110 / 187
魔王、次男坊をもてなす
しおりを挟む
「待たせてしまったな……」
「いえ、お気になさらず、こちらこそ急に来訪して申し訳ありません。お初にお目にかかります、シュタルティア王国ミザリア辺境伯ゲオルグ・ベイグラッドの次男、クリストファと申します。以後お見知りおきを」
都市エベルの小城の応接室に通されていたのは明るい茶髪の若い男だ。線が細く、飄々とした印象を受ける。そして、その背後には従者だろう背丈はそれほどでも無いが、鍛え抜いた体格の壮年の男が佇む。
「この者は私の護衛として連れて来たジグル・ヴェスタという者です」
クリストファの紹介に合わせてその男は丁寧にお辞儀をする。
「イチロー・タナカだ、宜しく頼む。イルゼ殿とは知己か?」
「えぇ、親父が色々とリースティア家にちょっかいを掛けていたのでその折に……」
「その節はお世話になりました。お元気そうですね、クリストファ殿」
隣で不機嫌さを隠さない金髪碧眼の令嬢を一瞥しつつ、クリストファにテーブルにつくように勧め、イルゼと共にその対面に座ると、頃合いを見計らって侍従のマリが菓子と紅茶を出す。
「話す前に少し喉を潤させてもらう、そちらもどうだ?」
「これは?初めて感じる香ですが…… 落ち着きますね」
それはそうだろう、この王国には今のところ飲み物と言えば酒とハーブティーぐらいしかないため、ほとんどの人間は紅茶など飲んだことはないはずだ。
ノースグランツ領でも栽培させたいのだが、残念な事に冷帯気候のこの土地では不可能だ。従って、地球からの輸入品としてしか入手できない。
「アールグレイティーだ、そっちの黒いのはチョコレートだな」
「こればもしや、噂に聞くテラ大陸の……」
元々、地球関連の事は魔族の中でも技術に関わる青銅のエルフ達と一部の者達しか知らない事で、都市エベルを含むノースグランツ領民には内緒にしていた。
その折、イルゼと一緒に新区画の工事現場を歩いていたヴィレダがエベルの職人たちに圧縮機や発電機などのオーバーテクノロジーの出元を聞かれ、咄嗟に吐いた嘘が ”海の彼方にあるテラ大陸” だ。
そこには見た事も無い先進的な技術と美味しいものが溢れているという…… そんな ”狼少女” の適当な嘘が独り歩きして、気が付けば都市エベルではその噂が蔓延していた。
(…… なるほど、都市内部に密偵兵くらいは潜り込ませているか)
「では、頂きます」
目の前のクリストファという男は出された食べ物を警戒していたようだが、好奇心が勝ったのか、恐る恐るティーカップに口を付ける。
「ッ、これは……ッ、此方も頂きます!」
瞬時に表情を色々と変化させ、おもむろにチョコレートを摘まんで口に放り込むと、そのまま沈黙してしまった。
「どうかされたのですか、クリストファ殿?」
その様子を訝しがって、碧眼を細めながらイルゼ嬢が問う。
「いや、失礼しました。イルゼ殿、このアールグレイの茶葉とチョコレートをベイグラッド家で仲買させてもらう事は可能でしょうか?上手く行けば双方の家に利があると思いますッ」
「それは……」
チラリとイルゼ嬢が此方を窺うので、首を左右に振る。
「申し訳ありません。テラ大陸由来の品は貴重ですから、商うだけの数が揃わないのです」
「あぁ、いや、すみませんつい……」
「で、本日の用件は何なのだ、まさか茶葉を買い付けに来た訳ではあるまい」
わざわざ、イルゼ嬢に俺の同席を頼んだらしいからな……
「いえ、お気になさらず、こちらこそ急に来訪して申し訳ありません。お初にお目にかかります、シュタルティア王国ミザリア辺境伯ゲオルグ・ベイグラッドの次男、クリストファと申します。以後お見知りおきを」
都市エベルの小城の応接室に通されていたのは明るい茶髪の若い男だ。線が細く、飄々とした印象を受ける。そして、その背後には従者だろう背丈はそれほどでも無いが、鍛え抜いた体格の壮年の男が佇む。
「この者は私の護衛として連れて来たジグル・ヴェスタという者です」
クリストファの紹介に合わせてその男は丁寧にお辞儀をする。
「イチロー・タナカだ、宜しく頼む。イルゼ殿とは知己か?」
「えぇ、親父が色々とリースティア家にちょっかいを掛けていたのでその折に……」
「その節はお世話になりました。お元気そうですね、クリストファ殿」
隣で不機嫌さを隠さない金髪碧眼の令嬢を一瞥しつつ、クリストファにテーブルにつくように勧め、イルゼと共にその対面に座ると、頃合いを見計らって侍従のマリが菓子と紅茶を出す。
「話す前に少し喉を潤させてもらう、そちらもどうだ?」
「これは?初めて感じる香ですが…… 落ち着きますね」
それはそうだろう、この王国には今のところ飲み物と言えば酒とハーブティーぐらいしかないため、ほとんどの人間は紅茶など飲んだことはないはずだ。
ノースグランツ領でも栽培させたいのだが、残念な事に冷帯気候のこの土地では不可能だ。従って、地球からの輸入品としてしか入手できない。
「アールグレイティーだ、そっちの黒いのはチョコレートだな」
「こればもしや、噂に聞くテラ大陸の……」
元々、地球関連の事は魔族の中でも技術に関わる青銅のエルフ達と一部の者達しか知らない事で、都市エベルを含むノースグランツ領民には内緒にしていた。
その折、イルゼと一緒に新区画の工事現場を歩いていたヴィレダがエベルの職人たちに圧縮機や発電機などのオーバーテクノロジーの出元を聞かれ、咄嗟に吐いた嘘が ”海の彼方にあるテラ大陸” だ。
そこには見た事も無い先進的な技術と美味しいものが溢れているという…… そんな ”狼少女” の適当な嘘が独り歩きして、気が付けば都市エベルではその噂が蔓延していた。
(…… なるほど、都市内部に密偵兵くらいは潜り込ませているか)
「では、頂きます」
目の前のクリストファという男は出された食べ物を警戒していたようだが、好奇心が勝ったのか、恐る恐るティーカップに口を付ける。
「ッ、これは……ッ、此方も頂きます!」
瞬時に表情を色々と変化させ、おもむろにチョコレートを摘まんで口に放り込むと、そのまま沈黙してしまった。
「どうかされたのですか、クリストファ殿?」
その様子を訝しがって、碧眼を細めながらイルゼ嬢が問う。
「いや、失礼しました。イルゼ殿、このアールグレイの茶葉とチョコレートをベイグラッド家で仲買させてもらう事は可能でしょうか?上手く行けば双方の家に利があると思いますッ」
「それは……」
チラリとイルゼ嬢が此方を窺うので、首を左右に振る。
「申し訳ありません。テラ大陸由来の品は貴重ですから、商うだけの数が揃わないのです」
「あぁ、いや、すみませんつい……」
「で、本日の用件は何なのだ、まさか茶葉を買い付けに来た訳ではあるまい」
わざわざ、イルゼ嬢に俺の同席を頼んだらしいからな……
0
お気に入りに追加
579
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる