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とあるショッピングモールの一角、真洋は日本最大手の楽器店で、週2回トランペットの講師をしている。

生徒は子供から大人まで幅広い。始めたばかりの小さい子、本気で音大を目指す学生、趣味で始めたセカンドライフを楽しむ大人、それぞれ目的は違えど、真洋のレッスンを楽しんでくれている。

初めは人に教えるなんて、と思っていた。この仕事を斡旋してくれたのは、晶だ。

それまでは細々と色んなところで演奏をしていた。その収入は微々たるものだったし、アイドル時代に培ってきた印税収入もあったので、生活には困っていなかった。

しかし、人間は何かしていないと、自分の存在価値を無くしてしまうらしい。このままじゃダメだと、ここのレッスンをきっかけに、あとは真洋自信が仕事を広げていった。

「先生、ありがとうございました」

レッスンを終えた学生が帰っていく。今日は金曜日、今の生徒でレッスンの仕事は終わったから、後はどこかで暇を潰しながら、和将の連絡を待てばいい。

そう思ってスマホを確認すると、珍しく和将からもうメッセージが届いていた。

『ごめん、どうしても外せない仕事が入った。今日は無しで』

「……何だよ……」

真洋はため息をついた。でも、少しホッとしている自分がいる。

和将には弱ってる所ばかり見られているから、会うのは気まずい。どうしてあの時、和将に連絡したのか、真洋は考えないようにしていた。

(ヤれば、スッキリできると思ったんだな。うん、そうに違いない)

お酒で記憶を失くすのも困ったものだと思う。その時何を思い、何を感じていたのか、全然分からないのだから。

真洋はショッピングモールを出ると、『А』へ向かう。

やる事もないし、暇を潰すならそこしかない。










『А』に着くと、晶はいないかと探す。このくらいの時間なら、いつもいるはずだ。

「あら真洋ちゃん。今日もお疲れ様」

「店長、晶はまだ来てないのか?」

真洋の言葉を聞いて、店長は肩をすくめる。

「今日は金曜日でしょ? 真洋ちゃんが来ないの分かってるからじゃなぁい? 今日はあのイケメンちゃんとデートじゃないの?」

意外な店長の言葉に、真洋は驚いた。晶は毎日この店にいるものだと思っていたのだ。

「今日はキャンセルになった。晶、俺が来ないからって、何でだ?」

「やーねぇ、真洋ちゃんのニブチン。あの子、真洋ちゃんが来ない日は、さっさと帰っていくわよ?」

それより、と店長はニコニコと真洋を見つめた。

「あのイケメンちゃんにドタキャンされたの?」

「いや、それより、はこっちのセリフ。あいつずっと入り浸ってるのかと思ってた」

店長の質問を無視して晶の話題を振ると、彼は怒るでもなく答えてくれた。

晶はいつも女装しているので、男性客が多いこの店ではすごく目立つ。常連は理解している人がほとんどだが、出会いを求めて初めて訪れた人には異様に見えるらしく、絡まれやすいそうだ。

ましてやあの口の悪さと頭の回転の速さだ、言い負かして相手を怒らせる事が多いので、店に迷惑がかかる前にと退散してるらしい。

では、この店で長々と真洋と話したりしていたのは、真洋に付き合っていたからに他ならない。

「真洋ちゃんが思ってる以上に、あの子は真洋ちゃんの事気に入ってるのよ」

うふふ、と口元に手をあてて笑う店長。
会いたいなら連絡してみたら? という店長に、真洋は素直にうなずいた。
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