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貴之✕春輝編
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時は少し遡って、冬哉と秀がリビングでゴソゴソと何かをしている音を聞いた貴之。
確か酔いつぶれて寝た春輝に付き合わされて、今日は泊まっていってと冬哉が言ったので、毛布を借りて雑魚寝をしていたのだが。
どう聞いても、背中越しに聞こえるのは冬哉の嬌声だった。しかし振り返る訳にもいかず、こんな状況で盛るんじゃない、とイチャつく二人に心の中で悪態をつく。
二人がリビングを出ていくと、貴之は大きくため息をついた。起き上がって恋人の春輝を見ると、彼はこちらに背中を向けて寝ている。
「……」
貴之は眼鏡を掛けないぼやけた視界の中、そっと春輝のそばに行った。鈍い春輝の事だ、どうせ今のも気付かずぐっすり寝ているだろう、と顔を覗くと、案の定すやすやと寝ている。
何となくムカついて貴之は自分の毛布を引っ張り春輝にピッタリ寄り添った。それでも起きないので、彼の身体を抱きしめて目を閉じる。
翌朝、キッチンで物音がして目が覚めると、二人が仲良く朝食を準備していた。どうやら仲直りはできたようで安心すると、腕の中にいた春輝が勢いよく起き上がる。
「た、貴之っ? 何でここで寝てんのっ?」
どうやら今頃そばにいた事に気付いたらしい春輝は、あわあわと慌てた様子だ。貴之は眼鏡を掛けると、冬哉が「二人ともおはよー」と上機嫌で挨拶をしてくる。
「悪いな、手伝う事はあるか?」
貴之は立ち上がって、カウンターキッチンへと向かった。
「あ、いいよいいよー。水野先輩も春輝も、先に顔を洗ってきてください」
冬哉に促されて、言葉に甘えて春輝と洗面所へ行く。
「しっかし、よく寝たぁ」
春輝は廊下に出ると、伸びをしながらそう言う。夜中に何があったかなんて気付いていないから、貴之はため息をついてお気楽だな、とつい呟いてしまった。
「あ、何だよ? そりゃあ、オレは鈍いトコあるけどさ」
貴之に何かあったかぐらいは分かる、と言われて、貴之は照れ隠しで彼の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
途端口を尖らせた春輝は貴之の脇腹にチョップをしてきたので、誰も見ていないことをいい事に、思い切り抱きついた。
「わっ、何だよっ?」
触れば柔らかくもないし、鈍くてドジなばかりの春輝だけれど、そんな所が世話焼きの自分には堪らず、可愛いと思うのはどうしようもないか、と開き直る。
「……朝食食べたら帰るぞ」
「へ? ……あ、うん……」
やはり状況が飲み込めていない春輝は、とりあえず離れろよ、とつれない態度だ。渋々離れると、春輝はチラリと周りを見渡して、貴之にキスをする。
「と、とりあえず今はコレで我慢しろよ?」
そう言って先を行く春輝の背中を、貴之は固まったまま見つめた。そしてニヤけそうな顔を片手で隠し、大きくため息をつく。
(まったく……鈍いくせに、こういうところでグサグサと刺さる事言うから……)
だから好きになったんだ、と心の中で呟くと、春輝の後を追いかけた。
その後、春輝にベッタリとくっつき、春輝を慌てさせ、冬哉たちを呆れさせたのは言うまでもない。
[完]
確か酔いつぶれて寝た春輝に付き合わされて、今日は泊まっていってと冬哉が言ったので、毛布を借りて雑魚寝をしていたのだが。
どう聞いても、背中越しに聞こえるのは冬哉の嬌声だった。しかし振り返る訳にもいかず、こんな状況で盛るんじゃない、とイチャつく二人に心の中で悪態をつく。
二人がリビングを出ていくと、貴之は大きくため息をついた。起き上がって恋人の春輝を見ると、彼はこちらに背中を向けて寝ている。
「……」
貴之は眼鏡を掛けないぼやけた視界の中、そっと春輝のそばに行った。鈍い春輝の事だ、どうせ今のも気付かずぐっすり寝ているだろう、と顔を覗くと、案の定すやすやと寝ている。
何となくムカついて貴之は自分の毛布を引っ張り春輝にピッタリ寄り添った。それでも起きないので、彼の身体を抱きしめて目を閉じる。
翌朝、キッチンで物音がして目が覚めると、二人が仲良く朝食を準備していた。どうやら仲直りはできたようで安心すると、腕の中にいた春輝が勢いよく起き上がる。
「た、貴之っ? 何でここで寝てんのっ?」
どうやら今頃そばにいた事に気付いたらしい春輝は、あわあわと慌てた様子だ。貴之は眼鏡を掛けると、冬哉が「二人ともおはよー」と上機嫌で挨拶をしてくる。
「悪いな、手伝う事はあるか?」
貴之は立ち上がって、カウンターキッチンへと向かった。
「あ、いいよいいよー。水野先輩も春輝も、先に顔を洗ってきてください」
冬哉に促されて、言葉に甘えて春輝と洗面所へ行く。
「しっかし、よく寝たぁ」
春輝は廊下に出ると、伸びをしながらそう言う。夜中に何があったかなんて気付いていないから、貴之はため息をついてお気楽だな、とつい呟いてしまった。
「あ、何だよ? そりゃあ、オレは鈍いトコあるけどさ」
貴之に何かあったかぐらいは分かる、と言われて、貴之は照れ隠しで彼の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
途端口を尖らせた春輝は貴之の脇腹にチョップをしてきたので、誰も見ていないことをいい事に、思い切り抱きついた。
「わっ、何だよっ?」
触れば柔らかくもないし、鈍くてドジなばかりの春輝だけれど、そんな所が世話焼きの自分には堪らず、可愛いと思うのはどうしようもないか、と開き直る。
「……朝食食べたら帰るぞ」
「へ? ……あ、うん……」
やはり状況が飲み込めていない春輝は、とりあえず離れろよ、とつれない態度だ。渋々離れると、春輝はチラリと周りを見渡して、貴之にキスをする。
「と、とりあえず今はコレで我慢しろよ?」
そう言って先を行く春輝の背中を、貴之は固まったまま見つめた。そしてニヤけそうな顔を片手で隠し、大きくため息をつく。
(まったく……鈍いくせに、こういうところでグサグサと刺さる事言うから……)
だから好きになったんだ、と心の中で呟くと、春輝の後を追いかけた。
その後、春輝にベッタリとくっつき、春輝を慌てさせ、冬哉たちを呆れさせたのは言うまでもない。
[完]
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