【完結】贄の翼

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
39 / 42

38 紘一視点

しおりを挟む
お風呂から出た紘一は、和馬をベッドに転がすと、酸欠になるほどのキスをお見舞いした。

柔らかい唇はぎこちないながらもそれに応え、紘一の身体にしがみついてくる。

キスに夢中になっている間に、紘一はそっと照明を落とした。ぼんやりした視界の中、オレンジ色に照らされた和馬の身体は、光っているのかと思うほど白く映える。その白い肌は驚くほど柔らかく、すべすべしていて紘一の手に吸い付き、その心地よさに紘一は夢中になった。

しかし一度達しているからか、先程よりは落ち着いて、風呂場では触れなかった場所を撫で回し、舌や唇で遊ぶ。
和馬は掠れた悲鳴のような声を上げたが、すぐに我慢をしてそれきり唇を噛んでしまった。

紘一は愛撫を止める。

「何で声我慢してるの?」

首筋に歯を立てると、和馬の背中がびくりと動いた。感じているのは確かなのに、必死に息を詰めている和馬を見ていると、こちらまで苦しくなる。

「始祖が……」

恥ずかしがっているのかと思いきや、全く予想もしなかった答えが返ってきて驚いた。

「始祖が、最初の四家を作った時以来、人間と天使族の『契』が成功した記録は残っていません。高まった天使族の気が力を暴走させ、人間を操ったり発狂させたりしてしまう」

そう言ってこちらを見た和馬の瞳に、紘一は息を飲んだ。いつもの力を使う時に見る金色ではなく、琥珀色のまま、その光が揺れている。

その光は、以前にも見覚えがあった。

彼の感情を表しているようだ、とその時にも思ったのだ。そしてその考えは多分当たっている。

「大丈夫、和馬」

並んで転がった紘一は、和馬を抱きしめた。彼のカフェオレ色の柔らかい髪を撫でながら、額にキスをする。

「僕は、怖いんです。柳さんを失うのが。でも、気持ちは抑えられない……苦しいです」

切れ切れの息の中、声を震わせて言う和馬が今まで以上に愛おしかった。改めて自分の胸に引き寄せると、その途端にぶわっと二人の間に風が吹く。

驚いたのは和馬も一緒だったらしい、顔を見合わせると微かに和馬が声を上げる。

「あ……」

和馬は何かを感じたように、ぶるりと背中を震わせた。

「どうした?」

顔を覗きこむと、彼の瞳が次第に金色になっていくの見える。そこから淡く発光し、それが和馬の身体全体を包んだ。

「ん……っ」

また和馬が声を上げる。力の読み方も見習い程度の自分では、何が起こっているか分からないが、和馬にとっても予想外のことだというのは分かる。
その証拠に再び和馬の呼吸と体温が上がっていって、「うそ、どうして……」と呟いているのだ。

「和馬、何が起こってるんだ?」

「わ、分からないです……柳さんの気が、急に僕の中に入り込んできて……っ」

身体を繫げてもいないのに、と和馬は一人で悶えている。その顔を見ていると、淡い光は消えて、代わりに甘ったるい香りが漂ってきた。

その香りは体の奥まで浸食しそうなくらい毒々しく、しかしその甘さを一度体験してしまうと、もう戻れないくらい病み付きになってしまうような、そんな香りだ。

(何だこの香り……どこから)

蜜に蜂が誘われるように、紘一は香りの元を探す。息を切らす和馬の身体をそっと嗅いでみるけれど、それではないようだ。

「柳さん……」

和馬の顔が近づく。

唇が触れた瞬間、あの甘い味が口の中に広がった。一気に紘一の脳は燃え、その甘い蜜を貪るようにキスを交わす。

(ハチミツでも食ってるみたいだ……)

ふわふわした感触の和馬の肌を撫でながら、紘一はそんなことを思う。すると、和馬は紘一の手を掴んだ。

キスをしながら自分の後ろへ持っていくので、そこを触れということだろうか。

紘一はそっと、和馬のお尻の丸みを撫でる。そこもやはりもっちりとした感触で、掴んで
狭間を露わにすると、キスの甘みがぐっと濃くなった。

「和馬、すげー甘い。なにこれ?」

口だけかと思ったけれど、キスの場所を額に移しても甘かった。和馬が甘くなっているのかと首筋を舐めてみるけれど、舌には肌と汗の感触と味しかしない。なのに甘いと感じる、不思議だ。

「それは、多分僕の、気、です。……っ、繋がったら、もっと顕著に分かりますよ」

「……へぇ」

「――あ……っ」

紘一が、和馬の秘密の場所に指を入れた。和馬の中から漏れてくる香りはいっそう濃くなり、頭がクラクラする。

和馬の蕾は柔らかく、たっぷりと濡れていた。素直に紘一の指を受け入れ、ふんわりと包んでくる。温かい粘膜と紘一が擦れる想像をしただけでも、思考が焼き切れそうだ。

「あー……すげ、柔らかい……」

くちくちと音を立てながらうっとりと呟くと、和馬の香りが漂ってくる。下腹に当たった和馬がひくりと動き、男なんだな、と改めて思った。
そしてその時初めて、前立腺マッサージという単語を思い出す。内側から刺激すると気持ちが良いらしい、というのを何となく知っていただけだが、試してみたらどうなるだろう。

(もっと奥、か……?)

紘一は指をぐっと奥に入れた。和馬は短く悲鳴を上げ、体を硬直させる。

「やば、痛かったか?」

はあはあと息を切らし、和馬は紘一を見つめてきた。香りも一瞬途切れたが、すぐにまた漂ってくる。

「いえ……びっくりしただけです。……すみません、僕、気をコントロールするのに精一杯で……」

楽しませてあげられません、と和馬は起き上った。今のままでも十分可愛いし気持ちいいので、彼が自分を悦ばせようとしたらどんなことをするのだろう、と妄想しかけて顔が熱くなる。

そんな紘一の様子に和馬は苦笑し、指を抜かないまま紘一の身体にまたがった。顔の横に肘をつき、キスを一つくれる。

「これなら、さっきよりもやりやすくなりませんか?」

何を、と言う前に和馬の後ろが指をさらに奥へ飲み込んだ。自分でも意図しない動きだったらしい和馬は、視線を逸らす。

「ふ……っ」

和馬の顔が歪む。整いすぎた容姿は、こんな時でも綺麗だ。むしろ色気が増している分、甘い香りも相まって格段に煽られる。

(可愛い……)

中の粘膜を、指を回すようにしてえぐると、白い背中がビクビクと反った。指を増やし、この後の行為を思わせる動きをすれば、がくん、と和馬の頭が肩口に落ちてくる。
その勢いで漂ってきた一段と濃い甘い香りを嗅げば、脳が焼けた。

「和馬……」

紘一は和馬の顔を上げさせ、甘い味のする唇に噛みつく。上下の口を舌と指で犯しながら、奥に前立腺とおぼしきしこりを見つけた。そこを擦ると、和馬は声を上げて唇を離してしまう。

「あっ、あ、ああ……っ」

涙目になりながら、和馬は首を横に振る。彼の腰がうねるように動き、間違いなく性感帯だと知らされた。それでもそこに触れていると、中も複雑に動き出す。

「い、いや、いやですっ。いやだ……っ」

和馬が叫んだとたん、お腹に熱いものが飛んでくる。同時に熱風が通り抜け、近くのカーテンを揺らした。和馬が吐精したのだと分かると、指が驚くほどきつく締め付けられる。

「んっ……ああ、はぁ……っ」

「ごめん、嫌だったか?」

ビクビクと体を震わせている和馬は、腕に力が入らないのか、くたりと胸の上に落ちてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

琥珀に眠る記憶

餡玉
BL
父親のいる京都で新たな生活を始めることになった、引っ込み思案で大人しい男子高校生・沖野珠生。しかしその学園生活は、決して穏やかなものではなかった。前世の記憶を思い出すよう迫る胡散臭い生徒会長、黒いスーツに身を包んだ日本政府の男たち。そして、胸騒ぐある男との再会……。不可思議な人物が次々と現れる中、珠生はついに、前世の夢を見始める。こんなの、信じられない。前世の自分が、人間ではなく鬼だったなんてこと……。 *拙作『異聞白鬼譚』(ただ今こちらに転載中です)の登場人物たちが、現代に転生するお話です。引くぐらい長いのでご注意ください。 第1幕『ー十六夜の邂逅ー』全108部。 第2幕『Don't leave me alone』全24部。 第3幕『ー天孫降臨の地ー』全44部。 第4幕『恋煩いと、清く正しい高校生活』全29部。 番外編『たとえばこんな、穏やかな日』全5部。 第5幕『ー夜顔の記憶、祓い人の足跡ー』全87部。 第6幕『スキルアップと親睦を深めるための研修旅行』全37部。 第7幕『ー断つべきもの、守るべきものー』全47部。 ◇ムーンライトノベルズから転載中です。fujossyにも掲載しております。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...