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19 紘一視点
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目の前に現れた日本家屋に、紘一は門前で唖然としてしまった。
塀で囲まれた敷地はどこまであるのか分からないくらい広く、聞くところによると、裏手にある山も和馬たちのものらしい。
「いや、ある程度予想はしてたけど……想像以上だ」
門をくぐると玄関までに庭があり、四季が楽しめるよういろいろな植物が植えてある。
きょろきょろとみっともなく見て歩いていると、隣の和馬が苦笑していた。
「今では広すぎて、使っていない場所や部屋もたくさんあるんです」
玄関から中に入ると、見た目の純和風とは違い、時代に合わせて洋風に改装してあるところもあるようだ。紘一の単純なイメージで一番近いものを挙げると、旅館といったところだろうか。
長い廊下の片側が窓になっており、天気が良い時に庭を眺めながら歩くのが楽しそ
うだ。
「佑平、悪いけど竜之介の様子を見てきて」
「分かった」
前を歩いていた佑平は、振り向いてうなずくと、長い脚でどんどん奥へと行ってしまう。
「柳さんはこちらへ」
そう案内されたのは、二十畳程の洋室だった。部屋の真ん中にソファーが対で置いてあり、調度品が並んでいる。雰囲気からして、客間だろうか。
しかし、紘一はこの部屋に入ったときに感じたミント系の香りと、どことなくここの空気が外と違う気がして、気になって辺りを見渡す。
「何か感じますか?」
和馬も紘一の様子に気付いているのだろう、あれこれと不躾に眺める紘一を邪魔せず、隣で静かに待っている。
「ミントの香りと……外とは空気が違う気がする。明るいというか、澄んでるというか……」
上手く言葉にできないが、感じることをそのまま言うと、和馬は微笑んだ。
座るように勧められ、柔らかいソファーに座ると、それがとても心地よかった。
「ここは、僕の仕事場です。祓い屋と言えば分りやすいでしょうか」
和馬は部屋の隅にあった冷蔵庫からお茶を出し、マグカップに注いで電子レンジに入れた。何となくそれが似合わなくて笑ってしまう。
(当たり前だけど、和馬も電子レンジを使うんだな)
「友達に情報通がいて、和馬のことも聞いてたよ」
温めたお茶を持ってきた和馬は、対面に座るとお茶を勧めた。
言われるまま口に運ぶと、これも何だかすっきりする味がする。思わず和馬を見ると、分かっていたかのように微笑んでいた。
「人を相手にする時に使う部屋で、結界が張ってあります。空気を清めてあるので、敏感な人はすぐに分かりますね」
どうやら自分は敏感な部類に入るらしい。自然に囲まれて育ったようなものだから、それはそれで良いことなのだろう、と思う。
「あなたは……」
正面に座る和馬は、こちらをじっと見て一度言葉を切った。そして、思い直したようにまた口を開く。
「あなたは、不思議な力を信じられる方ですか?」
「それは……」
ここの空気が少し違うのは結界のせいだと言ったり、暴風を巻き起こしたり、瞬間移動したりする力のことだろうか。
(思えば、信じられないことばっかり起きてんのに、その前後は和馬のことしか考えてないな)
恥ずかしさで顔が熱い。普通の人間がする反応をすっ飛ばして、和馬ばかり見ていたことに今更ながら気付いた。
「……うん。和馬なら信じられる」
むしろ騙されてもいいと思うくらいに、紘一は和馬のことが気に入っている。正直に答えると、そうですか、と静かに和馬は答えた。
「巻き込んでしまった以上、説明をしないわけにはいきません。でも、そこを信じていただかないと、今後の対応も考えなければならなくなります」
どうやら、紘一の回答は間違っていなかったようだ。和馬も幾分ホッとしたような表情をしている。
「では、本題に入りますね」
和馬が姿勢を正すと、周りの空気がまた変わった。さらに研ぎ澄まされて寒気を感じる。
「僕たちは風を操る種族、天使族の末裔です。人間ではありません」
そう言いながら、和馬の姿は少しずつ変化していった。元々明るい色のカフェオレ色の髪が、さらに明るく金髪のように輝く。そしてその輝きは、和馬全体を包むように広がっていった。
「詳しく言うと、天使を始祖に持ち、人間との間にできた子供の一族です」
和馬はそう言って立ち上がった。
塀で囲まれた敷地はどこまであるのか分からないくらい広く、聞くところによると、裏手にある山も和馬たちのものらしい。
「いや、ある程度予想はしてたけど……想像以上だ」
門をくぐると玄関までに庭があり、四季が楽しめるよういろいろな植物が植えてある。
きょろきょろとみっともなく見て歩いていると、隣の和馬が苦笑していた。
「今では広すぎて、使っていない場所や部屋もたくさんあるんです」
玄関から中に入ると、見た目の純和風とは違い、時代に合わせて洋風に改装してあるところもあるようだ。紘一の単純なイメージで一番近いものを挙げると、旅館といったところだろうか。
長い廊下の片側が窓になっており、天気が良い時に庭を眺めながら歩くのが楽しそ
うだ。
「佑平、悪いけど竜之介の様子を見てきて」
「分かった」
前を歩いていた佑平は、振り向いてうなずくと、長い脚でどんどん奥へと行ってしまう。
「柳さんはこちらへ」
そう案内されたのは、二十畳程の洋室だった。部屋の真ん中にソファーが対で置いてあり、調度品が並んでいる。雰囲気からして、客間だろうか。
しかし、紘一はこの部屋に入ったときに感じたミント系の香りと、どことなくここの空気が外と違う気がして、気になって辺りを見渡す。
「何か感じますか?」
和馬も紘一の様子に気付いているのだろう、あれこれと不躾に眺める紘一を邪魔せず、隣で静かに待っている。
「ミントの香りと……外とは空気が違う気がする。明るいというか、澄んでるというか……」
上手く言葉にできないが、感じることをそのまま言うと、和馬は微笑んだ。
座るように勧められ、柔らかいソファーに座ると、それがとても心地よかった。
「ここは、僕の仕事場です。祓い屋と言えば分りやすいでしょうか」
和馬は部屋の隅にあった冷蔵庫からお茶を出し、マグカップに注いで電子レンジに入れた。何となくそれが似合わなくて笑ってしまう。
(当たり前だけど、和馬も電子レンジを使うんだな)
「友達に情報通がいて、和馬のことも聞いてたよ」
温めたお茶を持ってきた和馬は、対面に座るとお茶を勧めた。
言われるまま口に運ぶと、これも何だかすっきりする味がする。思わず和馬を見ると、分かっていたかのように微笑んでいた。
「人を相手にする時に使う部屋で、結界が張ってあります。空気を清めてあるので、敏感な人はすぐに分かりますね」
どうやら自分は敏感な部類に入るらしい。自然に囲まれて育ったようなものだから、それはそれで良いことなのだろう、と思う。
「あなたは……」
正面に座る和馬は、こちらをじっと見て一度言葉を切った。そして、思い直したようにまた口を開く。
「あなたは、不思議な力を信じられる方ですか?」
「それは……」
ここの空気が少し違うのは結界のせいだと言ったり、暴風を巻き起こしたり、瞬間移動したりする力のことだろうか。
(思えば、信じられないことばっかり起きてんのに、その前後は和馬のことしか考えてないな)
恥ずかしさで顔が熱い。普通の人間がする反応をすっ飛ばして、和馬ばかり見ていたことに今更ながら気付いた。
「……うん。和馬なら信じられる」
むしろ騙されてもいいと思うくらいに、紘一は和馬のことが気に入っている。正直に答えると、そうですか、と静かに和馬は答えた。
「巻き込んでしまった以上、説明をしないわけにはいきません。でも、そこを信じていただかないと、今後の対応も考えなければならなくなります」
どうやら、紘一の回答は間違っていなかったようだ。和馬も幾分ホッとしたような表情をしている。
「では、本題に入りますね」
和馬が姿勢を正すと、周りの空気がまた変わった。さらに研ぎ澄まされて寒気を感じる。
「僕たちは風を操る種族、天使族の末裔です。人間ではありません」
そう言いながら、和馬の姿は少しずつ変化していった。元々明るい色のカフェオレ色の髪が、さらに明るく金髪のように輝く。そしてその輝きは、和馬全体を包むように広がっていった。
「詳しく言うと、天使を始祖に持ち、人間との間にできた子供の一族です」
和馬はそう言って立ち上がった。
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