73 / 187
魔王、ベヒモス鍋を遠慮する
しおりを挟む
ふむ、割と力押しではあったが、イルゼ嬢は魔獣としては強力な部類に入るベヒモスを倒して見せた。もう、人間としては何かしらの称号を得られる程の強さを持っているのではなかろうか?
これも、訓練場に通い詰めていた成果だろう。
「ふふっ、予想通りですわ、おじ様」
「ああ、かなりのものだな……派手さと突破力に欠けるが、状況への対応力は高い」
これで、積極的に上層、ひいては地上への侵攻に加わってくれれば嬉しいんだけどな。どうしても、今の魔族の数を考えれば、人間達と事を構えるのは無謀に感じる。
ダンジョンに引き籠って細々と生きるか、どこかで人間達と折り合いをつける必要がある。差し当たってはこのダンジョンがあるシュタルティア王国の領地を何とかしなければならない。
「イルゼ嬢には是非、協力してもらいたいものだ……」
「そう考えると、良い拾い物をしたのかもしれませんわね、我が君」
着物の様な和装姿の鬼姫は薄く微笑んでいる。
「それと、アレを頂いても宜しいでしょうか?」
彼女の視線の先には地に倒れるベヒモスがある。
「何に使うんだ?」
「いえ、普通に調理して皆でいただくのですよ、ベヒモス鍋と言ったところでしょうか?」
…… 食べるのか、これを。
このダンジョンに籠る様になってから、魔族の食生活は一時期、困窮したことがあるという。後に生産区画の再整備と青銅のエルフ達の研究の成果、戦死による魔族の減少の複合的な要素により、食糧需給はある程度安定するわけだが……
その過渡期の苦しい時代、我が同胞は食べられるモノはできる限り無駄にしないという文化を身に付けたらしい。
まさに、“もったいない”スピリットである。
若干、引き気味な俺にミツキは言ってのけた。
「案外と美味しいかもしれませんわ。外見がイノシシに見えない事もないですから…… ですので、鍋かと」
「おぅ、それは旨そうだな。期待させてもらうぜ、ミツキ殿」
「あ、あたしも食べてくよッ。ベルベアは?」
「……… (………じゅるり)」
「…… 私はゼルギウスが用意している夕餉がありますので、遠慮いたしますわ」
何気にダロス、ヴィレダが乗り気で、スカーレットは微妙に嫌そうだ。
そして、ベルベア、涎が垂れかけているぞ!
「わかった、好きにしてくれ……」
「では、すぐに血抜きをおこないませんとね…… お前達ッ!」
数名の鬼人兵を引き連れて、ミツキがベヒモスに近付いていく。
あぁ、そうだ。忘れかけていた。
俺もその後を追い、地に倒れるベヒモスの亡骸の前に立つ。
「我が君、どうかなさいましたか?」
「あぁ、ちょっとな」
ミツキに軽く返事をして、腰に吊るした鞘からミスリル製日本刀を居合の要領で抜き放つ。
チンッ
っと、刃が鞘に戻る音と同時にベヒモスの黒い角が落ちる。
それを拾い上げて俺はイルゼ嬢の所に持っていく。
「イルゼ殿、戦利品だ。ベヒモスを討った証になる」
「…… 魔王殿、ありがとう御座います」
ついでにイルゼ嬢の頭を撫ぜながら、ヒーリングを施しておく。
「……何故、いつも頭なのですか?」
「ん、嫌だったか?次からは控えよう」
「いえ……」
彼女は顔を俯かせてしまったので、その表情は読めない。
まぁ、ホントに嫌そうならこの治癒魔法の施し方は止めるとしよう。
「ダロスッ、後は任せる」
「はっ、承りました」
黒毛のミノタウロスに見送られ、ベヒモス鍋を食べるヴィレダとベルベアを残し、俺とスカーレット、イルゼ嬢達は最下層に戻るのだった。
これも、訓練場に通い詰めていた成果だろう。
「ふふっ、予想通りですわ、おじ様」
「ああ、かなりのものだな……派手さと突破力に欠けるが、状況への対応力は高い」
これで、積極的に上層、ひいては地上への侵攻に加わってくれれば嬉しいんだけどな。どうしても、今の魔族の数を考えれば、人間達と事を構えるのは無謀に感じる。
ダンジョンに引き籠って細々と生きるか、どこかで人間達と折り合いをつける必要がある。差し当たってはこのダンジョンがあるシュタルティア王国の領地を何とかしなければならない。
「イルゼ嬢には是非、協力してもらいたいものだ……」
「そう考えると、良い拾い物をしたのかもしれませんわね、我が君」
着物の様な和装姿の鬼姫は薄く微笑んでいる。
「それと、アレを頂いても宜しいでしょうか?」
彼女の視線の先には地に倒れるベヒモスがある。
「何に使うんだ?」
「いえ、普通に調理して皆でいただくのですよ、ベヒモス鍋と言ったところでしょうか?」
…… 食べるのか、これを。
このダンジョンに籠る様になってから、魔族の食生活は一時期、困窮したことがあるという。後に生産区画の再整備と青銅のエルフ達の研究の成果、戦死による魔族の減少の複合的な要素により、食糧需給はある程度安定するわけだが……
その過渡期の苦しい時代、我が同胞は食べられるモノはできる限り無駄にしないという文化を身に付けたらしい。
まさに、“もったいない”スピリットである。
若干、引き気味な俺にミツキは言ってのけた。
「案外と美味しいかもしれませんわ。外見がイノシシに見えない事もないですから…… ですので、鍋かと」
「おぅ、それは旨そうだな。期待させてもらうぜ、ミツキ殿」
「あ、あたしも食べてくよッ。ベルベアは?」
「……… (………じゅるり)」
「…… 私はゼルギウスが用意している夕餉がありますので、遠慮いたしますわ」
何気にダロス、ヴィレダが乗り気で、スカーレットは微妙に嫌そうだ。
そして、ベルベア、涎が垂れかけているぞ!
「わかった、好きにしてくれ……」
「では、すぐに血抜きをおこないませんとね…… お前達ッ!」
数名の鬼人兵を引き連れて、ミツキがベヒモスに近付いていく。
あぁ、そうだ。忘れかけていた。
俺もその後を追い、地に倒れるベヒモスの亡骸の前に立つ。
「我が君、どうかなさいましたか?」
「あぁ、ちょっとな」
ミツキに軽く返事をして、腰に吊るした鞘からミスリル製日本刀を居合の要領で抜き放つ。
チンッ
っと、刃が鞘に戻る音と同時にベヒモスの黒い角が落ちる。
それを拾い上げて俺はイルゼ嬢の所に持っていく。
「イルゼ殿、戦利品だ。ベヒモスを討った証になる」
「…… 魔王殿、ありがとう御座います」
ついでにイルゼ嬢の頭を撫ぜながら、ヒーリングを施しておく。
「……何故、いつも頭なのですか?」
「ん、嫌だったか?次からは控えよう」
「いえ……」
彼女は顔を俯かせてしまったので、その表情は読めない。
まぁ、ホントに嫌そうならこの治癒魔法の施し方は止めるとしよう。
「ダロスッ、後は任せる」
「はっ、承りました」
黒毛のミノタウロスに見送られ、ベヒモス鍋を食べるヴィレダとベルベアを残し、俺とスカーレット、イルゼ嬢達は最下層に戻るのだった。
0
お気に入りに追加
579
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
❤️レムールアーナ人の遺産❤️
apusuking
SF
アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。
神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。
時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。
レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。
宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。
3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる