【完結】地味なきみを変身させてあげる、って余計なお世話です!

大竹あやめ

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第五話

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 のどかは休憩所に着くと、自動販売機で温かいカフェオレを買い、そばのベンチに座った。

『だってあんなこと言われて、悔しくないの? あんな見下した言い方するなんて、友達じゃないでしょ』

 寧の言葉が脳裏で再生される。

 そう、正確には友達。それも高校からの、長い付き合いの。そして先程いきなり泣き出してしまったのも、彼女が原因だ。

 のどかはカフェオレをひと口飲むと、息を吐き出した。甘苦い味とコーヒーの香りが、程よく精神を落ち着かせてくれる。

「吉野さん」

 不意に呼ばれて、のどかはハッと顔を上げた。ここは自動販売機二台分の広さをガラス張りの壁で仕切られていて、ドアのない出入口に寧が立っている。

 寧はのどかと少し離れて隣に座ると、さっきはごめん、と謝ってきた。

「あ、いや……謝るのも違うな……何ていうか、つい口から出ちゃって……」

 寧は明るい茶髪をガシガシと掻いて、大きく息を吐いている。そして、仕事中にする話じゃないから、終わったら話をさせて欲しい、と思ったより真剣な顔で言われた。

「……」

 のどかは迷う。寧の好意が嫌な訳ではない。けれど、もう恋愛なんて懲り懲りだし、目立ちたくないのだ。

 こうなったら、とのどかは口を開く。今は恋愛などする気はない、とハッキリ寧に伝えるために。

「……分かりました」

 そう答えると、寧は少しホッとしたようだ。じゃあまた終業後に、と言い残して去って行く。

「……」

 のどかは深呼吸をした。寧は見た目とは違い、人の機微にもさとい人のようだ。だからこそ、リーダーという役職に就いているのも頷ける。こちらが本気で嫌がれば、深くは追ってこないだろう。

(優しい……そう、ここのみんなは優しい)

 空気が読めない塩見は別として、のどかがなぜ前職を辞めたのかを聞かないし、化粧品メーカー勤務なのに、なぜ地味で目立たない格好をしているのかも聞いてこない。この業界なら、自社製品の説得力を持たせるために身だしなみはきちんとしろ、と言われるのが常識なのに。

 それがいまののどかにとって、とてもありがたい。

 そして自分の過去も、そのうち受け入れてもらえそうな気がするのだ。

(でもまだ……怖いな……)

 みんながみんな、優しい訳じゃないと知っているからこそ、のどかは臆病になっている。人と親しくなること、人から見られることが怖くなってしまった今、恋愛なんてもってのほかなのだ。

「……そろそろ戻ろ」

 独り言を呟いて、ぬるくなったカフェオレを手にデスクに戻った。
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