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魔王、道路工事のお知らせを届ける

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「あう~、ヴィレダ殿、助けてください」
「む~、あたしそれ嫌い……」

慣れない書類仕事に疲れた表情で金髪碧眼の令嬢あらため、ノースグランツ領主がぐで~と執務机に上半身を投げ出す。窓から差し込む昼下がりの陽光がその金糸の髪を輝かせた。

「…… お嬢さま、もうちょっと頑張ったらお茶にしましょう!イリア様から頂いたMariage Fr○resのアールグレイと私が焼いたスコーンがありますから!!」

マリが何とかイルゼ嬢を宥めすかして、今日のノルマをこなさせようとする。本心では甘やかしたいのであるが…… それをやっても問題の先送りにしかならない。

「マリ、主を食べ物で釣ろうとしても無駄ですよ?」

肝心の主は釣れなかったが、代わりにケモ耳をピクっと反応させた天狼の娘がエサに食いつく。

「アールグレイ? それ、美味しいの」

以前の牛丼を筆頭に地球の食べ物はどれも美味しいものであるため、ヴィレダはすっかり魅了されていたのだ。

「“ふらんす”さんという方が作った紅茶らしいです。イリア様の麾下にいるトウドウという方が想像以上に有能なそうで、何でも直ぐに取り寄せてくれるとか……」

「そう言えば、リーゼロッテ殿が ”これで圧縮機と太陽光発電設備が手に入るのじゃッ” とか言っていましたね~、一体何なのでしょう」

相変わらず、執務机に伏せたままのイルゼ嬢がやる気なさげに呟いた丁度その時、執務室の扉が3度叩かれる。

「イルゼ殿、俺だ、入るぞ」
「はわっ、ちょ、ちょっと待ってください!!」

慌てて投げ出した身を起こし、彼女は手櫛で素早く少し乱れた髪を整えていく。

「マリ?」

「はい、いつも通りお美しいですよ、お嬢様」
「ん、大丈夫ッ!」


何か物音と“大丈夫ッ!”とか聞こえてきたが……
(ふむ、ヴィレダが来ているのか…… しかし、何をしているのやら)

などと、詮無きことを考えているうちに扉越しに声が返ってきたので執務室に入る。

「邪魔をするぞ」

「お疲れ、イチロー」
「暫く振りですね、魔王殿」

「あぁ、そう言えばそうだな…… 俺もイルゼ殿もここのところ忙しかったからな」
「ですよね……」

彼女は軽くため息を吐きながら机上にある書類の束を見詰める。俺の場合はスカーレットとミツキが助けてくれるが、イルゼ殿はそうもいかないようだ……

「さらに仕事を増やすようで気が引けるが…… 都市エベルが保有する帆船の艤装に関する話だ、第3工房区画のエルミア班が計画書を仕上げてくれた」

A4とA3が入り混じった十数枚の計画書を手渡すと、それを受け取った彼女は素早くざっと目を通していく。

「…… 先ずは小型の帆船から蒸気機関を搭載して大砲を取り付けるのですね。それに船底や船体に鉄板を張り付けて補強ですか……」

何度か資料を読み返して、彼女はその内容を吟味する。

「あぁ、それで海上戦力は格段に上がる。そもそも、速度と機動性、火力で相手を上回れば何とでもなるからな。資材と費用はそっち持ちになるが、構わないな?」

「艤装後の船舶所有権は都市エベルにあるのですよね、それならば私達の負担でも異論はありません」

まぁ、都市防衛の責任者を任せてあるグレイドが彼女と話を詰めていたので、円滑に同意を得られる下地はもともとある。問題はもう一つの方だ。

「それと、これはまだ試案の段階だが……」

前置きして、俺は追加の資料をそっと提示した。

そこには……

“ダンジョン - 都市エベル間の道路工事のお知らせです” 

と、青銅のエルフである技師エルミアの丸っこい字が記されているのだった。
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