36 / 42
35 和馬視点
しおりを挟む
和馬は呟く。
「天使族は、本来気性の激しい生き物なんです。レイのように、あなたを監禁して食い尽くすかもしれないですよ?」
「和馬になら本望だ」
クスクス笑う紘一は、和馬が本気で言っているとは思っていないのだろう。少し離れて額を合わせた紘一は、唇をすり合わせながらもう一度言った。
「好きだよ、和馬」
「ん……」
柔らかい唇が自分のものを軽く吸い上げる。優しいキスだったにも関わらず、過剰に反応した和馬は、体をぶるりと震わせた。
その様子を見た紘一が、くすりと笑う。
「敏感」
「ちが、これは……っ」
「レイとの戦いでだいぶ力を削られたんだろ? 始祖も呼び出したし」
紘一の力を過剰に求める原因を当てられて、和馬は言葉に詰まった。紘一から逃げていた、もう一つの理由がこれだったのだ。始祖は和馬の中にいるだけで主の力を削っていき、力が完全に切れたところで表に出てくる。
今までそれを抑えていたのは、祖母からもらった、グリーンアンバーだった。レイを倒した時、石は弾けてしまったから、あれからあの石の加護はない。
和馬は不意に、祖母の言葉を思い出す。
『和馬、これはお守り。けど、大切な人が現れた時には、この石は必要なくなるからね。早く見つけるんだよ』
「……そういうことか」
和馬は途端に理解した。紘一と出会った意味を。
「和馬?」
和馬は紘一を見た。あの石の代わりになるもの、それはこの人だからだ。しかし、誰も選ばないと竜之介たちに言った手前、この人を選ぶことは裏切りにならないだろうか。
優しい目――しばらくその瞳の中の光を見つめて決心する。もう自分に嘘はつけない。竜之介と佑平に謝りながら、和馬は口を開いた。
「柳さん、お願いがあります。僕と、『契』を結んでいただけませんか?」
「ちぎり?」
どこか惚けた顔でおうむ返しにしてくる紘一。和馬は軽くうなずいた。
「以前、僕の力を回復してくれましたよね。あれとは違い、お互いに力を高め合う術のことです。強い心の結びつきで力の器は一つになり、僕も柳さんも強い力を得ることができる」
ただ、と和馬は付け加えた。
「想いが弱ければ失敗します。一度成功しても、簡単に外れてしまうこともあります」
和馬は目を伏せた。彼を無意識に操作しないようにするためと、彼が頭から頬を撫でてきたからだ。
「……分かった。具体的に何をするんだ?」
少し間があってから返事があった。目を開けると、彼は思いのほか強い視線でこちらを見ていて、ドキリとする。
「房中術、と言ったら分かるでしょうか」
「……聞いたことないな。難しいのか?」
和馬は言葉に詰まった。最も通じやすい説明もあるにはあるが、あまりに身も蓋もない表現なので避けたいのだ。
「互いに気を高め、交わることができれば、『契』の半分は成功します。もう半分は、その最中の気の操作を間違えなければ……大切なのは、お互いにリラックスして、精神的な繋がりを楽しむこと……ですかね」
本に書いてあったことをそらんじると、紘一は片手で口元を覆っていた。
目が合うと思い切り逸らされたので、多分誤解なく意味は通じたのだろう。
「要はセックスするってことか?」
やはり直截的な単語を呟いた紘一に、和馬は苦笑する。うなずくと、次には彼の腕の中におさまっていた。今までで一番濃い風が和馬を包み、クラクラする。
「……移動しましょう」
緊張で喉から心臓が出てきそうだった。けれどそれは相手も同じのようで、互いにその心音を聞きながら、しばらくそのまま動けなかった。
「天使族は、本来気性の激しい生き物なんです。レイのように、あなたを監禁して食い尽くすかもしれないですよ?」
「和馬になら本望だ」
クスクス笑う紘一は、和馬が本気で言っているとは思っていないのだろう。少し離れて額を合わせた紘一は、唇をすり合わせながらもう一度言った。
「好きだよ、和馬」
「ん……」
柔らかい唇が自分のものを軽く吸い上げる。優しいキスだったにも関わらず、過剰に反応した和馬は、体をぶるりと震わせた。
その様子を見た紘一が、くすりと笑う。
「敏感」
「ちが、これは……っ」
「レイとの戦いでだいぶ力を削られたんだろ? 始祖も呼び出したし」
紘一の力を過剰に求める原因を当てられて、和馬は言葉に詰まった。紘一から逃げていた、もう一つの理由がこれだったのだ。始祖は和馬の中にいるだけで主の力を削っていき、力が完全に切れたところで表に出てくる。
今までそれを抑えていたのは、祖母からもらった、グリーンアンバーだった。レイを倒した時、石は弾けてしまったから、あれからあの石の加護はない。
和馬は不意に、祖母の言葉を思い出す。
『和馬、これはお守り。けど、大切な人が現れた時には、この石は必要なくなるからね。早く見つけるんだよ』
「……そういうことか」
和馬は途端に理解した。紘一と出会った意味を。
「和馬?」
和馬は紘一を見た。あの石の代わりになるもの、それはこの人だからだ。しかし、誰も選ばないと竜之介たちに言った手前、この人を選ぶことは裏切りにならないだろうか。
優しい目――しばらくその瞳の中の光を見つめて決心する。もう自分に嘘はつけない。竜之介と佑平に謝りながら、和馬は口を開いた。
「柳さん、お願いがあります。僕と、『契』を結んでいただけませんか?」
「ちぎり?」
どこか惚けた顔でおうむ返しにしてくる紘一。和馬は軽くうなずいた。
「以前、僕の力を回復してくれましたよね。あれとは違い、お互いに力を高め合う術のことです。強い心の結びつきで力の器は一つになり、僕も柳さんも強い力を得ることができる」
ただ、と和馬は付け加えた。
「想いが弱ければ失敗します。一度成功しても、簡単に外れてしまうこともあります」
和馬は目を伏せた。彼を無意識に操作しないようにするためと、彼が頭から頬を撫でてきたからだ。
「……分かった。具体的に何をするんだ?」
少し間があってから返事があった。目を開けると、彼は思いのほか強い視線でこちらを見ていて、ドキリとする。
「房中術、と言ったら分かるでしょうか」
「……聞いたことないな。難しいのか?」
和馬は言葉に詰まった。最も通じやすい説明もあるにはあるが、あまりに身も蓋もない表現なので避けたいのだ。
「互いに気を高め、交わることができれば、『契』の半分は成功します。もう半分は、その最中の気の操作を間違えなければ……大切なのは、お互いにリラックスして、精神的な繋がりを楽しむこと……ですかね」
本に書いてあったことをそらんじると、紘一は片手で口元を覆っていた。
目が合うと思い切り逸らされたので、多分誤解なく意味は通じたのだろう。
「要はセックスするってことか?」
やはり直截的な単語を呟いた紘一に、和馬は苦笑する。うなずくと、次には彼の腕の中におさまっていた。今までで一番濃い風が和馬を包み、クラクラする。
「……移動しましょう」
緊張で喉から心臓が出てきそうだった。けれどそれは相手も同じのようで、互いにその心音を聞きながら、しばらくそのまま動けなかった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
琥珀に眠る記憶
餡玉
BL
父親のいる京都で新たな生活を始めることになった、引っ込み思案で大人しい男子高校生・沖野珠生。しかしその学園生活は、決して穏やかなものではなかった。前世の記憶を思い出すよう迫る胡散臭い生徒会長、黒いスーツに身を包んだ日本政府の男たち。そして、胸騒ぐある男との再会……。不可思議な人物が次々と現れる中、珠生はついに、前世の夢を見始める。こんなの、信じられない。前世の自分が、人間ではなく鬼だったなんてこと……。
*拙作『異聞白鬼譚』(ただ今こちらに転載中です)の登場人物たちが、現代に転生するお話です。引くぐらい長いのでご注意ください。
第1幕『ー十六夜の邂逅ー』全108部。
第2幕『Don't leave me alone』全24部。
第3幕『ー天孫降臨の地ー』全44部。
第4幕『恋煩いと、清く正しい高校生活』全29部。
番外編『たとえばこんな、穏やかな日』全5部。
第5幕『ー夜顔の記憶、祓い人の足跡ー』全87部。
第6幕『スキルアップと親睦を深めるための研修旅行』全37部。
第7幕『ー断つべきもの、守るべきものー』全47部。
◇ムーンライトノベルズから転載中です。fujossyにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる