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第12話
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今どき、と思うだろうか。でも未だに本家の発言が大きい地域は実際にある。本家の子供が結婚するとなれば、相手もそれなりの――悪く言えば本家と同類の――人なのだろう。
「分かった。じゃあ大晦日に……」
『ダメだ。三十日。そして三が日は父さん母さんに孝行してやれ』
そう言って一方的に切れた通話に、駿太郎は舌打ちすることしかできなかった。面倒くさいな、と思いかけて、いやいや両親に罪はない、と考えを打ち消す。
結局、そのあとは料理をする気にはなれず、夕飯時に【ピーノ】へ向かった。いつものように将吾は迎えてくれたが、友嗣は今までにない反応をする。
「シュン、来てくれたんだ、嬉しい」
いつもなら微笑んで「いらっしゃい」と接客していた彼が、駿太郎を見た途端、満面の笑みを浮かべたのだ。
当然その変化は将吾も気付き、驚いたように目を見開いている。駿太郎は軽く二人に挨拶をし椅子に座ると、将吾が小声で話しかけてきた。
「シュン、何があった?」
「俺にもさっぱり。将吾サン聞いてないんですか?」
駿太郎の返答に、将吾はまた驚いたようだ。一瞬友嗣を見やり、駿太郎に視線を戻すと、さらに声を落とす。
「友嗣が話さないなんて珍しい。本当に気に入られたんだな」
その言葉に駿太郎も驚いた。てっきり今朝までのことを話していると思ったし、それについてからかわれる覚悟もしていたのに。将吾も驚くほど、気に入られたのは良いのか悪いのか。
「はい、どうぞ」
そう言って出されたのはお冷とクリームシチューとバゲットだ。ここの店にはメニューはなく、店長である友嗣がその日入った食材で料理を作っている。いつも思うけれど和洋折衷、多様な料理が出てくるので、仕入先や友嗣の料理スキルはどこで覚えたのかと気になった。
「いつも思うけど。相変わらずメニューに統一性ないよな。どこで材料仕入れてんだ?」
早速バゲットをシチューに浸して食べると、濃厚なクリームの味が疲れた心に沁みる。
すると友嗣はさらに笑みを深くした。
「ん? シュンが美味しく食べてくれますようにって思いながら選んでるよ?」
「ぅ……っ、ンぐ……っ」
彼のあまりにも破壊力があるセリフに、駿太郎はむせる。将吾が背中を撫でてくれ、なんとか事なきを得た。
「はっはっは! じゃあ、これで俺もお役御免だな!」
「えっ? 嫌だよ、将吾も大事だよ」
何がツボに入ったのか大声で笑う将吾に、本気で困ったように焦る友嗣。駿太郎は水を飲んで身体を落ち着けると、二人を交互に見やる。
思えば、二人の関係性は十年来の友人としか聞いておらず、それ以外のことは知らない。友嗣は少なからず将吾を特別に見ているし、今の将吾の発言で今までの友嗣の世話は、彼がしていたのかな、と予想はつくけれど。
「友嗣、あまり俺にベッタリだとシュンが嫉妬するぞ?」
「えっ?」
「それは嫌だ。けど、将吾がいなくなったら俺……」
聞き捨てならない将吾の言葉に駿太郎は反応するも、友嗣は眉を下げて将吾を見つめている。まるで捨てないでと縋りつくような表情に、駿太郎は「だったら将吾の家にでも行けばいいのに」と心の中で口を尖らせた。
「冗談だよ。でも、今のお前の恋人は誰だ?」
「いや、恋人じゃないですから」
駿太郎のツッコミもむなしく、友嗣は俯いてしまう。それがなんだか、幼い子供が泣きそうなのを堪えているように見えて、駿太郎はため息をついた。
まあまあ、と友嗣をなだめる。
「友嗣は将吾サンが大好きなんだな?」
「……うん」
顔を上げて遠慮がちに微笑む友嗣は、どこか頼りなさを感じた。やはり図体だけが大きい子供という印象があるな、と駿太郎は思う。
「あ、でもシュンも大好きだよっ?」
見放さないでと言わんばかりに上目遣いで見つめられ、駿太郎はぐっと息を詰めた。きらわないで、なんでもするから、おねがい、と小さい頃に光次郎と喧嘩した時のことをなぜか思い出す。
友嗣の表情は、まさにその時の弟とそっくりだった。にいちゃん、にいちゃん、と自分のあとを追いかけていたのに、どうしてこうなったのか。
「……わかってるよ。大丈夫だから」
そう言うと、隣で驚いたようにこちらを見る将吾が視界に入った。縋られると弱いのは、自身も愛情を求めているからだと自覚している。二年前も、それが暴走して騒ぎになった。だから今のままではいけない、と思っているけれど。
「……なんだ」
ぽつりと、将吾が呟く。それは小さな声だったけれど、狭い店内には十分に響いた。
「やっぱり俺の目に狂いはなかったな」
その調子で仲良くなってくれ、と言われて、駿太郎は何も返せない。代わりにバゲットを口に放り込み、水でそれを流し込む。やっぱり、将吾には何もかも見透かされていて、友嗣を嫌いきれないのも、知られているのだ。
本当は、駿太郎はわりと依存体質だ。相手の喜ぶことはなんでもしたいし、相手のことを考えているのが好き。けれど二年前、元恋人が女性と浮気をしたと知って頭に血が上り、社内にいたにも関わらず、戻ってきてと縋ってしまった。男女でも痛いもつれ話なのに、そこが会社だということも完全に忘れてしまい、男同士で付き合う別れるを押し問答してしまったのは、今では充分に反省している。
(だから、大人しく……理性的な付き合いをしてたのにな)
どうやらそれも行き過ぎて、相手に息苦しい思いをさせていたらしい。けれどやっぱり、二年前のようなことは繰り返したくない。
(こんな、誰とでも寝るような奴なのに……)
だから駿太郎にとって、友嗣は地雷なのだ。またいつどこに行くかわからない奴とは、付き合わない方がいいに決まっている。
それなのに、今しがた捨てないでと見つめてきた友嗣に絆されそうになっている。
(将吾サンが言うのなら、信じてみてもいいのか……?)
お似合いだと言った彼の言葉を、信じてもいいのだろうか。二年前から、何度か駿太郎を救ってくれている彼の言うことなら。
(……よし)
行動しなければ、結果は出ないことを知っている駿太郎は、友嗣を見上げた。
「将吾サンがそこまで言うなら……ちゃんと付き合ってみるか?」
そう言うと、友嗣はぱあっと笑顔になり「うん!」と頷く。その笑顔に駿太郎も心がほぐれたので、相性が良いのは肌で感じた。
「分かった。じゃあ大晦日に……」
『ダメだ。三十日。そして三が日は父さん母さんに孝行してやれ』
そう言って一方的に切れた通話に、駿太郎は舌打ちすることしかできなかった。面倒くさいな、と思いかけて、いやいや両親に罪はない、と考えを打ち消す。
結局、そのあとは料理をする気にはなれず、夕飯時に【ピーノ】へ向かった。いつものように将吾は迎えてくれたが、友嗣は今までにない反応をする。
「シュン、来てくれたんだ、嬉しい」
いつもなら微笑んで「いらっしゃい」と接客していた彼が、駿太郎を見た途端、満面の笑みを浮かべたのだ。
当然その変化は将吾も気付き、驚いたように目を見開いている。駿太郎は軽く二人に挨拶をし椅子に座ると、将吾が小声で話しかけてきた。
「シュン、何があった?」
「俺にもさっぱり。将吾サン聞いてないんですか?」
駿太郎の返答に、将吾はまた驚いたようだ。一瞬友嗣を見やり、駿太郎に視線を戻すと、さらに声を落とす。
「友嗣が話さないなんて珍しい。本当に気に入られたんだな」
その言葉に駿太郎も驚いた。てっきり今朝までのことを話していると思ったし、それについてからかわれる覚悟もしていたのに。将吾も驚くほど、気に入られたのは良いのか悪いのか。
「はい、どうぞ」
そう言って出されたのはお冷とクリームシチューとバゲットだ。ここの店にはメニューはなく、店長である友嗣がその日入った食材で料理を作っている。いつも思うけれど和洋折衷、多様な料理が出てくるので、仕入先や友嗣の料理スキルはどこで覚えたのかと気になった。
「いつも思うけど。相変わらずメニューに統一性ないよな。どこで材料仕入れてんだ?」
早速バゲットをシチューに浸して食べると、濃厚なクリームの味が疲れた心に沁みる。
すると友嗣はさらに笑みを深くした。
「ん? シュンが美味しく食べてくれますようにって思いながら選んでるよ?」
「ぅ……っ、ンぐ……っ」
彼のあまりにも破壊力があるセリフに、駿太郎はむせる。将吾が背中を撫でてくれ、なんとか事なきを得た。
「はっはっは! じゃあ、これで俺もお役御免だな!」
「えっ? 嫌だよ、将吾も大事だよ」
何がツボに入ったのか大声で笑う将吾に、本気で困ったように焦る友嗣。駿太郎は水を飲んで身体を落ち着けると、二人を交互に見やる。
思えば、二人の関係性は十年来の友人としか聞いておらず、それ以外のことは知らない。友嗣は少なからず将吾を特別に見ているし、今の将吾の発言で今までの友嗣の世話は、彼がしていたのかな、と予想はつくけれど。
「友嗣、あまり俺にベッタリだとシュンが嫉妬するぞ?」
「えっ?」
「それは嫌だ。けど、将吾がいなくなったら俺……」
聞き捨てならない将吾の言葉に駿太郎は反応するも、友嗣は眉を下げて将吾を見つめている。まるで捨てないでと縋りつくような表情に、駿太郎は「だったら将吾の家にでも行けばいいのに」と心の中で口を尖らせた。
「冗談だよ。でも、今のお前の恋人は誰だ?」
「いや、恋人じゃないですから」
駿太郎のツッコミもむなしく、友嗣は俯いてしまう。それがなんだか、幼い子供が泣きそうなのを堪えているように見えて、駿太郎はため息をついた。
まあまあ、と友嗣をなだめる。
「友嗣は将吾サンが大好きなんだな?」
「……うん」
顔を上げて遠慮がちに微笑む友嗣は、どこか頼りなさを感じた。やはり図体だけが大きい子供という印象があるな、と駿太郎は思う。
「あ、でもシュンも大好きだよっ?」
見放さないでと言わんばかりに上目遣いで見つめられ、駿太郎はぐっと息を詰めた。きらわないで、なんでもするから、おねがい、と小さい頃に光次郎と喧嘩した時のことをなぜか思い出す。
友嗣の表情は、まさにその時の弟とそっくりだった。にいちゃん、にいちゃん、と自分のあとを追いかけていたのに、どうしてこうなったのか。
「……わかってるよ。大丈夫だから」
そう言うと、隣で驚いたようにこちらを見る将吾が視界に入った。縋られると弱いのは、自身も愛情を求めているからだと自覚している。二年前も、それが暴走して騒ぎになった。だから今のままではいけない、と思っているけれど。
「……なんだ」
ぽつりと、将吾が呟く。それは小さな声だったけれど、狭い店内には十分に響いた。
「やっぱり俺の目に狂いはなかったな」
その調子で仲良くなってくれ、と言われて、駿太郎は何も返せない。代わりにバゲットを口に放り込み、水でそれを流し込む。やっぱり、将吾には何もかも見透かされていて、友嗣を嫌いきれないのも、知られているのだ。
本当は、駿太郎はわりと依存体質だ。相手の喜ぶことはなんでもしたいし、相手のことを考えているのが好き。けれど二年前、元恋人が女性と浮気をしたと知って頭に血が上り、社内にいたにも関わらず、戻ってきてと縋ってしまった。男女でも痛いもつれ話なのに、そこが会社だということも完全に忘れてしまい、男同士で付き合う別れるを押し問答してしまったのは、今では充分に反省している。
(だから、大人しく……理性的な付き合いをしてたのにな)
どうやらそれも行き過ぎて、相手に息苦しい思いをさせていたらしい。けれどやっぱり、二年前のようなことは繰り返したくない。
(こんな、誰とでも寝るような奴なのに……)
だから駿太郎にとって、友嗣は地雷なのだ。またいつどこに行くかわからない奴とは、付き合わない方がいいに決まっている。
それなのに、今しがた捨てないでと見つめてきた友嗣に絆されそうになっている。
(将吾サンが言うのなら、信じてみてもいいのか……?)
お似合いだと言った彼の言葉を、信じてもいいのだろうか。二年前から、何度か駿太郎を救ってくれている彼の言うことなら。
(……よし)
行動しなければ、結果は出ないことを知っている駿太郎は、友嗣を見上げた。
「将吾サンがそこまで言うなら……ちゃんと付き合ってみるか?」
そう言うと、友嗣はぱあっと笑顔になり「うん!」と頷く。その笑顔に駿太郎も心がほぐれたので、相性が良いのは肌で感じた。
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