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第三話

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まもる!」

 ゴールデンウィーク明け。透は大学のフードコートで、待ち合わせていた瀬戸せと守に声を掛けると、切れ長の目がこちらを向いて、目を細められた。

「悪い。教授に捕まって遅くなった」

 透は申し訳なさそうに眉を下げて彼を見上げる。一九〇センチを超える彼は、身長も相まってかなり細く見えるが、顔が良くてサッカーも上手いので、女子の人気者だ。現に今も遠巻きに女子の視線を感じて、透は居心地の悪さに移動しよう、と歩き出す。

「教授に? 何で?」
「ゴールデンウィーク中の課題、出すの忘れてたからさぁ」

 引越しだなんだとバタバタしていて、すっかり失念していた透に落ち度があるのはもっともだ。けれど、暇な時間に何をしていたかと言うと、伸也とずっとくっついていた。さすがにこれは話せないし自重しないとな、と反省する。

 しかしそれを聞いた守は眉間に皺を寄せた。

「え? お前、ゴールデンウィークはバイト休んでたよな?」

 稼ぎ時なのに、と咎めるような視線を向けられ、透は首をすくめる。忙しいから出てくれ、と言われたのにも関わらず、用事があるからと断っていたのを、同じ店で働く守も知っているのだ。

「バイトも課題もやらずに、何してたんだよ?」
「ごめんって。課題は提出期限伸ばしてもらったし、バイトも今日からシフト入ってるから」
「俺は謝れって言ってるんじゃなくて、理由を聞いてるんだけど?」
「そ、それよりさぁ! 昼何食べる?」

 透は強引に話を変えると、守は深いため息をつく。そして低い声で、「また幼なじみの所か」と呟いた。

「ほ、ほら! 新しいサッカーゲーム買ったんだよ。二人でやってたら白熱しちゃってさぁ!」

 なぜか守は、透が伸也の話をすると不機嫌になる。だから知られたくなかったのに、嘘が下手な透はすぐに白状してしまうのだ。

「よりによってサッカーゲームって……お前それより、サークルに戻れって……」
「試合に……練習すらまともにさせてくれないのに? だったら俺は趣味でプレイしてた方がいい」

 守の言葉を遮るように言う透。
 透の弱点は身長の低さと筋力のなさだ。もちろんそれは自覚しているし、それでも楽しめるなら、と進学する度に部活やサークルに入ってはみるものの、結果はいつも同じだった。

「透……」

 何かを言いたげな守に、透は笑ってみせる。

「あ、そう言えばまた守、告白されたんだって?」

 またあからさまに話題を変えた透に、守もまた深いため息をついた。それでもニコニコと守を見ていると、彼は諦めたのかガシガシと頭を掻く。

「……断ったよ」
「なんだーつまんないの」

 透はそう言ってから、守がこちらを睨んだことに気付いて両手で口を塞ぐ。

「透こそ、幼なじみとじゃなく、彼女と遊んだら?」

 面白がって、冗談が過ぎた意趣返しに、守はそんなことを言ってきた。もちろん、透は彼女なんていないし、作る気もない。

「オレがモテないの知っててそれ言うとか……」
「うん。俺に片想いの子がいるって知っててからかうからだろ?」

 ごめんなさい、と透は素直に謝ると守はうん、と頷く。

 守に片想いの子がいるのは、こうやって雑談しているうちに知った。大学生になってからの仲だけれど、守はそこそこ面倒見がよく、透のことを心配してくれる。その身長と顔と性格で、やはり女性から告白されるのはしょっちゅうだけれど、当の本人は、好きな子以外はあまり興味がないらしい。

(好きな子ってどんな子? って聞いても、絶対教えてくれないし……)

 面白半分で聞いてくる奴には教えない、と以前ピシャリと言われた。それ程真面目に相手を想っていることが意外だったけれど、どうしても気になることではないので、こうして時々からかう程度だ。

「……で、昼飯何にする?」

 待ち合わせをした本来の理由を思い出し、透は問うと、彼はコンビニかな、と早速そちらの方へ足を向けた。

「……節約しなきゃだし、明日から弁当持ってこようかな」

 正直、フードコートの方が安いけれどと透はそう呟くと、何でまた急に、と守は驚いている。

「あ、いや……一人暮らししようと思ってお金貯めてんの」

 しまった、と思った時にはもう遅く、透は慌てて誤魔化した。その様子に、また守の表情は険しくなる。

「一人暮らしって……お母さんがうるさくて出られないって言ってたじゃないか」
「あーうん、説得したら意外にあっさり許してくれたんだ」

 ラッキーだよ、と透は笑うけれど、守は笑わなかった。なので透は更に笑顔を崩さずに言う。

「もー、守まで……。過保護過ぎだろ? オレ子供っぽく見えるけど、ちゃんとイロイロ考えてるから大丈夫だって」

 透は内心、嘘ではないから大丈夫だよな、と冷や汗をかいていた。伸也の話をするだけで不機嫌になるのに、一緒に暮らし始めたなんて言ったら、守はどう反応するのか、見るのが怖い。

「な、なに? まさかオレを疑ってる? 守はオレのこと、信じてくれないの?」

 そう言って上目遣いで守を見れば、彼は何度目かの大きなため息をついた。せっかく苦労して、伸也の所に転がり込むことに成功したのだ、これ以上誰にも邪魔されたくない。

「……金銭面は助けてやれないけど。引越しとか他のことなら手伝えるから、その時は言えよ?」

 どうやら守は、追求するのを諦めたらしい。くしゃくしゃと頭を撫でてきたので、透はその手を払った。

「子供扱いすんなし」
「悪い。つい」

 透は睨むと、背の高い彼はしれっと前を向いている。とりあえず、その場を乗り切ることができたらしいので安堵した。
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