【完結】贄の翼

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
18 / 42

17 和馬視点

しおりを挟む
時間は少し遡り、和馬が吉田に会う少し前のこと。和馬と佑平は、竜之介に呼び出された。

仕事での大事な話はいつも居間でするため、話の内容は大体想像がついていた。このところ急増した邪気と、女性ばかりの失踪事件――レイが関わっている事件だ。

「二人とも、想像はついていると思いますが」

座卓について竜之介がA4用紙の束を和馬に見せる。よく見ると、国からの正式な調査依頼書と、事件の内容をまとめた書類だ。和馬はこんなものを作る時間があったら、口約束でもいいからもっと早く相談してくれ、と思う。

「国から正式に依頼がきました」

天使族の立場が時代と共に薄れたとはいえ、不思議な力を信じる者が減ったというだけで、最後の砦として国との縁は切れていない。

「まあ、今更とは思いますが、内容も私たちが調べたことと一致してます」

先に動き出していた和馬たちも知っている内容を、この膨大な書類にまとめて――しかもすべて国からの正式なものとして――あるので、人命がかかっているのに呑気なものだ、と佑平までもが呟いた。

「ま、私たちが政に関わっていたころからの、正式な段取りですからね。遅いのは当然でしょう。それで、今後のことですが……」

竜之介が仕切り、情報を共有して今後のことを決める。

「国は犯人を割り出せとのことですが、犯人は十中八九、レイで間違いないですよね、和馬」

和馬はうなずく。今はまだ実体化できないため、女性の生気を奪いながら、力を溜めているところだろうと告げると、他の二人はうなずいた。

「早速邪気が多く発生するところ、怪しいと感じるところを当たってみましょう。和馬、一人情報を持っていそうな方がいるので、付き添ってもらえませんか?」

竜之介にそう言われ、和馬はまたうなずいた。佑平は別行動にし、邪気を払うことにする。

早速外へと出かけると、その人物がいるという近くの大学に来た。そこで和馬はまさか、と竜之介に尋ねる。

「もしかして、吉田さんのことなの?」

吉田と言えば、紘一と仲が良かったのでは、と思い慌ててその考えを打ち消す。

(上手くいけば会えるかもしれないなんて、何考えてるんだ、僕は)

あの春の風の青年は、和馬にとって大きな存在となりつつある。
レイのせいで力に飢えている今、あの風は無意識レベルで探してしまうのだ。
しかし、それだけではない感情も、実はあったりする。彼のことを知りたいし、自分のことも知ってほしい。友情か、もしくはそれ以上の情を抱いているのかもしれない、と和馬は思う。

しかし、肝心の紘一はというと、和馬のことを気にかけてくれているのは分かるが、それが本物なのか、分からない。というのも、彼は勘が良い。『自分に合うモノ』というのが感覚的に分かる人だ。和馬との相性が良いのも気付いているし、だからこそ会えば話しかけてくれる。
要は、力の相性に引き寄せられてはいるが、和馬のことを好きかと言えば、そうではない可能性もあるということだ。過去にはその線引きに失敗して、人間と天使族が泥沼に陥ったこともあるので、ある程度の距離は取っておかなくてはならない。

講義が終わったところの吉田を捕まえて、人気のない場所へと移動する。外からは中の様子が分からなくなる結界を竜之介に張ってもらい、早速話をした。

「キミが祓い屋一族の長、結城和馬? あ、いやごめんなさい、あまりにも想像と違ってて……」

初めて和馬に会った吉田は、驚いた声を上げた後、何故か顔を赤くした。その意味はすぐに知れる。

「僕たちが歴史的に普通の人とは違う暮らしをしているのは、ご存じでしょう?」

「それはそうなんですけど。えと……やっべぇ、想像以上に綺麗、ってか可愛い」

視線を逸らした吉田は、後半和馬に聞こえない大きさで呟いたようだが、風に乗ってその言葉はしっかり聞こえていた。
しかし、彼のミーハーなノリはここまでで、いざ仕事の話になると、真剣に答えてくれる。その上、話しているうちに口が堅いことも分かってきた。
全面的に協力してくれたし、命を狙われる可能性があるからと、和馬と話した内容を、記憶から消すことも承諾してくれる。

和馬が彼から聞き出したのはもちろんレイのことだ。名前を言ったら大学に来ている、と返ってきた。
そこで大学にはどれくらいの頻度で来ているのか、女性との付き合いはあるのか、またその相手の特定。その中で遺体となった人はいたのか、など和馬が気になったことを尋ねる。

案の定、レイは滅多に大学に来ておらず――記憶操作で在籍していることになっているらしい――女性との付き合いは盛んで、しかも身体だけの付き合い以外しない、と約束をしているようだ。当然一夜限りの人もいるため、吉田も把握できていない女性もいるようだが、付き合いがあった女性の中で、亡くなった人はいる、とのことだった。
もちろん、その亡くなったという女性と、国からの資料を照らし合わせてもみる。

これでほぼレイが犯人だと確信し、あとは証拠集めに佑平に動いてもらうことにする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天使のローブ

茉莉花 香乃
BL
アルシャント国には幼少期に読み聴かせる誰もが知っている物語がある。 それは勇者の物語。 昔々、闇黒がこの国を支配していた。太陽の光は届かず大地は荒れ果て、人々は飢えと寒さに耐えていた。その時五人の勇者が立ち上がった。 闇黒に立ち向かい封印に成功した勇者たちはこの国を治めた。闇黒から解き放たれた人々は歓喜した。 その話は悠遠の昔のこと…しかし、今も続く勇者の物語。 ファンタジーです 他サイトにも公開しています

そして悲しみは夜を穿つ

夜野綾
BL
炎の海で踊れ、心臓の鼓動を槌音に変え、夜の底さえ打ち砕け。近未来、戦争で荒廃した東京。熾烈な権力抗争の中で、男たちの愛と復讐が始まる。 --------------- 壊滅した都心の周辺で、行き場をなくした男たちは蠢いている。復興事業やフィルターマスク専売権、支援物資の分配を巡り、武装組織が権力抗争を繰り広げる東京。鎌田で食堂と周辺コミュニティを細々と仕切っていた怜(れん)の元へ、ひとりの男が現れる。彼は、かつて怜が愛した男の匂いをまとっていた。得体の知れないその男は、怜にある取引をもちかける── むにゃむにゃがある章は★。 ハードボイルド・サスペンスBL。ハッピーエンド。

必然ラヴァーズ

須藤慎弥
BL
ダンスアイドルグループ「CROWN」のリーダー・セナから熱烈求愛され、付き合う事になった卑屈ネガティブ男子高校生・葉璃(ハル)。 トップアイドルと新人アイドルの恋は前途多難…!? ※♡=葉璃目線 ❥=聖南目線 ★=恭也目線 ※いやんなシーンにはタイトルに「※」 ※表紙について。前半は町田様より頂きましたファンアート、後半より眠様(@nemu_chan1110)作のものに変更予定です♡ありがとうございます!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...