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秀✕冬哉編1
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「カンパーイっ!」
クリスマスの日、夜。木村冬哉は、自宅でクリスマスパーティーをしていた。
この日、奇跡的にスケジュールが空いた冬哉は、ここぞとばかりに友人と先輩の一之瀬春輝と水野貴之を自宅に呼び寄せ、ワイワイ騒ぐことを目的に缶のお酒を煽る。
「……冬哉、一気飲みはだめ」
隣に座った恋人の畔柳秀が、冬哉の缶を取り上げた。相変わらず長めのもさもさした髪で目は見えないし、表情は変わらないけれど、咎めているのは分かる。冬哉はむう、と口を尖らせて、春輝に貴之が作ったペペロンチーノを取ってとお願いする。
「良いけど……冬哉の好物じゃないのか? レンコンのはさみ揚げ」
「良いからちょうだいっ!」
目の前に置かれた好物より、遠くの料理を食べようとするなんて、普段ならやらない。そう、普段なら。けれど今はレンコンのはさみ揚げより、ペペロンチーノが食べたい。なぜなら、その好物は秀が作ったものだからだ。
あからさまに不機嫌そうな冬哉に、春輝はどうしたのかとペペロンチーノをよそってくれる。別に、とまた口を尖らせると、貴之がため息をついた。
「あ、何水野先輩?」
「……いや。畔柳さんをあまり困らせるな」
貴之は眼鏡を中指で押し上げながらそう言うので、冬哉は更に頬を膨らませる。事情も知らないのに、どうして冬哉が困らせていることになってるんだ、と。
(確かに今日一日空いてたのに、秀くんは教授に呼び出されて出掛けちゃったからだけどっ……だけど……っ)
だから、今テーブルに乗っているのは貴之の手作り料理と、春輝が買ってきた惣菜だ。
分かっている。仕方がない事だと理解しているつもりだ。けれど教授は女性だし、クリスマスの一日の大半を過ごしたとなれば、不機嫌にもなるだろう。おかげで、モヤモヤしながら防音室に籠ることになったのだが、帰ってきた秀が、冬哉の好物を作っていた事に気付かず春輝と貴之を呼んでしまったため、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。
「とりあえず、楽しく食べようよ、な?」
春輝がお酒の缶を掲げて、もう一度乾杯をする。冬哉はそれに応えてまたお酒を煽った。ちなみに飲んでいるのはチューハイだ。
「あ、二人とも今日は泊まっていいからどんどん飲んでねっ」
せめて秀への腹いせに、自分とイチャイチャさせる機会なんて与えるものか、と春輝と貴之にそう言うと、春輝はたまには泊まりも良いな、なんて言って笑った。貴之は苦笑していたけれど。
「しっかし、秀さんもなんか主夫みたいになってるね」
春輝は笑いながらフライドポテトをかじる。秀はうん、と言っただけで相変わらず会話が広がらない。
秀は冬哉の家に遊びに来ているうちに、何となく家に居着いてしまった。付き合い始めた頃に、冬哉の両親に顔を見せたら、父親は泣きながら、この子をよろしくお願いします、なんて言っていたから、秀はその言葉をまともに受け取っているのかもしれない。まるで冬哉を嫁にやる心境だ、とも父親は言っていたから。
「春輝は相変わらず水野先輩にお世話になりっぱなしなの?」
意趣返しと冬哉はニヤニヤしながら言うと、春輝は顔を赤くして、そんな事ないし、とボソボソと呟いていた。嘘だな、と思い笑っていると、春輝は誤魔化すように声を大きくする。
「さ! 飲もう! な?」
春輝は再三缶を掲げると、乾杯! と音頭をとった。
クリスマスの日、夜。木村冬哉は、自宅でクリスマスパーティーをしていた。
この日、奇跡的にスケジュールが空いた冬哉は、ここぞとばかりに友人と先輩の一之瀬春輝と水野貴之を自宅に呼び寄せ、ワイワイ騒ぐことを目的に缶のお酒を煽る。
「……冬哉、一気飲みはだめ」
隣に座った恋人の畔柳秀が、冬哉の缶を取り上げた。相変わらず長めのもさもさした髪で目は見えないし、表情は変わらないけれど、咎めているのは分かる。冬哉はむう、と口を尖らせて、春輝に貴之が作ったペペロンチーノを取ってとお願いする。
「良いけど……冬哉の好物じゃないのか? レンコンのはさみ揚げ」
「良いからちょうだいっ!」
目の前に置かれた好物より、遠くの料理を食べようとするなんて、普段ならやらない。そう、普段なら。けれど今はレンコンのはさみ揚げより、ペペロンチーノが食べたい。なぜなら、その好物は秀が作ったものだからだ。
あからさまに不機嫌そうな冬哉に、春輝はどうしたのかとペペロンチーノをよそってくれる。別に、とまた口を尖らせると、貴之がため息をついた。
「あ、何水野先輩?」
「……いや。畔柳さんをあまり困らせるな」
貴之は眼鏡を中指で押し上げながらそう言うので、冬哉は更に頬を膨らませる。事情も知らないのに、どうして冬哉が困らせていることになってるんだ、と。
(確かに今日一日空いてたのに、秀くんは教授に呼び出されて出掛けちゃったからだけどっ……だけど……っ)
だから、今テーブルに乗っているのは貴之の手作り料理と、春輝が買ってきた惣菜だ。
分かっている。仕方がない事だと理解しているつもりだ。けれど教授は女性だし、クリスマスの一日の大半を過ごしたとなれば、不機嫌にもなるだろう。おかげで、モヤモヤしながら防音室に籠ることになったのだが、帰ってきた秀が、冬哉の好物を作っていた事に気付かず春輝と貴之を呼んでしまったため、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。
「とりあえず、楽しく食べようよ、な?」
春輝がお酒の缶を掲げて、もう一度乾杯をする。冬哉はそれに応えてまたお酒を煽った。ちなみに飲んでいるのはチューハイだ。
「あ、二人とも今日は泊まっていいからどんどん飲んでねっ」
せめて秀への腹いせに、自分とイチャイチャさせる機会なんて与えるものか、と春輝と貴之にそう言うと、春輝はたまには泊まりも良いな、なんて言って笑った。貴之は苦笑していたけれど。
「しっかし、秀さんもなんか主夫みたいになってるね」
春輝は笑いながらフライドポテトをかじる。秀はうん、と言っただけで相変わらず会話が広がらない。
秀は冬哉の家に遊びに来ているうちに、何となく家に居着いてしまった。付き合い始めた頃に、冬哉の両親に顔を見せたら、父親は泣きながら、この子をよろしくお願いします、なんて言っていたから、秀はその言葉をまともに受け取っているのかもしれない。まるで冬哉を嫁にやる心境だ、とも父親は言っていたから。
「春輝は相変わらず水野先輩にお世話になりっぱなしなの?」
意趣返しと冬哉はニヤニヤしながら言うと、春輝は顔を赤くして、そんな事ないし、とボソボソと呟いていた。嘘だな、と思い笑っていると、春輝は誤魔化すように声を大きくする。
「さ! 飲もう! な?」
春輝は再三缶を掲げると、乾杯! と音頭をとった。
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