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次の日の昼、純一は早速二人に聞いてみた。

「どこまで許せるか、かぁ。確かにそうだけど、どうやって測るのかって考えたら難しいよね」

湊はうーん、と腕を組んで考える素振りをする。

すると、司が立ち上がって純一の前に立ち、両手を広げた。

「来い」

「は?」

どういうこと? と純一がたずねると、友情のハグから試してみるしかないだろ、と言われ、訳が分からないまま純一も立ち上がって司の腕に収まる。自分の腕はどこに回したら良いのか、分からないのでそのままぶらんと下げたままだ。

「純一~、もっと警戒心持ちなよ……」

後ろで湊の呆れた声がする。

司の身体は細く見えるけど、意外としっかりしていた。純一のおでこの辺りに司の顎が来て、頭に軽くキスをされる。

「ん? ちょっと、何してんだよ」

「何って、キス」

「いやそういう事じゃなくて」

純一は後悔した。司が突拍子もない事をするのは分かっていた筈なのに、どうしてほいほいハグされに行ったのか。

「嫌だったか?」

「いや……頭にチューとか、別に減るもんじゃないし……」

自分の貞操が危ぶまれている事に気付かず、純一は素直な感想を言う。

「じゃあ、これは?」

耳元で司の声がしたかと思ったら、耳たぶにキスされた。腰から背中へ何かが這い上がるような感覚があって、思わずキスされた耳を塞ぐ。

「え? なに?」

何が起きた、と戸惑う純一に、また後ろから「司、その辺にしときなって」と湊が止めに入る。

「どこまで許せるか、やるんだろ?」

聞く耳を持たない司は、純一の腰に回していた手を、尻を撫でながら前に持ってくる。

「……っ」

さすがに腰を引いた純一だったが、なにより驚きだったのは、そこが熱を帯びていたからだ。

「え? 何で……」

自分でも訳が分からず、思わず下半身を見ると制服のズボン越しでも分かるほど、純一の分身は硬くなっていた。思わず両手でそこを隠すと、司は離れた。

「湊」

司が湊を呼ぶ。後ろにいた湊が、純一を抱きしめた。

「もう……純一、俺は司みたいに自制心強くないよ?」

それを言うなら逆じゃないか? と純一は思う。いつもいつも、暴走して純一を困らせているのは司だからだ。

人の事、ムッツリなんて言えないかも、と湊は司がしたのと反対の耳に、キスをした。

「……っ、や、だから、何でこんな事になってんの?」

純一は困惑する。下半身は大変な事になってるし、二人してどうしてこんな風に触れてくるのだろう。

「んー? そりゃ、どこまで許せるかって純一が言うから」

湊の手が純一の手に重ねられる。純一の手ごと、純一の中心を握られて慌てた。

「ちょ、待って……それは無理っ」

「そうなの? じゃあ何でこんな風になってるの」

純一の目に涙が浮かぶ。一気にあれこれあり過ぎて、考えが追いつかない。

「知らないよっ」

ふるふると純一は頭を振った。どうしたら良いのか分からなくて、とりあえず手を離してくれと懇願する。

「手、離していいの? コレどうすんの?」

湊の声が優しく誘惑してくる。手も微妙に動かされ、敏感に刺激を拾った純一は身体を震わせた。

『他人に触られるのって、結構気持ちいいしな』

唐突に哲朗の言葉が頭に浮かび、いっそこのまま身を任せたら良いのだろうか、とそんな考えが浮かぶ。

(いや、ダメだ)

「湊、司……俺、こんな形で流されるのは嫌だ」

ここまでされて嫌ではないなら、その先もきっといけると思う。けれど、それはやっぱり好きな人としたい。

湊は腕を離すと、深いため息をついた。珍しく乱暴に頭をガシガシかくと、頭を冷やしてくる、と教室の方へ歩いていった。

純一はその場にしゃがみこむと、大きく息を吐く。

「純一」

呼ばれて見ると、司は腰を下ろして目線を合わせた。
そこで初めて、司が意外と顔立ちがハッキリしている事に気付く。長いまつ毛が付いた瞳は、いつものように表情が読めない目をしている。

「大丈夫か?」

「……お前が言うなよ……」

純一はうなだれた。熱は引いてきているから良いものの、原因になった人に言われたくない。

「湊、大丈夫かな?」

何だかイライラしていたように見えた湊。彼の心の中で、何があったのだろう?

「さあな。大方後に引けなくなったんだろ」

間近に純一を見る司は至って真面目だ。純一はまたため息をつく。

「俺、彼女が欲しいのに……」

「…………迷惑か?」

「……っ」

また純一はハッとして司を見る。いつものように、彼はまっすぐ純一を見ているだけだ。

「友達じゃダメなのか?」

司はああ、と表情を変えず頷いた。

「純一がハッキリ断ってくれなければ、遅かれ早かれ、今みたいな事がまた起こるだろう」

俺はいつまでも待つが、湊はどうだろうな、と司は立ち上がった。

予鈴が鳴る。教室に戻らないと、と純一も立ち上がった。

その日、湊は教室に戻って来なかった。
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