【完結】贄の翼

大竹あやめ

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22 紘一視点

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紘一はあてがわれた部屋で佑平と二人、気まずい空気を流していた。といっても、佑平は表情が変わらないので、気まずいと思っているのかも謎だが。
原因は先程見た、和馬と竜之介のキスだ。
佑平は竜之介の指示で結界を張った後、紘一を連れて部屋へ戻った。どうして、と思わず振り返った時に見てしまったのだ。

その時の和馬の、揺れた瞳が脳裏に焼き付いて離れない。普段は涼しげな目元が、あの時は確かにすがるように竜之介を見ていた。その相手が自分じゃなかったことに、そわそわして落ち着かない。

「あれは削られた力を補っているだけだ」

ふと、静かな佑平の声がする。
彼はソファーの側に立ち、紘一に座るよう勧めた。他にすることもないので大人しく座ると、佑平は話をし始める。

「俺たちは和馬を失う訳にはいかない。和馬が命を懸けて俺たちを守ってくれているように、俺たちも命懸けで和馬を守っている。何から、というのはさっき話した礎レイだ」

淡々と話を続ける佑平はやはり表情を変えず、紘一はその精悍な顔を見つめるばかりだ。

「レイの考えていることは一つ。和馬に復讐すること」

「……復讐って……」

物騒な単語が出てきて、紘一の心拍数が上がる。この綺麗な一族に、一体どんな泥沼があったのだろうか。

「和馬は自分からは話さないだろうから。レイとの確執は自分のせいだから、自分がすべて背負えば良いと考えている」

佑平は竜之介とは違って、自分を警戒していないらしい。普段は喋らない彼が、何故話すつもりになったのか。

「危険から身を守るには、相手のことを知っておいた方がいい。和馬がこの部屋をあてがった意味を、俺なりに考えて独断で話している。だからこのことは安易に外へ漏らさないでほしい」

佑平は腕を組むと目を伏せた。そして再び目を開けた瞳には、強い意志が見える。

「ここは、和馬のおばあさんの部屋なのか?」

紘一は、和馬が自分をここへ連れてきた意味を知りたいと思った。
佑平はうなずくと、何かを思い出すかのように遠くを見つめる。

「今では残り香のようになっているが、それでも十分に強力な結界がここには張ってある。先代の長が、十年前文字通り命を懸けて張った結界だ」

佑平の話によると、この広い屋敷にはそういったものがいくつかあるらしい。同時に、十年経っても浄化されない邪気も残されているそうだ。和馬が行きたくない場所には行くな、と言ったのは、その邪気にあてられる可能性があるからだ。
では何故、和馬の祖母はそこまでして和馬を守ったのか。

「元々レイと和馬は仲が良くなかった。いや、レイが一方的に和馬を敵視していた、という方が正しいな」

そう言えば、先程レイと会った時もイラついていたのはレイだけだった。あんな光景を、佑平は小さい時から見ていたという。

「レイは天使族の中でも群を抜いて力が強かった。次の長はレイだと、周りの大人たちに期待されて育ってきたのが、和馬が生まれた途端、レイの環境はがらりと変わった」

紘一は、何となく先が読めて顔を顰めた。レイは自分より力がある年下を見ては、嫉妬していたのだ。

「力さえあれば、とレイは人間に手をかけ、自分に都合が良い取り巻きをつくった。それでも和馬が相手にしないから、今度は周りの大人を恐怖と力でねじ伏せていった」

天使族は、力の強いものには逆らえないらしい。相手を操る術があって、それは力の大きさに左右されるのだそうだ。

さすがに黙っていられなくなった先代の長と和馬は、昼間から多くの女性をはべらせるレイに、彼女らを解放するよう求めた。
しかし支配欲と、肉欲に溺れたレイは見せしめに同族に手をかける。その最初の犠牲者が佑平の家族だった。

「……」

紘一はこの屋敷がやたら広いのに、住んでいる人が彼ら以外見ないことに合点がいった。

「それがきっかけでレイは歯向かう同族を次々と殺し、力を得ていった。術の精密さでは一番の木下家さえ、圧倒的な力の前では無力だった。和馬は最後の砦として残され、みんな彼を残して死んでいった」

佑平はあくまで淡々と語っていた。その様子に、生き残った天使族がどれだけ深い傷を負ったのか、想像する。
癒えない傷をえぐる思い出は、きっと和馬の中にもあるのだろうと思うと、胸が苦しくなった。
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