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「……という訳で、本来の目的だった宮下先輩に、話を聞こうかと思ったんです」
氷上先輩の連絡先を知りませんか? と春輝はベッドに座った宮下を見た。彼は太い腕を組むと、うーん、と唸り出す。
「残念だが一之瀬……連絡先を知らないんだ」
それどころか当時氷上は、スマホどころか携帯電話さえ持っていなかったらしい。今どき? と冬哉は声を上げた。
「どんな人物だったかは話せるぞ?」
「……聞かせてください」
春輝がそう言うと、宮下は氷上について語り出す。
「氷上先輩は……水彩画の上手い人だった。俺には芸術なんてもんは分からないけど、水の中とか川とか……水をテーマにした絵ばっか描いていたイメージだ」
宮下が言うには、氷上は線の細い人で、体調もよく崩していたらしい。いつもヘラヘラしていてのんびり喋るので、水野はいつもイライラしていたそうだ。
「どうやら実家から、あまりにも自分の事ができないからって寮に入れられたみたいだけど、水野とルームメイトになっちまって……」
ああ、と春輝は納得する。そのまま学校を去るまで来てしまったようだ。
「え、じゃあ氷上先輩が一年生の時は?」
春輝が疑問に思ったことを聞くと、宮下はああ、と苦笑した。
貴之が寮に入った日には、あまりの散らかりように部屋に入れなくて、しばらく貴之が片付けをしていたらしい。現三年生の間で語り草になっているそうだ。
「一人だったのが仇になってたな。なんせなまじお金があるから、洗濯せずに新しい服や下着を買ってたようだし、古い下着を食堂のゴミ箱に突っ込んで怒られてたのを、何度見たことか」
「あー……」
どうやら氷上という人物は、思った以上に生活力が無かったようだ。
「そういえば、氷上先輩は実家が病院だって聞きました」
「ああ、その病院なら教えられるぞ」
宮下は病院名と大体の場所を教えてくれる。けれど土地勘のない春輝にはピンとこなかった。
「でも、いきなり会ってもらえるものかなぁ?」
だって、この学校には良くない思い出がある訳でしょ? と冬哉はうーんと唸った。確かに、貴之の事で話をしたいなどと言って近付いたら、逃げてしまう可能性はある。
「一度、美術部の奴に探り入れてもらおうか?」
宮下の提案に春輝は頷くと、春輝は礼を言って部屋に戻る。
貴之は机に向かっていて、春輝が部屋に入っても振り向きもしない。それが寂しくて、つい貴之に後ろから抱きついた。
「……貴之、仲直りしよ?」
そっぽ向かれると不安になる、と言うと、貴之は持っていたシャーペンを置き、春輝の腕を優しく叩く。春輝は腕を外すと貴之は立ち上がり、正面から抱きしめられた。
春輝のおでこの位置に貴之の唇があり、そのままそこにキスされた。甘い仕草に水野の機嫌が直っている事が分かる。
「キスしていいか?」
「ん……」
意外と単純なのかな、と思いつつ春輝は貴之の唇を受け入れた。角度を変え、何度も吸い付いて次第に深くなるキスに、春輝は身体の奥底で小さな火がつくのが分かる。
「ぁ……、貴之……キスだけじゃないのかよ……」
シャツの上から胸をまさぐり始めた貴之に、春輝は思わずその手を止めようと掴んだ。しかし彼はもう春輝の感じるところを探り当てていて、爪を立て引っ掻かれる。
「ん……っ」
思わずビクついた身体に、貴之は更に刺激を与え、春輝の性感を高めていった。小さかった火が次第に大きくなり、春輝はふるふると首を振る。
「だ、め、……貴之……」
「……ダメか?」
「……っ」
彼の吐息が熱い。春輝は胸への刺激と相まってビクビクと背中を反らすと、可愛い、とキスされた。
そして、あ、と何かに気付いたような声を上げる。
「可愛いって言われるのは好きじゃないんだったな……」
悪い、と謝られ、再び抱きしめられる。熱くなった下半身を知られるのが嫌で腰を引くと、グッと腰を引き寄せられた。
「……っ、ん……っ」
春輝は羞恥心の前に、貴之も同じように硬くなっていて慌てる。逃げようとする身体を引き寄せる貴之は、またおでこにキスをした。
「た、貴之……押し付けるなよ……」
「何故? 同じものが同じようになってるだけだろ」
恥ずかしがる必要あるか? と問われ、春輝は首を振った。全然違う、と春輝は顔を赤くする。
「貴之の……何かおっきい……」
春輝は感想をそのまま言うと、何故か貴之は息を詰めた。そしてそのままそろそろと息を吐くと、頭を撫でられる。今はこれ以上先に進むつもりはないらしく、愛撫を止めて抱きしめるだけの貴之に、春輝はもどかしさを感じた。
「ねぇ貴之、勃っちゃったらイキたいよ……」
「……そうだな。けど、前みたいに途中で気分が悪くなるかもしれない。そうなったら、俺は今度こそ無理矢理してしまいそうで怖いんだ」
大事にしたいからゆっくりいこう、と言われ、春輝はその気遣いに嬉しくなって、貴之の胸にグリグリと顔を寄せる。くすぐったかったのか、貴之は笑った。
「……お前は見た目繊細そうなのに、無鉄砲なことをするし、読めなくて面白いな」
でも無茶だけはしないでくれ、と言われ、春輝は頷く。それでも貴之は教えてくれないのを悟り、春輝はこっそりため息をついた。
どうしてそこまで教えてくれないのだろう? 春輝は貴之の心音を聞きながらそう思う。本当に、敵が誰なのか分からないだけなのか、とも。
そのあとはいつも通りイチャイチャしつつ、一日の終わりを迎えた。
氷上先輩の連絡先を知りませんか? と春輝はベッドに座った宮下を見た。彼は太い腕を組むと、うーん、と唸り出す。
「残念だが一之瀬……連絡先を知らないんだ」
それどころか当時氷上は、スマホどころか携帯電話さえ持っていなかったらしい。今どき? と冬哉は声を上げた。
「どんな人物だったかは話せるぞ?」
「……聞かせてください」
春輝がそう言うと、宮下は氷上について語り出す。
「氷上先輩は……水彩画の上手い人だった。俺には芸術なんてもんは分からないけど、水の中とか川とか……水をテーマにした絵ばっか描いていたイメージだ」
宮下が言うには、氷上は線の細い人で、体調もよく崩していたらしい。いつもヘラヘラしていてのんびり喋るので、水野はいつもイライラしていたそうだ。
「どうやら実家から、あまりにも自分の事ができないからって寮に入れられたみたいだけど、水野とルームメイトになっちまって……」
ああ、と春輝は納得する。そのまま学校を去るまで来てしまったようだ。
「え、じゃあ氷上先輩が一年生の時は?」
春輝が疑問に思ったことを聞くと、宮下はああ、と苦笑した。
貴之が寮に入った日には、あまりの散らかりように部屋に入れなくて、しばらく貴之が片付けをしていたらしい。現三年生の間で語り草になっているそうだ。
「一人だったのが仇になってたな。なんせなまじお金があるから、洗濯せずに新しい服や下着を買ってたようだし、古い下着を食堂のゴミ箱に突っ込んで怒られてたのを、何度見たことか」
「あー……」
どうやら氷上という人物は、思った以上に生活力が無かったようだ。
「そういえば、氷上先輩は実家が病院だって聞きました」
「ああ、その病院なら教えられるぞ」
宮下は病院名と大体の場所を教えてくれる。けれど土地勘のない春輝にはピンとこなかった。
「でも、いきなり会ってもらえるものかなぁ?」
だって、この学校には良くない思い出がある訳でしょ? と冬哉はうーんと唸った。確かに、貴之の事で話をしたいなどと言って近付いたら、逃げてしまう可能性はある。
「一度、美術部の奴に探り入れてもらおうか?」
宮下の提案に春輝は頷くと、春輝は礼を言って部屋に戻る。
貴之は机に向かっていて、春輝が部屋に入っても振り向きもしない。それが寂しくて、つい貴之に後ろから抱きついた。
「……貴之、仲直りしよ?」
そっぽ向かれると不安になる、と言うと、貴之は持っていたシャーペンを置き、春輝の腕を優しく叩く。春輝は腕を外すと貴之は立ち上がり、正面から抱きしめられた。
春輝のおでこの位置に貴之の唇があり、そのままそこにキスされた。甘い仕草に水野の機嫌が直っている事が分かる。
「キスしていいか?」
「ん……」
意外と単純なのかな、と思いつつ春輝は貴之の唇を受け入れた。角度を変え、何度も吸い付いて次第に深くなるキスに、春輝は身体の奥底で小さな火がつくのが分かる。
「ぁ……、貴之……キスだけじゃないのかよ……」
シャツの上から胸をまさぐり始めた貴之に、春輝は思わずその手を止めようと掴んだ。しかし彼はもう春輝の感じるところを探り当てていて、爪を立て引っ掻かれる。
「ん……っ」
思わずビクついた身体に、貴之は更に刺激を与え、春輝の性感を高めていった。小さかった火が次第に大きくなり、春輝はふるふると首を振る。
「だ、め、……貴之……」
「……ダメか?」
「……っ」
彼の吐息が熱い。春輝は胸への刺激と相まってビクビクと背中を反らすと、可愛い、とキスされた。
そして、あ、と何かに気付いたような声を上げる。
「可愛いって言われるのは好きじゃないんだったな……」
悪い、と謝られ、再び抱きしめられる。熱くなった下半身を知られるのが嫌で腰を引くと、グッと腰を引き寄せられた。
「……っ、ん……っ」
春輝は羞恥心の前に、貴之も同じように硬くなっていて慌てる。逃げようとする身体を引き寄せる貴之は、またおでこにキスをした。
「た、貴之……押し付けるなよ……」
「何故? 同じものが同じようになってるだけだろ」
恥ずかしがる必要あるか? と問われ、春輝は首を振った。全然違う、と春輝は顔を赤くする。
「貴之の……何かおっきい……」
春輝は感想をそのまま言うと、何故か貴之は息を詰めた。そしてそのままそろそろと息を吐くと、頭を撫でられる。今はこれ以上先に進むつもりはないらしく、愛撫を止めて抱きしめるだけの貴之に、春輝はもどかしさを感じた。
「ねぇ貴之、勃っちゃったらイキたいよ……」
「……そうだな。けど、前みたいに途中で気分が悪くなるかもしれない。そうなったら、俺は今度こそ無理矢理してしまいそうで怖いんだ」
大事にしたいからゆっくりいこう、と言われ、春輝はその気遣いに嬉しくなって、貴之の胸にグリグリと顔を寄せる。くすぐったかったのか、貴之は笑った。
「……お前は見た目繊細そうなのに、無鉄砲なことをするし、読めなくて面白いな」
でも無茶だけはしないでくれ、と言われ、春輝は頷く。それでも貴之は教えてくれないのを悟り、春輝はこっそりため息をついた。
どうしてそこまで教えてくれないのだろう? 春輝は貴之の心音を聞きながらそう思う。本当に、敵が誰なのか分からないだけなのか、とも。
そのあとはいつも通りイチャイチャしつつ、一日の終わりを迎えた。
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