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24 和馬視点
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ベッドに寝かされた和馬は、黙ったままずっと手を握って離さない竜之介を、そっと宥めた。
「竜之介、もう大丈夫だよ」
「……」
しかしそれに反応はない。彼は黙って手を握りなおすだけだった。さっきからその手の震えが止まらないのは、よほど怖かったのだろう。
和馬はそっと起き上った。多少眩暈はするものの、自分で動けるくらいには回復している。
「竜之介……」
自分から竜之介の手をぎゅっと握りなおすと、その手が不意に引かれ、彼の腕の中に収まってしまった。
肩越しに長いため息が聞こえ、しばらくの間沈黙が落ちる。
「和馬……」
やっと口を開いたかと思えば、彼らしからぬ弱々しい声がした。相当堪えていたらしく、こんなに離れようとしないのは初めてだ。
いつもは仕事の窓口として、そつなくこなして和馬たちを引っ張ってきた彼が、こんなにも弱ってしまうのは、自惚れでなく自分の存在が大きいからだろう。
「和馬、私たちを拒む理由は何ですか。やはりあの人間の力のほうが強いからですか?……こんなにも想っているのに、私は選ばれないんでしょうか……」
耳元で囁かれる言葉は、彼から聞いたこともない悲痛な響きだった。
和馬は一呼吸おいて、竜之介の背中を優しく叩く。
「これ以上人間を巻き込むつもりはないよ」
「だったら……!」
耐えかねたように、竜之介は声を荒げた。しかし、弱っている和馬を慮ってか、ため息をついて音量を落とす。
「ねぇ和馬、私たちは和馬がどちらを選んでも、恨みっこなしと昔から決めています。でも私は……こんなことがなければ言うつもりもなかった」
はっきり言葉にしていた佑平と違って、竜之介は言わずとも少なからず好意はあると感じていた。それが友愛ではなく、家族愛でもなく、恋愛だと分かっても、すぐに和馬の答えは分かっている。
「和馬、私は和馬が好きです。長として、一生懸命私たちを守ろうとしている姿に、支えになれないかといつも思っているんです」
だって私たちはお互いが唯一の家族でしょう、と竜之介は抱きしめる腕に力を込めた。
「……ありがとう」
和馬はそれを言うのが精一杯だった。しかし、このまま返事を引き延ばしている佑平や、弱った和馬を見て震える竜之介に、曖昧な態度を取るのも失礼だろう。
和馬はレイとの『契』について、話すことにする。
「……でも、僕は誰も選ばないよ」
和馬のその答えに、竜之介の何度目かの長いため息が聞こえた。ある程度覚悟はしていたのだろう、分かりました、と呟くと、ようやく彼の腕から解放された。
「レイが……僕の力を奪う、変則的な『契』をかけているんだ」
重い口を開いて和馬は真実を告白すると、竜之介は、がばっと音がするほど勢いよく、和馬の両肩を掴んだ。
「何ですって?」
「……確かに力の共有はしてるんだけど、使えるのはレイだけ……つまり、僕の力はレイも使えるけど、レイの力は僕には使えないようになってる」
『契』の仕組みは、二人分の力の器を足すことだ。容積は二倍になり、互いに一つの器を使うことができる。どちらかが回復役になれば、限りなく無限に力を使い続けられるのだ。
だから、最も信頼し合った者同士が、婚姻の証として結ぶのが習慣になっていた。
「アイツ……」
竜之介は唇を噛む。顔が整っている分、怒った顔は迫力を増す。
「だから迂闊に回復すると、レイの力が増してしまうんだ」
「……だから遠慮してたんですね」
和馬の髪を梳いた竜之介に、和馬はうなずく。
「ただ、柳さんは本当に近づきたくなかったんだ。あの人は……近づいただけでも僕を暴走させるほどの力を持ってる。でも、弱っている僕は無意識に近づいてしまう」
「……」
竜之介は黙っている。春の風の人間は、相当彼に嫌われてしまったらしい。告白して吹っ切れたのか、態度も分かりやすくて笑ってしまう。
「だからおばあさまの部屋ですか……レイも襲いにくいですしね」
そっけない声で話す竜之介は、どうやら拗ねているようだ。
「このことは佑平にも?」
和馬は首を振る。
「言ってない。けど、僕の考えは大体読んでるんじゃないかと思う」
観察眼が鋭い佑平のことだ、紘一をあそこに招いた意図を汲み取って、あそこから出さないようにしてくれるだろう。
「では問題はやはりレイをどうするか、ですね」
でもとりあえず、和馬の回復が優先です、と竜之介は和馬を寝かせた。大人しく従った和馬は、横になった途端睡魔に襲われてしまう。
そんな和馬を、竜之介は暗い瞳で見つめていた。
「竜之介、もう大丈夫だよ」
「……」
しかしそれに反応はない。彼は黙って手を握りなおすだけだった。さっきからその手の震えが止まらないのは、よほど怖かったのだろう。
和馬はそっと起き上った。多少眩暈はするものの、自分で動けるくらいには回復している。
「竜之介……」
自分から竜之介の手をぎゅっと握りなおすと、その手が不意に引かれ、彼の腕の中に収まってしまった。
肩越しに長いため息が聞こえ、しばらくの間沈黙が落ちる。
「和馬……」
やっと口を開いたかと思えば、彼らしからぬ弱々しい声がした。相当堪えていたらしく、こんなに離れようとしないのは初めてだ。
いつもは仕事の窓口として、そつなくこなして和馬たちを引っ張ってきた彼が、こんなにも弱ってしまうのは、自惚れでなく自分の存在が大きいからだろう。
「和馬、私たちを拒む理由は何ですか。やはりあの人間の力のほうが強いからですか?……こんなにも想っているのに、私は選ばれないんでしょうか……」
耳元で囁かれる言葉は、彼から聞いたこともない悲痛な響きだった。
和馬は一呼吸おいて、竜之介の背中を優しく叩く。
「これ以上人間を巻き込むつもりはないよ」
「だったら……!」
耐えかねたように、竜之介は声を荒げた。しかし、弱っている和馬を慮ってか、ため息をついて音量を落とす。
「ねぇ和馬、私たちは和馬がどちらを選んでも、恨みっこなしと昔から決めています。でも私は……こんなことがなければ言うつもりもなかった」
はっきり言葉にしていた佑平と違って、竜之介は言わずとも少なからず好意はあると感じていた。それが友愛ではなく、家族愛でもなく、恋愛だと分かっても、すぐに和馬の答えは分かっている。
「和馬、私は和馬が好きです。長として、一生懸命私たちを守ろうとしている姿に、支えになれないかといつも思っているんです」
だって私たちはお互いが唯一の家族でしょう、と竜之介は抱きしめる腕に力を込めた。
「……ありがとう」
和馬はそれを言うのが精一杯だった。しかし、このまま返事を引き延ばしている佑平や、弱った和馬を見て震える竜之介に、曖昧な態度を取るのも失礼だろう。
和馬はレイとの『契』について、話すことにする。
「……でも、僕は誰も選ばないよ」
和馬のその答えに、竜之介の何度目かの長いため息が聞こえた。ある程度覚悟はしていたのだろう、分かりました、と呟くと、ようやく彼の腕から解放された。
「レイが……僕の力を奪う、変則的な『契』をかけているんだ」
重い口を開いて和馬は真実を告白すると、竜之介は、がばっと音がするほど勢いよく、和馬の両肩を掴んだ。
「何ですって?」
「……確かに力の共有はしてるんだけど、使えるのはレイだけ……つまり、僕の力はレイも使えるけど、レイの力は僕には使えないようになってる」
『契』の仕組みは、二人分の力の器を足すことだ。容積は二倍になり、互いに一つの器を使うことができる。どちらかが回復役になれば、限りなく無限に力を使い続けられるのだ。
だから、最も信頼し合った者同士が、婚姻の証として結ぶのが習慣になっていた。
「アイツ……」
竜之介は唇を噛む。顔が整っている分、怒った顔は迫力を増す。
「だから迂闊に回復すると、レイの力が増してしまうんだ」
「……だから遠慮してたんですね」
和馬の髪を梳いた竜之介に、和馬はうなずく。
「ただ、柳さんは本当に近づきたくなかったんだ。あの人は……近づいただけでも僕を暴走させるほどの力を持ってる。でも、弱っている僕は無意識に近づいてしまう」
「……」
竜之介は黙っている。春の風の人間は、相当彼に嫌われてしまったらしい。告白して吹っ切れたのか、態度も分かりやすくて笑ってしまう。
「だからおばあさまの部屋ですか……レイも襲いにくいですしね」
そっけない声で話す竜之介は、どうやら拗ねているようだ。
「このことは佑平にも?」
和馬は首を振る。
「言ってない。けど、僕の考えは大体読んでるんじゃないかと思う」
観察眼が鋭い佑平のことだ、紘一をあそこに招いた意図を汲み取って、あそこから出さないようにしてくれるだろう。
「では問題はやはりレイをどうするか、ですね」
でもとりあえず、和馬の回復が優先です、と竜之介は和馬を寝かせた。大人しく従った和馬は、横になった途端睡魔に襲われてしまう。
そんな和馬を、竜之介は暗い瞳で見つめていた。
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