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「はー……やっぱりこのアニメ最高だよな」

純一がため息をつきながら、そんな感想を漏らした。

「だな……見終わったあと、脱力するの、超分かる」

肇もため息をつく。

今日は純一の家でアニメ鑑賞会をしていた。四人で遊ぶならどこかへ出かけても良いと思ったけれど、純一が「湊がいると声を掛けられるから全然遊べない」と言うので、今の形に落ち着いた。

「何だか壮大な話だったね。考えさせられるというか」

湊もそんな感想を漏らす。司は無言で本を開いていた。

「なぁ、このアニメのコスプレはしてないの?」

「……してるけど……」

純一は本当にロンギヌスのコスプレが好きらしく、ことあるごとに写真を見せてと言ってくる。SNSでさかのぼれば見れるのに、と言うと、一部しか載せてないだろ、と言われた。

仕方なく、肇はスマホを取り出し画像を見せる。主人公を守る女性騎士という設定だが、露出度高めなのは少年漫画ならではだろう。

「うわー、めちゃくちゃ可愛い!」

純一が声を上げる。SNSで感想をもらうのは慣れているけれど、リアルで言われると恥ずかしい。

「え? これ主人公も一緒のヤツ……両片想いって感じが切ないな」

スマホを純一に奪われたので憶測だけど、多分怜也扮する主人公と撮ったヤツだろう。肇は恥ずかしくて乾いた笑い声を上げると、湊が画面を覗き込んで言った。

「……これ撮る時、どんな気持ちでいるの?」

「え、いや……このキャラならこんな感じで動いたりするのかなーって」

そう言えば、怜也と合わせる時は恋愛感情が混ざっているキャラが多いな、と今更ながら思う。自分の鈍さに気付いていたたまれなくなった。

「何だ湊、お前もコスプレに興味持った? お前ならイケメンキャラ制覇できそうだけど」

「……考えとくよ」

(あ、コイツ……)

肇は湊がまた言葉を飲み込んだ事に気付く。イラッとして、つい口調がキツくなってしまった。

「何だよ、興味ないならそう言え」

「そういう訳じゃないよ」

コイツ、言わないつもりだ、と肇はムカついた。肇が一番嫌いな行為なのに、何故いつも湊はこうなんだろう?

「じゃあどういう訳だよ? 俺お前のそういう所嫌いだって言ってるだろ」

「言うタイミングは自分で決めるよ。今は言いたくない」

「……っ、お前!」

「肇」

このままでは二人ともヒートアップすると思ったその時、横から司の静かな声がした。

「昼飯にしよう。作るから、手伝ってくれるか?」

「………………おう」

肇は司の後に付いて、ダイニングキッチンに入る。しかし、手伝えと言ったはずの司は、勝手知ったる感じで、買ってきた食材を取り出しては、包丁で切っていく。

「あの、オレは何すればいい?」

「……俺の話し相手」

何だそれ、と肇は力が抜けた。そして、湊と距離を置くために呼んだのだと気付く。

「ってか、人んちの台所だろ? よく場所とか分かるよな」

「よく使わせてもらっているから」

ふーん、と肇は興味無さげに相槌を打った。しかし、それにしても手際がいい。一応、厨房のバイトをしているだけあって、司の動きは無駄がない事が分かる。

「……湊が気になるか?」

「え? …………まぁ」

気にならないと言えば嘘になる。言いたい事言わないのは癖だって事も分かっているのに、肇はそこを突っ込んでしまうのだ。

「あいつも……湊もそうそう人に興味を持つ事は無いから」

確かに、と肇は思う。人が自然と寄ってくる人だから、自ら動くのはそう無いのだろう。そう考えると、自分は割と気に入られているらしい。

「ところで」

司は急に話題を変えた。

「コスプレの衣装は自作か?」

「え? そうだけど?」

何でまた、と肇は思う。そう言えば、今日も司は上下黒の服を着ているけれど、前のとはデザインが違う。けれどやっぱりいい服なのは、素人目にも分かった。

「服飾系の道に進むことは、考えた事はあるか?」

「いや……そんなの思い付きもしなかった」

そうか、と司は野菜を鍋に入れていく。水と調味料も入れたので、具材からしてスープだろう。

静かだけど、言うことはハッキリしている司は、案外肇との相性が良いのかもしれない。

「俺の父親はデザイナーで、俺はその仕事を手伝っている。肇の衣装は良い出来だと思った。だからスカウトしたい」

「え……」

「俺の服はブランドのサンプルだが、父が俺に合わせて作っている」

だからか、と肇は納得する。通りでピッタリな訳だ。

司はサラダを皿に盛っていく。テーブルに置いてくれ、とその皿を差し出され、肇はその通りにした。

「いや、でもオレ、本当にそっち系の知識も独学だし……」

「ああ、分かっている。考えておいてくれ。それに……」

司は手を止めて、肇を見た。切れ長の目が真っ直ぐ肇を見て、ドキリとする。

「俺は肇が気に入った。純一には言うなよ」

「はあ……」

無口だと思っていた司が、よく喋ると思ったらスカウトされた。でも、純一に言うなとはどういう事だろう?

「湊には? 言ってもいいのか?」

「好きにしろ」

司の答えに、肇はますます分からなくなる。とりあえず、肇の衣装を作る腕を認められたのは分かった。

司は再び手を動かす。今度は鶏肉を一口大に切り、バターをひいたフライパンに入れ、炒めていく。途中でミックスベジタブルも入れ、ご飯と調味料も入れた。

「いつも作ってるのか? 手際が良い」

「まぁな」

司はできたチキンライスを半球状に盛ると、またバターをひいた。

「オムライス?」

「ああ。純一の好物なんだ」

司の口からまた純一の名前が出る。彼の好みに合わせるとは、彼の事気に入ってるんだな、と言うと、司は意外そうにこちらを見た。

「湊から聞いていないのか? 純一は俺の恋人だ」

「え?」

肇は思わず思考をフル回転させる。

(恋人って、恋人だよな? お互い好き合ってるって事だよな? いや、俺もBL読むし偏見は無いけど……)

「引いたか?」

「あ、いや、ちょっと驚いただけで……こんな身近に同性カップルがいるとは思わなかったから」

肇は顔が熱くなった。とことん自分は鈍くて、恋愛方面には弱いな、と自覚する。

司は卵を焼くと、チキンライスの上に乗せていく。焼き加減は半熟で、丁度いい感じだ。メニューはコンソメスープにサラダ、オムライスでド定番だけど、漂う香りがとても良い。

「さぁ、純一たちを呼んできてくれ」

肇は頷いて、リビングに向かった。
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