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38 投瓜得瓊 ★

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 はあはあと、エヴァンの呼吸が耳元でする。肩を上下させ、時折息を詰め射精の快感に耐える姿は、普段とのギャップがあってとても色っぽい。

「エヴァン、僕は貴方の望みをできる限り叶えたい」

 薫は彼の背中を撫でながらそう囁いた。

「大事にしてくれてるの、ちゃんと分かってるから。それこそ初めて会った時から……ずっと……」
「薫……」

 少し落ち着いたのか、顔を見せてくれたエヴァンは、まだ熱が収まらないようだ、握った彼の肉棒からもそれは伝わってくる。薫は優しく残滓を指で拭き取り、手についたそれをタオルで拭った。そこで少し冷静になってしまい、急に恥ずかしくなってそっと彼の顔を見ると、エヴァンの顔が近付く。

「ん……」

 優しい、慈しむようなキスをされ、またギュッと抱きしめられた。耳を食まれ、肩を震わせると、彼ははぁ、と切なげにため息をつき、言葉を吹き込んでくる。

「……薫の中に入りたい、です……」

 無理しなくていいですから、と消え入りそうな声で彼は言った。それを聞いて、薫は顔から火が出るほど熱くなり、エヴァンからそんなセリフを聞くなんて、と悶える。

 いつも静謐さを感じさせる彼が、薫を欲している。その事実に、むちゃくちゃにキスをして先に進みたくなるけれど、多分エヴァンはそれを望んでいないのだろう。

「……ん、いいよ……」

 そう返事をすると、エヴァンはまた耳に舌を這わせてきた。ゾクゾクして肩を震わせ、掠れた声を上げれば、彼はさらに舌を奥まで入れてくる。

「やっ、エヴァ……っ」

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、エヴァンの手は再び胸を撫でてきた。薫の小さな乳輪を細く長い指でなぞり、その指の先が胸の先を掠める。

「んっ……は、……ぁ」

 ゾクゾクする快感に身を委ねていると、薫の意識はまたとろとろと溶けていった。自分がどこかに飛んでしまわないように、エヴァンの胸元の服を握る。その手を、愛おしそうにエヴァンは見つめた。

「……気持ちいいですか?」

 薫が感じているのが嬉しいのだろう、エヴァンはまた上擦った声で聞いてくる。うん、と返事をした唇は再び塞がれ、そっと後ろへ押し倒された。

 固いベッドだったので頭を打つかと覚悟したけれど、エヴァンが頭を支えていてくれて、怪我は免れる。こういうところまで優しくしてくれるなんて、とドキドキが止まらない。

 上に来たエヴァンは自ら上の服のボタンを外していった。白い肌が露になっていくのをじっと見ていると、視線に気付いたエヴァンが屈んで、軽くキスをくれる。

 そしてまた身体を起こした彼は、服を全て取り去った。部屋の淡い光に照らされたエヴァンの身体は、やはり男の薫から見ても美しいと思う。細いけれど、しなやかな肢体は、シチュエーションもあって壮絶な色気があった。

 そして、ひときわ目を引くのはエヴァンの鎖骨から下腹まで縦に伸びる、大きな傷跡だ。きちんと見るのは初めてで、薫は思わず手を伸ばしてその傷跡をなぞる。

「……ベルを守れなかった罰です」

 そう言って苦笑するエヴァンは、身体だけでなく、心にも大きな傷を負ったんだな、と思った。

 薫は微笑む。

「ううん、僕を守った証だよ」

 もう、エヴァンには過去に囚われて欲しくない。あの時ベルが亡くなったから、薫はここに来られてエヴァンに逢えたのだから。

 不思議なものだな、と思う。前世で死ぬ直前、輪廻転生なんて信じてもいないのに願った。そして転生したらしたで、勝手にんで、と恨んだりもした。そして今は、エヴァンに逢えたから転生して良かったと思っている。我ながら単純だと思うけれど、誰にも愛されないまま生きるのは辛すぎるので、これで良いんだ、と開き直ることにした。

 すると、エヴァンは泣きそうなほどに顔を歪める。

「……本当に、貴方ってひとは……!」

 またエヴァンが屈んで唇を寄せてきた。さらりと落ちてきたラベンダー色の髪が、薫の顔に触れてくすぐったい。

 ちゅ、ちゅっ、と音を立ててキスをしながら、エヴァンは薫の服を全て脱がせる。一度一緒に温泉に入ったとはいえ、あの時とは状況が違いすぎていて、薫はそっと股間を隠した。恥ずかしい。

「……薫は、肌が綺麗ですね」

 お互い一糸まとわぬ姿になって、エヴァンはまたキスを降らせてくる。男として肌の綺麗さを褒められても、と思うかもしれないけれど、薫はそれでも嬉しかった。

「ん……」

 エヴァンのキスは気持ちがいい。柔らかく艶のある彼の唇が、唾液で濡れて滑りがよくなっている。舌先で唇をくすぐられ、ひく、と肩を震わせると、エヴァンは薫の手をそっと握って股間から手を退かした。

「……かわいいですよ」
「う、……そこを見たあとで言われると、ちょっと傷付く……」
「すみません、そんなつもりじゃ……」
「……そう?」

 ええ、と肯定したエヴァンは、薫の首元に顔を寄せ、今度は首筋を舌で撫でてくる。温かいものが這う感覚に、今度はハッキリと快感を捉え、薫は熱のこもった息を吐く。

「は……ぁ」
「嫌だったら、すぐに言ってください」
「んん、……気持ちい、……っあ!」

 また意識が微睡んでいたところに、胸の先を摘まれ腰が跳ねた。じわりと下半身が濡れるのを感じ、膝を擦り合わせる。こんなにゆっくりと進む睦み合いは初めてだ、と思って薫はハッとした。

(そっか、シリルとしてたのを、エヴァンは知ってるから……)

 性急な、独りよがりのセックスしか知らない薫は、激しくされることが好かれている証だと思っていた。苦しても、痛くても、それが愛されているなら当たり前のことなのだと。

「あっ、……っ、え、エヴァン……っ」

 そう思ったら全身が震えた。彼が与える刺激すべてが快感に変換され、勝手に腰がうねる。気持ちいい、と泣きそうな声で喘ぎ、実際ボロボロと涙が出てくると、エヴァンは薫をまた抱きしめて落ち着かせてくれた。そんな気遣いさえも嬉しくて泣けてきて、子供のようにグズグズと泣きながらエヴァンにしがみつく。

 エヴァンは再び苦しそうに息を弾ませていて、できるだけ丁寧にしますから、と言う。とことん大事にされているな、と薫はまた泣けてしまうと、その涙を彼は指で拭った。

「……好きです。貴方の魂が尽きるまで、一緒にいさせてください」

 エヴァンの腕は間違いなく男の腕なのに、どうしてこんなに柔らかくて、優しくて、温かいのだろう、と薫は思う。こんなに満たされる触れ合いは初めてで、自らも彼の首に腕を回した。もう、こんな触れ合いならずっとしていたい。──ずっと、エヴァンのそばにいたい。

「うん……」


 その返事は、またエヴァンのキスに飲み込まれた。
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