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31 紘一視点
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紘一が目を開けると、曇った空が見えた。
「無事か?」
視界に佑平が入ってきた。途端に空気が肺に入って来て、思わず咳き込む。
佑平は紘一の背中を撫で、ハッとしたように向こうを見やる。
「さっき和馬のお守りが割れた。レイを封印したときの別人格が出てる」
佑平が呟いた言葉に、紘一もそちらを見る。かなり離れた場所で対峙している二人は、紘一が気を失う前とそんなに変わらない。
「和馬……」
紘一は起き上ると、自分の答えが正解だったことを知る。そして、視線を佑平に戻すと、視界に金髪の男が倒れていて、ぎょっとした。
「竜之介?」
「安心しろ、意識を失っているだけだ」
ということは、佑平は一人別行動して、竜之介を探していたということだ。
それよりも、と佑平は和馬たちを見る。
「結界を張る。強力な分範囲は狭いから、動かないでくれ」
そういった佑平が、地面に手を置いた時だった。ものすごい爆音とともに、風が暴れ始めた。耳を塞いで地面に伏せるけれど、地面も揺れているような衝撃だ。
「……っ」
佑平の顔が歪む。きっと結界を維持するのが精一杯なのだ。
周りの木々は根っこから浮き始め、抜けては紘一たちを守る結界に当たっていく。まるでジェット機のエンジンの風を直接受けているかのような暴風に、いつまで耐えればいいのか、と紘一は和馬を見た。
「馬鹿、見るな!」
慌てた佑平が紘一の前に来る。風の隙間から見えたのは、間違いなくレイの首が胴体から切り離されたところだった。しまった、と思った時にはもう遅く、顔を逸らして見なかったことにする。
「……っ」
「柳!」
佑平がこちらを振り返ったのと同時に、胸に衝撃があった。何かが当たったと感じたけれど、胸には何もない。爆風が突然止み、静かな空間が戻る。
「……っ、かは……っ」
遅れて胃から何かが込み上げ、本能的に吐き出す。どろりとしたそれは赤い色をしており、血を吐いたのだと気付く。
なんだこれは、と呆然と赤いものを見つめていると、口が勝手に動いた。
「くそ、この俺が人間の身体に入るなど……」
何を言っているんだ、と紘一はパニックになった。思ってもいないセリフが口から飛び出し、手足も思ったように動かない。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに天地がひっくり返り、喉を締め付けられる。何が何だか分からないうちに金色に輝く髪が上にあった。
「かず、ま……」
首を絞めて馬乗りになっていたのは、和馬だった。
「出て来い一族の恥よ。この人間にとり憑いたって、無駄だ」
そう言って、和馬は容赦なく紘一の首を絞める。苦しさに呻くと、また考えてもいないセリフが出てくる。
「何だよ……俺だよ和馬、何で、首、絞めて……」
「聞こえるか人間。お前は今とり憑かれている。お前の息の根が止まる前に、体の外へ追い出せ」
じゃないとお前もろとも殺す。和馬――いや、始祖はそう言った。
「……出て、け」
紘一は自由に利かない口を懸命に動かした。何一つ思い通りに動かない体は、こんなにももどかしいのか。紘一は強く念じる。
「そうだ、それは言霊。自分の意思をはっきりと口にしろ」
和馬の瞳が光る。外からも紘一の手助けをしてくれているようだ。それに勇気づけられ、
腹筋に力を入れて叫ぶ。
「レイ、出て行け!!」
「馬鹿な!」
叫んだ直後、すぐそばでレイの声がした。同時に和馬の手が首から離れ、彼は地面を蹴ってレイを追いかける。どっと疲れて目でそれを追うことすらできなかったが、離れた場所でレイの断末魔を聞いて、ギュッと目をつむった。
その後、辺りは嘘のように静かになった。
「終わった、のか?」
紘一は呟くと、刺すような胸の痛みに襲われ呻いた。
異変に気付いた佑平が声を掛けてくるけども、それが急速に遠くなっていく。
紘一の視界は再び、ブラックアウトした。
「無事か?」
視界に佑平が入ってきた。途端に空気が肺に入って来て、思わず咳き込む。
佑平は紘一の背中を撫で、ハッとしたように向こうを見やる。
「さっき和馬のお守りが割れた。レイを封印したときの別人格が出てる」
佑平が呟いた言葉に、紘一もそちらを見る。かなり離れた場所で対峙している二人は、紘一が気を失う前とそんなに変わらない。
「和馬……」
紘一は起き上ると、自分の答えが正解だったことを知る。そして、視線を佑平に戻すと、視界に金髪の男が倒れていて、ぎょっとした。
「竜之介?」
「安心しろ、意識を失っているだけだ」
ということは、佑平は一人別行動して、竜之介を探していたということだ。
それよりも、と佑平は和馬たちを見る。
「結界を張る。強力な分範囲は狭いから、動かないでくれ」
そういった佑平が、地面に手を置いた時だった。ものすごい爆音とともに、風が暴れ始めた。耳を塞いで地面に伏せるけれど、地面も揺れているような衝撃だ。
「……っ」
佑平の顔が歪む。きっと結界を維持するのが精一杯なのだ。
周りの木々は根っこから浮き始め、抜けては紘一たちを守る結界に当たっていく。まるでジェット機のエンジンの風を直接受けているかのような暴風に、いつまで耐えればいいのか、と紘一は和馬を見た。
「馬鹿、見るな!」
慌てた佑平が紘一の前に来る。風の隙間から見えたのは、間違いなくレイの首が胴体から切り離されたところだった。しまった、と思った時にはもう遅く、顔を逸らして見なかったことにする。
「……っ」
「柳!」
佑平がこちらを振り返ったのと同時に、胸に衝撃があった。何かが当たったと感じたけれど、胸には何もない。爆風が突然止み、静かな空間が戻る。
「……っ、かは……っ」
遅れて胃から何かが込み上げ、本能的に吐き出す。どろりとしたそれは赤い色をしており、血を吐いたのだと気付く。
なんだこれは、と呆然と赤いものを見つめていると、口が勝手に動いた。
「くそ、この俺が人間の身体に入るなど……」
何を言っているんだ、と紘一はパニックになった。思ってもいないセリフが口から飛び出し、手足も思ったように動かない。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに天地がひっくり返り、喉を締め付けられる。何が何だか分からないうちに金色に輝く髪が上にあった。
「かず、ま……」
首を絞めて馬乗りになっていたのは、和馬だった。
「出て来い一族の恥よ。この人間にとり憑いたって、無駄だ」
そう言って、和馬は容赦なく紘一の首を絞める。苦しさに呻くと、また考えてもいないセリフが出てくる。
「何だよ……俺だよ和馬、何で、首、絞めて……」
「聞こえるか人間。お前は今とり憑かれている。お前の息の根が止まる前に、体の外へ追い出せ」
じゃないとお前もろとも殺す。和馬――いや、始祖はそう言った。
「……出て、け」
紘一は自由に利かない口を懸命に動かした。何一つ思い通りに動かない体は、こんなにももどかしいのか。紘一は強く念じる。
「そうだ、それは言霊。自分の意思をはっきりと口にしろ」
和馬の瞳が光る。外からも紘一の手助けをしてくれているようだ。それに勇気づけられ、
腹筋に力を入れて叫ぶ。
「レイ、出て行け!!」
「馬鹿な!」
叫んだ直後、すぐそばでレイの声がした。同時に和馬の手が首から離れ、彼は地面を蹴ってレイを追いかける。どっと疲れて目でそれを追うことすらできなかったが、離れた場所でレイの断末魔を聞いて、ギュッと目をつむった。
その後、辺りは嘘のように静かになった。
「終わった、のか?」
紘一は呟くと、刺すような胸の痛みに襲われ呻いた。
異変に気付いた佑平が声を掛けてくるけども、それが急速に遠くなっていく。
紘一の視界は再び、ブラックアウトした。
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