【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
7 / 39

7 ひよっ子、恐縮する

しおりを挟む
 それからヤンは、仲間たちに色んなことを教えてもらった。騎士はハリア様に仕えているから城にいて、この寄宿舎にいるのは騎士見習いや従騎士だとか、アンセルの家族は大人数で、一個旅団並の人数が城やその周辺で働いているらしい。従騎士は、黄色い刺繍の騎士服を着ているからすぐに分かるそうだ。確かに、ヤンと同じ揃いの紺の服を着ている。

「この辺で真雁と聞けば、まずアンセル様の親戚だからな」
「へぇ」

 元々真雁は家族単位で群れる種だ。アンセルも家族想いな節を見せていたし、大切な存在があるっていいな、とヤンは胸が温かくなる。

「そうそう、アンセル様の親戚が作った服とかアクセサリーは、女性に贈ると上手くいくって話だ」

 そういえば、家族経営で王室お抱えとも聞いた。それだけ質がよいものをプレゼントされたら、女性はさぞかし嬉しいだろう。

「ヤンはどんな服が欲しい?」
「え? 僕ですか?」
「あ、ずるいぞ。俺だってヤンに贈りたい!」
「俺も!」

 どうやらヤンに荷物がないことに気付いて、気を遣ってくれたらしい。優しくていいひとたちだなぁ、とヤンは笑う。
 すると、肩を組んでいた仲間がヤンの太ももに手を置いた。

「レックス様は厳しいけど、めげずに俺たちと一緒に頑張ろうな」
「はいっ」

 ヤンは素直に返事をすると、仲間たちの目尻が下がった。中には鼻の下が伸びた者もいたが、ヤンは気付かない。

「レックス様は実質、この国二番手の実力者だからな」

 ちなみに一番はハリア様な、と皆が言う。

「そんなひとに認められたヤンは本当に凄いんだ、自信持てよ?」

 そう言って、仲間たちはぞろぞろと部屋を出ていく。話すだけ話して、気が済んだので帰るらしい。別れ際に頬を合わせてきたので、挨拶かと思ってヤンは同じように応じた。
 しんとなった部屋で、ヤンはしばらく言われた言葉を噛み締めていた。死に物狂いで動いたら、結果的に蛇をやっつけることができたという事実はもう変わらない。ここでようやく、自分が役に立てたこと、ひとに感謝されたことの大きさを自覚できた。

 じわりと視界が滲む。

 初めて、生きている意味が見いだせた。それがこんなにも嬉しいなんて。

「……頑張ります……っ」

 袖で涙を拭き、ヤンは決意を言葉にする。この優しいひとたちと、釣り合う自分になりたい。そう思ったら、部屋で休むことなんてできなかった。何かしなきゃ、と焦りにも似た気持ちで立ち上がる。

 ヤンは部屋を出ると、食堂へ向かった。レックスに案内された時にもひとがいたから、まだいるかもしれない、と覗いてみる。

「あ、噂の英雄ちゃんだ」
「ホントだ。うわ、マジでかわいいっ」

 少し覗いただけだったのに、目ざとく気付いた従騎士たちは、わらわらと集まってくる。どうやら彼らの間ではヤンはもう有名人で、みなヤンがどんな人柄なのか知りたいらしい。

「食事に来たの?」
「い、いえ、何もすることがなくて……。ここなら、誰かいるかなって」
「何だ、ハリア様に休めって言われたなら休むんだよ」

 どうやらここにいたひとたちは、先程のひとたちよりも少し穏やかな性格のようだ。ニコニコと笑っているのは同じだけれど、押しの強さや豪快さはあまり感じられない。

「いいかい? きみは騎士と馴染みがなかったみたいだから言うけど、休むのも大事な任務だよ」
「は、はい……」

 注意されてしまった、とヤンは視線を落とすと、肩を抱かれる。背中をそっと押されて席に案内されると、別のひとが飲み物を持ってきてくれた。

「これを飲んだら部屋に戻ろう」
「あ、ありがとう、ございます……」

 そう言って、ヤンは飲み物を口にする。その様子を周りが微笑ましそうに見ていて、何だか落ち着かない。

「……きみは従騎士になる前、どこに仕えていたんだ?」
「えっ?」

 いきなりされた質問に、ヤンはドキリとする。しかし皆は気にしていないのか、それぞれの主人の名前を挙げていた。

「騎士と貴族はイコールだよ? 実績を出してハリア様に認めてもらうんだ、知らなかった?」
「す、すみません、不勉強で……」

 まさか従騎士になるためにも、相応の身分が必要だとは思わなかったヤンは、身体を縮こまらせる。すると皆は慌てた。

「い、いやっ! そんなことないっ。誰もが初めは知らないんだし」
「そうそう! 俺たちは座学が得意だから、戦略とか地理の話はできるよ! 一緒に勉強しよう!」

 慌てる周りにヤンは、レックスが言った言葉を思い出す。お前は下積みなしに騎士候補になったと。それはこういうことも指していたのか、と納得した。騎士になるという道は、ヤンが想像するより難しいものらしい。

「立場が上なのにヤンは威張ることもしないね。俺、ヤンが好きだ」
「俺も!」
「えっ、あっ、……恐縮です……っ」

 どうやらヤンの態度を謙虚と受け取ったらしい仲間たちは、仲良くしよう、と握手を求められた。両手でしっかり、熱がこもった握手をされて、ヤンはますます恐縮する。

「あ、あの、……皆さんは相部屋ですか? 僕、今まで雑魚寝の生活だったので、ひとり部屋が落ち着かなくて……」

 勉強するついでに落ち着く方法はないかとヤンが聞いてみると、皆歓迎してくれた。みんなで勉強しながらそのまま寝たらいいよ、と言ってくれたので、言葉に甘えることにする。

 ヤンが飲み物を飲み終わると、コップを洗って片付ける場所も教えてくれた。基本この寄宿舎は、自分のことは自分でやるらしい。当番制で食事を作ることはあるけれど、お腹が空いたら自由に使っていいようだ。随分と大盤振る舞いだな、とヤンは思う。
 するとすぐに、その理由を周りが教えてくれる。

「俺たちは市民の税金で生かされてるからね。いざと言う時に腹が減って動けないじゃ、市民を守れないだろ?」

 なるほど、とヤンは思う。いつ何時なんどきも、動けるように備えておく。その心構えも騎士道だよ、と教えてもらった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

処理中です...