【完結】クリスマスパーティーしようよ

大竹あやめ

文字の大きさ
上 下
1 / 6

秀✕冬哉編1

しおりを挟む
「カンパーイっ!」

クリスマスの日、夜。木村きむら冬哉とうやは、自宅でクリスマスパーティーをしていた。

 この日、奇跡的にスケジュールが空いた冬哉は、ここぞとばかりに友人と先輩の一之瀬いちのせ春輝はるき水野みずの貴之たかゆきを自宅に呼び寄せ、ワイワイ騒ぐことを目的に缶のお酒を煽る。

「……冬哉、一気飲みはだめ」

 隣に座った恋人の畔柳くろやなぎしゅうが、冬哉の缶を取り上げた。相変わらず長めのもさもさした髪で目は見えないし、表情は変わらないけれど、咎めているのは分かる。冬哉はむう、と口を尖らせて、春輝に貴之が作ったペペロンチーノを取ってとお願いする。

「良いけど……冬哉の好物じゃないのか? レンコンのはさみ揚げ」

「良いからちょうだいっ!」

 目の前に置かれた好物より、遠くの料理を食べようとするなんて、普段ならやらない。そう、普段なら。けれど今はレンコンのはさみ揚げより、ペペロンチーノが食べたい。なぜなら、その好物は秀が作ったものだからだ。

 あからさまに不機嫌そうな冬哉に、春輝はどうしたのかとペペロンチーノをよそってくれる。別に、とまた口を尖らせると、貴之がため息をついた。

「あ、何水野先輩?」

「……いや。畔柳くろやなぎさんをあまり困らせるな」

 貴之は眼鏡を中指で押し上げながらそう言うので、冬哉は更に頬を膨らませる。事情も知らないのに、どうして冬哉が困らせていることになってるんだ、と。

(確かに今日一日空いてたのに、秀くんは教授に呼び出されて出掛けちゃったからだけどっ……だけど……っ)

 だから、今テーブルに乗っているのは貴之の手作り料理と、春輝が買ってきた惣菜だ。

 分かっている。仕方がない事だと理解しているつもりだ。けれど教授は女性だし、クリスマスの一日の大半を過ごしたとなれば、不機嫌にもなるだろう。おかげで、モヤモヤしながら防音室に籠ることになったのだが、帰ってきた秀が、冬哉の好物を作っていた事に気付かず春輝と貴之を呼んでしまったため、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。

「とりあえず、楽しく食べようよ、な?」

 春輝がお酒の缶を掲げて、もう一度乾杯をする。冬哉はそれに応えてまたお酒を煽った。ちなみに飲んでいるのはチューハイだ。

「あ、二人とも今日は泊まっていいからどんどん飲んでねっ」

 せめて秀への腹いせに、自分とイチャイチャさせる機会なんて与えるものか、と春輝と貴之にそう言うと、春輝はたまには泊まりも良いな、なんて言って笑った。貴之は苦笑していたけれど。

「しっかし、秀さんもなんか主夫みたいになってるね」

 春輝は笑いながらフライドポテトをかじる。秀はうん、と言っただけで相変わらず会話が広がらない。

 秀は冬哉の家に遊びに来ているうちに、何となく家に居着いてしまった。付き合い始めた頃に、冬哉の両親に顔を見せたら、父親は泣きながら、この子をよろしくお願いします、なんて言っていたから、秀はその言葉をまともに受け取っているのかもしれない。まるで冬哉を嫁にやる心境だ、とも父親は言っていたから。

「春輝は相変わらず水野先輩にお世話になりっぱなしなの?」

 意趣返しと冬哉はニヤニヤしながら言うと、春輝は顔を赤くして、そんな事ないし、とボソボソと呟いていた。嘘だな、と思い笑っていると、春輝は誤魔化すように声を大きくする。

「さ! 飲もう! な?」

 春輝は再三缶を掲げると、乾杯! と音頭をとった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...