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吸血令嬢、留守中です

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此処は東京都新宿区のマンションの一室、今日も今日とて、笹穂耳をピコピコさせながら、青銅のエルフ達がキーボードを叩く!

「あーうー、べ~イィ、この社内専用メッセンジャーソフト、微妙に要求仕様が非合理的なのですぅ」

「ミア、クライアント企業の要望だ、その仕様で設計してくれ」

リポビタンZの空容器を未練がましく逆さ向けて、最後の一滴まで飲もうとしていたカズィも二人の会話に入ってくる。

「でもよぅ、ベイ、要らない機能が結構あってさ、必要なモノが無いんだぜ? 納品したらきっと直ぐにメンテナンス依頼くるぞ」

「そこは保守契約の大切さをクライアントに分って貰えるってことで、良いんじゃないかな?」

「でもでも、保守業務までやり出したら人手が足りないのですぅ!」

「……ミア、この部屋からの引っ越しが済んだら、新しい同胞が来るよ」

との言葉は同じく地球に派遣されている青肌エルフ娘のディーレからのものだ。実は藤堂商事が合同会社“IRiA”のバックに付いてから、事業規模を拡大する計画が進んでいる。何せ、藤堂商事経由の仕事が結構くるのだ。

そのため、これまた藤堂商事の持ち物件のマンションを割安で2部屋借りて其処を新しい仕事場とし、計8名の青銅のエルフ達が詰める予定である。

ピンポーンッ

「ん、誰か来たのです、はい~♪」

“お疲れ様です、皆さん”

本格的に合同会社“IRiA”が動き出してから近所の雑居ビルにオフィスを構えて、営業と経理を担当している柏原の声が返ってきた。

「あ、カシワラさん、乙ですぅ」

4LDKのマンションのリビング12.5帖に対し、青銅のエルフ4名、カシワラとその秘書のモリミヤの2人の計6名もいると手狭になってしまうが仕方ない……

「…… 麦茶、いります?」
「ありがとうございます、ディーレさん。ところでイリア様は?」

「イリア様なら…… “流しそうめんの具材を揃えろ”という我が王からの至上命令でラ〇フまで買いものに出かけています」

「はい?流しそうめんですか…… 確かに最近は熱いですが、惑星”ルーナ”も?」

カシワラは首を捻る。

「いえ、イリア様が此方の状況を報告した時に、季節の話題が出まして……」

「俺達も今夜は向こうに戻って、流しそうめんなるものに参加ですよ」

「ちゃんとググってあるので、これで熾烈な素麺の奪い合いにも負けないのです……うぅ、終点のたらいに落ちた素麺をみすぼらしく啜る訳にはいかないのですぅ」

ミアがぐっと両手を握り込む。

「………… そうですか」
「ところで、何の用だったのです?」

「いえ、今回の事業規模の拡大で増やす経営側の人員の相談ですよ」
「…… 山之上君は良いとして、他の方はイリア様に選んでいただいく必要があるの」

ぼそっと彼の後ろからモリミヤが捕捉した。

「あ~、カプ、チュ~ですね」

「留守なら仕方ありません、また出直します。帰ろうか、聡子」
「はい、麦茶、ご馳走さまでした」

さっと立ち上がったカシワラの後にモリミヤが続いて去っていき、またもと通りに青肌のエルフ4名が残る。

「さて、流しそうめんの前にコードを流し読むぜッ!」

リポビタンZの効果か、無駄に元気になったカズィの声がリビングに響くのだった。
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