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17 和馬視点
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時間は少し遡り、和馬が吉田に会う少し前のこと。和馬と佑平は、竜之介に呼び出された。
仕事での大事な話はいつも居間でするため、話の内容は大体想像がついていた。このところ急増した邪気と、女性ばかりの失踪事件――レイが関わっている事件だ。
「二人とも、想像はついていると思いますが」
座卓について竜之介がA4用紙の束を和馬に見せる。よく見ると、国からの正式な調査依頼書と、事件の内容をまとめた書類だ。和馬はこんなものを作る時間があったら、口約束でもいいからもっと早く相談してくれ、と思う。
「国から正式に依頼がきました」
天使族の立場が時代と共に薄れたとはいえ、不思議な力を信じる者が減ったというだけで、最後の砦として国との縁は切れていない。
「まあ、今更とは思いますが、内容も私たちが調べたことと一致してます」
先に動き出していた和馬たちも知っている内容を、この膨大な書類にまとめて――しかもすべて国からの正式なものとして――あるので、人命がかかっているのに呑気なものだ、と佑平までもが呟いた。
「ま、私たちが政に関わっていたころからの、正式な段取りですからね。遅いのは当然でしょう。それで、今後のことですが……」
竜之介が仕切り、情報を共有して今後のことを決める。
「国は犯人を割り出せとのことですが、犯人は十中八九、レイで間違いないですよね、和馬」
和馬はうなずく。今はまだ実体化できないため、女性の生気を奪いながら、力を溜めているところだろうと告げると、他の二人はうなずいた。
「早速邪気が多く発生するところ、怪しいと感じるところを当たってみましょう。和馬、一人情報を持っていそうな方がいるので、付き添ってもらえませんか?」
竜之介にそう言われ、和馬はまたうなずいた。佑平は別行動にし、邪気を払うことにする。
早速外へと出かけると、その人物がいるという近くの大学に来た。そこで和馬はまさか、と竜之介に尋ねる。
「もしかして、吉田さんのことなの?」
吉田と言えば、紘一と仲が良かったのでは、と思い慌ててその考えを打ち消す。
(上手くいけば会えるかもしれないなんて、何考えてるんだ、僕は)
あの春の風の青年は、和馬にとって大きな存在となりつつある。
レイのせいで力に飢えている今、あの風は無意識レベルで探してしまうのだ。
しかし、それだけではない感情も、実はあったりする。彼のことを知りたいし、自分のことも知ってほしい。友情か、もしくはそれ以上の情を抱いているのかもしれない、と和馬は思う。
しかし、肝心の紘一はというと、和馬のことを気にかけてくれているのは分かるが、それが本物なのか、分からない。というのも、彼は勘が良い。『自分に合うモノ』というのが感覚的に分かる人だ。和馬との相性が良いのも気付いているし、だからこそ会えば話しかけてくれる。
要は、力の相性に引き寄せられてはいるが、和馬のことを好きかと言えば、そうではない可能性もあるということだ。過去にはその線引きに失敗して、人間と天使族が泥沼に陥ったこともあるので、ある程度の距離は取っておかなくてはならない。
講義が終わったところの吉田を捕まえて、人気のない場所へと移動する。外からは中の様子が分からなくなる結界を竜之介に張ってもらい、早速話をした。
「キミが祓い屋一族の長、結城和馬? あ、いやごめんなさい、あまりにも想像と違ってて……」
初めて和馬に会った吉田は、驚いた声を上げた後、何故か顔を赤くした。その意味はすぐに知れる。
「僕たちが歴史的に普通の人とは違う暮らしをしているのは、ご存じでしょう?」
「それはそうなんですけど。えと……やっべぇ、想像以上に綺麗、ってか可愛い」
視線を逸らした吉田は、後半和馬に聞こえない大きさで呟いたようだが、風に乗ってその言葉はしっかり聞こえていた。
しかし、彼のミーハーなノリはここまでで、いざ仕事の話になると、真剣に答えてくれる。その上、話しているうちに口が堅いことも分かってきた。
全面的に協力してくれたし、命を狙われる可能性があるからと、和馬と話した内容を、記憶から消すことも承諾してくれる。
和馬が彼から聞き出したのはもちろんレイのことだ。名前を言ったら大学に来ている、と返ってきた。
そこで大学にはどれくらいの頻度で来ているのか、女性との付き合いはあるのか、またその相手の特定。その中で遺体となった人はいたのか、など和馬が気になったことを尋ねる。
案の定、レイは滅多に大学に来ておらず――記憶操作で在籍していることになっているらしい――女性との付き合いは盛んで、しかも身体だけの付き合い以外しない、と約束をしているようだ。当然一夜限りの人もいるため、吉田も把握できていない女性もいるようだが、付き合いがあった女性の中で、亡くなった人はいる、とのことだった。
もちろん、その亡くなったという女性と、国からの資料を照らし合わせてもみる。
これでほぼレイが犯人だと確信し、あとは証拠集めに佑平に動いてもらうことにする。
仕事での大事な話はいつも居間でするため、話の内容は大体想像がついていた。このところ急増した邪気と、女性ばかりの失踪事件――レイが関わっている事件だ。
「二人とも、想像はついていると思いますが」
座卓について竜之介がA4用紙の束を和馬に見せる。よく見ると、国からの正式な調査依頼書と、事件の内容をまとめた書類だ。和馬はこんなものを作る時間があったら、口約束でもいいからもっと早く相談してくれ、と思う。
「国から正式に依頼がきました」
天使族の立場が時代と共に薄れたとはいえ、不思議な力を信じる者が減ったというだけで、最後の砦として国との縁は切れていない。
「まあ、今更とは思いますが、内容も私たちが調べたことと一致してます」
先に動き出していた和馬たちも知っている内容を、この膨大な書類にまとめて――しかもすべて国からの正式なものとして――あるので、人命がかかっているのに呑気なものだ、と佑平までもが呟いた。
「ま、私たちが政に関わっていたころからの、正式な段取りですからね。遅いのは当然でしょう。それで、今後のことですが……」
竜之介が仕切り、情報を共有して今後のことを決める。
「国は犯人を割り出せとのことですが、犯人は十中八九、レイで間違いないですよね、和馬」
和馬はうなずく。今はまだ実体化できないため、女性の生気を奪いながら、力を溜めているところだろうと告げると、他の二人はうなずいた。
「早速邪気が多く発生するところ、怪しいと感じるところを当たってみましょう。和馬、一人情報を持っていそうな方がいるので、付き添ってもらえませんか?」
竜之介にそう言われ、和馬はまたうなずいた。佑平は別行動にし、邪気を払うことにする。
早速外へと出かけると、その人物がいるという近くの大学に来た。そこで和馬はまさか、と竜之介に尋ねる。
「もしかして、吉田さんのことなの?」
吉田と言えば、紘一と仲が良かったのでは、と思い慌ててその考えを打ち消す。
(上手くいけば会えるかもしれないなんて、何考えてるんだ、僕は)
あの春の風の青年は、和馬にとって大きな存在となりつつある。
レイのせいで力に飢えている今、あの風は無意識レベルで探してしまうのだ。
しかし、それだけではない感情も、実はあったりする。彼のことを知りたいし、自分のことも知ってほしい。友情か、もしくはそれ以上の情を抱いているのかもしれない、と和馬は思う。
しかし、肝心の紘一はというと、和馬のことを気にかけてくれているのは分かるが、それが本物なのか、分からない。というのも、彼は勘が良い。『自分に合うモノ』というのが感覚的に分かる人だ。和馬との相性が良いのも気付いているし、だからこそ会えば話しかけてくれる。
要は、力の相性に引き寄せられてはいるが、和馬のことを好きかと言えば、そうではない可能性もあるということだ。過去にはその線引きに失敗して、人間と天使族が泥沼に陥ったこともあるので、ある程度の距離は取っておかなくてはならない。
講義が終わったところの吉田を捕まえて、人気のない場所へと移動する。外からは中の様子が分からなくなる結界を竜之介に張ってもらい、早速話をした。
「キミが祓い屋一族の長、結城和馬? あ、いやごめんなさい、あまりにも想像と違ってて……」
初めて和馬に会った吉田は、驚いた声を上げた後、何故か顔を赤くした。その意味はすぐに知れる。
「僕たちが歴史的に普通の人とは違う暮らしをしているのは、ご存じでしょう?」
「それはそうなんですけど。えと……やっべぇ、想像以上に綺麗、ってか可愛い」
視線を逸らした吉田は、後半和馬に聞こえない大きさで呟いたようだが、風に乗ってその言葉はしっかり聞こえていた。
しかし、彼のミーハーなノリはここまでで、いざ仕事の話になると、真剣に答えてくれる。その上、話しているうちに口が堅いことも分かってきた。
全面的に協力してくれたし、命を狙われる可能性があるからと、和馬と話した内容を、記憶から消すことも承諾してくれる。
和馬が彼から聞き出したのはもちろんレイのことだ。名前を言ったら大学に来ている、と返ってきた。
そこで大学にはどれくらいの頻度で来ているのか、女性との付き合いはあるのか、またその相手の特定。その中で遺体となった人はいたのか、など和馬が気になったことを尋ねる。
案の定、レイは滅多に大学に来ておらず――記憶操作で在籍していることになっているらしい――女性との付き合いは盛んで、しかも身体だけの付き合い以外しない、と約束をしているようだ。当然一夜限りの人もいるため、吉田も把握できていない女性もいるようだが、付き合いがあった女性の中で、亡くなった人はいる、とのことだった。
もちろん、その亡くなったという女性と、国からの資料を照らし合わせてもみる。
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