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4 ひよっ子、彼シャツを着る
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城の中は複雑に入り組んでいて、初めて来たヤンには到底道順を覚えられるものではなかった。
レックスはある部屋の前で足を止めると、「ここがアンセルの部屋だ」と教えてくれる。そしてさらに廊下の奥を指さし、その隣がレックスの部屋、さらに奥がハリアの部屋だと言った。
「有事の時以外はハリア様の部屋には入るな。これは俺たちでも守らなければならないことだ」
ヤンは頷くと、それと、とレックスは続ける。
「俺の部屋にも入らないこと。俺の世話は俺が部屋を出てから……」
「ちょっと待ってよレックス。それじゃあ従騎士の意味がない」
身分の高いひとの私室には勝手に入らないことには納得だが、部屋にも入らずにレックスのお世話はできない。それはアンセルも分かったのだろう、ヤンを部屋に入れないなんてと言っている。
「そもそも、俺は今まで一人でやってきてたんだ、事足りてるから世話は必要最低限でいい」
レックスにそう言われてヤンは視線を落とす。ここまできて仕事もそんなに与えられないのなら、ここにいる意味がなくなる。かと言って戻る場所もないのだ、せっかく文字通り、決死の覚悟で来たのに。
そんなことを考えていると、ぐい、と腕を引かれた。長い腕に囲われ見上げると、またアンセルに抱きしめられている。
「じゃあ、手が空いてる時は俺の所においでよ」
「え?」
「おいアンセル」
レックスが鋭い視線でこちらを見てくる。ヤンからはアンセルの顔は見えないけれど、いい雰囲気ではないことは感じ取れた。
「……分かった。こっちに来い」
レックスはため息をついて嫌そうに言うと、ヤンはアンセルに背中を押される。彼がフォローをしてくれたのだと思って、ヤンは一礼してレックスの元へと急いだ。相変わらず怖い顔をしてこちらを見ていたレックスは、ヤンが追いつくのを待たずにまた歩き始める。
「いいか、部屋に入るのは許可するが、寝室だけには入るな。それが守れなかった場合は即座に従騎士を降りてもらう」
「はい!」
よかった、とヤンはホッとする。そもそも主人の寝室にまで入ってする仕事などなさそうだし、とレックスに続いて彼の部屋に入った。
そこは、騎士団長という立派な肩書きがあるとは思えないほど、シンプルな部屋だった。けれどやはり高い身分なのだな、と思うのは、大きな窓やタペストリーがあり、家具も壊れていないところだ。お偉いさんってもっと華美な部屋にいるかと思った、とヤンは部屋の綺麗さに感動していると、レックスに呼ばれて背筋を伸ばす。
「こっちが寝室。ここは何があっても入るな」
「はい」
真剣な顔をしてヤンは頷くと、レックスはすぐに顔を逸らす。合わない視線に拒絶を感じるけれど、認めてもらうまで頑張らないと、と心の中で気合いを入れた。
「お前が寝泊まりする場所は、寄宿舎だ。毎日ここに来て仕事をすることになる」
「はい」
「仕事内容は明日、一日を過ごしながら伝える。その方が覚えやすいだろう」
「はいっ」
レックスから従騎士としての具体的な仕事を教えてもらえると感じ、ヤンは笑顔で返事をする。するとレックスは片手で顔を覆い、大きなため息をついていた。また何かやってしまったのだろうか、と思ってヤンはレックスの顔を覗き込む。
「レックス様?」
「……騎士たるもの、そんな気が抜けそうな顔を見せるんじゃない」
手を外してもこちらを見ないレックスにそう言われ、ヤンはどうして、と首を傾げた。確かに戦闘中にまで、笑っていたらよくないことは分かるけれど。騎士とは普段も引き締まった顔をしていないとダメなのだろうか。それではアンセルはどうなるのだろう?
「いいか、従騎士とは主人の世話だけでなく、騎士としての心構えなども教わるんだ。お前はろくな下積みなしに騎士候補になった。気を抜いていたら引きずり下ろされるぞ」
なるほど、とヤンは思う。もう自分は、騎士として生きる道に乗ってしまったのだ、と一気に緊張した。やはり気を引き締めなければ、と拳を握る。
「が、頑張りますっ! レックス様、よろしくお願いします!」
「……っ」
ヤンは大きな声でそう言いお辞儀をすると、レックスはなぜか息を詰めた。見上げると彼は頭だけを下に向けて、身体の横で両手を力一杯握っている。その手は小刻みに震えていて、何かに耐えているようだ。
「あの、レックス様?」
体調でも悪いのだろうか、とヤンは窺うと、ゆっくりと彼の頭が下がっていく。それは先程見た、お辞儀のような行動だ。
すぐに姿勢を戻したレックスはひとつ咳払いをする。
「その、……癖でお辞儀をしてしまうが気にしないでくれ」
気まずそうに言うレックスは、やはりヤンを見ない。ヤンは礼儀正しいレックスに少し好感を抱き、はい、と素直に返事をした。
「……では、この部屋での仕事はやりながら覚えてもらうとして。これから寄宿舎と訓練場を案内する」
「よろしくお願いします」
ヤンの返事に頷いたレックスは、その前に、ととあるチェストの前に向かった。そして引き出しを開け、服を出している。
彼は持ってきた服をヤンに差し出すと、身だしなみも騎士として恥ずかしくないように、と言った。
もしかして、この服を着ろと言うのだろうか、とヤンは受け取ると、それを床に置いて着ている服を脱ぐ。すぐに渡された服の袖に腕を通したけれど、案の定、ものすごく大きい。それでもこれはレックスの好意だろう。今着ている服がボロボロで、みすぼらしいからこの服を渡されたんだな、と下穿きも替える。しかし、どこもかしこもブカブカで、襟ぐりから肩が出てしまった。どうしよう、これでは動きにくい。
「あの、レックス様……これで……」
「アンセル!!」
これで正解なのだろうかとヤンは主人を見ると、彼はよく通る大きな声でアンセルを呼ぶ。しかもレックスはなぜか壁の方を向いていて、壁に向かってアンセルの名を叫んでいた。
「アンセル! 早く来い!」
「はいはい、何ですかそんなに大声で」
すぐに部屋に来たアンセルは、ダボダボの服を着たヤンを見てニヤリと笑う。ヤンはこの格好がおかしくてアンセルが笑い、レックスが直視できないほど不格好なのだと悟ると視線を落とした。やはり自分は服を着替えたくらいじゃ、騎士として認めてもらえないらしい。
「少し詰めてやってくれ。あまりにも……その……」
「身長差考えたら分かるでしょー? それなのに騎士団長様がご自分の服をお与えになるとは」
笑いながらヤンが着た服を摘んだアンセル。彼の言葉は、ヤンには嫌味のように聞こえた。言われたレックスは視線でアンセルを貫きそうなほど鋭く睨む。
「ひぃ……っ」
しかしその鋭さに怯んだのはヤンで、アンセルは気にせず「動かないで」と手のひらや指で長さを測っている。どうして睨まれても平気なのだろう、とヤンはアンセルの心の強さを尊敬した。
「す、すみませんっ。服はこれしかない上に、せっかく頂いたものも着こなせず、みすぼらしくなってしまって……!」
「あはは、ひな鳥ちゃんはほんと、かわいいねぇ」
せめて優しいアンセルからでも、騎士らしくなったねと言われるようにならないと、ただの穀潰しになる。ヤンは密かに頑張るぞ、と気合いを入れた。
レックスはある部屋の前で足を止めると、「ここがアンセルの部屋だ」と教えてくれる。そしてさらに廊下の奥を指さし、その隣がレックスの部屋、さらに奥がハリアの部屋だと言った。
「有事の時以外はハリア様の部屋には入るな。これは俺たちでも守らなければならないことだ」
ヤンは頷くと、それと、とレックスは続ける。
「俺の部屋にも入らないこと。俺の世話は俺が部屋を出てから……」
「ちょっと待ってよレックス。それじゃあ従騎士の意味がない」
身分の高いひとの私室には勝手に入らないことには納得だが、部屋にも入らずにレックスのお世話はできない。それはアンセルも分かったのだろう、ヤンを部屋に入れないなんてと言っている。
「そもそも、俺は今まで一人でやってきてたんだ、事足りてるから世話は必要最低限でいい」
レックスにそう言われてヤンは視線を落とす。ここまできて仕事もそんなに与えられないのなら、ここにいる意味がなくなる。かと言って戻る場所もないのだ、せっかく文字通り、決死の覚悟で来たのに。
そんなことを考えていると、ぐい、と腕を引かれた。長い腕に囲われ見上げると、またアンセルに抱きしめられている。
「じゃあ、手が空いてる時は俺の所においでよ」
「え?」
「おいアンセル」
レックスが鋭い視線でこちらを見てくる。ヤンからはアンセルの顔は見えないけれど、いい雰囲気ではないことは感じ取れた。
「……分かった。こっちに来い」
レックスはため息をついて嫌そうに言うと、ヤンはアンセルに背中を押される。彼がフォローをしてくれたのだと思って、ヤンは一礼してレックスの元へと急いだ。相変わらず怖い顔をしてこちらを見ていたレックスは、ヤンが追いつくのを待たずにまた歩き始める。
「いいか、部屋に入るのは許可するが、寝室だけには入るな。それが守れなかった場合は即座に従騎士を降りてもらう」
「はい!」
よかった、とヤンはホッとする。そもそも主人の寝室にまで入ってする仕事などなさそうだし、とレックスに続いて彼の部屋に入った。
そこは、騎士団長という立派な肩書きがあるとは思えないほど、シンプルな部屋だった。けれどやはり高い身分なのだな、と思うのは、大きな窓やタペストリーがあり、家具も壊れていないところだ。お偉いさんってもっと華美な部屋にいるかと思った、とヤンは部屋の綺麗さに感動していると、レックスに呼ばれて背筋を伸ばす。
「こっちが寝室。ここは何があっても入るな」
「はい」
真剣な顔をしてヤンは頷くと、レックスはすぐに顔を逸らす。合わない視線に拒絶を感じるけれど、認めてもらうまで頑張らないと、と心の中で気合いを入れた。
「お前が寝泊まりする場所は、寄宿舎だ。毎日ここに来て仕事をすることになる」
「はい」
「仕事内容は明日、一日を過ごしながら伝える。その方が覚えやすいだろう」
「はいっ」
レックスから従騎士としての具体的な仕事を教えてもらえると感じ、ヤンは笑顔で返事をする。するとレックスは片手で顔を覆い、大きなため息をついていた。また何かやってしまったのだろうか、と思ってヤンはレックスの顔を覗き込む。
「レックス様?」
「……騎士たるもの、そんな気が抜けそうな顔を見せるんじゃない」
手を外してもこちらを見ないレックスにそう言われ、ヤンはどうして、と首を傾げた。確かに戦闘中にまで、笑っていたらよくないことは分かるけれど。騎士とは普段も引き締まった顔をしていないとダメなのだろうか。それではアンセルはどうなるのだろう?
「いいか、従騎士とは主人の世話だけでなく、騎士としての心構えなども教わるんだ。お前はろくな下積みなしに騎士候補になった。気を抜いていたら引きずり下ろされるぞ」
なるほど、とヤンは思う。もう自分は、騎士として生きる道に乗ってしまったのだ、と一気に緊張した。やはり気を引き締めなければ、と拳を握る。
「が、頑張りますっ! レックス様、よろしくお願いします!」
「……っ」
ヤンは大きな声でそう言いお辞儀をすると、レックスはなぜか息を詰めた。見上げると彼は頭だけを下に向けて、身体の横で両手を力一杯握っている。その手は小刻みに震えていて、何かに耐えているようだ。
「あの、レックス様?」
体調でも悪いのだろうか、とヤンは窺うと、ゆっくりと彼の頭が下がっていく。それは先程見た、お辞儀のような行動だ。
すぐに姿勢を戻したレックスはひとつ咳払いをする。
「その、……癖でお辞儀をしてしまうが気にしないでくれ」
気まずそうに言うレックスは、やはりヤンを見ない。ヤンは礼儀正しいレックスに少し好感を抱き、はい、と素直に返事をした。
「……では、この部屋での仕事はやりながら覚えてもらうとして。これから寄宿舎と訓練場を案内する」
「よろしくお願いします」
ヤンの返事に頷いたレックスは、その前に、ととあるチェストの前に向かった。そして引き出しを開け、服を出している。
彼は持ってきた服をヤンに差し出すと、身だしなみも騎士として恥ずかしくないように、と言った。
もしかして、この服を着ろと言うのだろうか、とヤンは受け取ると、それを床に置いて着ている服を脱ぐ。すぐに渡された服の袖に腕を通したけれど、案の定、ものすごく大きい。それでもこれはレックスの好意だろう。今着ている服がボロボロで、みすぼらしいからこの服を渡されたんだな、と下穿きも替える。しかし、どこもかしこもブカブカで、襟ぐりから肩が出てしまった。どうしよう、これでは動きにくい。
「あの、レックス様……これで……」
「アンセル!!」
これで正解なのだろうかとヤンは主人を見ると、彼はよく通る大きな声でアンセルを呼ぶ。しかもレックスはなぜか壁の方を向いていて、壁に向かってアンセルの名を叫んでいた。
「アンセル! 早く来い!」
「はいはい、何ですかそんなに大声で」
すぐに部屋に来たアンセルは、ダボダボの服を着たヤンを見てニヤリと笑う。ヤンはこの格好がおかしくてアンセルが笑い、レックスが直視できないほど不格好なのだと悟ると視線を落とした。やはり自分は服を着替えたくらいじゃ、騎士として認めてもらえないらしい。
「少し詰めてやってくれ。あまりにも……その……」
「身長差考えたら分かるでしょー? それなのに騎士団長様がご自分の服をお与えになるとは」
笑いながらヤンが着た服を摘んだアンセル。彼の言葉は、ヤンには嫌味のように聞こえた。言われたレックスは視線でアンセルを貫きそうなほど鋭く睨む。
「ひぃ……っ」
しかしその鋭さに怯んだのはヤンで、アンセルは気にせず「動かないで」と手のひらや指で長さを測っている。どうして睨まれても平気なのだろう、とヤンはアンセルの心の強さを尊敬した。
「す、すみませんっ。服はこれしかない上に、せっかく頂いたものも着こなせず、みすぼらしくなってしまって……!」
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せめて優しいアンセルからでも、騎士らしくなったねと言われるようにならないと、ただの穀潰しになる。ヤンは密かに頑張るぞ、と気合いを入れた。
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