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第七話
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しかし、初めての異性とのお付き合いは、上手くいかないことも多く、すぐに別れてしまう。傷心ののどかをこのみはそばで支えてくれた。しかしそれ以上に、のどかを支えてくれる男性が現れたのだ。
彼は森本といい、学内でも有名なイケメンだった。のどかは彼といると楽しく、そして心が落ち着くことに気付く。次第にこのみといる時間より、森本といる時間の方が多くなっていった。
「あ、のどか! 今度夏休みに、みんなで旅行に行こうって話してたんだ、のどかもどう?」
それでもこのみは変わらず、のどかと接してくれていた。そしてこっそり、森本くんもぜひ一緒に、と誘ってくれ、友人の気遣いに、のどかは思わずこのみに抱きつく。
「ほんとありがとう。このみに好きな人ができたら、私絶対応援するから!」
そう言って迎えた夏休み、のどかから森本に告白して、二人は交際を始めた。
このみはもちろん大喜びしてくれ、その時々で出た悩みにも、相談に乗ってくれる。そのおかげか森本との交際は長続きし、社会人になった。
このみともまた、同じ化粧品メーカーに就職していて、二人とも営業部でバリバリと働き、社内でもとても目立つ二人だった、とのどかは思う。このみはこのみで美人だし、明るくてどんな人でも平等に扱う、とても良い子だ。二十五歳になって、結婚を意識し始めた時、このみに好きな人のことや、結婚観のことを聞いてみた。
「うーん……私はまだ自由でいたいかな」
そういう彼女に、なんてもったいない、と思っていた。その頃、森本との仲があまり上手くいっていなくて、のどかは結婚することで、森本との愛を確かなものにできる、と思い込んでいたのもある。それをきっかけに、何もかもが結婚に結びつける思考になってしまい、当然森本ともそれで喧嘩になった。
「のどか……あんたさぁ、本当に傑作だよね」
ある日、仕事帰りにこのみを誘ってご飯を食べていた日のこと。また森本とのことをこのみに愚痴っていると、彼女はそんなことを言い出す。
「森本くんは、大学入ってすぐくらいから私と付き合ってるの」
「…………え?」
のどかは何を言われているのか分からなかった。このみは今までに見たことがないような表情をしていて、これは誰だろう? と思う。
「もうちょっと人を疑うことを覚えた方がいいよ、のどか。あんたが河井と別れて、あまりにも落ち込んでたから慰めてあげてって言ったの私だし」
意味が分からない。大体、このみは森本と仲が良かったなんて、一言も言っていない。そう言うと、このみは軽くそうだよ、と返してきた。
「森本くんと私で、あんたを嵌めようって言って遊んでたんだから。表向きは知り合い程度にしてただけ」
それがまさか全然気付かずにここまでくるとは、とこのみは手を叩いて笑っている。
のどかは震える声を必死に出して、このみに尋ねた。
「じゃあ……じゃあ、付き合ってると思ってたの、私だけってこと……?」
「だからそうだって言ってるじゃん。あんたが告白した時、彼返事してないでしょ? 何も言わずにキスされたんじゃない?」
のどかはカッと頬が熱くなった。認めたくないけれど、このみの言う通りだったからだ。
「……嘘……。森本くん、ずっと二股かけてた、の……?」
認めたくないその言葉を、破裂しそうな心臓を宥めながら口にする。しかしこのみはまた嗤うのだ。
「違う。本命は私で、あんたが浮気相手」
最近結婚結婚って煩かったから、もう潮時だと思ってさー、と世間話のようなトーンでこのみは話している。
「……どうして……?」
のどかの視界が滲んだ。そのまま粒となって落ちていく涙を、拭うこともできない。
「どうして? あんたが嫌いだからに決まってんでしょ!?」
突然このみは声を荒らげた。びくりと肩を震わせると、このみも肩で息をしていた。そしてその目に、確かな憎悪の念が見えると、のどかはますます涙が出てくる。
「あー……そうやってすぐ泣くところも大嫌いなんだよね」
心底イラついたように、このみは語り出した。
彼は森本といい、学内でも有名なイケメンだった。のどかは彼といると楽しく、そして心が落ち着くことに気付く。次第にこのみといる時間より、森本といる時間の方が多くなっていった。
「あ、のどか! 今度夏休みに、みんなで旅行に行こうって話してたんだ、のどかもどう?」
それでもこのみは変わらず、のどかと接してくれていた。そしてこっそり、森本くんもぜひ一緒に、と誘ってくれ、友人の気遣いに、のどかは思わずこのみに抱きつく。
「ほんとありがとう。このみに好きな人ができたら、私絶対応援するから!」
そう言って迎えた夏休み、のどかから森本に告白して、二人は交際を始めた。
このみはもちろん大喜びしてくれ、その時々で出た悩みにも、相談に乗ってくれる。そのおかげか森本との交際は長続きし、社会人になった。
このみともまた、同じ化粧品メーカーに就職していて、二人とも営業部でバリバリと働き、社内でもとても目立つ二人だった、とのどかは思う。このみはこのみで美人だし、明るくてどんな人でも平等に扱う、とても良い子だ。二十五歳になって、結婚を意識し始めた時、このみに好きな人のことや、結婚観のことを聞いてみた。
「うーん……私はまだ自由でいたいかな」
そういう彼女に、なんてもったいない、と思っていた。その頃、森本との仲があまり上手くいっていなくて、のどかは結婚することで、森本との愛を確かなものにできる、と思い込んでいたのもある。それをきっかけに、何もかもが結婚に結びつける思考になってしまい、当然森本ともそれで喧嘩になった。
「のどか……あんたさぁ、本当に傑作だよね」
ある日、仕事帰りにこのみを誘ってご飯を食べていた日のこと。また森本とのことをこのみに愚痴っていると、彼女はそんなことを言い出す。
「森本くんは、大学入ってすぐくらいから私と付き合ってるの」
「…………え?」
のどかは何を言われているのか分からなかった。このみは今までに見たことがないような表情をしていて、これは誰だろう? と思う。
「もうちょっと人を疑うことを覚えた方がいいよ、のどか。あんたが河井と別れて、あまりにも落ち込んでたから慰めてあげてって言ったの私だし」
意味が分からない。大体、このみは森本と仲が良かったなんて、一言も言っていない。そう言うと、このみは軽くそうだよ、と返してきた。
「森本くんと私で、あんたを嵌めようって言って遊んでたんだから。表向きは知り合い程度にしてただけ」
それがまさか全然気付かずにここまでくるとは、とこのみは手を叩いて笑っている。
のどかは震える声を必死に出して、このみに尋ねた。
「じゃあ……じゃあ、付き合ってると思ってたの、私だけってこと……?」
「だからそうだって言ってるじゃん。あんたが告白した時、彼返事してないでしょ? 何も言わずにキスされたんじゃない?」
のどかはカッと頬が熱くなった。認めたくないけれど、このみの言う通りだったからだ。
「……嘘……。森本くん、ずっと二股かけてた、の……?」
認めたくないその言葉を、破裂しそうな心臓を宥めながら口にする。しかしこのみはまた嗤うのだ。
「違う。本命は私で、あんたが浮気相手」
最近結婚結婚って煩かったから、もう潮時だと思ってさー、と世間話のようなトーンでこのみは話している。
「……どうして……?」
のどかの視界が滲んだ。そのまま粒となって落ちていく涙を、拭うこともできない。
「どうして? あんたが嫌いだからに決まってんでしょ!?」
突然このみは声を荒らげた。びくりと肩を震わせると、このみも肩で息をしていた。そしてその目に、確かな憎悪の念が見えると、のどかはますます涙が出てくる。
「あー……そうやってすぐ泣くところも大嫌いなんだよね」
心底イラついたように、このみは語り出した。
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