33 / 39
第三十三話
しおりを挟む
その後、透は順調に就職し、仕事をこなしていた。
肇が透を接客業務ではなく、裏方の事務仕事にさせたのがよかったようだ。少しずつ業務を増やし、食材の発注や在庫管理を任されるようになる。
透の病状も、波はあるものの回復方向に向かっていた。伸也の支えもあり、頼れる人がいることはいいことだよ、と医師にも言われ、どこまで伸也との仲を知られているのだろう、と恥ずかしくなる。
「え、挨拶?」
ある金曜日の夜、伸也は少し真剣な面持ちで、透を恋人として両親に紹介したい、と言った。
「いいけど……」
そう言いながら透は伸也の両親を思い出す。いつも忙しくしていて家にいなかったからか、ハッキリとその顔を思い出すことはできなかった。
「ごめん。これは僕の……僕なりのケジメなんだ」
伸也は眉を下げて苦笑いした。彼も彼で、家族というものに恵まれなかったからか、透に依存してしまったところがある。そんな彼が自分を紹介するということは、とその意味を考え、そこまで彼が真面目に考えているなら、と了承した。
「じゃあさ、俺も肇さんにしんちゃんを紹介していい?」
お互いに真剣交際であることを、周りに宣言する。以前の二人では決してしない行為だ。相手だけがいればいい、そんな世界が着実に広がっているのを感じる。
「透がそうしたいなら」
そう言って微笑む伸也。透は食べ終わった後の食器を片付けるついでに、彼に軽くキスをした。すると伸也はみるみるうちに顔を赤くし、もう、と照れている。可愛い、と笑えば、頭をくしゃくしゃとかき混ぜられた。透は抗議の声を上げる。
伸也の初めては、透が就職して初出勤の夜にいただいた。彼はとても照れていたけど、途中から本気になって止まらなくなり、透が本気で泣かされたのもいい思い出だ。もちろん、ちゃんと教訓を活かし感染症予防もしている。
「じゃあ決まり。うちの両親はふーん、で終わると思うけど、どうしても伝えておきたいからね」
「うん、大丈夫だよ。オレも最近調子がいいし?」
そう言ってまたキスをする。
まだまだ長い付き合いが続くこの病気とも、上手いことコントロールできているから心配ない。それもこれも、伸也のおかげだと思うと、またキスをしたくなった。
「んん、なに?」
しつこく吸い付いてくる透を、笑いながら受け入れる伸也。
「何って……分かるでしょ?」
「言わなきゃ分からない」
そう言って、伸也もキスを返してくれた。
その瞬間、二人の間に纏う空気が変わり、次第にキスは深くなっていく。
「しんちゃん……しよ?」
「ん……」
唇を擦り合わせながら交わされる声は甘い。お互いに欲情を孕んだ吐息を間近に感じ、あっという間に我慢ができなくなる。
「しんちゃん…………すき……」
「僕も好きだよ、透……」
そして二人の吐息は混ざり合い、深くまで入り込んだ。
肇が透を接客業務ではなく、裏方の事務仕事にさせたのがよかったようだ。少しずつ業務を増やし、食材の発注や在庫管理を任されるようになる。
透の病状も、波はあるものの回復方向に向かっていた。伸也の支えもあり、頼れる人がいることはいいことだよ、と医師にも言われ、どこまで伸也との仲を知られているのだろう、と恥ずかしくなる。
「え、挨拶?」
ある金曜日の夜、伸也は少し真剣な面持ちで、透を恋人として両親に紹介したい、と言った。
「いいけど……」
そう言いながら透は伸也の両親を思い出す。いつも忙しくしていて家にいなかったからか、ハッキリとその顔を思い出すことはできなかった。
「ごめん。これは僕の……僕なりのケジメなんだ」
伸也は眉を下げて苦笑いした。彼も彼で、家族というものに恵まれなかったからか、透に依存してしまったところがある。そんな彼が自分を紹介するということは、とその意味を考え、そこまで彼が真面目に考えているなら、と了承した。
「じゃあさ、俺も肇さんにしんちゃんを紹介していい?」
お互いに真剣交際であることを、周りに宣言する。以前の二人では決してしない行為だ。相手だけがいればいい、そんな世界が着実に広がっているのを感じる。
「透がそうしたいなら」
そう言って微笑む伸也。透は食べ終わった後の食器を片付けるついでに、彼に軽くキスをした。すると伸也はみるみるうちに顔を赤くし、もう、と照れている。可愛い、と笑えば、頭をくしゃくしゃとかき混ぜられた。透は抗議の声を上げる。
伸也の初めては、透が就職して初出勤の夜にいただいた。彼はとても照れていたけど、途中から本気になって止まらなくなり、透が本気で泣かされたのもいい思い出だ。もちろん、ちゃんと教訓を活かし感染症予防もしている。
「じゃあ決まり。うちの両親はふーん、で終わると思うけど、どうしても伝えておきたいからね」
「うん、大丈夫だよ。オレも最近調子がいいし?」
そう言ってまたキスをする。
まだまだ長い付き合いが続くこの病気とも、上手いことコントロールできているから心配ない。それもこれも、伸也のおかげだと思うと、またキスをしたくなった。
「んん、なに?」
しつこく吸い付いてくる透を、笑いながら受け入れる伸也。
「何って……分かるでしょ?」
「言わなきゃ分からない」
そう言って、伸也もキスを返してくれた。
その瞬間、二人の間に纏う空気が変わり、次第にキスは深くなっていく。
「しんちゃん……しよ?」
「ん……」
唇を擦り合わせながら交わされる声は甘い。お互いに欲情を孕んだ吐息を間近に感じ、あっという間に我慢ができなくなる。
「しんちゃん…………すき……」
「僕も好きだよ、透……」
そして二人の吐息は混ざり合い、深くまで入り込んだ。
1
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
白金狼と、拾われた小犬の花嫁
伽野せり
BL
ファンタジー獣人オメガバース
α狼 × Ω犬
奴隷で雑種犬のロンロは、男娼館で下働きをしている。
貧相で不細工なため、売り物にならず、ついにガレー船のこぎ手に売られそうになる。
その頃、狼国の白金王、グラングは自分の妃となる『運命の番』を探していた。
白金王の発情はすさまじく、周囲のΩ狼やΩ犬は、欲情にあてられると悶え苦しみ、やがては死に至るほどだった。
そんな中で、犬族の街に、狼族の花嫁捜しの一軍がやってくる。
「見つけたぞ」
運命の番だと言われたのは、ロンロだった。
しかし、奴隷で雑種犬の妃に、狼族の人々が喜ぶはずはなかった。
「殺して、新たな番を見つけに行きましょう」
臣下らは、冷たく王に進言した――。
※この作品は自サイトとfujossyさん、ムーンライトノベルズさんにも載せています。
※fujossyさんの【獣人×オメガバース短編小説コンテスト】で優秀賞を頂いたものに少し加筆と修正をしています。
R18部分には*をつけてあります。
妊娠出産あります。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
後輩の好意は重すぎて
Guidepost
BL
平向 高典は通学時、滅多に乗らない電車を待っている時バランスを崩して線路に落ちそうになった。
誰かが助けてくれたものの、衝撃のあまりその時の事は覚えていない。
そんなある日、友人に後輩である小雪 周太を紹介された。
彼はどこかおかしく、高典を好きだと言い出して――
(R指定の話には話数の後に※印)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる