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「和将、今日客が来るから対応よろしく」
冬のある日、鳥羽晶は電話で巽和将に指示を出していた。
『今日? 随分急だね。それに、おかげさまで忙しいんだけど』
和将は柔らかい口調ではあるが、不満を隠さずに言ってくる。
「午後の五分くらい、空いてるだろ? スケジュールは俺も見れるんだし」
和将の雇い主である晶は、スケジュール共有システムで、社員のスケジュールを全員分把握している。それも、もうすぐ社長を退任する広告代理店と、今野真洋が所属する、晶がAkiとしてプロデュース業を営む芸能事務所と両方全員分だ。
和将は、このシステム何とかならないかなぁ、と愚痴を漏らした。
「俺と真洋は撤収済んだら向かう。……雑用でも、俺は仕事ができる奴にしか頼まないって、知ってるだろ?」
晶はそう言うと、和将の大きなため息が聞こえた。
『……ホント、人遣い荒いクセにそういう事言うの、嫌いだなぁ』
「そりゃどーも」
褒めてないんだけど、と和将は言うが気にしない。真洋を和将に取られた腹いせも含んでいるからだ。
晶は通話を切ると、真洋の元へ向かった。
「これから事務所戻るのか?」
話を聞いていたらしい真洋が、楽器ケースを担ぎ直して聞いてくる。
さらさらの黒髪に元アイドルらしい甘い顔をした真洋は、先程の和将と恋人同士だ。
ノンケが好きな晶が、唯一惚れたゲイというところで、晶の中で真洋は色んな意味で特別な存在になりつつある。
「おう。真洋、面接するぞ」
晶がAkiとして、真洋のプロデュースをして二年。広告代理店の退任も順調にいきそうだし、そろそろこちらのプロデュース業に力を入れていきたいと思っていた時だった。
東水春という男から、突然音源が届いたのだ。
同封されていた手紙には、デビューからずっとAkiのファンで、事務所へ入所希望、もしくはAkiの弟子、それもだめなら付き人でもお手伝いでも良いので、一度会って貰えないか、と書いてあった。
(一応、インディーズでそこそこ売れてるみたいだしな)
いつもなら無視する類の連絡だが、タイミングの良さに縁だと思って音源も聞いてみた。真洋とは違う爽やかな歌声が、アコースティックギターの弾き語りで紡がれていた。
「面接って……また急だな」
真洋は呆れている。
「移動の車でこれ聞いておけ」
晶は真洋にCDを渡すと、真洋はオッケー、とそれを持って先に歩き出した。
(場合によっては、真洋とコラボもありか? ……いや、まずは会ってからだな)
真洋の後ろ姿を追いかけながら、そんな事を考える。水春がどんな人物なのか分からない以上、早とちりは良くないだろう。
(しかも俺のファンだとか……物好きもいたもんだ)
晶は苦笑する。
晶の容姿はハーフだからか全体的に色素が薄く、金髪のストレートの髪を胸元まで伸ばしている。大きなくっきりとした目に、そこもまた色素の薄い、長いまつ毛が付いている。そして何より、晶はロリィタ服を普段着として着ていた。
最近は聞かれることも減ってきたけれど、デビュー当時は女性だと思われていたらしい。普段から女装している晶は、もうこの姿が自然なのだ。
母親への反抗から始まった女装は、意外に楽しくてハマった。しかもロリィタ服という、これもまたニッチな所に落ち着いたので、晶を見て戸惑う男性をからかうのはとても楽しい。
車に乗り込んだ晶と真洋は、早速CDを聞いた真洋に感想を求める。
「どうだ?」
「声は良いよな、余分な力が入ってない」
思った通り、真洋は晶と同じ感想を言う。意見が一致しているなら、もうほぼ合格だ。
「ルックスは? そこも大事だろ?」
真洋がニヤニヤしながら聞いてくる。二人のタイプなら会うのが楽しみだな、とからかわれた。
「お前は彼氏いるだろ」
「それとこれとは別だろ?」
そう言えるのは、絶対的な存在がいるからこそだ、と晶は思う。
(ま、所属アーティストとどうこうなろうなんて思ってねぇけど)
晶は窓から車外の景色を眺めた。
早く流れる景色に、目が回りそうだった。
冬のある日、鳥羽晶は電話で巽和将に指示を出していた。
『今日? 随分急だね。それに、おかげさまで忙しいんだけど』
和将は柔らかい口調ではあるが、不満を隠さずに言ってくる。
「午後の五分くらい、空いてるだろ? スケジュールは俺も見れるんだし」
和将の雇い主である晶は、スケジュール共有システムで、社員のスケジュールを全員分把握している。それも、もうすぐ社長を退任する広告代理店と、今野真洋が所属する、晶がAkiとしてプロデュース業を営む芸能事務所と両方全員分だ。
和将は、このシステム何とかならないかなぁ、と愚痴を漏らした。
「俺と真洋は撤収済んだら向かう。……雑用でも、俺は仕事ができる奴にしか頼まないって、知ってるだろ?」
晶はそう言うと、和将の大きなため息が聞こえた。
『……ホント、人遣い荒いクセにそういう事言うの、嫌いだなぁ』
「そりゃどーも」
褒めてないんだけど、と和将は言うが気にしない。真洋を和将に取られた腹いせも含んでいるからだ。
晶は通話を切ると、真洋の元へ向かった。
「これから事務所戻るのか?」
話を聞いていたらしい真洋が、楽器ケースを担ぎ直して聞いてくる。
さらさらの黒髪に元アイドルらしい甘い顔をした真洋は、先程の和将と恋人同士だ。
ノンケが好きな晶が、唯一惚れたゲイというところで、晶の中で真洋は色んな意味で特別な存在になりつつある。
「おう。真洋、面接するぞ」
晶がAkiとして、真洋のプロデュースをして二年。広告代理店の退任も順調にいきそうだし、そろそろこちらのプロデュース業に力を入れていきたいと思っていた時だった。
東水春という男から、突然音源が届いたのだ。
同封されていた手紙には、デビューからずっとAkiのファンで、事務所へ入所希望、もしくはAkiの弟子、それもだめなら付き人でもお手伝いでも良いので、一度会って貰えないか、と書いてあった。
(一応、インディーズでそこそこ売れてるみたいだしな)
いつもなら無視する類の連絡だが、タイミングの良さに縁だと思って音源も聞いてみた。真洋とは違う爽やかな歌声が、アコースティックギターの弾き語りで紡がれていた。
「面接って……また急だな」
真洋は呆れている。
「移動の車でこれ聞いておけ」
晶は真洋にCDを渡すと、真洋はオッケー、とそれを持って先に歩き出した。
(場合によっては、真洋とコラボもありか? ……いや、まずは会ってからだな)
真洋の後ろ姿を追いかけながら、そんな事を考える。水春がどんな人物なのか分からない以上、早とちりは良くないだろう。
(しかも俺のファンだとか……物好きもいたもんだ)
晶は苦笑する。
晶の容姿はハーフだからか全体的に色素が薄く、金髪のストレートの髪を胸元まで伸ばしている。大きなくっきりとした目に、そこもまた色素の薄い、長いまつ毛が付いている。そして何より、晶はロリィタ服を普段着として着ていた。
最近は聞かれることも減ってきたけれど、デビュー当時は女性だと思われていたらしい。普段から女装している晶は、もうこの姿が自然なのだ。
母親への反抗から始まった女装は、意外に楽しくてハマった。しかもロリィタ服という、これもまたニッチな所に落ち着いたので、晶を見て戸惑う男性をからかうのはとても楽しい。
車に乗り込んだ晶と真洋は、早速CDを聞いた真洋に感想を求める。
「どうだ?」
「声は良いよな、余分な力が入ってない」
思った通り、真洋は晶と同じ感想を言う。意見が一致しているなら、もうほぼ合格だ。
「ルックスは? そこも大事だろ?」
真洋がニヤニヤしながら聞いてくる。二人のタイプなら会うのが楽しみだな、とからかわれた。
「お前は彼氏いるだろ」
「それとこれとは別だろ?」
そう言えるのは、絶対的な存在がいるからこそだ、と晶は思う。
(ま、所属アーティストとどうこうなろうなんて思ってねぇけど)
晶は窓から車外の景色を眺めた。
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