【完結】贄の翼

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
11 / 42

10 和馬視点

しおりを挟む
そして数時間後、和馬は夢を見た。
夢を見ていると認識するのに時間がかかったのは、景色が自分の部屋だったからだ。

和室に机と本棚。必要最低限のものしかないシンプルな部屋は、天使族の長を引き継ぎ、家業を始めた頃から変わらない。本棚には天使族に関する書籍や、陰陽道、占い、お祓いなど仕事に関するものばかりだ。

和馬は部屋に敷いた布団の上に寝転がり、上に覆いかぶさっている人物を睨みつける。

「何故お前がここにいる」

金髪の、独特な髪型をした男がニヤリと笑った。

「久々に会えたのに、その言いぐさはないだろ?」

和馬の腕は男の手で押さえられており、不快極まりない体勢だ。

「よく言う。この機会をずっと窺ってたくせに……レイ」

レイは切れ長の目をスッと細めた。人間離れした美形のためか、表情のちょっとした変化でも人を惹きつける。

「僕から出て行ったくせに、力は僕と共有させる術……『ちぎり』の応用か」

それは想いが通じ合う者同士が、文字通り運命共同体となる術だ。

しかし、レイは唇の端を上げる。

「さすが、頭が良いな。でも、応用は応用だ。これは、力の共有じゃなく……」

そう言って、レイは和馬のお腹に手をあてる。ぞわっと悪寒がし、逃げなければと手足を動かすが無駄だった。

「俺が一方的に、お前の力を使えるようにしたんだ」

「……っ!」

お腹にあてられた手から、無理やり力がねじ込まれ激痛が走る。レイの瞳が金色に輝き、人を思い通りに動かす術を発動していることが分かった。
こうなれば、レイの力を上回らない限り、逃げるのは不可能だ。

弱らせたのはこのためだったか、と和馬は思う。そして、完全復活するまで、自分を殺さない程度に力を搾取するのだ。

「誰が、お前なんかにっ、い……っ!」

「お前の意見なんか聞いてねぇ。抵抗しないでさっさと緩めろ」

ぐりっと、硬い穴を力任せにこじ開けられ、早くも意識が遠のきそうになる。それでも抵抗していると、唐突に首筋を舐められた。粟肌が立ち、その隙をついてレイは力の楔を最奥へと突き刺す。

「あああああっ!」

目の前に火花が散り、視界が暗くなりかけた。痛さと異物感と圧迫感に呼吸さえままならない。

レイが薄く笑った。

「さすが、天使族一始祖に近いと言われただけあるな。ここに入れただけでも力が溢れてくる。だが……」

「ん……っ」

楔が刺さったまま奥を探られる。力の源がどこかにあり、それを刺激すると、繋がった者に力を与えることができるのだ。
無遠慮に中を掻き回すレイに、心の中で呪いの言葉を吐く。そうでもしないと、その痛みに耐えられなかった。

「ははっ、良い表情するね! 俺はね、和馬。お前をこうやって組み敷くのが夢だったんだよ」

びくん、と和馬の背中が浮いた。「ここか」とレイが呟く。最奥の、一番敏感な場所にやんわりと触れられ、和馬は声を上げそうになった。
お腹の上の手が、ゆっくりと握られるのと同時に、その力の塊も握られ、神経に触られたみたいに、ビクビクと体が痙攣する。

「覚えておけ」

レイはそれを握ったまま、声を殺して耐えるしかない和馬を嗤う。

「お前は、にえだ」

「……っ!!」

同時に力をずるりと引き抜かれ、あまりの衝撃に和馬はそのまま意識を手放した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...