【完結】一回ヤッたら溺愛されました〜甘えたがりの甘え下手〜

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
20 / 35

第20話

しおりを挟む
 はぁ、と駿太郎の口からため息が漏れる。
 あれから、駿太郎だけ好き放題されていかされ、気付いたら日曜日の朝だった。しかも友嗣は買ったルームウェアと駿太郎を抱きしめながら同じベッドに寝ていて、記憶が飛ぶほど乱れた自分が恥ずかしくなる。
 友嗣はそのあとも、かいがいしく世話をしてくれて、とても上機嫌だった。

(わけがわからない)

 節操なしだと思っていた友嗣は、その日は駿太郎に触れるばかりで、駿太郎が彼に触れた覚えがない。セックスが好きなら、自分も気持ちよくしてもらいたいと思うのが普通なのでは、と思ったけれど。

(え? まさか、本当に慰めるつもりで……?)

 今だけ忘れなよ、と言った友嗣の言葉通り、記憶が飛ぶほどいかされた。おかげで身体はだるいものの、心は幾分スッキリしているので、快楽物質によるリラックス効果だと思われるけれど。

(友嗣らしい慰め方だな)

 濡れたままの髪で出てきたり、のんびりした喋り方をしたりと、子供っぽいところがありつつも、情事に関しては駿太郎より習熟している。そこは経験人数のせいだとは思うが、こんなふうに気遣われたのは初めてなので不思議な感覚だ。
 恥ずかしくていたたまれないのに、心の中が温かい。友嗣がそこまで自分のことを気にかけてくれることが、くすぐったくて面映ゆい。
 この気持ちと、もう少し向き合えば自分の気持ちもわかるだろうか? そして、ちゃんと友嗣のことを知れば、彼のことが好きになれるのだろうか?

(少なくとも、今の友嗣は俺を騙そうなんて考えるやつじゃない)

 最初こそ何を考えているのかわからなかったけれど、一度身体を繋げてから、彼の言動は素直そのものだ。やはり友嗣の態度が変わったきっかけは、あの一夜にあるとはわかっているけれど。

「……聞けねぇなぁ。まだ怖がってんのかよ」

 友嗣は、本当は駿太郎の身体だけが気に入って、ヤれるならなんだって言うことを聞くタイプなのかもしれない。そんなことを考えてしまい、駿太郎は自分の頭を抱えた。

「だから……うだうだ考えるのが嫌で頑張ってんのに……」

 努めて理性的に振舞っていたのが、友嗣の前だとそれが保てなくなってしまう。素でいられるのはいいことだと思うけれど、素の自分は自分でも面倒くさいと思う思考の持ち主だ。女々しい、その一言に尽きる。

「……っと、そろそろ夕飯か。休みの日って時間経つの早いよな」

 友嗣は仕事初めなのでおらず、自然と駿太郎の独り言になった。自室のベッドから降り、買った食料品を消費しないとな、と冷蔵庫を開けた。すると、皿に盛り付けられた料理が目に入る。

「え、何これ? おせち?」

 重箱に入ってはいないけれど、黒豆や紅白かまぼこ、伊達巻と海老がそれには載っていた。作っている様子はなかったから、多分買ってきたのだろう。それでも綺麗に盛り付けられていれば、用意した人の気持ちが伝わってきてしまうようで……。

「……」

 駿太郎は冷蔵庫の扉を閉めて、その場にしゃがみ込む。じわじわと耳まで熱くなるのを自覚して、大きく息を吐いた。顔が熱くて胸が苦しい。

「やば……好きだ……」

 立てた膝に顔をうずめて呟く。もう三が日は過ぎてしまったし、本格的なおせちではないけれど、少しでも正月気分をという友嗣の気遣いが嬉しい。しかも、自分がのうのうとベッドで爆睡しているうちに、起きたら食べられるように準備してくれた。
 ――尽くされている、と感じたのだ。

「慰めとか言いつつ一方的に気持ちよくしてくれてベッドまで運んでくれて起きた時のメシまで作ってくれるとか……」

 最高すぎて怖いんだけど、とにやける顔を腕で押さえる。いま多分、自分は気持ち悪いほどにやけている。

「……かわいいなあ」

 立ち上がって冷蔵庫からその皿を取り出し、マグカップに緑茶を用意してローテーブルに持っていった。
 ――シュンに食べて欲しいな、って思いながら選んでるよ。
 先日聞いた、友嗣の言葉を思い出す。本当に、自分を……自分だけを想って食事を用意してくれることが、嬉しい。

「……信じてもいいのかな」

 きれいな料理を目の前に、ポツリと呟いた声は妙に寂しく聞こえた。
 ゲイであると自覚してから、甘い恋愛は難しいと感じていた。けれど二年前に別れた彼氏は、駿太郎のそんな願いを叶えてくれた人だった。結果的に浮気を隠すための甘言だったと気付き、裏切られたと……やっぱり自分が望むような恋愛なんかできないのだと、そう思っていた。
 けれど友嗣は、駿太郎の望む関係を築いてくれている。同棲と一緒に始めた関係が、すごい早さで近くなっているのがわかる。

「……やめやめ! 俺は決めたはずだ」

 同性愛者でも、異性愛者でも、恋愛において傷付かずに生きてはいけない。それなら親戚に何を言われようとも、弟に小言を言われようとも、前だけ見ていけばいいと、最近はそう思い始めていたじゃないか、と自分を奮い立たせる。

「とりあえず飯! せっかく用意してくれたんだから」

 むりやり意識を逸らし、両手を合わせた。まずは一番好きな焼き海老から、と手を伸ばす。剥く手間が面倒だけれど、滅多に食べられないものなのでウキウキしながら頬張った。

「……んん!」

 冷蔵庫に入っていたから冷たかったけれど、焼き海老独特の香ばしさと身の甘み、ぷりぷり食感に思わず唸る。冷えても美味しいのはいい食材なのかな、と浮かれた頭で考え、あっという間に皿の上を片付けた。
 駿太郎はすぐに席を立ち、食器を片付け、出かける準備をする。嬉しさで涙が出そうで、独り言を言いながら誤魔化し、友嗣に会うなら笑顔で、と自宅をあとにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...