【完結】贄の翼

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
24 / 42

23 紘一視点

しおりを挟む
「レイは和馬の力さえ手に入れば、自由に遊んで暮らせると思っていたらしい。だが目の前で家族を殺された和馬は、実力以上の力を発揮した。九歳の子供に封印されるなんて、レイも思ってなかったようだしな」

佑平の言葉に紘一は、改めて和馬が稀代の祓い屋だと呼ばれる理由を認識した。しかし、それほど圧倒的な力を持ちながら、レイの抵抗があったせいで、封印するのがやっとだったらしい。

「和馬は俺たちを守りながら一人で戦っていた。俺たちがいなければ、カタを付けられたはずだったのに」

だから今度は命懸けで和馬を守るのだ。紘一は若い天使族の絆に、言葉を失くしてしまう。自分はその中には決して入れない、そう思うと何だか悔しい。

「ただ……」

佑平はこの時初めて、紘一の顔を正面から見つめた。男から見てもかっこいいと思う精悍な顔立ち。意思の強い瞳は光を失わない。

「あなたと和馬は力の相性が良い。天使族以外でそういう人間は稀だ。だから和馬を大事にしてやってくれ」

「ちょ、っと待て。それってどういう意味だ?」

まるで自分の気持ちを見透かされているような言葉に、紘一は慌てた。しかし佑平は静かに紘一を見返す。

「そのままだ。俺は和馬が幸せであればそれでいい」

「幸せって……」

それなら、和馬が自分といることが幸せだと言っているのだろうか。混乱し始めた頭で一つ思い浮かんだことは、これだ。

「あんたは、和馬のことが好きなのか?」

その問いに、佑平は静かに答える。

「……愛している。だが、それは俺だけじゃない。だから、和馬が選ぶべきなんだ」

「…………その選択肢に俺も入っていると?」

佑平はうなずいた。和馬が誰かを選べば、レイとの決着もつく、と。

紘一は長いため息をついた。あやふやだった自分の気持ちを、こういった形で自覚させられるとは思ってもみなかった。

「相性が良い者同士は、触れるだけで力を回復、あるいは高めることができる。もし和馬があなたを選んだら、協力してやってくれ」

「待ってくれ、あんたはそれで本当に良いのか?」

自分だったら、同じ人を好きなライバルにこんなことは言えない。
佑平はやはり変わらない瞳でまっすぐこちらを見つめる。

「それが和馬と天使族のためなら。どうせ天使族は俺たちの代で終わる。だからレイだけは何とかしておかなければならない。この地で暮らす、人間のためにも」

紘一は唖然とした。彼らは自分とは違う次元で生きている。守るものの大きさが違うのだ。だったら尚更、自分がその中にいるのは場違いな気がしてならない。

「無理強いはしない。和馬はあなたが首を突っ込むことを恐れている。だから強力な結界があるここへ閉じ込めた。俺はそう感じている」

それが和馬の意思だとしたら、自分は彼にとってどんな存在なのだろう。

「……和馬はどこに行ったんだ?」

それを確かめるために和馬に会いたい。そう思って尋ねると、佑平は静かに首を横に振った。

「竜之介の気が立ってる時はそっとしておいた方が良い。アイツは和馬に何かあったら俺ですら殺すだろうから」

そんなことを聞かされたら、今すぐこの部屋から飛び出したい気持ちを抑えなければならなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

琥珀に眠る記憶

餡玉
BL
父親のいる京都で新たな生活を始めることになった、引っ込み思案で大人しい男子高校生・沖野珠生。しかしその学園生活は、決して穏やかなものではなかった。前世の記憶を思い出すよう迫る胡散臭い生徒会長、黒いスーツに身を包んだ日本政府の男たち。そして、胸騒ぐある男との再会……。不可思議な人物が次々と現れる中、珠生はついに、前世の夢を見始める。こんなの、信じられない。前世の自分が、人間ではなく鬼だったなんてこと……。 *拙作『異聞白鬼譚』(ただ今こちらに転載中です)の登場人物たちが、現代に転生するお話です。引くぐらい長いのでご注意ください。 第1幕『ー十六夜の邂逅ー』全108部。 第2幕『Don't leave me alone』全24部。 第3幕『ー天孫降臨の地ー』全44部。 第4幕『恋煩いと、清く正しい高校生活』全29部。 番外編『たとえばこんな、穏やかな日』全5部。 第5幕『ー夜顔の記憶、祓い人の足跡ー』全87部。 第6幕『スキルアップと親睦を深めるための研修旅行』全37部。 第7幕『ー断つべきもの、守るべきものー』全47部。 ◇ムーンライトノベルズから転載中です。fujossyにも掲載しております。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...