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第三十三話

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 その後、透は順調に就職し、仕事をこなしていた。
 肇が透を接客業務ではなく、裏方の事務仕事にさせたのがよかったようだ。少しずつ業務を増やし、食材の発注や在庫管理を任されるようになる。

 透の病状も、波はあるものの回復方向に向かっていた。伸也の支えもあり、頼れる人がいることはいいことだよ、と医師にも言われ、どこまで伸也との仲を知られているのだろう、と恥ずかしくなる。

「え、挨拶?」

 ある金曜日の夜、伸也は少し真剣な面持ちで、透を恋人として両親に紹介したい、と言った。

「いいけど……」

 そう言いながら透は伸也の両親を思い出す。いつも忙しくしていて家にいなかったからか、ハッキリとその顔を思い出すことはできなかった。

「ごめん。これは僕の……僕なりのケジメなんだ」

 伸也は眉を下げて苦笑いした。彼も彼で、家族というものに恵まれなかったからか、透に依存してしまったところがある。そんな彼が自分を紹介するということは、とその意味を考え、そこまで彼が真面目に考えているなら、と了承した。

「じゃあさ、俺も肇さんにしんちゃんを紹介していい?」

 お互いに真剣交際であることを、周りに宣言する。以前の二人では決してしない行為だ。相手だけがいればいい、そんな世界が着実に広がっているのを感じる。

「透がそうしたいなら」

 そう言って微笑む伸也。透は食べ終わった後の食器を片付けるついでに、彼に軽くキスをした。すると伸也はみるみるうちに顔を赤くし、もう、と照れている。可愛い、と笑えば、頭をくしゃくしゃとかき混ぜられた。透は抗議の声を上げる。

 伸也の初めては、透が就職して初出勤の夜にいただいた。彼はとても照れていたけど、途中から本気になって止まらなくなり、透が本気で泣かされたのもいい思い出だ。もちろん、ちゃんと教訓を活かし感染症予防もしている。

「じゃあ決まり。うちの両親はふーん、で終わると思うけど、どうしても伝えておきたいからね」
「うん、大丈夫だよ。オレも最近調子がいいし?」

 そう言ってまたキスをする。

 まだまだ長い付き合いが続くこの病気とも、上手いことコントロールできているから心配ない。それもこれも、伸也のおかげだと思うと、またキスをしたくなった。

「んん、なに?」

 しつこく吸い付いてくる透を、笑いながら受け入れる伸也。

「何って……分かるでしょ?」
「言わなきゃ分からない」

 そう言って、伸也もキスを返してくれた。
 その瞬間、二人の間に纏う空気が変わり、次第にキスは深くなっていく。

「しんちゃん……しよ?」
「ん……」

 唇を擦り合わせながら交わされる声は甘い。お互いに欲情を孕んだ吐息を間近に感じ、あっという間に我慢ができなくなる。

「しんちゃん…………すき……」
「僕も好きだよ、透……」

 そして二人の吐息は混ざり合い、深くまで入り込んだ。
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