な魔力消費を考えなければなッ!」

素早くテントの外に飛び出して、俺は木々の合間に見える銀月を掴むように手を伸ばしながら、魔力を籠めて術式を構築する。これで俺が遠征中に気兼ねなく使える魔力のほとんどを失うが、機を逸しては何の意味もない、大盤振る舞いだ!

此方こちら彼方かなたを繋げッ、転移方陣!!」

事前に都市ブレア―ドの転移と遠見を阻害する魔導装置を操作し、識別用の固有魔力を登録してあるため、然したる問題も無く都市上空と繋がった巨大な転移門が夜空に浮かぶ。

「さぁ、飛竜狩りの時間です、征きますわよッ!」
「「「はッ、御心のままに」」」

魔力の波動を感じて、待機から即座に集合した吸血飛兵が次々と靄のような黒い魔力翼を展開し、魔法で起こした上昇気流に乗って上空の転移門を目指す。

「では、おじ様、いってきます」
「あぁ、また後でな……」

昏い森の中で紅い瞳を煌々こうこうと光らせた吸血姫が妖艶な微笑を浮かべた直後、突風を残して宙に舞う。

「きゃうッ、す、砂が目に入ったですぅ」
「あぅ…… エルミア、擦っちゃ……… ダメ」

実質的なヴィレダの姉であるため、面倒見の良いベルベアが珍しくちゃんと言葉で注意するのを一瞥した後、大規模転移門に飛び込んでいく吸血鬼達を見送る。

「やはり相当の魔力が消し飛ぶな……」

「うぅ、中隊規模の質量を転移させるとか無茶なのです…… あ、取れた♪」

まぁ、過去の大戦で “終極しゅうきょく” の魔法使いがやってのけた記録から、理論的には有り得ると分かっていても、余りに例外的なので戦略の陥穽かんせいとなる。

(これが決め手に繋がってくれれば良いのだが……)

紛争による犠牲は最小限に留めたいとぬるい事を考えてしまう自分をあきれつつ、全ての吸血鬼達が転移を終えた事を確認して門を閉じ、今度は眼前に通常規模の転移ゲートを開いた。

「さて、俺達も行くか…… 頼らせてもらうぞ、ベルベア」
「……! (ん、頑張る!)」

無言でピンとケモ耳を立たせて気合いを入れた黒狼の娘、青銅の技師エルフと共に俺も転移先であるベイグラッド家の居城へと踏み出す。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...